9. 次の調査場所は…
騎士の仲間たちと夕食をとった私は、部屋へと戻り、寝る準備を始めた。
「あのー……着替えたいので、ちょっと部屋から出ててもらえますか?」
「ああ、俺、人間の裸には興味ないから大丈夫だよー」
「いえ、私が気にするので……」
魔物の男性は、廊下に出ると不満そうに声を掛けてくる。
「ねえ、フィアリーズは平気なのに、何で俺は駄目なの?」
うーん……見た目の問題かな?
今の魔物は、見た目が全くの人間だからね。
私は宿からもらったお湯で軽く体を拭くと、素早く寝間着に着替えた。
この世界の宿にはお風呂はないようだ。
辛い……
「すいません。お待たせしました」
扉の外へ声を掛けて魔物が入って来ると、ベッドへと入った。
「今日は疲れたし、もう寝ましょう。おやすみなさい」
「そうだねー。おやすみ」
そう言って、私の隣に入って来る。
「いや……待ってください。困ります」
ジロッと魔物を睨んだ。
「だって、この部屋、ベットが一つしかないよ? 狭いけど、しょうがないよね」
……そうだった。
しょうがない。私が床に寝るか……
はぁー……と、ため息をつくと、ベットから出て荷物から毛布を出し、床に敷いてゴロンと寝転がった。
うう、背中が痛い……
「おやすみなさい」
そう言って掛布を被ると、何故か今度は魔物がそこに入って来た。
「ちょっ、なんなんですか!?」
私はガバッと起き上がった。
「人間の姿って、ちょっと寒くってぇ。くっつくと温かいよね」
は?
「ダメです。人間は普通、恋人同士でも夫婦でもない男女で、くっついて寝たりしませんから!! 寒かったら、元の姿に戻ればいいんですよ!」
「あ、いいの!? 分かった!」
魔物は、ボフンと元の大きな鳥の姿へと変わった。
「ぎゃーーーーー!!」
『なんですの!?』
『真っ暗やー!』
この狭い部屋の中で元の大きさに戻った魔物は、部屋全体に窮屈に押し込められているような状態になった。
私、ライディ、マリア、シェルは、彼の羽毛の中に埋まってしまった。
私の悲鳴を聞きつけて、騎士の4人が駆け付けた。
「どうしたんだ!」
扉を開けると、そこを塞ぐ青い羽毛が。中は全く見えない。
「おーい! スイ、いるかー!?」
「大丈夫かー?」
羽毛をかき分けて中に入ってきてくれた。
「うぷ、だ、大丈夫です……」
私と騎士達は、マリアとライディを見つけ出すと、抱いてベッドへと移動する。シェルは寝ているようで返事がないので放っておく。
「ありがとうございました。羽毛が覆いかぶさってきますが、軽くてフワフワなので、窒息の心配はなさそうです。このまま寝ますね。おやすみなさい」
私は引きつった笑みを浮かべた。
魔物が一緒で大丈夫!って、あんなにきっぱり啖呵切っちゃったもんね……
今さら嫌です……なんて言えない。
「そ、そうか……。まあ、頑張れよ」
騎士のみんなは私を励ますと、扉を閉めて帰っていった。
はぁ……早まった。
翌朝、朝食の席には、昨夜、宿を留守にしていたクラウディオの姿もあった。
私たちは挨拶を交わすと、朝食を食べながら軽く打ち合わせをする。
「今日は残りの一か所を調べる。しかし、そこでも手掛かりがなければ、昨日言っていた魔物の調査をしなければならない」
クラウディオは難しい顔をした。
大蛙が出たという噂なんて、この町に来てから聞いたこともない。何の手掛かりもない状態だ。
魔物は私達と同じテーブルで、私が作ったスープを飲んでいる。もう食材があまりないと女将さんに言われ、スープしか作れなかった。
しかし魔物は文句を言うこともなく、ご機嫌でスープを飲んでいた。
「なんでもいいんですが、何か手掛かりになりそうな事を知りませんか?」
魔物に尋ねてみた。
「ねぇ、今日行く所って、近くに池ってある?」
クラウディオは預かっていた地図を開いて、印を見た。
「いや、……なさそうだな」
「奴は池の近くを好むんだ。そこは違うんじゃないかなぁ」
「……そうか。しかし、他に手掛かりはないし……」
池か……
「ねえ、ところで名前を聞いていないんですが、教えてもらえますか?」
「あれ? 言ってなかったっけ。俺、スライト」
「あ……」
しまった! この魔物の名前も聞いてなかった!
