6. 粘土ロボ
宴はまだまだ終わらない。
マークはもう、どこかに帰ってしまった。
おやすみの時間だそうだ。
マークがいなければ、言葉が通じなくなってしまう。
困っていたら、私に魔法をかけていってくれた。
これで、しばらくの間(1~2時間くらい?)は言葉が通じるらしい。
ほっ、良かった!
「聖女様、この村で作ったお酒でございます。どうぞ飲んでみてください」
村人に勧められたお酒は辛口でアルコールが強めだったが、私はけっこういける口なので、料理をつまみながらチビチビやっていた。
お代わりをもらおうとしたら、いつの間にか隣にきていた魔導士クラウディオが私のカップを奪った。
んん!?
ちょっと……!
文句を言おうとしたら、ジロッと睨まれた。
うっ
私は、目の前にあった料理を仕方なく食べる。
もう、何か言ってよ!
無言怖い!
もう飲むなってことだろうけど、過保護な親か!?
シラケてしまった私は、辺りをキョロキョロ見回した。
宴の端のほうで、子供が集まって何やらしている。
もうお腹が一杯な私は、席を立って見に行った。
「何してるの?」
私は怖がらせないよう、ニッコリと話しかけた。
「あっ、聖女様……!」
子供たちは初めは緊張していたが、だんだん打ち解けてきて、お話してくれるようになった。
「こうやって、粘土でいろいろ作ってるんだよ」
「うらの谷で粘土がいっぱいとれるの!」
ほうほう。
子供たちは、魔獣や人間や家や、いろいろなものを作って遊んでいた。
鹿や犬や猪のような動物の頭には、どれも見事な角が生えていた。
この世界の動物……魔獣には角がデフォルトらしい。
「やだー! やめてよー!」
嫌がる女の子の声がした。
「俺の作った最強魔獣の餌食になれー!」
ハハハと男の子の笑い声に、女の子がしくしくと泣き出した。
「ちょっと! 何してるの?」
私は咎めるように男の子を見た。
「何だよ! こんな弱っちいのを作るのが悪いんだ! 俺の作ったスーパーデンジャラス魔獣はすべてのものを破壊しつくして、世界の神になるのだー!!」
男の子は自身の作った大きな粘土の魔獣を、ご機嫌に振り回す。
あれ? 何か痛い中二っぽいセリフが……
小さな女の子は涙をポロポロ流しながら、手元の潰れた粘土を見て呟く。
「この子は妹なの……今度産まれてくる私の妹を作ったのに……」
よし!と私は、まだ手付かずの粘土の塊をつかんだ。
女の子の顔を覗き込み、まかせて!と胸を張る。
「何を作るの?」
「えっとー……まず体はとっても固い超合金で出来てるの。それで、カッコイイメカのボディーで、手は外れて、ロケットパンチ! 肘からはミサイルが飛び出して、相手を爆破! 足の裏からジェット噴射でマッハの速度で飛び回る!」
女の子は泣き止んで私の手元をジッと見ていた。
おもちゃ作りは燃える!
就職先の第一希望は、玩具メーカーだった。
昔から手先が器用だった私は、要らなくなった箱やトイレットペーパーの芯など、廃材を使って、いろいろなものを作るのが大好きだった。
ゴミになるはずのものが、家や車や、動物、恐竜になっていく。両親は作ったものを見て、大げさに喜んでくれた。それが、とても嬉しかったんだ。
玩具会社に就職して、いろいろなおもちゃを企画したい!
夢に向かって就活を頑張った。
でも、全敗だった。
その後は職種にこだわっていられなかったけど……
「出来た! 弱きを助け、悪を挫く、これぞ正義のヒーロー! 弱い者いじめする悪い魔獣をやっつけちゃうぞ!」
私は出来たばかりの粘土のロボを掲げた。
男の子は胡散臭い目で睨む。
「何だそんなもん! 俺のスーパーデンジャラス魔獣の餌食になれー!」
くそガ……生意気な男の子は私の作ったロボに魔獣をぶつけてきた。
勢いよくぶつかり合った粘土はぐっちゃり潰れた。
男の子の魔獣の粘土だけが……!!
ん?……なんで?
私は自分の手のロボを、ジーッと見た。
凹んだ所は全くない。
「うわーん! 俺のスーパーデンジャラス魔獣がぁ~」
男の子は半べそをかいた。
「す、すごーい!!」
女の子は目を輝かせてロボを見ている。
「さすが正義のヒーローだね!!」
私は首を傾げながら粘土ロボを女の子に渡した。
その後、宴が終わり、その晩は村長のご厚意により、ふかふかのベットで眠ることが出来た。
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次の日の朝……
女の子の叫び声が村に響き渡った。