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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
77/127

17. スイvs魔導士ギュンター


「魔導士相手っていったら、遠距離攻撃を仕掛けてくるよね」

 こそこそと、フィアリーズ達と作戦会議中だ。

「そりゃ当然だよ!」

 マークはうんうん頷く。

「ライディの雷を使うのはダメかな? ハインリッヒさんは騎士だけど、魔法も使ったらしいし」

「うーん、シェルの魔法があっても雷はまあまあ強力だから、大怪我しちゃうかもしれないね!」

 マークは辛辣なことを言いながらも、いつもの笑顔だ。


 ええーーー!

 じゃあ……どうやって対抗するの?

『おいマーク! まあまあ強力ってなんや! ワイの魔法は“最高に”強力やろうが!!』

「ちょっと、ライディ! 声が大きい!」


 その時、離れた所から、魔導士ギュンターのイライラした声が聞こえた。

「ちょっと、あなた! いつまで待たせるんですか!?」

 うわっ、どうしよう……

「すいません! ちょっと待ってください!」

 焦る私を見て、ギュンターは杖を持った腕を組み、ふふんと笑った。

「まあ、そうでしょうね。私に怖気図いてしまうのは仕方ありませんが。さっさと決着をつけましょう。私も暇ではないのでね」


 結局、何もいい案が出ないまま、私はギュンターと向き合った。

 うわーん、どうしよう……

 マズイよ~……!


「始め!」

 ホレスが大きな声で試合の始まりを告げた。

 私は剣を構え、冷や汗を浮かべて相手の出方を見る。

 ギュンターはニヤリと笑い、私に杖を向けた。


「おい、お前たち! 何をしている!!」

 突然、大きな声が緊迫した空気を破った。

 私達が顔を向けると、そこにはクラウディオとリーナ、そして見知らぬ若い紳士が急いでこちらに向かってくるところだった。

 クラウディオの顔は、明らかに怒っている。


「うわ! やばい!!」

 フリッツはロイの後ろにコソッと隠れる。

 あとの三人の騎士達も気まずそうだ。

 私はさりげなく剣を後ろに隠した。


「ま、魔導士様。ど、どうしてこちらに?」

 ホレスは冷静を装おうとしているが、全く出来ていない。真面目で正直者の彼には、そんな芸当は無理らしい。

「宿の女将に聞いて来た。何があった?」

「いや、あのー……」

 ホレスは上手い答えが思いつかないようで、しどろもどろになっている。

 リーナさんが私達に事情を説明してくれた。

 どうやら私達の不穏な空気を察した女将さんが、わざわざ彼らを呼びに行ってくれたようだ。


 その時、ギュンターと若い紳士の会話が聞こえた。

「これはこれはシュリック様。このような所までお越しいただき申し訳ありません。今ちょうど、先程のお話が全くの事実無根であると、証明するところでございました」

 ギュンターは紳士に恭しくお辞儀をした。

「先程の話と言うと、王都の魔導士様の話か」

「左様です。先程、こちらの騎士達に絡まれまして。私の力を証明する丁度よい機会だと、軽い試合をしていたところでございます。まあ、そんな面倒な事をする必要もないですな。屋敷に戻りましょう」


「軽い試合か。それは興味深いな。私も見てみたいが、よいか」

「え? あ、あの、しかし、シュリック様はお忙しいのでは……?」

「いや、このまま王都の魔導士との話に決着がつかなくては、私の業務に差し支える。彼らも帰るに帰れないだろう。お前の力が本物だと分かれば、我々の主張も分かっていただける。早く王都にお帰りいただこう」

「あ、あの……シュリック様……」

 ギュンターは焦って言葉を続けようとしているが、紳士は聞き流している。

 

 あの若い紳士が、例の話の通じない領主のようだ。

 クラウディオさんの話って何の事かな?


 クラウディオは彼らの会話を聞くと、私達を見回す。

 気を失っている兵士と、折れた剣を見た。

「……なるほど。これはお前か?」

 うっ……

 怒られちゃう?

