3. 捜索初日の夜
町に戻って来た私達は、リーナさんおすすめの宿へ入った。
こじんまりとした佇まいで、1階は受付と食堂。2階が宿泊部屋になっていた。この世界の宿屋によくある作りだ。
中を見回すと、素朴で洒落っ気はないが、隅々まで掃除がされていて好感がもてる。
私は一人部屋がもらえた。他の騎士達は2人と3人に分かれて部屋に入った。
ミントは宿屋には入れてもらえなかったので、他の馬と一緒に馬小屋に泊まってもらう。大らかな性格の彼は、別に気にしてなさそうだ。
ミントだけいつも苦労してるなぁ。なんだか申し訳ない。
夕食の時間になり、私は1階へと降りた。
騎士の4人は、すでにテーブルについていて、食事が運ばれてくるのを今か今かと待ち構えている。
「あれ? クラウディオさんはいないんですか?」
キョロキョロと食堂内を見回す私に、騎士達は複雑な笑みを浮かべた。
「ああ、ちょっと他で食べてくるみたいだ」
ホレスが、言いにくそうに答えた。
「あ、そっか! リーナさんとですね! 久しぶりの再会っぽいから、積もる話もあるんでしょうね」
笑顔で言う私に、フリッツが驚いた顔をした。
「余裕だなぁ」
え、なにが?
どういう意味?
問いただそうとした私だったが、そこへ美味しそうな匂いが漂ってきた。女将さんが私たちのテーブルへと料理を運んでくるのが見える。
「あ! 来ましたね!」
もう私の目は、運ばれてきたお皿に釘付けだ。
「ここいらは海に面してるからね。魚はどれも新鮮だよ」
女将さんが次々と並べていく数々の魚料理を前に、私を含む騎士達一行はご機嫌に食事を始めた。
「大人の雰囲気……。僕はこういう所、苦手だなぁ……」
マークはクラウディオの後をつけて、町の中心部の、ムーディーな一角へと来ていた。
彼はリーナと連れ立って、趣のある酒場へ入って行く。
カウンターの端に並んで座った二人は、注文した酒を受け取ると、グラスを合わせる。
口を付けた二人は、早速、言葉を交わし始めた。
「冒険者を始めてずいぶん経つけど、こんな経験は初めてよ。あなたの事もあるけど、あの女の子の事も」
リーナは首を傾け、横目でクラウディオの顔を伺う。
「あいつの事は、他言無用で頼む。詳しくは言えないんだが、特殊な能力があってな。騎士団で保護している」
クラウディオはグラスを揺らしながら、それを見つめている。
「あなたが目を見て話さない時は嘘をついているか、何か隠し事がある時」
「カタリーナ!?」
ギクッと肩を震わせてリーナを見たクラウディオを、リーナはくすくすと笑う。
「ごめんなさい。もう聞かないわ。でも、私はリーナ。昔の名前はもう捨てたのよ」
「何があったんだ?」
「別に何も。ただ、大人しく屋敷に引きこもってるのが耐えられなかっただけ。……心配しないで、もちろん王もご存じよ」
リーナはそう言うと、グラスの酒を一気に呷る。
「ふう。それにしても……ふふ、嬉しいわ! こうしてまたあなたに会えるなんて。ねえ、運命を感じちゃわない?」
「運命か……。以前は考えたこともなかったが、確かにそういうものも、あるのかもしれない」
クラウディオはグラスの中身を一口飲むと、何かを思い出すように遠くを見つめた。
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魚料理を満喫した私たちは、暫しそのまま休憩していた。
はあ……満腹、満腹!
「カタリーナ……カタリーナ……」
隣でブツブツと呟くホレスを、フリッツは不審な目で見た。
「さっきから、何ブツブツ言ってるんですか? 気持ち悪いんですけど」
「いやあ、魔導士様がさ、リーナさんを見た時、確かそう言ってたと思うんだが、どっかで聞いたことある名前だなぁと思ってな。あー思い出せん!」
ホレスは、頭をガシガシと掻いた。
「へえ、お知合いですか?」
ロイも興味あり気に尋ねる。
「いや、会ったことはないんだが……確かにどこかで……ん? あ、そうだ!!」
ホレスは急に大声を出した。
「な、なんですか!?」
目を丸くする私達に、ホレスはご機嫌な様子で膝を叩く。
「思い出したよ! 彼女は魔導士様の許嫁だ!……いや、許嫁だった、だ。」
「え!? そうなんですか!?」
またまた驚く私達。
ホレスは声を潜め、私達に顔を近づける。
「確かな、彼女の父親があのビンデバルト公爵だ」
「え!? あの、不正が発覚して捕らえられた!?」
バシン!!
声を上げたロイの頭をホレスとフリッツが張り倒す。
「馬鹿! 声が大きい!!」
ロイは頭を抱えた。涙目になっている。
「彼女はあの事件の後、爵位を失ったと聞いていたが……」
「平民になって冒険者をやってるってわけか。貴族のご令嬢から冒険者って、すごいな」
フリッツが感心したように顎を撫でた。
クラウディオさんが婚約していたなんて初耳だ。
犯罪者の娘っていうと、やっぱり上手くいかなかったのかなぁ。
好き同士だったなら、なんだか可哀そう……
「今からでも、上手くいかないんでしょうか。まだお互い好きかもしれないのに……」
そう言った私の顔を、みんながバッと一斉に見た。
え!? なに!?
びっくりしてみんなの顔をみつめ返す。
「これって、もしかしたらスイは知らないんじゃ……」
「なんですか!?」
「う~ん、俺たちの口からは何も言えん」
騎士のみんなは席を立ち、気まずそうに部屋へと帰っていく。
「え? なんで!?」
不安になって声を掛けると、振り向いたアルフレッドが申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん。魔導士様から直接聞いた方がいいと思うんだ」
私の頭をポンポンと叩くと行ってしまった。
なんなんだよー!!