でも、今は本当は大蛙の名前を聞いたつもりだったのだ。
思わず、やばいって気持ちが顔に出てしまった。
「んー? その顔って、俺の名前には興味なかったの?……予想外、ちょっと傷ついちゃった」
スライトはしょんぼりと肩を落とす。
これは私が悪かった。
テーブルに置いてあった残りのスープを鍋ごと、魔物スライトに差し出す。
本当はフィアリーズに持って行ってあげようと思ったんだけど、彼らは食べなくても平気なんだし、いいよね。
「やったー! 得しちゃったなぁー」
スライトはたちまち元気になると、鍋を持ち上げごくごくと飲みだした。
豪快だ……
すっかりと飲み終わると、スライトはニコニコと話し出した。
「奴の名前はボレシャス。息子もいたな……確か、グラトナス……だったかな?」
私はそれを聞いて、ん?と顔をしかめた。
どこかで聞いたような……?
「ちょっと待っててください!」
私は自身の部屋へと駆け出す。
荷物から紙を取り出すと、すぐに階段を駆け下りてみんなの元へ戻った。
「こ、これ……!」
私は紙を広げてテーブルの上に置いた。
「あれ? これって、スイの事可愛いって言ってた男が渡してったやつだよね?」
マークが覗き込んできた。
「うん、そうそう!」
「……なに?」
クラウディオが硬い声で聞いた。
「昨日の朝、これを渡されたんですが、何か怪し……」
私が話している途中で、バッとクラウディオが紙を取り上げた。
「……これは?」
紙には、簡単な地図が書いてある。
「これって、通りの名前ですよね。この場所に来いってことなんだと思うんですが……ここ、ここを見てください!」
私は紙の下の方を指さす。
そこには、“ラトス”と書いてある。彼の名前のようだけど……
「グラトナスと何となく似てませんか? いや、ただ似ているだけかもしれませんが……」
「スイ、字が読めるようになったのか? 頑張ってるな」
アルフレッドに褒められた。
えへへ。
思わず頬が緩む。
「お待たせー!」
明るい声で、リーナが宿へ入って来た。
「何を見てるの?」
リーナがひょいと横から紙を奪う。
「んん? この場所って……確かこの辺りには誰も人が住んでないわよ。廃墟になってるとこじゃない? どうしたの? これ」
やっぱり!
こんな場所にお店なんてないんだ……!
彼は嘘を言っていた。
「怪しい人だったんですよ。私一人しかいなかったのに、 “君達”って言ったんですよ」
「それって?」
マークが首を捻る。
「うん。マークと私に来て欲しかったんだと思うよ」
「マーク様が見えていたってことは……」
「そうだな。只者じゃないな」
ホレスとフリッツが顔を見合わせて、うんうん頷く。
「ふーん……近くに池はあるかい?」
魔物スライトの言葉を受けて、リーナさんはうーんと考え込む。
「どうだったかしら……それって重要?」
「ああ」
クラウディオは頷く。
「分かった。その辺りの地形を調べてみるわ。ちょっと待ってて!」
そう言うと、彼女は宿を飛び出していった。
しばらくして戻って来たリーナは、手に大きな丸めた紙を持っていた。
「これ見て! 確かに池があるわ」
テーブルの上に広げられた紙は、詳細な地形が記してある地図だった。
「それから、ちょっと気になる事を聞いたんだけど……この辺りには少しだけど、貧しい人々が住んでいたらしいの。でも、ここ一か月程前からいなくなっちゃったらしいのよ。でも、家も職もない人たちでしょ? 誰も捜索願を出さなかったんだって」
「あー……やばいね、それは」
大食いの魔物、ボレシャスとグラトナス……
行方不明のフィアリーズと町の人々……
「次の調査場所が決まったな。早速向かう事にする」
「「「「「はい!」」」」」
私たちは勢いよく椅子から立ち上がった。




