11. 壊されたマリア
「マ、マーク……!」
私は茫然とマークを飲み込んだ魔物ボレシャスを見ていた。
うそ、うそ……マークが……!
『マーク様ー!!』
マリアの叫び声で、はたと現実に戻る。
『グワッハッハッハ! すごいぞ、このフィアリーズは! わしの魔力が蘇って来る!』
大蛙の体が僅かに輝き始めた。傷から出ていた血が止まっている。
「よ、よくもマークを~~~!!」
私はライディをギュッと握りしめ、大蛙ボレシャスを睨みつけた。
ミントから降りると、じりじりと剣を構えて近づく。
『おい、落ち着けよスイ』
荷物の中から声がした。
『俺の防御魔法がかかっているから、多分まだマークは生きてるぞ。少しの間はもつだろう』
シェル!
そ、そうか……まだ生きてる!
でも、早くしないとマークが本当に死んじゃう!
私は少し冷静さを取り戻すと、ライディをしっかりと握った。
「ライディ! 行くよ!」
『おお!』
私はボレシャスに向け剣を掲げた。
ドガガーン!!
ボレシャスの頭上に雷が落ちる。
しかし、雷は大蛙の体の表面を流れて、地面へと消えた。
「えっ!? なんで!?」
ボレシャスはぬめぬめした液体に覆われているので、そこを電気が流れたようだ。
『グワッハッハッハッハ! 残念ながら、わしには効かなかったな!』
ボレシャスは高笑いすると、自身の足元に魔力を込め出した。
私は慌ててミントに跨る。
「上へ!」
ミントは上空へと舞い上がった。
とそこへ、土魔法で作った土の槍がボレシャスの足元から飛び出し、私達を襲う!
ミントはそれらをギリギリでかわすと、ボレシャスの真上を旋回する。
何とかあいつの気を逸らせるといいんだけど……
私達は近づくことが出来ず、イライラと魔物の様子を伺った。
『ちょこまかと逃げ回りおって! 早く降りてこい!』
ボレシャスがまたも魔法で土の槍を作ったところに、突然、バシュバシュ!と、幾本もの氷の槍が彼に襲いかかった!
『グゲ! 何だ!?』
「スイ! 大丈夫か!?」
「待たせたな!」
騎士達とリーナが駆けつけてくれた。
クラウディオは再び氷の槍を出現させると、ボレシャスに向けて放つ!
ボレシャスも負けじと土の槍を放ち、ドーン、ドーン!と空中でぶつかり激しく砕け散った!
『グゲゲ! ごちゃごちゃとたくさん出てきおって! 邪魔だー!!』
さらに大量の土の槍を出現させたボレシャスは、それを騎士達に向けて一斉に放った。
「うわっ、やばい!!」
騎士達は慌てて建物の陰に隠れた。
「今だ!」
私はボレシャスの真上を飛んでいたミントから飛び降りた。
『あ、スイ!』
ミントが慌てた。
私は落下しながらライディを顔の前に構えて、ボレシャスの頭目掛けて振り下ろす。
『グゲ!』
私に気付いたボレシャスが舌を飛ばしてきた。
迫りくる舌にライディの剣をぶつける。
落下の勢いを活かし、舌を真っ二つにしながら、私はそのまま魔物の体を切り裂いた。
『グ……グゲ……』
二つに分かれた大蛙の腹の中から、たくさんの小さな光の玉が転がり出た。
その中に混じって、マークも転がって出てきたが、ぐったりと倒れたまま動かない。
「マーク!?」
呼びかけたが反応がない。
横たわったままのマークの体には、ネバネバした液体が纏わりつき、あちこちが赤くただれている。
『大変ですわ!』
マリアはミントが地上に降りると、すぐに荷物から這い出し、マークに駆け寄った。
『しっかり、マーク様! 今、治療いたしますわ』
マリアが手をかざすと、マークは白い光に包まれた。
マーク……お願い、目を開けて!
