8. 私の能力
村人たちの混乱の中、魔導士クラウディオと騎士たちは、当事者である女の子と、その父親、そして粋華から事情聴取を行うこととなった。
女の子は大変な興奮状態だったため、聴取に手間取ったが、大体の事情は分かったようだ。
私が作った粘土が原因のようだが、マークがいない今、言葉の通じない私からは何も聞くことが出来ないでいる。
私とクラウディオは向かい合って沈黙していた。
……空気が重い。
そこへやっと、マークがのんきな顔で現れた。
「おはよう、スイ! 今日もいい朝だねー! あれ? 何かあったの?」
「もう! やっと来たよ! 遅い!!」
私は涙目だ。
疲れたような息を吐いて、クラウディオは私に聞いてきた。
クラウディオにとっても、この沈黙は苦痛だったようだ。
「これは、お前が作ったんだろう。 一体どういうことだ?」
「知りませんよ! 確かに私が昨日作った粘土ロボに似てますが、何だか光ってますし、動いたりなんて、しませんでした!」
私だって、何がなんだか分からない。
マークは「あれ?」と、粘土ロボを睨みつけて、
「んん? ヒックじゃん! 何してるの!?」
粘土ロボに話しかけた。
「えっ!? 知り合い!?」
『おおっ! これは、これは、我らの王マーク様! おはようございます! いい朝ですね!』
粘土ロボは明るく答えた。
「ねえ、ヒック。何で粘土に入ってるの?」
マークの質問に、粘土ロボは興奮して答える。
『いやあ、それが! 昨夜、スイ様がこの正義のヒーローを作っているのを拝見してまして、かっこいいなぁと思いまして。それにそれに、この絶妙な魔力の混ざり具合。 私、たまらず入ってみたくなってしまいまして! そしたらなんと!!』
「どうしたの?」とマーク。
『すごくないですか!? この魔力! このパワー! しかも、すごく心地いい!!』
そう言うと粘土ロボは、足の裏から炎を出しながら飛び回る。
周りにロケットパンチや、肘からはミサイルを発射させた。
威力は、死ぬほどではなさそうだが、当たると怪我はしそうだ。
騎士たちは慌てて逃げ惑った。
魔導士クラウディオは、自身だけ魔法の壁でガードしている。
「ねぇねぇ、ちょっとマーク。何がどうなってるの?」
訳が分からずマークの腰回りのヒラヒラした服を引っ張りながら尋ねた。
マークはため息をついて、呆れた視線を粘土ロボに向ける。
「ああ、スイ。紹介するね。彼はヒック。フィアリーズだよ」
『スイ様、改めまして宜しくお願いいたします。 フィアリーズのヒックでござい……いえ、今は“正義のヒーロー・ヒック”でごさいます!』
……ノリノリだ。
「あ……こちらこそよろしく……って、ええっ!? なんで粘土にフィアリーズが入ってるの!?」
……訳が分からない。
私が混乱していると、クラウディオが口を開いた。
「その道を極めた巧が作る逸品には、フィアリーズが宿ることがあると聞く。お前が作った粘土細工の中に、フィアリーズが宿ったということだろう」
へぇ、そうなんだ。
なんだかよく分からないけど、私の作った粘土ロボは、フィアリーズにとって、居心地がいいらしい。
マークはウーンと顎に手を当て考える。
「これが異世界人であるスイの能力かもしれないね」
そう、呟いた。
クラウディオは、「なるほどな……。これは役に立つ能力かもしれん」
と、ニヤリと笑う。
何気に会話に加わってきたけど、さっきからこれって……!
「クラウディオさん。あなたマークのこと見えてますよね。それに声も聞こえてますよね」
私は思ったことを聞いてみた。
彼はフンッと鼻で笑った。
「ああ、昨日このフィアリーズが皆に話しかけた時から、姿が見えるようになった。声も聞こえる」
「ふーん……やっぱり、あんたは魔力の高い人間なんだね」
マークがクラウディオをジロッと見やった。そして、私にニッコリと微笑む。
「ところで、これでスイの能力が分かったね」
これが私の能力……?
えっ!?
これって、私が欲しかった力と違うんだけど……?
私が作って、フィアリーズに戦ってもらうってことでしょ!?
結局、人任せ……っていうか、フィアリーズ任せ、フィアリーズ頼みみたいなものでしょ!?
……いいのか? これで……
私は心配になって、マークに尋ねる。
「ねえマーク、フィアリーズが粘土ロボに入ってるのって、フィアリーズ的には大丈夫なの?」
マークは可愛く小首を傾げた。
「スイは何を心配してるの? スイの作った粘土に含まれる魔力はフィアリーズにとって、ずいぶんといい栄養みたいだよ。あんな雑魚魔力しか持たないヒックが、今は大きな魔力を放出している。それに、ヒック自身がとっても満足そうだよ」
ワーハッハッハッハ!と笑いながら、粘土ロボのヒックは騎士たちを追い掛け回して喜んでいる。
おいおい、それはそれで大丈夫なのか……?
私は別の意味で心配になった。
「もうそろそろ私の部下たちをいじめるのをやめてもらえないか、正義のヒーロー殿?」
クラウディオが粘土ロボに話しかけた。
『むっ! そうだな! 私は正義のヒーローだ! 弱いものいじめはしない!』
「よろしく頼む。ヒーロー殿」
クラウディオは冷たい微笑でロボヒックを見た。
その冷酷な眼差しに、ヒックはビクッと体を揺らした。
粘土のはずの体から汗が流れ落ちている。
あらら。
フィアリーズにも容赦ないな、クラウディオさん……