4. 捜索二日目
結局、もやもやした気持ちのまま部屋に戻った私は、連日の移動の疲れもあったのですぐに眠りに落ちた。
「うーん、別に大した話はしてなかったよ?」
翌朝、マークがやって来ると、マリアは昨晩のクラウディオとリーナの様子を尋ねた。
昨夜マークは酒場で二人の様子をしばらく眺めていたが、いつもの様にすぐに眠くなり、さっさと寝床を求め、その場から去ってしまったらしい。
『もう! これだから殿方は! もっとお二人の様子を知りたかったですわ……』
マリアは悔しそうだ。
「まあまあ、覗きは良くない事だし、もう止めとこうよ」
私はマリアさんをたしなめる。
もちろん、気になる気持ちもわかるけどさ。
特に二人が昔、婚約者同士だったと知った今は、今後の展開が気になる所だ。
不満そうなマリアは、そんな私をジロっと睨んだ。
「スイ様ったら、いい子ちゃんぶって。本当は気になってるくせに」
コンコン!
ドアを叩く音が。
「おーい、スイ。起きてるかー? 朝飯だぞー!」
扉の向こうから、アルフレッドの声がした。
「はーい! ほらほらマリアさん、また今日も魔物の捜索ですよ! 朝ご飯を食べてきますね!」
私はさっさと逃げ出した。
朝食の席には、クラウディオさんも来ていた。お泊りではなかったようだ。
騎士のみんなも、もちろん私も、昨夜の事を聞く人は誰もいなかった。
いつもの様に食事を済ませると、今日の予定が告げられた。
「今日は町で食材の買い足しをしてから探索へ向かう。アルフレッドとロイ。頼むぞ」
今日は、二人が買い物係のようだ。
ということは、朝は少し時間があるのか……
私を含む残りのメンバーは部屋へと戻った。
「ねえ、マーク。この辺りをちょっと見てみたいんだけど、ついて来てくれない?」
「うん! もちろんいいよ!」
私は自分の姿を見下ろす。
うーん……
私が一人でこの騎士団の制服を着てると、ちょっと目立ちそうだ。
女の子の騎士なんて、どうやら私の他にはいないみたいだし。
荷物から普段着を引っ張り出すと、急いで着替える。知らない町で問題を起こしたくないからね。目立たないようにしよう。
「じゃ、行こうか!」
私はルンルンと町へ繰り出す。
この町は王都ほどではないが、ここに来るまでに寄った町の中では一番大きい。この町に入った時から、珍しいお店をチラホラと見かけ、とても気になっていた。
まだ開店したての店の中で、お店の人が忙しそうに商品を並べている。
王都にある店より、幾分古びた建物が多い。しかし港町なので、外国からの輸入品があるのか、変わった形の置物や珍しい色の食器など、見ているだけで楽しい。
私はキョロキョロとお店を見回しながら進んだ。
マークはいつもの様に肩に座り、楽しそうに話しかけてくる。
不審者になるから返事は出来ないけどね……
ドン!!