 好きでこんな事になったんじゃないのになぁ。

「……はい」

 私はしょんぼりと頷いた。


 クラウディオはギュンターへと体を向けると、わずかに頭を下げた。

「ギュンター殿。私の部隊の者達が失礼をしたようで申し訳ありません」

 しかし、ゆっくりと頭を上げたその顔には、謝罪とは全く違う、敵意が表れていた。

「私もあなたの本当の実力とやらに興味があります。ぜひ、その力を見せていただきたい」

 ギュンターは目の奥に怒りの炎を燃やし、クラウディオを睨み返す。

「いいでしょう! 私を偽魔導士と罵った事、後悔させてあげますよ!!」


 に、偽魔導士!?

 クラウディオさん、そんな事言ったんだ……!


「いや……そこまでは言っていないが……」

 クラウディオは小さく眉を寄せた。

「そうよね。ただ、「フィアリーズが見えてるなんて、嘘だ」って言っただけよね」

 事情を知ってるらしきリーナが口を挟んだ。


「うるさい! 私を嘘つき呼ばわりして、侮辱しただろう! 私は本物の魔導士だ!」

 ギャーギャー喚くギュンターを無視して、クラウディオはまだ若い領主シュリックと話し始めた。

「試合をしてみれば分かる事でしょう。これでお互いはっきりしますね」

「ええ、よろしくお願いします。おい、スイ」

「はい?」

「もう一度頼むぞ」

 ええ!?

 うう、やっぱり私なんだ……

「はい……」

 私は渋々頷いて、ギュンターと向かい合った。

 彼の怒りに燃えた目に気後れしてしまう。

 あーあ……

 こんな大勢の前で無様に負けるのはヤダな~


「始め!」

 またまたホレスさんの合図を聞いた。

 ギュンターは杖を構え、ブツブツと呪文らしきものを呟き出した。

 彼の頭の上に魔力が集まっていく。

 じわじわと形になるそれを観察してみると、どうやらクラウディオさんがよく使う、氷魔法のようだ。だんだんと氷の粒が、槍の形に変わっていく。数は3本かな?


 ……にしても、遅い。

 まだかなぁ。

 私は剣を持つ手の緊張を解いた。


「あのー、こっちから攻撃してもいいですか?」

「え? ちょっと、待ちなさい! まだ魔法が完成していません! 無防備な私に攻撃を仕掛けるなんて、卑怯ですよ!」

 ギュンターは焦った様子で数歩後ずさった。

 彼の頭の上に出来かけていた氷がキラキラと細かい粒になり霧散する。

「ああ、もう! あなたが話しかけるから、魔法が途切れてしまいました!」

 彼は嘆きながら、再び呪文の詠唱を始めた。

 頭の上に、再び氷の粒が集まり出した。


 は? ちょっ、また最初から!?

 これ、ずっと待ってなきゃいけないの?

 私は困って、騎士達を見た。

 ホレスさんとアルフは眉を寄せて、私と同じく困った顔だ。ロイさんはポカンと口を開けていて、フリッツさんは必死に笑いをこらえている。

 クラウディオさんは厳しい目でギュンターを見ていた。


「はぁ、はぁ、出来ました! これでも食らいなさい!!」

 すでに何故か疲れている様子のギュンターは、頭上にやっと出来上がった氷の槍を、ヒュンヒュン!と、私目掛けて飛ばしてきた。

 私はライディに力を込めると、まだ届かない位置にある氷の槍に向かって剣を振るった。


 ゴォーと剣から放たれた突風に、

 パキーン!!

 氷の槍は3本とも、粉々に砕け散った。

 おっ、上手く行った!

 こうやって消していけばいいんだね!


 飛び上がって喜びたかったが、次に来るであろう魔法攻撃に備えて、再び剣を構えた。

「な、なんだと!? 馬鹿な!! そんなはずは、そんなはずない……!」

 目を見開いたギュンターは、杖を持つ手をワナワナと震わせて硬直している。


 ……あれ?

