表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
67/127

7. 魔物と手料理


「黙って帰っちゃうなんて、ひどくない?」

 男は、かなり早いスピードで飛ぶミントに並んで走っている。

 私たちは馬を止めることも忘れて、呆気にとられていた。

「病み上がりなのにさぁ、こんなに走らせないでよ」

 男はひょいと私の後ろに座った。

「おっ、けっこう乗り心地いいじゃん」


 クラウディオが慌てて馬を止めた。

 騎士たちもそれに習う。

 素早く馬の向きを変えたクラウディオは、私たちの元へ駆けてくると、彼には珍しく興奮して杖を構えた。

「お前は、さっきの魔物か!」

「ちょ、ちょっと、クラウディオさん、落ち着いてください!」

「そうそう。落ち着いてください!」


 謎の男性はふざけているのか、私の口調を真似した。

 クラウディオは、恐ろしい顔で男を睨んだ。

「あー……ごめんって。はい、そうです。さっきの鳥です」

 両手を上げて、降参のポーズをした。


「私達と一緒に行きたいんですか?」

「うん。俺も奴に貸しがあるからねぇ……」

「……もしかして、怪我したのって、その大蛙のせいなんですか?」

「そう! 君って勘がいいねぇ。フィアリーズが行方不明だっけ? そんな事するの、この辺じゃ、あいつ位だと思うし。俺も協力してやるよ」

 魔物はうんうんと頷いて、にっこり笑った。

 うーん……嘘をついているようには見えない。


「連れて行ってもいいですか?」

 クラウディオさんを見ると、彼は苦虫を嚙み潰したような渋い顔だ。

「……まず、そこから降りろ」

「えー、さっきは乗せてあげたんだしいいだろー?」

「私は構いませんよ。でも、これから町に戻るんですけど、大丈夫ですかね」

「ああ、俺、町に住んでた事もあるから大丈夫!」

 魔物はいい笑顔を見せた。

 え? 魔物って、普通に町に住んでるもんなの?

 クラウディオさんを見ると、驚いた顔をしている。

 この世界の常識ってわけではないらしい。

「私とフィアリーズが見張ってますから」

 じっと見つめてお願いしてみる。

 彼は、もう一度、私と魔物を見比べると、心なしか肩を落とした様子だが了承してくれた。

「問題を起こすようなら、叩き出すからな」 



 こうして、魔物と一緒に、森の外へ向けて急ぐ私達だった。……が、またしてもジャガーに襲られる。この森は力の強いジャガーが、何頭も生息しているようだ。

 ジャガーは、突然、木の上から、今度は粋華目掛けて飛び掛かって来た。

「きゃー!」

 突然の事なので反応出来ず、思わず目をつぶってしまった。

『おりゃー!』

 ライディが背中から素早く抜け出し、弾き飛ばしてくれた。

 す、すごい! 反応が早くなったんじゃない!?

『へへん! ワイだって伊達に毎日訓練しとるわけやないでー!』

 驚く私に自慢気に答えた。

「あれ? ジャガオ。俺の事分かんねーの?」

 魔物は身を乗り出して、ジャガーに話しかけた。


 へ? ジャガオ?

 何!? そのネーミングセンス……


 ジャガーは一瞬、キョトンとした顔をすると、ハッとして申し訳なさそうに頭を下げた。

「うん、うん。分かればいいんだよ。じゃあ、またねー!」

 魔物はひらりと手を振った。 

 私達が遠ざかるまで、ジャガーはずっと頭を下げたままだった。

「お知合いですか?」

「うん、まあねー」

 魔物はにこにこと笑っているだけで、詳しくは話してくれない。

 

 その後も、また何頭かジャガーが出て来たんだが……

「ジャガミ、俺のこと分かる?」

「ジャガスケ、俺が分かんないの?」

 魔物が声を掛けると、その度にジャガーが、ははー、と頭を下げる。

 水戸黄門みたいだ……

 この方をどなたと心得る!ってやってみたい。

 人の姿だと、パッと見、誰だか分からないのかな?


「あなたは、この森の主なんですか?」

「主っていうか、王っていうかねぇ」

 え? そっか、そうだよね……

 魔物がそこら中に、そう何人もいないよね。

 この森の中では、この魔物が一番強いってことなのかな?

 へえー……と、ちょっと感心した。

「ん? カッコイイ? 惚れちゃった?」

「あ、いえー……」

 それはないわー。

 確かに見た目はカッコイイ青年だ。

 背がすらりと高く、白シャツにピッタリとしたボトムを履いている、柔らかい印象のイケメンだ。しかし、オレンジ色の髪と、金色の瞳が目立つし、本性は巨大な鳥だしね。

 大体、この衣装も魔力で変化させてるんだよね。あの羽毛はどこいった? どういう仕組みだ?

 私はミントの背に揺られながら、後ろを振り返り、ジロジロと観察した。

「そんなに見られると照れちゃうなぁ」

 頬を赤らめながら嬉しそうだ。

 うむ。よくわからない魔物だ。



 町に帰って宿に入ると、今度は部屋割りで揉めた。

「ええー、いいじゃん。この子と同じ部屋がいいー」

「私はいいですよ。フィアリーズも一緒だし、大丈夫ですって!」

 魔物と私の相部屋を断固反対するクラウディオを説得する。

 よくわからない魔物だけど、悪い魔物ではなさそうだしね。

 他のみんなの部屋は相部屋で狭いし、私は一人部屋でちょうどいい。


「そんな事より、クラウディオさんはリーナさんに、私の説明をよろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げた。

 いつも、なんやかんやで迷惑かけてる気がする。

 丸投げで申し訳ない。

「くれぐれも変なことをするなよ」

 クラウディオは魔物を憎々しい目で睨むと、

「よく見張っていてくれ」

 フィアリーズに声を掛け、出かけていった。

 また、昨日の酒場かな?


