52. マークの過去
休日3日目の午後。
私は自室で、お客さんが来るのを待っていた。
ノックの音に返事をすると、昨日知り合ったばかりの少年レオンと、フィアリーズのソイルが入ってきた。
「待ってたよ! 来てくれてありがとう。無事に騎士団に入れそうだってね。クラウディオさんに聞いたよ」
レオンに椅子を勧めると、おずおずと座ってくれた。
昨日とは違って、真新しい清潔な衣服を着ている。お風呂にも入ったのか、明るい茶色の髪が昨日よりもふわふわと柔らかそうだ。整った容姿が一見女の子のようにも見えて可愛らしい。
昨日、あれから城に帰ると、レオンはクラウディオさんに連れられていった。
夜には、わざわざクラウディオさん自ら、無事にレオンが騎士団に入れそうだと教えに来てくれた。私が誘ってしまった手前、全部丸投げしてしまって申し訳ない気持ちだったが、彼に任せて良かった。
急にお城に入れられて、レオンは今、とっても忙しいだろうと思う。そんな中、部屋に来てもらうのは申し訳なかったが、聞きたいことがいろいろあったので、来てくれてほんと嬉しい。
「用って何?」
レオンは、まだ警戒しているようで、身を固くしている。
「うん。町の事や、そこに住んでる人の事を聞きたいんだ。お父さんとお母さんが亡くなった後、どうしてたのか教えて?」
それからソイルとマークを交互に見た。
「それとソイルには、昔あった事を教えて欲しいんだ」
レオンに、町での生活を聞いた。
ここ王都は、この国で一番栄えていて、人々の暮らしは豊かだ。
でも、レオンのような子供は、彼が知っているだけでも何人かいるらしい。彼はたまたま魔力が高くて、それを偶然、私達が見つけたから良かったが、他の子ども達は今もレオンのように盗みをしたり、ひどい環境で働かされているという。
ソイルにも話を聞く。
「俺たちは、そんな子供たちにいろいろ手助けをしてきた。そしてマークも、かつてはそんなフィアリーズの一人だった」
レオンがマークを見ると、マークは目を伏せた。
「昔、何があったのかは、僕から言うよ」
マークは私の手に小さな両手を重ねた。
「僕はみんなより魔力が強いからね。親を亡くした、たくさんの子供たちの面倒を見ていたんだ。彼らは僕のことは見えてないけど、僕が勝手に手助けをしてたんだよ。
そんな彼らの中で、特に気にかけていた女の子がいたんだ。彼女は目が悪くてね。ほんと、危なっかしいんだ。でも、優しくて働き者で、他の子達が集めたお花を繁華街に出ては、売っていたんだ。
ひどい奴らもいっぱいいたけど、いつも僕が守っていたから大丈夫だったんだ。
けど……その日は、面倒みてる子の一人が熱を出しててね。僕は得意じゃない治療魔法をかけていたんだ。彼女はいつものように出かけて行った。そしたら、フィアリーズが教えに来てくれたんだ。その子が大変だって」
マークは俯いて震えている。
私は、マークの小さな両手をもう一方の手で包んだ。
「僕が駆け付けた時には、もう彼女は死んでいた。悪い奴が、嫌がらせで彼女を蹴ったんだって。その時、落ちた花を拾おうと道にしゃがんで馬車に轢かれたんだ」
マークの目には、涙が滲んでいた。
「ごめんね、ソイル。……僕は悔しくて、腹が立って、我慢出来なくなって……。勝手にどんどん魔力が溢れ出しきて、自分でも訳が分からなくなって……」
マークは苦しそうに頭を振った。
「僕が気付いた時、その広場には、地面に倒れている人とフィアリーズ、あとは、壊れた建物しかなかった」
「その後はな、ベット様が治療魔法が使えるフィアリーズを呼んで、怪我人を回復させたり、広場の建物を修復したり、大騒ぎだった。ま、そのおかげで、奇跡的に一人も死者が出なかったのが、不幸中の幸いだがな」
ソイルはマークを睨みつけると、語気を強める。
「こいつは、呼びに来てくれたフィアリーズや、知らせを聞いて駆けつけた孤児たちにまで大怪我をさせたんだ。その女の子のように、他の子ども達までも殺すところだった!
