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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
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8. 私の能力


 村人たちの混乱の中、魔導士クラウディオと騎士たちは、当事者である女の子と、その父親、そして粋華から事情聴取を行うこととなった。


 女の子は大変な興奮状態だったため、聴取に手間取ったが、大体の事情は分かったようだ。

 私が作った粘土が原因のようだが、マークがいない今、言葉の通じない私からは何も聞くことが出来ないでいる。


 私とクラウディオは向かい合って沈黙していた。

 ……空気が重い。



 そこへやっと、マークがのんきな顔で現れた。


「おはよう、スイ! 今日もいい朝だねー! あれ? 何かあったの?」


「もう! やっと来たよ! 遅い!!」

 

 私は涙目だ。

 疲れたような息を吐いて、クラウディオは私に聞いてきた。

 クラウディオにとっても、この沈黙は苦痛だったようだ。


「これは、お前が作ったんだろう。 一体どういうことだ?」


「知りませんよ! 確かに私が昨日作った粘土ロボに似てますが、何だか光ってますし、動いたりなんて、しませんでした!」


 私だって、何がなんだか分からない。


 マークは「あれ?」と、粘土ロボを睨みつけて、


「んん? ヒックじゃん! 何してるの!?」


 粘土ロボに話しかけた。


「えっ!? 知り合い!?」

 

『おおっ! これは、これは、我らの王マーク様! おはようございます! いい朝ですね!』


 粘土ロボは明るく答えた。


「ねえ、ヒック。何で粘土に入ってるの?」


 マークの質問に、粘土ロボは興奮して答える。


『いやあ、それが! 昨夜、スイ様がこの正義のヒーローを作っているのを拝見してまして、かっこいいなぁと思いまして。それにそれに、この絶妙な魔力の混ざり具合。 私、たまらず入ってみたくなってしまいまして! そしたらなんと!!』


「どうしたの?」とマーク。


『すごくないですか!? この魔力! このパワー! しかも、すごく心地いい!!』


 そう言うと粘土ロボは、足の裏から炎を出しながら飛び回る。

 周りにロケットパンチや、肘からはミサイルを発射させた。

 威力は、死ぬほどではなさそうだが、当たると怪我はしそうだ。

 騎士たちは慌てて逃げ惑った。

 魔導士クラウディオは、自身だけ魔法の壁でガードしている。

 

「ねぇねぇ、ちょっとマーク。何がどうなってるの?」


 訳が分からずマークの腰回りのヒラヒラした服を引っ張りながら尋ねた。

 マークはため息をついて、呆れた視線を粘土ロボに向ける。


「ああ、スイ。紹介するね。彼はヒック。フィアリーズだよ」


『スイ様、改めまして宜しくお願いいたします。 フィアリーズのヒックでござい……いえ、今は“正義のヒーロー・ヒック”でごさいます!』

 

 ……ノリノリだ。


「あ……こちらこそよろしく……って、ええっ!? なんで粘土にフィアリーズが入ってるの!?」


 ……訳が分からない。

 私が混乱していると、クラウディオが口を開いた。


「その道を極めた巧が作る逸品には、フィアリーズが宿ることがあると聞く。お前が作った粘土細工の中に、フィアリーズが宿ったということだろう」


 へぇ、そうなんだ。

 なんだかよく分からないけど、私の作った粘土ロボは、フィアリーズにとって、居心地がいいらしい。

 マークはウーンと顎に手を当て考える。


「これが異世界人であるスイの能力かもしれないね」


 そう、呟いた。

 クラウディオは、「なるほどな……。これは役に立つ能力かもしれん」

と、ニヤリと笑う。



 何気に会話に加わってきたけど、さっきからこれって……!


「クラウディオさん。あなたマークのこと見えてますよね。それに声も聞こえてますよね」


 私は思ったことを聞いてみた。

 彼はフンッと鼻で笑った。


「ああ、昨日このフィアリーズが皆に話しかけた時から、姿が見えるようになった。声も聞こえる」


「ふーん……やっぱり、あんたは魔力の高い人間なんだね」


 マークがクラウディオをジロッと見やった。そして、私にニッコリと微笑む。


「ところで、これでスイの能力が分かったね」


 これが私の能力……?

 えっ!?

 これって、私が欲しかった力と違うんだけど……?

 私が作って、フィアリーズに戦ってもらうってことでしょ!?

 結局、人任せ……っていうか、フィアリーズ任せ、フィアリーズ頼みみたいなものでしょ!?

 ……いいのか? これで……

 私は心配になって、マークに尋ねる。


「ねえマーク、フィアリーズが粘土ロボに入ってるのって、フィアリーズ的には大丈夫なの?」


マークは可愛く小首を傾げた。


「スイは何を心配してるの? スイの作った粘土に含まれる魔力はフィアリーズにとって、ずいぶんといい栄養みたいだよ。あんな雑魚魔力しか持たないヒックが、今は大きな魔力を放出している。それに、ヒック自身がとっても満足そうだよ」


 ワーハッハッハッハ!と笑いながら、粘土ロボのヒックは騎士たちを追い掛け回して喜んでいる。


 おいおい、それはそれで大丈夫なのか……?

 私は別の意味で心配になった。


「もうそろそろ私の部下たちをいじめるのをやめてもらえないか、正義のヒーロー殿?」


 クラウディオが粘土ロボに話しかけた。


『むっ! そうだな! 私は正義のヒーローだ! 弱いものいじめはしない!』


「よろしく頼む。ヒーロー殿」


 クラウディオは冷たい微笑でロボヒックを見た。

 その冷酷な眼差しに、ヒックはビクッと体を揺らした。

 粘土のはずの体から汗が流れ落ちている。


 あらら。

 フィアリーズにも容赦ないな、クラウディオさん……



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