角を曲がった所で、勢いよく人にぶつかった。
「きゃ!」
「お、悪い!」
私が鼻を押さえながら見上げると、申し訳なさそうに眉を下げた男性と目が合った。
「え!? き、君……!」
男性は私を見ると、何故かとても驚いた様子だ。じっと見つめられ、そのまま動かない。
「あ、ごめんなさい。……あの、何ですか?」
あまりにジッと見られて居心地が悪くなった私は、後ろに後ずさった。
私もジロッと見つめ返す。
「あ……ごめんな。えっと、君があんまり可愛かったから、ついみとれちゃって、ごめんね」
「えっ!?」
男性はペロッと舌を出した。
その人は、よく見るとまだ若い、たぶん17歳くらいの可愛い感じの顔立ちをしていた。明るい茶色の髪色で、瞳の色は薄いグリーンだ。明るい印象だが、少し軽薄そうな感じもする。
「ねえ、この辺りでは見かけない顔だけど、この町の子?」
人懐っこい笑顔で話しかけてくる。
「え、いえ。昨日来たばっかりで……」
警戒心丸出しで答える私に、彼は笑い出した。
「そんなに緊張しないでよ。俺、怪しくないから。……そっか、来たばっかりか。うん、君は俺の救世主かもしれない!」
さらに後ずさって距離を取ろうとする私の肩をガッシリと掴んできた。
「は!?」
「実はさ……俺っていうか、俺のじいちゃんがすっごく困ってるんだ。寂れた所で店をやってんだけどさ。若い客がちっとも来ないって、お店の危機! 君みたいな可愛い子が手伝いに来てくれたら、きっとお店も繁盛間違いなしだ! 顔出すだけでもいいから、今から来てくれないかなぁ……」
潤んだ瞳で見つめてきた。
「いえ、今から用事がありますので」
ええ~~!と、彼は不満そうな声を漏らす。
「じゃあさ、用事が終わったら来てよ! 今から地図を描くからさ!」
そう言って紙とペンを出すと、目の前のお店のカウンターを勝手に借りて、地図を描き始めた。
「はい、これ!」
強引に私の手に握らせる。
「絶対来てよ! 君達が来てくれるまで、ずっと待ってるからね!」
笑顔で手を振ると、どこかへ走り去っていった。
「…………」
「スイ、行くの?」
マークは私の顔を覗き込んできた。
「……行かないよ」
私たちは宿の周りの探索に戻った。
その後は何事もなく一通り見終わると、部屋へと戻り、騎士団の制服に着替えた。
食堂で待っていると、リーナさんがやって来た。
リーナさんの案内で、今日は3か所回る予定だ。道中、魔物が出現する危険地帯もあるそうなので、気を引き締めて出発する。
1か所目、岩場の洞窟に到着した。
昨日と同じように、私はマークに頼んで探ってもらう。辺りにいるフィアリーズに話を聞いたマークは、首を横に振った。
「ここじゃないって」
2か所目、海岸沿いの砂浜を走る。海に面した所に、岩の割れ目が出来ていた。ここでもなかった。
3か所目に向かう前に、昼食を取ることになった。
「私に任せて! こう見えて料理は得意なのよ!」
リーナは可愛らしく微笑んで胸を張ると、腕を捲り、荷物をあさる。
「あ、私もお手伝いします!」
「そう? じゃあ、よろしくね!」
私は頷くと、雑用を引き受けた。いつものように野菜の皮をむく。
「ねえ、彼ってどう? 騎士団で上手くやれてる?」
下ごしらえをしながらも、リーナはなんだかソワソワしている。
彼って、もちろんクラウディオさんのことだよね?
「えっと……そうですね。私はまだ新参者ですが、この部隊のみんなとは仲がいいし、魔獣の討伐でも活躍して、周りから認められているみたいです」
「そう……、良かったわ」
嬉しそうに頬を緩めている。
「……それで、いい人とかはいるのかしら……?」
リーナさんは俯いて、ぼそぼそと小声で言った。
「え!?」
思わずリーナさんの顔を見てしまった私に、彼女は慌てて手を振った。
「いいの、いいの、何でもないわ! さあ、とっとと腹を空かせた奴らに食事を持って行ってあげましょ!」
真っ赤な顔で手を動かし始めた。
可愛い。
どうやらリーナさんは、まだクラウディオさんの事が好きみたいだ。
これは、上手く行くかもしれない。
彼女はステーキとスープを作った。味見をさせてもらったが、とても美味しい。
どんな調味料を使っているのかなぁ。後で教えてもらおう。
甘酸っぱい雰囲気を醸し出しながら、クラウディオさんに料理を差し出すリーナさん。
他の騎士たちはほったらかしにされてるので、彼らには私が渡していく。
ふふふ、料理上手な彼女が出来る日も近いよ。
私は生暖かい目でクラウディオさんを見つめた。




