53. 特別任務
「いえ……あれは、たまたまっていうか、はっきり言って、あまり自信がないんですが……」
そんな国の一大事を任せられるような人材じゃないと思うよ、私は。
しかし、ベットは自信満々に胸を張る。
「大丈夫よ! スイさんなら、きっと犯人を突き止められるわ!」
過剰な期待を受けた私は、ひきつった笑みを返す。
私たちが王の執務室から出ると、ヨドーク将軍が待ち構えていた。
部屋の外でずっと待っていたのかな?
「どうだった、ゴッツ」
ヨドーク将軍は私達をチラッと見ただけで、何の挨拶もなく、ゴッツ隊長に声を掛けた。
「はい。予想通りの指令でした」
ゴッツは頷いた。
それを満足そうに頷き返したヨドーク将軍は、私達を鼻で笑った。
「一番最初に犯人を突き止めるのは私達だ。お前たちは、せいぜい邪魔をしないように気を付けることだな」
彼は尊大な態度を崩すことなく、ゴッツを従えて去っていった。
王様からは、みんなで協力するように言われたのに、全くそんな気はなさそうだ。
「ま、彼らの検討を祈りましょう」
バシリーは目を細め彼らを見送ると、ため息をつく。
「王は心配性ですね。こんな調査は私一人で充分だというのに。あなた達は、何もしなくても大丈夫ですよ。では、失礼します」
そう言って、彼も去っていく。
え?……いいのか、これで?
不安になって、クラウディオさんを見上げた。
「心配するな。お前はランピック国の奴らに近づく必要はない」
は!?
「もしかしたら、犯人は人間じゃないかもしれん。人を食ったり、石にしたりなど、魔物の仕業とも考えられる。近づくのは危険だ。お前は何もするな」
「え!? でも……」
抗議しようとする私を無視して、彼もまた行ってしまった。
……なに、これ?
みんなして私を役立たず認定かい?
もやもやしたまま気分のまま、自室に戻った。
「……と、いうわけなのよ」
私は、フィアリーズ達に事のあらましを伝えた。
「うん、あいつが言うように、魔物の仕業っぽいね」
『魔物は姿が変えられます。もしかしたら、どなたかに成りすましているのかもしれませんわ』
「マークは魔物かどうか、見て分からないの?」
前にコーリンさんを見て、魔物だって見抜いてたよね?
「上手く隠してると、分からないんだ。この前の狐の魔物は、隠す気はなかったみたいだよ」
へえ、そうなんだ……
じゃあ、私にはもっと分からないね。
やっぱ、役立たずで正解か……
『なんやスイ! ワイらが協力すれば大丈夫や! きっと、どっかで尻尾を出しよるで!』
ライディはそう言って、励ましてくれた。
そうだよね!
私を馬鹿にしてる人たちを見返したいな。
頑張ろ!
そして翌日から、またいつものように訓練が始まった。
「あれ? レオンも一緒に訓練じゃないんですか?」
訓練場にレオンの姿は見えない。
「スイ、お前、今度は子供を拾ってきたんだってな」
「フィアリーズだけじゃなく、子供まで仲間にしてるのかよ!」
騎士のみんなが陽気に囃し立ててくる。
「あいつは、まだ子供だからな。騎士団に正式にはまだ入れん。今は、見習い扱いで、勉学に取り組んでいる」
クラウディオさんが教えてくれた。
そうなんだ……
一緒に訓練は出来ないんだね。
少しがっかり。
「じゃあ、なかなか会えないですね……」
「そうでもないぞ。俺はこの後、魔法を教えに行くしな」
「え!? そうなんですか? 私もついて行っていいですか!?」
「ん、そうだな……。まあ、いいだろう」
「ありがとうございます!」
クラウディオさんは食い気味の私に驚きつつ、了承してくれた。
ふふ、良かった。
やっぱり様子が気になるんだよね。
仲良くなりたいし。
嬉しそうな私を見て、マリアさんが、
『……ショタ?』
怪しい言葉をつぶやいていた。
訓練が終わった私は、クラウディオさんの後ろについて、レオンの待つ講義室へ向かう。
講義室には机と椅子が置かれ、前には教壇がある。20~30人ほどが入れる大きさで、棚には訳の分からない本がたくさん並べられている。
その中に、レオンはポツンと一人で座っていた。
彼の目の前には開かれた本とノートがあった。
「分からないところはあったか?」
クラウディオの質問に、レオンはノートを開くと、
「分からない単語はノートに書いておきました」
そう言ってノートを見せる。
「よし、では順番に説明しよう」
クラウディオはノートを見ながら説明を続け、レオンはそれをノートに書きとる。
その様子を茫然と見ていた私の背中に、冷たい汗が流れた。
ガクガクと膝が震える。
……これはちょっと、まずいんじゃない!?
レオンは読み書きはちゃんと出来るようだ。
私はといえば、一応これでも3流とはいえ、大学生だ。なのに、この世界では小さな男の子にも負けちゃってる現実!
私は手近にあった本を恐る恐る一冊取ると、中を見てみる。
訳の分からない文字がびっしりと並んでいる。
当然、全く読めない。
これって……レオンよりも私の方が勉強が必要なんじゃ……?
この前買った絵本もノートも、まだ全然使っていない。
勉強が終わった二人は、なぜか落ち込んでいる私に不審な目を向ける。
「大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
私の顔を覗き込むクラウディオさんに恨みがましい目を向けた。
「いえ……あの、部屋に戻ります」
送っていくと言い張る彼をなんとか断り、私はとぼとぼと部屋へと戻る。
講義室がある棟を出て、客室棟へと繋がる通路を通っていると、中庭のベンチに見慣れた女性が座っているのが見えた。
あれって、王女様?
しかし、その姿はいつもの元気いっぱいの彼女とは様子が違っていた。
私は彼女に近づくと、声を掛けた。
「エミーリア様、何かあったんですか?」
王女は、ハッとして顔を上げ、私に気付くと勢いよく立ち上がり私を抱きしめた。
「ああ、スイ! 私はどうしたらいいの!?」
王女は泣きながら私に縋りつく。
え!? 何!?
私は驚きながらも、彼女の背を撫でながらベンチに座らせる。
「一体、どうしたんですか?」
王女は少し落ち着いた様子で、しかし下を向いたまま、私の手を握った。
「私、スイに謝らなければいけませんわ」
彼女は、はぁーっと息を吐きだすと、申し訳なさそうに続けた。
「私、本当はクラウディオ様の事、好きでもなんでもないの」
王女は、クラウディオにアタックするようになったいきさつや、もうすぐラバドル王と、正式に婚約する事を教えてくれた。
「そうだったんですか……。なーんかちょっとおかしいなって思ってたんですよね。これで納得出来ました」
「ごめんなさいね。スイまで巻き込んでしまって……」
「それより、ラバドル王との婚約の話は驚きました」
今、まさに問題の人だよね……
王女の悩みがはっきりと分かった。
そりゃあ、そんな国に嫁ぎたくないよね……
長いまつ毛を濡らし、すっかり憔悴した王女は、不安そうに唇を噛んでいる。
そんな彼女を見ていたら、
「今度の訪問で、ハッキリさせましょう! 不安な気持ちのまま、嫁がせるなんてさせません!」
思わず宣言してしまった。




