表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
79/127

19. 魔物ミラ


 私達は10日掛けて、久しぶりの王都へと帰って来た。


「はぁ……疲れた。でもやっとお風呂に入れるぅ……」


 旅の途中、ちゃんとお風呂に入れる日は1日もなかった。お湯を借りて体を拭いたり、時々だが、小さな桶で無理やり髪を洗っていた。

 日本人である私には、これが一番辛かった。

 王城では、毎日お風呂に入って、いい食事も頂けて、とても恵まれている。

 だが城から外に出てこの世界の現状を知る度、何とかしなければという使命感が湧いてくるのだ。

「はぁー、駄目で元々だよね。今度、王様に頼んでみようかなぁ」

 私は小さく呟いた。


 王都の目立たない裏門をくぐり、私達は、やっと王都へと入った。

「あ、マズいかも……」

 私の肩に座っているマークが、後ろを振り返った。

「どうしたの?」

 聞き返したその時!


 バチバチバチバチッ!!


「キャーーーーーー!!」


 激しく何かが弾かれるような音と、甲高い悲鳴が聞こえた!

 先を行っていたクラウディオが慌てて馬をUターンさせる。

「これは! 魔物の侵入か!?」

 え!?

 私も後ろを振り返った。

 まだ開かれている裏門の外側に、一羽の鳥が倒れているのが見えた。

 その体からは、煙が上がっている。


 城から出て来た騎士達が十数名、走ってこちらに向かってきた。……と思ったら私達を無視して通り過ぎ、裏門へと出て行く。


「俺はここに残る。お前たちは先に城に入っていろ」

 クラウディオの言葉に従い、騎士達は城の入口へと向かう。

 それに続こうとした私の髪を、マークが引っ張った。


「ねぇ、スイ。僕、あの魔物、誰だか分かるかも」


「え?」


 私とクラウディオは、マークから事情を聞いた。

 実はこの魔物、どうやらカルンの町からずっとついて来ていたらしい。

「気配を隠そうとしていたけどね。でも、完璧ではなかったから」

 近づかず、離れず、一定の距離を保ったまま私達の後を追っていたようだ。


「何で教えてくれなかったの?」

「ごめんね。でも、用があるなら向こうから何か仕掛けてくると思ったんだけど、何にもないし。ただついてくるだけだったから、まあいっか!って思って……」

「それで……さっきの音と悲鳴は何だったの?」

 粋華の疑問には、クラウディオが答えた。

「あれは、王都の周りに張られた結界に、魔物が触れたからだ。魔物の侵入を防ぐため、強力な魔法が張り巡らされているからな」

「え? 結界!?」

「これがあるから、王都には魔物は入れないんだ。普通は、まず触れることはない。結界に気付いて、近寄らないはずなんだが……」

 クラウディオは不思議そうに裏門を見た。


「あれ? でも、ローグは? ランピック国の人達が来た時、魔物も一緒に入って来ましたよね?」

「ああ、あれは王の指示で、彼らが入る時には結界を解いていた。その後、すぐに結界を張り直し、王城の内側からも結界を張った。魔物を逃がさないようにな」

 ……そっかぁ、なるほど。

 結界に気付いて逃げられないようにするために、あの時だけ解いてたのか……

 しかも、逃がさないように入った後、内側からも結界を張るとは。

 知らない所で、そんな作戦が行われていたとは驚きだ。


 その時、騎士達の大きな声が聞こえた。

「おい! まだ生きてるぞ!」

「殺せ!!」

 私達はハッとして裏門を見た。

 騎士達に囲まれていて、魔物の姿は見えない。

 しかし、先程チラッと見えたあの姿は……


「わーーーー! 待ってください!!」

 私はミントを急かして、裏門に集まる騎士達の間に割り込んだ。

「殺さないで! その魔物は私の知り合いです!」

 今にも鳥の首に剣を振り下ろそうとしていた騎士が、ピタッと動きを止めた。


「あ……お前は!」

 集まっていた騎士達は、私の姿を見ると、数歩、魔物から離れた。

 私はミントから降りて、すぐ傍まで駆け寄ると、倒れている鳥をじっくりと見た。

「やっぱり……!」

 結界魔法にやられたせいか所々茶色く焼け焦げていたが、その体は青く、胸から腹にかけては白い。そして、角が生えた額の後ろにはオレンジ色の冠羽があった。鶏ほどの大きさの美しい鳥だ。

