12. マリアの新しい体
「どうしたスイ。飯行かないのか?」
扉をノックし、顔を出したアルフレッドが不思議そうに私を見た。
「ああ……もうそんな時間? ごめん、私はちょっと遅れるから、先に食べてて」
「そうか、分かった。でも早く来ないとなくなっちまうぞ?」
アルフレッドは笑って扉を閉めると、階段を下りて行った。
なんやかんやで、なんとか魔物を討伐し終わった私達は、宿へと戻って来た。
体をなくしてしまったマリアさんに、早く新しい最強スペックの体を作ってあげたくて、今、私は奮闘中だ。
マークとスライトは怪我をしているので、それを早く治してあげたいのもある。
ハインリッヒさんが用意してくれた大量の粘土の出番が来た!
「こんな感じでどうですか?」
私は目に見えないマリアさんに尋ねた。
この前の粘土人形の面影を残しつつ、今度は髪を緩やかに下ろしたバージョンだ。スカートはレースやリボンで装飾し、ひらひらと広がったデザイン。ふんわりと膨らんだ袖と、今回はエプロンも付けてみた。ナースっぽさにもこだわっている。もちろん前回同様、ナース帽は欠かせない。
そして、今回の一番の目玉は、なんといっても背中に付いた翼だ!
「……うん、うん。分かった!」
マークが宙に向かって返事をした。
「なんだって?」
「うん、気に入ったって! あと、今度は頑丈に出来てるか気にしているよ」
「そう、良かった! 任せて! 今度のはそう簡単には壊れないからね!」
前回は丈夫さなんて考えずに作ってしまった。ただ癒しの力を強めることしか念じなかったからね。
しかし、今回は違う。
癒しの力はもちろん、頑丈さやパワー、そして機動性、ついでに可愛らしさ! すべてに力が入ってるからね。
凶暴な魔物に出会って壊されちゃうなんて悲劇は、もう起こさない!
「……よし! こんなもんかな? じゃあ、マリアさん。入ってみて?」
私とフィアリーズ、そして魔物スライトが見守る中、新しい粘土人形が徐々に白い光を放ち出した。
光が落ち着いた粘土人形は、ゆっくりと立ち上がる。
「ど、どう?」
私は緊張気味に尋ねた。
『こ、これは……力が、力が溢れてきますわ! 今なら何でも出来そうな気分……』
マリアはゆっくりとした足取りでベッドへと向かう。
みんなが「?」を頭につけて見ていると、おもむろにベッドの足をガシッと抱えた。
『おりゃあっ、ですわ!』
マリアの掛け声と共に、ベッドがひょいっと持ち上げられた。掛布団と枕が吹っ飛ぶ。
ちょ、ちょっと、布団が吹っ飛んだよ!?
「マ、マリアさん!?」
「マリア! すごいね!」
「やるねー!」
『すごいパワーや!』
ライディは驚きの声を上げ、マークとスライトは手を叩いて喜んでいる。
シェルは片目を開けて、
『へー』
とだけ呟いた。
ドスン!とベットを下ろすと、今度は翼を広げて舞い上がる。
『オーホッホッホッホ!! すごいですわ! すごいですわ!』
マリアは喜びの叫びを上げながら、部屋の中を目にも留まらぬ速さで飛び回った。
バターン!
突然部屋の扉が開かれ、
「おい、何事だ!!」
クラウディオと騎士達、そしてリーナが部屋の中へと入って来た。
私達の騒ぎは、一階の食堂まで聞こえていたようだ。
『オーッホッホッホッホ!!』
笑いながら飛び回るマリアと、それを囃し立てるフィアリーズとスライト。
「あ……クラウディオさん……」
クラウディオは扉を閉めると、ゴホンと咳払いをした。
これは、何かやばい……?
「み、みんな! ちょっと!」
粋華がワタワタと焦って手を振るも、興奮したフィアリーズは気付かない。
「マリア殿?」
クラウディオの低い声に、マリアはピタッと動きを止めると、ゆっくりと地面に下りた。
マークとスライトもマズイと思ったのか、明後日の方向を向いている。
クラウディオはマリアの傍までゆっくりと近づくと、目線を合わせるように屈んだ。
マリアは申し訳なさそうに俯いた。
『騒いでしまって、申し訳ありません……』
それを聞いたクラウディオは、頭を横に振ると、
「いえ……新しい体が出来たようで良かった」
意外にもかすかに微笑んだ。
ほっ……怒ってなかったみたい。
マーク達も緊張が解けたようで、ほっとした顔をした。
彼は立ち上がると、私に向き合った。
「……ちょっと来い」
は?
何、何、待ってよ!
私だけお説教!?
私は縋るようにマークを見たが、マークは苦笑いを浮かべ、いってらっしゃいと手を振った。
なにー!?
