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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
53/127

53. 特別任務


「いえ……あれは、たまたまっていうか、はっきり言って、あまり自信がないんですが……」

 そんな国の一大事を任せられるような人材じゃないと思うよ、私は。


 しかし、ベットは自信満々に胸を張る。

「大丈夫よ! スイさんなら、きっと犯人を突き止められるわ!」


 過剰な期待を受けた私は、ひきつった笑みを返す。


 私たちが王の執務室から出ると、ヨドーク将軍が待ち構えていた。

 部屋の外でずっと待っていたのかな?


「どうだった、ゴッツ」

 ヨドーク将軍は私達をチラッと見ただけで、何の挨拶もなく、ゴッツ隊長に声を掛けた。

「はい。予想通りの指令でした」

 ゴッツは頷いた。

 それを満足そうに頷き返したヨドーク将軍は、私達を鼻で笑った。


「一番最初に犯人を突き止めるのは私達だ。お前たちは、せいぜい邪魔をしないように気を付けることだな」

 彼は尊大な態度を崩すことなく、ゴッツを従えて去っていった。

 王様からは、みんなで協力するように言われたのに、全くそんな気はなさそうだ。


「ま、彼らの検討を祈りましょう」

 バシリーは目を細め彼らを見送ると、ため息をつく。

「王は心配性ですね。こんな調査は私一人で充分だというのに。あなた達は、何もしなくても大丈夫ですよ。では、失礼します」

 そう言って、彼も去っていく。


 え?……いいのか、これで?

 不安になって、クラウディオさんを見上げた。


「心配するな。お前はランピック国の奴らに近づく必要はない」

 は!?

「もしかしたら、犯人は人間じゃないかもしれん。人を食ったり、石にしたりなど、魔物の仕業とも考えられる。近づくのは危険だ。お前は何もするな」


「え!? でも……」

 抗議しようとする私を無視して、彼もまた行ってしまった。


 ……なに、これ?

 みんなして私を役立たず認定かい?

 もやもやしたまま気分のまま、自室に戻った。


「……と、いうわけなのよ」

 私は、フィアリーズ達に事のあらましを伝えた。


「うん、あいつが言うように、魔物の仕業っぽいね」


『魔物は姿が変えられます。もしかしたら、どなたかに成りすましているのかもしれませんわ』


「マークは魔物かどうか、見て分からないの?」

 前にコーリンさんを見て、魔物だって見抜いてたよね?


「上手く隠してると、分からないんだ。この前の狐の魔物は、隠す気はなかったみたいだよ」


 へえ、そうなんだ……

 じゃあ、私にはもっと分からないね。

 やっぱ、役立たずで正解か……

 

『なんやスイ! ワイらが協力すれば大丈夫や! きっと、どっかで尻尾を出しよるで!』

 ライディはそう言って、励ましてくれた。


 そうだよね!

 私を馬鹿にしてる人たちを見返したいな。

 頑張ろ!



 そして翌日から、またいつものように訓練が始まった。

「あれ? レオンも一緒に訓練じゃないんですか?」

 訓練場にレオンの姿は見えない。


「スイ、お前、今度は子供を拾ってきたんだってな」

「フィアリーズだけじゃなく、子供まで仲間にしてるのかよ!」

 騎士のみんなが陽気に囃し立ててくる。

 

「あいつは、まだ子供だからな。騎士団に正式にはまだ入れん。今は、見習い扱いで、勉学に取り組んでいる」

 クラウディオさんが教えてくれた。


 そうなんだ……

 一緒に訓練は出来ないんだね。

 少しがっかり。


「じゃあ、なかなか会えないですね……」

「そうでもないぞ。俺はこの後、魔法を教えに行くしな」

「え!? そうなんですか? 私もついて行っていいですか!?」

「ん、そうだな……。まあ、いいだろう」

「ありがとうございます!」

 クラウディオさんは食い気味の私に驚きつつ、了承してくれた。


 ふふ、良かった。

 やっぱり様子が気になるんだよね。

 仲良くなりたいし。


 嬉しそうな私を見て、マリアさんが、

『……ショタ?』

 怪しい言葉をつぶやいていた。


 訓練が終わった私は、クラウディオさんの後ろについて、レオンの待つ講義室へ向かう。

 講義室には机と椅子が置かれ、前には教壇がある。20~30人ほどが入れる大きさで、棚には訳の分からない本がたくさん並べられている。

 その中に、レオンはポツンと一人で座っていた。

 彼の目の前には開かれた本とノートがあった。


「分からないところはあったか?」

 クラウディオの質問に、レオンはノートを開くと、

「分からない単語はノートに書いておきました」

 そう言ってノートを見せる。

「よし、では順番に説明しよう」

 クラウディオはノートを見ながら説明を続け、レオンはそれをノートに書きとる。


 その様子を茫然と見ていた私の背中に、冷たい汗が流れた。

 ガクガクと膝が震える。

 ……これはちょっと、まずいんじゃない!?


 レオンは読み書きはちゃんと出来るようだ。

 私はといえば、一応これでも3流とはいえ、大学生だ。なのに、この世界では小さな男の子にも負けちゃってる現実!


 私は手近にあった本を恐る恐る一冊取ると、中を見てみる。

 訳の分からない文字がびっしりと並んでいる。

 当然、全く読めない。

 これって……レオンよりも私の方が勉強が必要なんじゃ……?

 この前買った絵本もノートも、まだ全然使っていない。


 勉強が終わった二人は、なぜか落ち込んでいる私に不審な目を向ける。

「大丈夫か? 具合でも悪いのか?」

 私の顔を覗き込むクラウディオさんに恨みがましい目を向けた。

「いえ……あの、部屋に戻ります」

 送っていくと言い張る彼をなんとか断り、私はとぼとぼと部屋へと戻る。

 

 講義室がある棟を出て、客室棟へと繋がる通路を通っていると、中庭のベンチに見慣れた女性が座っているのが見えた。


 あれって、王女様?


 しかし、その姿はいつもの元気いっぱいの彼女とは様子が違っていた。

 私は彼女に近づくと、声を掛けた。


「エミーリア様、何かあったんですか?」

 王女は、ハッとして顔を上げ、私に気付くと勢いよく立ち上がり私を抱きしめた。


「ああ、スイ! 私はどうしたらいいの!?」

 王女は泣きながら私に縋りつく。

 え!? 何!?

 私は驚きながらも、彼女の背を撫でながらベンチに座らせる。


「一体、どうしたんですか?」

 王女は少し落ち着いた様子で、しかし下を向いたまま、私の手を握った。


「私、スイに謝らなければいけませんわ」


 彼女は、はぁーっと息を吐きだすと、申し訳なさそうに続けた。

「私、本当はクラウディオ様の事、好きでもなんでもないの」


 王女は、クラウディオにアタックするようになったいきさつや、もうすぐラバドル王と、正式に婚約する事を教えてくれた。


「そうだったんですか……。なーんかちょっとおかしいなって思ってたんですよね。これで納得出来ました」


「ごめんなさいね。スイまで巻き込んでしまって……」


「それより、ラバドル王との婚約の話は驚きました」


 今、まさに問題の人だよね……

 王女の悩みがはっきりと分かった。

 そりゃあ、そんな国に嫁ぎたくないよね……


 長いまつ毛を濡らし、すっかり憔悴した王女は、不安そうに唇を噛んでいる。

 そんな彼女を見ていたら、


「今度の訪問で、ハッキリさせましょう! 不安な気持ちのまま、嫁がせるなんてさせません!」


 思わず宣言してしまった。



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