「スイ、お前、今度は魔物まで連れて来ちゃったな」

 ロイが魔物から隠れるように、コソコソと粋華へ話しかけてきた。

 魔物がロイに気付き、ニコッと笑った。

「ひっ!」

 小さくなって、粋華の後ろに隠れる。

 他の騎士たちも、魔物から微妙に距離を取っている。


「あれー? 何故か嫌われちゃってるねー」

 ホレスがゴホッと咳払いすると、一歩前に出た。

「……悪気はないんだが、済まない。我々は魔物には慣れていないんだ。別に貴殿に悪意があるわけではないから、誤解しないでほしい」

「まぁ、別に君達に嫌われても、何とも思わないけどね。それより、俺達の部屋はどこ?」

 魔物はキョロキョロと宿内を見回す。

「ああ、2階ですよ」

 魔物はうきうきと階段を上がっていく。

「おい、スイ! お前、怖くないのかよ!? 魔物だぞ!?」

 歩き出そうとする私の袖を、ロイさんが引っ張った。

「え? いや、別に……」

 変な魔物だとは思うけど、怖いとは思わなかったな。

 アルフが真剣な顔で肩を掴んだ。

「気を付けろよ。いい奴そうに見えても、あいつは魔物だからな」

「何かあったら、すぐに助けを呼べよ。いつでも行けるように待機してるからな」

 ホレスさんも、深刻そうな顔色だ。

「……はい。分かりました」

 私が頷くと、みんなはそれぞれの部屋へと入って行った。

 

「うわー! 狭いねぇ」

 魔物は部屋に一歩入ると、驚いたように声を上げた。

「宿屋は普通、こんなもんですよ」

 私はよいしょと荷物を下ろす。

 ふと、私は思いつき、宿屋のキッチンへと向かう。

「病み上がりですし、私の手料理をご馳走しますよ!」


 宿屋の女将さんにお願いして、簡単な鍋物を作らせてもらった。フィアリーズ達と魔物用だから、けっこうな量が必要だからね。フィアリーズは味には全くうるさくないのは助かるところだ。

 後は、あの魔物が気に入ってくれるといいけど。

 食材はお金を払って分けていただいた。割高になるが仕方ない。


 出来上がった鍋を部屋へと運ぶ。

「お待たせー! マリアさん、器を並べてくれますか?」

『もちろんですわ』

 魔物は困った顔で鍋の中を見ている。

「俺、人間の作ったものは食べないんだけど」

『無理に食べんでもええで! ワイらが全部食べたるから!』

 私は器に料理をついでいく。

「まあまあ、一口だけでもいいので。あ、ミントにも持って行かなくちゃ!」

 ミントの分を器に取ると、フィアリーズは待ちきれないとばかりに、私の顔を見た。

「さあ、いいですよ」

「『『『いただきます!』』』」

 フィアリーズのみんなが器に飛びついた。ずっと寝ていたシェルも、ちゃっかりと出てきている。

 ちなみに、「いただきます」は私が教えた。フィアリーズ達は今では、私が言わなくてもやってくれる。

 魔物は恐る恐る器を持ち上げると、ゴクンと汁を飲んだ。

「!!」

 それからはスプーンを使って、黙ってもぐもぐと食べ出した。

 良かった。食べてくれた。

 私はホッとしながら、器を持った。

「マリアさん、ミントに持っていきますから、お代わりをついであげてくださいね」

『むぐ、むぐ、了解、ですわ』 

 マリアさんは、器に顔を突っ込みながら返事をした。



 ミントのいる馬小屋から戻ると、部屋は大惨事になっていた。

 物が散乱し、鍋の汁が部屋中に飛び散り、魔物とフィアリーズの乱闘が繰り広げられている。

「……こ、これは?」

 扉を開けたままで、粋華は茫然と固まった。

「どうした、スイ!」

 アルフレッド達が、彼らの部屋から飛び出してきた。

 彼らの騒ぎ声は、他の部屋にまで聞こえているようだ。

『すいません、スイ様。私は止めたんですけど……』

 マリアは粋華に駆け寄り、申し訳ないと俯いた。


 魔物は鍋を抱えて逃げながらも、マークとライディに向かって風魔法で攻撃を仕掛ける。

 マークも負けじと魔法で応戦している。

 ライディはそれを避けながら、鍋に飛び込む隙を伺っている。

『こいつが悪いんや! 独り占めしようとするから!』

「そうだよ! 仲良く分けなきゃダメだよ!」

「いいだろ!? 君達はいつでも食べられるんだから!」

 私は、頭痛を覚えて頭を押さえた。

「……マーク、ライディ、止めなさい」

 低い声で言うと、二人がビクッと止まった。

「……鍋を、鍋をこっちに渡しなさい」

 私は魔物をジッと睨んで手を出す。

「え、でも……」

 魔物は鍋を両手でしっかり抱えると、いやいやと首を横に振る。

「……早くっ!!」

 魔物はうっ、と目に涙をにじませながら、鍋を渋々といったようすで差し出した。

「これはミントにあげてきます。3人は部屋を掃除しといてください」


 うなだれる三人と呆れるマリア、我関せずのシェルを残し、粋華は廊下に出るとパタリと扉を閉めた。

「お騒がせして申し訳ありません」

 騎士のみんなに頭を下げる。

「いや……スイ、大変だな」

「まあ、頑張れよ……」

 フリッツとロイは、粋華に同情の目を向けた。

 アルフレッドとホレスは、励ますように粋華の肩をポンポンと叩くと、部屋へと戻っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