14. スライトとの別れ
鍋が煮えるのを待つ間。
私はマリアさんと談笑し、他のフィアリーズ達は河原を走り回って遊んでいる。シェルは相変わらず丸くなって寝ていた。
そうこうしているうちに鍋が煮えてきたようで、辺りにいい匂いが広がる。
ガサガサガサ!!
近くの草むらから、野犬が4頭出て来た。
「あれ? 僕たちのご飯を狙ってるのかな?」
『許せん奴らやなぁ!』
「あっち行っててもらおうかぁ」
マークとライディとスライトは殺気をみなぎらせて野犬に近づいていく。
3人の実力者に睨まれた野犬達は、首を下げ、尾を股の間に入れて震えている。
「弱い者いじめは駄目ですよ!」
私は鍋から肉を4切れ取り出すと、野犬の傍に落ちている石の上に並べて置いた。
「あなた達はこれだけですよ」
口からよだれを出しながらも野犬は警戒しているようで、私と肉を交互に見ている。
「あー! 僕たちのなのにー!!」
マークが抗議の声を上げた。
「ほらマーク! まだこっちにいっぱいあるから、喧嘩しない!」
私がみんなの器を並べ始めると、フィアリーズ達とスライトは急いで戻って来た。
『『『『「「いただきます!!」」』』』』
一斉に食べだすと、器が次々と空になる。私は忙しくお代わりをついでいった。
野犬も控えめにもっと欲しそうな視線を送ってくるので、また持っていってあげると嬉しそうに食べた。
鍋が空になると、みな満足そうにお腹をさすった。
野犬は何故か、私の傍でうつ伏せになりくつろいでいる。
「……で、結局何が原因で大蛙と仲違いしたんですか?」
岩の上に座るスライトに声を掛けた。
「うーん、最初は奴があまりにも大食いだったからかなぁ。森の魔獣がいなくなっちまうよー!って、俺が口を出したんだ。咎められて面白くなかったんだろうね。あいつ、俺の妹にまで手を出しやがった」
「そうだったんですか……」
ふと私の頭に、森の泉の脇に生えた大きな木にとまっていた小鳥たちの姿が浮かんだ。
あの子たちが妹?
でも、大きさが違いすぎるから違うか……?
スライトは立ち上がると、両手を上にあげ体を伸ばした。
「さてと、俺はそろそろ森へ戻るよ」
「あ……」
私も慌てて立ち上がる。
そっか……
もう大蛙も倒したしね。
討伐部隊も数日後には王都に戻らなければならないだろう。
ちょっと仲良くなってきたところだったから、少し寂しいね……
「えっと……協力してくれてありがとう。元気でね」
「うん」
スライトはスタスタと歩いて私の目の前に立った。
私の肩に手を置き、彼の顔が近づく。
チュッ。
頬にキスをされた!!
『まあ!』
マリアが驚きの声を上げた、と同時に、
バキッ!
林の方で音がした。
私達はハッと振り返るが、……何もいないようだ。
私は目を大きく開いてスライトを見た。
「よかったら、俺と一緒に森で暮らさない? スイと一緒なら楽しそう」
私は数度瞬きして、気持ちを落ち着かせる。
「……それって、私の作った料理が食べたいだけじゃないの?」
「うーん、そうかも。でも、それだけじゃない……と思う。ほら、一緒に寄り添って寝たら、気持ち良かったでしょ? どう?」
バキッ!
また林から怪しい音が。
振り返って見てみたが、何もいない。
私はまたスライトに向き直った。
うーん、寄り添って……というか、羽毛に埋もれてたんだけどなぁ。
まあ、フワフワしてて、気持ち良かったのは否定できないけど。
「まぁ、そうですね。なんか勘違いしそうな言い方ですけど……。ちなみに、一緒に暮らすって、そういう意味じゃないですよね? ほら、人間の裸には興味ないって言ってたし」
「ああ……ごめん。それは嘘」
スライトは微笑んで、なんてことないように言った。
なにぃ? 嘘!?
よ、よかった。見られなくて……!
私はドキドキしている胸に手を当て動揺を抑えると、スライトの金色の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「でも、やっぱり私は人間です。人間の町で暮らします。……誘ってくれたのは……その、ありがとうございます」
別に嫌いじゃないけど、まだそんなによく分かっていないスライトと一緒に暮らすなんて、そんな勇気、私にはない。
でも、すぐにはっきりと断ったのは、なんだか申し訳なく感じて俯いた。
スライトはわずかに眉を下げてフッと笑う。
「そっかぁ、残念。……じゃあね!」
彼は手を大きく振って駆け出すと、ボフン!と元の大きな青い鳥に姿を変えた。
大きく羽ばたき空へ舞い上がると、そのまま森の方角へと飛び去っていった。
「はぁ……行っちゃったね」
粋華が呟くと、林からガサガサと草を掻き分け、何かが出て来た。
ビクッと振り向くと、
「おいスイ、よかったのか? せっかくのお誘いを」
ホレスさんだ!
「なななんで!?」
聞かれた!?
うろたえる粋華に、ホレスはワハハと笑った。
「そりゃあ、お前が帰って来るのが遅いから、心配して見に来たんだよ。ね、魔導士様!」
ええ!?
クラウディオさんもいるの!?
気まずそうに、クラウディオも林から出て来た。
「どうして? 何で居場所が分かったんですか?」
驚く私に、クラウディオは私の鞄を指差した。
「俺の魔道具を入れてある。それで場所が分かる」
へぇー、そうだったんだぁ。いつの間にそんなものを……って、さっきの会話を全部聞かれてた!?
ちょっ、恥ずかしいんですけど!?
顔を赤くして動揺する私を全く気遣う様子もなく、
「もう夜も遅い。早く片付けて帰るぞ」
クラウディオはただ低い声でそう告げた。