 大きさは違うが、この鳥は彼とそっくりだった。


 騎士達を押しのけて、クラウディオも粋華の隣へやって来た。

「こいつは……!」

 私は目を見開いたクラウディオに頷く。

「ええ、間違いないですね。彼の仲間だと思います」

 クラウディオは頷くと、手を横へ伸ばし、騎士達を下がらせる。

「俺が責任を持つ。こいつには手を出すな!」

 魔物は僅かに頭を持ち上げて私を見た。

「っく……貴様……!」

「動いちゃダメですよ。ジッとしてて、大丈夫だから」

 私は魔物の横に座り、そっと体を持ち上げて膝の上に乗せた。

 魔物は抵抗するようにジタバタともがいたが、力が出ないようで、すぐにぐったりと力を抜いた。

「しかし……王都へ侵入しようとした魔物だ。このままという訳には……」

 騎士は困ったようにクラウディオを見た。

「今から王に話を付けてくる。それまで手を出すな!」

 そう言い置くと、クラウディオは馬を走らせ城の中へ入って行った。


 魔物は苦しいのか、目を閉じてブルブルと震えている。

 私はそっと魔物の体を撫でた。

「今、治してあげるからね。マリアさん!」

『はい! お任せください!』

 マリアはミントの荷物の中から勢いよく空へと舞い上がり、羽を羽ばたかせながら私の横に降り立った。

「「「おおっ!!」」」

 周りの騎士達が驚いて声を上げた。

 マリアは得意そうに胸を張り、周りの反応を満足そうに眺めた。そして、魔物の体に両手を当てた。

「ねえ、スイ。治して大丈夫かな? 暴れたりしない?」

 マークが心配そうに眉を寄せた。

 うーん、確かにその心配があるか……


「あの、危険かもしれないので少し離れていてください」

「いや、しかし……」

 騎士達は顔を見合わせるだけで、離れてくれなかった。

「はぁー……まあ、しょうがない。マーク、ライディ! いざという時は頼んだよ!」

「うん! 分かった!」

『ワイに任しとけ!!』

 力強い言葉をもらい、粋華とマリアは頷いた。


『では、いきますわ』

 マリアの手が白く光り出し、どんどんと光が大きくなる。

 騎士達はそれを食い入るように眺めている。

 魔物の体が光に覆われて、しばらくすると光は弱くなり、ゆっくりと消えた。


「ううっ……」

 魔物はゆっくりと瞼を開けると、つぶらな金色の瞳で私を見上げた。

『お前は、お前は!! 私を助けて、何を企んでいる! この女狐め!!』

 元気を取り戻した魔物は、大声で粋華を罵倒しだした。しかし、可愛らしい少女の声で喚く魔物に、粋華は全く恐怖を感じなかった。

 そして、羽をバタバタさせながら膝の上でジタバタと暴れるが、魔物の体が軽いため、粋華にはなんのダメージもない。

「元気になって良かった、良かった!……ねえ、ちょっと落ち着いて?」

 あんまり暴れると、他の騎士達に捕まっちゃうかもしれない。

 スライトの関係者みたいだし、何とか穏便に済ませたいんだけど……


 そこへ、クラウディオが馬に乗って戻って来た。

「王の許可が出た。目を離さないようにして連れて来い」

「あ、はい! 分かりました!」

 はぁ、とりあえず良かった!

 私は暴れる魔物を抱えると立ち上がった。

 魔物は抵抗して、私の手にガブッと噛みついた。

 牙はないけど痛い!

「いたたたっ!……ほら、何か話があるからついて来たんでしょ? ちゃんと聞くから、今は大人しくしてて。大丈夫。私の部屋へ行こう?」

 私は涙目になりながらも、グッとこらえて、なだめるように魔物の耳元で囁いた。

 魔物は私をジッと見て、そっとくちばしを離すとコクッと小さく頷いた。


「私はスイ。あなたの名前は?」

 顔を覗き込んで尋ねたが、魔物はプイッと顔を背けた。

「……ミラ」

 クラウディオは杖を掲げ、裏門の周りに魔法を使った。

 私は大人しくなった魔物ミラを抱え、クラウディオに続き門をくぐる。

 無事に門を通過した私達は、城の中へと入って行った。


 取り残された騎士達は、その場に茫然と立ち尽くす。

「あの力……すごいな、異世界人は!」

「聖女様の力か……」

「ああ、マリア様……美しい……可憐だ!」

 みんなそれぞれの感想を呟いていた。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