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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
76/127

16. スイvs兵士ロット


 私と、ここ港町カルンの兵士ロットとの試合が始まった。

 先程ロットは、「手加減出来ず、殺してしまうかもしれない」と私に言った。

 私の不安は、まさに彼のセリフと全く同じだった。

 願いはただ一つ。

 彼を殺さない!!

 そして、こっちはおまけだ。

 出来れば勝ちたい。


 ロットは余裕の表情で私を見下ろしたまま、動かない。

 私も剣を構えたままだ。

「おや? 来ないのか? 最初だけでも、見せ場を譲ってやろうと思ったんだが」


 ロットは大剣をひょいと振り回すと、その勢いのまま私に振り下ろしてきた。

 ガキン!

 私はそれを剣で受け止めた。

 まだ様子見のようで、軽く振り下ろされた速さのない剣だったが、剣の重量があるせいで、受け止めた手にかなりの重さを感じた。


「ほう、受け止められるのか。見かけによらず力があるな」

 ロットは感心したように言うと、今度は次々といろいろな角度から切りかかって来た。

 それらすべてを受け止める私に、彼は剣を振るスピードを徐々に上げていく。


 あんな大剣を軽々と振り回すなんて、ロットは大男なだけあって、すごいパワーだ。

 私一人の力なら、受け止めたとしても、フッ飛ばされて終わりだろう。

 こんな風に剣を受け止められるのは、全てライディのおかげだ。

 私……ではなくライディは、反応よく、速さの増した剣を、先回りするほどの余裕をみせて受け止めていく。

 私はライディの動きを読んで、足を運ぶ。

 訓練の成果か、手から伝わるライディの予備動作で、次にどう動くか分かるようになってきていた。


「受けてばかりだな。ふんっ、かかってこないのか?」

 ロットは挑発するように、剣を下ろし、プラプラと振った。


 うっ、そんな怖い事できないよ。

 いくらシェルの魔法がかかっているとはいえ、人に切りかかるなんて恐ろしい事。

 私の持っている剣は普通じゃないんだから!!


 困った顔で、躊躇する粋華。

 ロットは粋華が怖がっている様子を見て、落胆のため息をつく。

「はぁー……そんなに俺が怖いか。少しはやると思ったんだがな。まぁ、そんなもんだろう。もう終わりにしてやるよ!」

 

 王立騎士団といってもこんなものなのか。

 討伐部隊は優秀な騎士が集まっていると噂に聞いていたが、このような小さな娘が隊員を勤める部隊だったとは……。実際は噂とは随分とかけ離れていたようだ。

 戦ってみるまでもなかった。こいつは俺のように強い相手とは戦ったことがないのだろう。最初からずっと怯えている。

 剣を上手く受け止めているように見えたが、それが精一杯といったところか。まあ、反射神経だけはいいようだな。

 いじめるのは俺の趣味じゃない。もうここいらで終わりにしてやろう。もう俺の実力は充分、分かっただろうからな。

 怪我をさせても可哀そうだし、受け止めた剣を払って終わりだ。

 

 ロットは分かりやすく剣を大きく振り上げると、両手で握りなおし、勢いよく粋華の肩へと振り下ろした。彼の力いっぱいの渾身の一撃だ!


 おっ! 待ってましたー!!

 私は瞬時にライディを持つ手に意識を集中すると、その剣にぶつけるように下から上へライディを振り上げた。剣が勢いよくぶつかり合う。

 ガッキーン!!

 大きな音が鳴り、剣先が遠くへ飛んでいく。

「フッ」

 ロットは不敵に微笑んだが、私の剣が無事なのを見て、自身の剣にゆっくりと目を向けた。

「ま、まさか……」

 彼の太い剣は、真ん中から先がなくなっていた。

「な、なぜだ……?」

 ロットは茫然と自身の折れた剣を見つめた。


「止め! 勝者、スイ!」

 ホレスはホッと息を吐いた粋華を見て、ニヤリと笑った。

「あー……やっと終わったぁ」

 粋華はライディを持つ手を下ろすと、荷物へと戻った。

『俺の魔法、必要なかったな』

「いやいや、そんなことないよ。シェルの魔法がかかってなかったら思いっきり振れないもん」

 もし、手元が狂って相手に当てちゃったりしたら、大変なことになるからね!?

 もう、すごい冷や汗かいちゃったよ!

 

 フリッツが不機嫌な顔で粋華に近づく。

「おいスイ! お前なに手加減してんだよ!? これじゃあ、俺たちの気が収まんねえよ!」

「ちょ、フリッツさん!? 声が大きい!」

 慌てて口を押さえようとするも、それを聞きつけたロットが叫んだ。

「手加減しただとう!? たまたま運悪く、俺の剣の刃が折れてしまっただけだ! 俺はお前の勝ちだとは認めていない! もう一度勝負しろー!」

 うげっ!

 ほら、こうなる~!