粋華とフィアリーズがマークに気を取られている時、背後で倒れていたグラトナスが意識を取り戻した。
彼は真っ二つにされた父親の亡骸を見ると、ガリッと奥歯を噛みしめた。
右手に魔力を溜め、その手を粋華に向けて伸ばす。
「やめろ!」
それに気づいたスライトがグラトナスに向け、風の刃を放った。
それと同時にグラトナスの手から放たれた水の刃が、粋華に向けて真っ直ぐに飛んだ。
『スイ!』
ドン!
ミントに突き飛ばされて粋華は地面を転がる。ミントもなんとか上手く刃をかわした。
バキーン!!
しかし、その先でマークの治療をしていたマリアに直撃した!
『きゃあぁぁぁ!!』
体の軽いマリアは勢いよく弾き飛ばされ、建物の壁に激突した!
「マ、マリアさーん!!」
マリアは起き上がろうと、ゆっくりと体を起こす。
『あ……』
しかし、彼女の全身には、無数のヒビが入っていた。
マリアが動くたび、ボロボロと体が崩れ落ちていく。
「マリアさん……」
粋華はふらふらとマリアに近寄り手を伸ばす。
『うっ……スイ様、すみません……せっかく作っていただいた体なのに……』
彼女はそう言って微笑んだ。とその時、片足が折れ、前に倒れた。
バキン!
その衝撃で、さらに細かく割れたマリアの体はバラバラになって転がった。
ほの白く輝いていた彼女の体は光をなくし、粘土の色に戻っていく。
「マリアさー……ん!!」
粋華の叫び声が廃墟に響いた。
「ゆ……許さない……!」
粋華は涙を流しながら、地面に倒れているグラトナスを睨んだ。
グラトナスは黒く焦げた腕に力を込めて、ググッと体を持ち上げた。先程のスライトが放った風の刃を受けて、頭から血を流している。
「それは、こっちの……」
話し出した魔物の言葉を遮るように、粋華は剣を掲げると、その頭上に雷を落とした。
ドドーン!!
「グワーーーーー!!」
真っ黒に焼け焦げた魔物は、全身から煙を出し、もうピクリとも動かなくなった。
粋華はバラバラになったマリアに駆け寄ると、その場にしゃがみ込む。
ううう、マリアさんが、……死んじゃった……
「スイ……」
マークが僅かに回復した体で、フラフラと飛んできた。
「マーク! 良かった!」
粋華はマークを思いきり抱き締めた。
「いたたた! 苦しいよ……」
マークは痛がりながらも、されるがままになっている。
粋華はやっとマークを放すと、マリアへと目を向けた。
「マリアさんが……」
「あー……壊れちゃったね……」
「うん……」
ポロポロと泣き出す粋華の頭を、マークはよしよしと撫でた。
「あー……うんうん、スイに伝えるね」
マークは空中を見つめながら、何やら言葉を発している。
「……マーク?」
「マリアがね、今度はもっと頑丈な体にしてってさ。あと、自分も飛べるようにして欲しいって!」
……え?……なんだって?
私はキョトンとマークを見つめた。
「え? マリアさん……生きてるの?」
「ん? 当たり前でしょ? 粘土の体が壊れただけじゃん」
ええっ!?
な、なあんだ……そうだったんだ……
気が緩んだ私の瞳から、またまた自然と涙が出てくる。
「あ! スイ、見て!」
マークの指さす方を見ると、無数の光の玉が空へと上がっていく。あの大蛙のお腹から出てきた光の玉だ。
騎士のみんなやリーナも、驚きの顔で空を見上げる。
「あれは?」
目を見開いて尋ねる私に、マークは優しい目をして答えた。
「フィアリーズの魂だよ。大蛙に食べられて死んでしまったけど、またこの世界のどこかで生まれ変わるんだ」
フィアリーズの魂……
光はフワフワと空へと広がるように昇っていく。
私達はその光が見えなくなるまで見送った。