 攻撃はもう終わりかな?

「では、今度はこちらから行きますね?」

 私は用心して多めにとっていた距離を走って縮めていく。

「くっ!」

 ギュンターは杖を私に向けて、魔力を集めだした。

 来るか!?

 私は足を止めると、剣を前に出して、受け止める構えだ。

「そりゃー!」

 彼の気合のこもった掛け声と共に杖の先がボウッと燃えると、炎の玉が放たれた。

 それは私の拳よりも小さく、フワフワと漂いながらゆっくりと向かってくる。


 へ? ……なに? これ。

 こんなにゆっくりだと、簡単に避けられちゃうよ? 剣でも払えそうだけどなぁ。

 ハッ! きっとこれに触れると、何かが発動する罠なのかな!?


 私は剣で薙ぎ払いたいのを我慢して、ひょいっと横に避けた。

 炎の玉は、ヒョロヒョロと力なく地面に落ちると、煙になってジュッと消えた。

 特に何の仕掛けもなさそうだ。


 私はさらにギュンターとの間合いを縮めると、剣を振り上げる。

「うわー! やめろー!!」

 ギュンターの杖から、次々と炎の玉が放たれる。今度は呪文の詠唱もなく、素早い発動だ。

 だがそれは、最初のよりももっと小さく、指の先程の大きさだった。


 向かってくる火の玉に向け、剣を横に振ってみると、あっけなく煙になって消えた。

 そのまま剣を上に向け、さらに距離を詰めた粋華は、ヒュン!と軽く振り下ろし、ギュンターの額の前で、ピタッと剣先を止めた。

「……あのう、まだ続けますか?」

 目の前に迫った剣先を見つめる彼の顔から、ダラダラと汗が流れ落ちる。


「そこまで!」

 ホレスが大きな声で告げた。



「これはどういう事だ?」

 領主シュリックはギュンターに厳しい口調で問う。

「あ、あの……、今日は少し体調が悪くて……」

「今日は? では、明日ならもっと力が出せるのか!?」

「ひっ、あの、シュリック様……」

 シュリックの言葉の端々から怒りを感じる。

 ギュンターは身を縮こませ、どんどん小さくなっていく。


「スイ! よくやったな!」

 私は笑顔の騎士達に迎えられた。

 背中や頭をバンバン叩かれる。

 い、痛い……

 とりあえず勝てたよ。

 私はホッと胸を撫で下ろす。


「魔導士クラウディオ殿。あなたの言っていた事が正しかったようだ。申し訳ない」

 領主シュリックは深々と頭を下げた。

「父はずっとこいつに騙されていたようだ。いや、父の言う事を確かめもせず信じた私も悪いな。今回の件は、すべて私の責任だ。いかなる処分も受けよう」

 頭を下げたままのシュリックの表情は分からないが、彼の握った拳はブルブルと震えていた。

「分かっていただけて良かった。あなたの処分は後日、王都より連絡が来るでしょう」

 ガックリと肩を落としたシュリックは、元気なくクラウディオと共に帰っていく。

 また彼の屋敷に戻り、今回の後処理に追われるのだろうか。

 クラウディオさんの話をやっと真実と認めた領主は、協力的に処理を進めてくれそうだ。


「シュリック様……」

 ギュンターも彼らの後を追おうとする。

「お前は……!」

 シュリックは彼をキッと睨みつけると、声を荒げた。

「もう二度と私の前に顔を見せるな!」

 ギュンターは膝から崩れ落ちて、その場にしゃがみ込んだ。


 あれ?

 ちょっと可哀そうかも……

 これって私のせい?


「仕方ねえさ。ずっと自分を実力以上に見せて周りを騙してたんだ。奴の自業自得だよ」

 フリッツは粋華の肩をポンポンと叩くと、背中を押して早く帰ろうと促す。

「ちゃあんと魔力の強い魔導士が来れば、ここは安全な街になるだろう。気にするな」

 ホレスは粋華を励ますように笑った。



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