 ロットはもう一人の兵士から剣を借り、ブンブンと振り回し始めた。

 今度の剣は先程とは違い、標準サイズだ。

 ギュンターはジロリと私を見た。

「私も彼の言葉は聞き捨てなりませんね。これではロットの気が済まないでしょう。もう一度、勝負していただけますかな?」

「……はぁ、いいですけど。今度また折れたら、私の勝ちってことでいいですか?」

 その言葉に、ロットが反応する。

「何!? あれはお前の技なのか? なるほどな、怯えていたのは、あれは演技か!!」

「え!? あ、いえ、その……」

 何て言い訳しようか考えてる横から、またもフリッツさんが余計な口を挟んできた。

「こいつはな! お前を殺してしまうかもしれないから怖がってたんだよ!」

 いやー! やめてー!!

 煽らないでー!!


「や、あの、ちが……」

 慌てて言い訳しようと口を開くも、いい言い訳が思いつかない。

 その間に、ロットの顔がみるみる赤くなり、私は焦る。

「馬鹿にしやがって、殺してやるー!!」

 ひぇーーーー!!


「スイ、悪いな。シェル様の魔法が効いてるんだろ? ちょっと痛い目みせてやってよ」

 フリッツさんは私の耳元に口を寄せて、ニヤリと笑った。

 フリッツさん……確信犯か!

 彼は意外なことに、けっこう腹黒いようだ。


 私はまたもロットと向かい合い、剣を構える。

 こんなに怒らせちゃって、どうすんのよ!

 もう、フリッツさんめーーー!


「始め!」

 再び審判を務めるホレスが、試合開始を告げた。

「おりゃー!!」

 ロットは合図と同時に、怪力にものをいわせ、力任せに剣を振って来た。

「うわ!」

 私は彼の勢いに押され、後ずさりながら、なんとかそれを剣でかわす。

 キン!キン!キン!キン!

 次々と打ってくる剣の威力は、前よりも重い。

 おされる!!

 さっきとは違い、剣が殺気を纏っている。

 これは……こっちも本気でやらなきゃ、負けるかもしれない。

 私はライディを持つ手に集中する。

 すると、彼が放つ威力のある剣を、楽に受け止められるようになった。


 ……と、突然、剣を弾いた直後、彼の拳が顔面に迫った!

「キャ!」

 私はギリギリでそれを避けた。

 あ、あぶなー!

 剣だけじゃないの!?

 なんで拳!?

 彼は剣と拳、両方で私に迫る。


「おい、なんだその戦い方は!」

 ホレスが咎めるようにロットを止めた。

 それに対し、ギュンターはホレスにずいっと歩み寄る。

「お待ちなさい! あなた達は魔獣と戦う時、作法など気にしますか? 彼の戦闘スタイルは本来こうなのです。本能のままに敵を打つ。彼が一番力を出せる戦い方なのです!!」


 私達、騎士団の面々は、「何言ってんだ?こいつ」と言いたげな顔でギュンターを見た。

 ……えっと、なに?

 いわゆる野獣スタイルってやつ?

 でも今は魔獣との戦闘じゃないし。

 それを言うなら、私だって魔獣相手にこんな戦い方しない。


「まあ、いいじゃん。もう早く勝負つけちゃおうぜ!」

 フリッツは笑いをこらえるような表情だ。

 ロットの戦い方は、彼のツボに入ったようだ。

 まぁ、いいか……と呆れながらホレスがロットを止めるのをやめると、また彼は狂ったように私に襲いかかって来た。

 これはもう、フリッツさんが言うように、さっさと勝負をつけた方がよさそうな気がする。

 うん、シェルを信じよう!


 攻撃をかわしながらも、私はライディを持つ手に力を入れて、神経を研ぎ澄ます。

 ロットのめちゃくちゃな戦い方は、騎士同士の戦いに慣れている人にとっては、戦いにくいのかもしれない。

 でも、私達は違う。

 彼のパワーが凄くても、オオカミやジャガーには敵わない。

 スピードでいえば、魔獣はおろか、いつも私の剣を指導してくれている、クラウディオさんの足元にも及ばない。

 彼の攻撃を弾き、懐が空くと、私は素早くそこへ踏み込んだ。

「えーい!」

 ガン!

 彼の鎧をつけている腹に剣を当てた。

「うごっ!!」

 ロットは変な声を上げると、前屈みに崩れ落ちた。


 心配になって彼の顔を覗き込むと、どうやら気を失っているようだ。

 ホレスは彼を仰向けにすると、腹を確かめる。

 凹んでしまっている鎧を外してみたが、彼の体に傷は見当たらない。あちこちと体を確認すると、ホレスはもう一人の兵士を呼んだ。

「一応、大丈夫だとは思うが、念の為、ちゃんと診てもらったほうがいいな」


 ギュンターは、その様子を茫然と見ていたが、つかつかと私に歩み寄った。

「何なんだ、お前は!!」

「え?……えっと、一応、騎士ですが?」

 ギュンターは、倒れているロットを見下ろすと、首を横に振った。

「はあ、情けない。シュリック様の兵士ともあろう者が、こんな醜態を晒すとは! 次は私です。覚悟しなさい!」

 

 ちょ、あのー?

 またですか……?

 私は疲れた顔でギュンターを見た。



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