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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
71/127

11. 壊されたマリア


「マ、マーク……!」

 私は茫然とマークを飲み込んだ魔物ボレシャスを見ていた。

 うそ、うそ……マークが……!

『マーク様ー!!』

 マリアの叫び声で、はたと現実に戻る。

『グワッハッハッハ! すごいぞ、このフィアリーズは! わしの魔力が蘇って来る!』

 大蛙の体が僅かに輝き始めた。傷から出ていた血が止まっている。


「よ、よくもマークを~~~!!」

 私はライディをギュッと握りしめ、大蛙ボレシャスを睨みつけた。

 ミントから降りると、じりじりと剣を構えて近づく。

『おい、落ち着けよスイ』

 荷物の中から声がした。

『俺の防御魔法がかかっているから、多分まだマークは生きてるぞ。少しの間はもつだろう』

 シェル!

 そ、そうか……まだ生きてる!

 でも、早くしないとマークが本当に死んじゃう!


 私は少し冷静さを取り戻すと、ライディをしっかりと握った。

「ライディ! 行くよ!」

『おお!』

 私はボレシャスに向け剣を掲げた。


 ドガガーン!!

 ボレシャスの頭上に雷が落ちる。

 しかし、雷は大蛙の体の表面を流れて、地面へと消えた。

「えっ!? なんで!?」

 ボレシャスはぬめぬめした液体に覆われているので、そこを電気が流れたようだ。


『グワッハッハッハッハ! 残念ながら、わしには効かなかったな!』

 ボレシャスは高笑いすると、自身の足元に魔力を込め出した。

 私は慌ててミントに跨る。

「上へ!」

 ミントは上空へと舞い上がった。

 とそこへ、土魔法で作った土の槍がボレシャスの足元から飛び出し、私達を襲う!

 ミントはそれらをギリギリでかわすと、ボレシャスの真上を旋回する。

 何とかあいつの気を逸らせるといいんだけど……

 私達は近づくことが出来ず、イライラと魔物の様子を伺った。


『ちょこまかと逃げ回りおって! 早く降りてこい!』 

 ボレシャスがまたも魔法で土の槍を作ったところに、突然、バシュバシュ!と、幾本もの氷の槍が彼に襲いかかった!

『グゲ! 何だ!?』

「スイ! 大丈夫か!?」

「待たせたな!」

 騎士達とリーナが駆けつけてくれた。

 クラウディオは再び氷の槍を出現させると、ボレシャスに向けて放つ!

 ボレシャスも負けじと土の槍を放ち、ドーン、ドーン!と空中でぶつかり激しく砕け散った!

『グゲゲ! ごちゃごちゃとたくさん出てきおって! 邪魔だー!!』

 さらに大量の土の槍を出現させたボレシャスは、それを騎士達に向けて一斉に放った。

「うわっ、やばい!!」

 騎士達は慌てて建物の陰に隠れた。


「今だ!」

 私はボレシャスの真上を飛んでいたミントから飛び降りた。

『あ、スイ!』

 ミントが慌てた。

 私は落下しながらライディを顔の前に構えて、ボレシャスの頭目掛けて振り下ろす。

『グゲ!』

 私に気付いたボレシャスが舌を飛ばしてきた。

 迫りくる舌にライディの剣をぶつける。

 落下の勢いを活かし、舌を真っ二つにしながら、私はそのまま魔物の体を切り裂いた。


『グ……グゲ……』

 二つに分かれた大蛙の腹の中から、たくさんの小さな光の玉が転がり出た。

 その中に混じって、マークも転がって出てきたが、ぐったりと倒れたまま動かない。

「マーク!?」

 呼びかけたが反応がない。

 横たわったままのマークの体には、ネバネバした液体が纏わりつき、あちこちが赤くただれている。

『大変ですわ!』

 マリアはミントが地上に降りると、すぐに荷物から這い出し、マークに駆け寄った。

『しっかり、マーク様! 今、治療いたしますわ』

 マリアが手をかざすと、マークは白い光に包まれた。

 マーク……お願い、目を開けて!