「みんなは先に食べていろ」
クラウディオに言われ、アルフレッドは私の肩を叩くと、気の毒そうな顔を見せて他の騎士達と一緒に食堂へと戻っていった。
私は肩を落とし、クラウディオの使っている部屋へと彼と共に入った。
勧められて部屋に一つしかない椅子に座ると、彼はベットに腰掛けた。
ジッと見つめられて居心地の悪くなった私は、もぞもぞと体を動かす。
「……どこにも怪我はないか?」
「あ、はい。マークとスライトが怪我してしまっただけです……」
彼は歩いてすぐ目の前まで来ると、私の手を取った。
「はぁー……無事で良かった。今回は仕方なくお前一人で行かせたが、もう今後はこんな作戦は取らない。寿命が縮む思いをした……」
彼はしばらくジッと私の手を見ていた。
「……今回はよくやったな」
そう言って私の頭をポンポンと叩くと、手を引いて立たせた。
「飯にしよう」
あれ? お説教ではなかったようだ。
何だったんだ?
私達が食堂に着くと、いつもよりも豪華な料理が目に入った。肉や魚料理がテーブル一杯に並べられている。
「おっ、来た来た!」
「早く食べようぜ!」
騎士達がニコニコと私に話しかけた。
「あれ? みんなまだ食べてないんですか?」
「そりゃあな! 今回一番活躍したのはスイだからな。お前を差し置いて先には食べられないよ」
そう言ったホレスだったが、彼の手には、待ちきれないとばかりにフォークが握られていた。
「お待たせしてすいません。じゃあ、いただきましょう!」
粋華の掛け声と共に一斉に食べだした討伐部隊一同は、ご馳走に舌鼓を打つ。
「あのう、魔導士様……酒を頼んじゃダメですかね?」
ロイはフリッツにせっつかれたようで、恐る恐るといった様子で聞いた。
「む……まあ、今日ぐらいはいいだろう」
「「やったー!」」
騎士達は嬉々としてお店の人を呼んでお酒を注文する。
「私も一つお願い!」
リーナも手を上げた。
私も頼んじゃおうかな?
「じゃあ、私にもお願いします!」
片手を上げた粋華を、みんなが一斉に見る。
「え?……なんですか?」
首を傾げる粋華の肩を、リーナがポンポンと叩く。
「スイさんはまだ止めといたほうがいいわよ。子供にはけっこうキツイと思うから。果汁を頼んであげる」
む。
また子供扱いされた。
この世界には、お酒は二十歳から、なんて法律はない。
だから10代後半から普通にお酒を飲むようだ。
……なのに、止められる私って!
「私は……こう見えても、もう二十歳過ぎてますから!」
大声で反論した。
みんなは、ポカンとした顔で私を見ている。
……あれ?
そう言えば、ちゃんと歳を言った事なかったような?
「……スイ。きちんと聞いた事なかったけど、何歳なんだ?」
アルフレッドが顔を覗き込んできた。
そういえば、前は誤魔化しちゃったもんね。
幼く見えちゃうみたいだから黙ってたけど、本当の歳なんて言ったら、なにを言われちゃうんだろう……?
でも、いつまでも誤魔化してるのは良くないよね……
私は覚悟を決めると口を開いた。
「あの……今まで誤魔化しててごめんね。私、22歳なんだ」
「え!? それ本当!?」
リーナが目を白黒させている。
「ってことは、俺より年上なのか!?」
アルフレッドが信じられないという顔をした。
「……うん。みんな誤解してるようだったから言い出しにくくて……」
私はポリポリと頬を掻く。
「あ……言っとくけど、私のところでは、みんなこんな見た目だからね。私が特に幼く見えるとかではないんだよ!?」
「マジか……!」
「信じられん……!」
ロイとフリッツは眉を寄せ、ブツブツと呟いている。
「俺は23。ロイは19だからお前より3つも下だな」
そっかぁ、フリッツさんは一つ年上かぁ。
ロイさんは19歳で、もうパパになるんだねぇ。
「お、そうだ。俺はいくつに見える?」
ホレスさんに尋ねられた。
ホレスさんは最年長って言ってたから、クラウディオさんよりも上なんだよね。多分。
「うーん……26歳くらいですか?」
「お、おしい! 28歳だ!」
ホレスは若く見られて嬉しそうだ。
ほっ、良かった。
年齢当てクイズは気を遣う。
あれ? そう言えば、一人静かな人がいるね。
私はクラウディオさんをチラッと見た。
彼はまだ目を大きく開いて、驚いた顔のまま私を見ていた。
「22歳……」
小さく呟いている。
そんなにいつまでも驚くこと!?
もうすでに彼以外の人たちの会話は、他の話題へと移っていた。
私は彼らと談笑しながら、楽しく食事の時間を過ごした。