 粋華とフィアリーズがマークに気を取られている時、背後で倒れていたグラトナスが意識を取り戻した。

 彼は真っ二つにされた父親の亡骸を見ると、ガリッと奥歯を噛みしめた。

 右手に魔力を溜め、その手を粋華に向けて伸ばす。


「やめろ!」

 それに気づいたスライトがグラトナスに向け、風の刃を放った。

 それと同時にグラトナスの手から放たれた水の刃が、粋華に向けて真っ直ぐに飛んだ。

『スイ!』

 ドン!

 ミントに突き飛ばされて粋華は地面を転がる。ミントもなんとか上手く刃をかわした。

 バキーン!!

 しかし、その先でマークの治療をしていたマリアに直撃した!

『きゃあぁぁぁ!!』

 体の軽いマリアは勢いよく弾き飛ばされ、建物の壁に激突した!

「マ、マリアさーん!!」

 マリアは起き上がろうと、ゆっくりと体を起こす。

『あ……』

 しかし、彼女の全身には、無数のヒビが入っていた。

 マリアが動くたび、ボロボロと体が崩れ落ちていく。

「マリアさん……」

 粋華はふらふらとマリアに近寄り手を伸ばす。

『うっ……スイ様、すみません……せっかく作っていただいた体なのに……』

 彼女はそう言って微笑んだ。とその時、片足が折れ、前に倒れた。

 バキン!

 その衝撃で、さらに細かく割れたマリアの体はバラバラになって転がった。

 ほの白く輝いていた彼女の体は光をなくし、粘土の色に戻っていく。

「マリアさー……ん!!」

 粋華の叫び声が廃墟に響いた。


「ゆ……許さない……!」

 粋華は涙を流しながら、地面に倒れているグラトナスを睨んだ。

 グラトナスは黒く焦げた腕に力を込めて、ググッと体を持ち上げた。先程のスライトが放った風の刃を受けて、頭から血を流している。

「それは、こっちの……」

 話し出した魔物の言葉を遮るように、粋華は剣を掲げると、その頭上に雷を落とした。

 ドドーン!!

「グワーーーーー!!」

 真っ黒に焼け焦げた魔物は、全身から煙を出し、もうピクリとも動かなくなった。


 粋華はバラバラになったマリアに駆け寄ると、その場にしゃがみ込む。

 ううう、マリアさんが、……死んじゃった……

「スイ……」

 マークが僅かに回復した体で、フラフラと飛んできた。

「マーク! 良かった!」

 粋華はマークを思いきり抱き締めた。  

「いたたた! 苦しいよ……」

 マークは痛がりながらも、されるがままになっている。

 粋華はやっとマークを放すと、マリアへと目を向けた。

「マリアさんが……」

「あー……壊れちゃったね……」

「うん……」

 ポロポロと泣き出す粋華の頭を、マークはよしよしと撫でた。


「あー……うんうん、スイに伝えるね」

 マークは空中を見つめながら、何やら言葉を発している。

「……マーク?」

「マリアがね、今度はもっと頑丈な体にしてってさ。あと、自分も飛べるようにして欲しいって!」


 ……え?……なんだって?

 私はキョトンとマークを見つめた。

「え? マリアさん……生きてるの?」

「ん? 当たり前でしょ? 粘土の体が壊れただけじゃん」


 ええっ!? 

 な、なあんだ……そうだったんだ……

 気が緩んだ私の瞳から、またまた自然と涙が出てくる。


「あ! スイ、見て!」

 マークの指さす方を見ると、無数の光の玉が空へと上がっていく。あの大蛙のお腹から出てきた光の玉だ。

 騎士のみんなやリーナも、驚きの顔で空を見上げる。

「あれは?」

 目を見開いて尋ねる私に、マークは優しい目をして答えた。

「フィアリーズの魂だよ。大蛙に食べられて死んでしまったけど、またこの世界のどこかで生まれ変わるんだ」


 フィアリーズの魂……

 光はフワフワと空へと広がるように昇っていく。

 私達はその光が見えなくなるまで見送った。 



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