……ベット様が許しても、俺はまだ許してないからな」
そう言い残して、ソイルは部屋から出て行った。
ソイル君の恨みは深そうだ。
彼が怒るのも当然だと思うけど……
わざとじゃないし、マークはとても反省している。
「許してくれるといいね」
私は項垂れているマークの背中を、そっと撫でた。
私はレオン君に向き直ると、頭を下げた。
「レオン君、忙しい中来てくれてありがとうね。とっても参考になったよ」
まだ、いろいろとやる事があるだろうから、あんまり引き留めちゃ悪いよね。
もうちょっと打ち解けて、仲良くなれるといいんだけど……
今日のところはこの辺にしとこう。
彼らの話で、この世界の事情が少しだけ分かってきた。
いろいろと問題があるみたいだね。
私に出来ることを考えて、これから少しずつ良くなるように、変えていけたらいいなぁと思った。
レオンは去り際、チラリとこちらを振り返る。
「……騎士団に、誘ってくれて、ありがとな」
顔を背け、耳を赤くしながら、ボソッと言うと、部屋を出て行った。
「……ツンデレショタだ」
思わず口に出してしまった言葉に、マリアさんが反応する。
『あら? それは、どういう意味ですの? なんだか隠微な響き……』
おうっ。
上手く翻訳されなくて良かった(汗
マリアさんは私を疑わし気に見つめて、
『彼もありかしら……?』
気になる言葉をつぶやいた。
そこへ、コンコン!と、ドアをノックする音が、
「はい!?」
マリアさんが変な事を言うから、声が裏返ってしまった!
私のおかしな返事にドアを開けたのは、見慣れない騎士だ。
「スイ様! 王がお呼びです。王の執務室までお越しください!」
え……
今度は何!?
王の執務室に入ると、そこにはクラウディオさんとバシリーさん、そして、前に第七訓練場に押し掛けてきた騎士団隊長のゴッツさんがいた。
王は正面の豪華な椅子に、ゆったりと腰かけている。
「全員揃ったな。お前たちに特別任務だ」
特別任務!?
他の面々も内容を知らないようで、緊張の面持ちで王を伺う。
「12日後に、隣国ランピックより、ラバドル王が我が国にやってくる。滞在は1週間だ。……ところで、お前たちは、ラバドル王の恐ろしい噂を知っているか?」
クロス王の言葉に私以外の3人は顔を歪める。
え?……なに?
恐ろしい噂って、なんか怖い……
クラウディオは、ふんっと鼻を鳴らすと呆れた顔をした。
「あのバカバカしい噂か。王が家臣を食らうとか、睨みつけて石にするとか。どうせあの若い王が、臣下から舐められない様、嘘の噂を流したんだろう」
「ああ、私も最初はそう思っていたんだが」
王は面白そうに、ふふふと含んだ笑いを浮かべる。
「調べてみた結果、本当にそうやって殺された者たちがいるようだ」
「何!?」
「噂は本当だと言うのですか!?」
ゴッツ隊長も驚いている。
「実は、ラバドル王から相談を受けてな。まあ、私がそれとなく誘導したんだが……。王からの手紙では、彼はその犯行に、心当たりがないと言っている。いかにも王の仕業のように見せかけてあったらしいがな。犯人が分からず、彼も苦心しているようだ」
王は私達を見回してニヤリと笑みを浮かべる。
「お前たちで犯人を特定してもらいたい」
え!?
……って、私も!?
「王は、犯人が彼の側近の中の誰かだというのは分かっているそうだ。そこで、ここに、その容疑者たちもみんな連れてくる。彼の側近は3人だ。だが、王が全くの無実かどうかは分からない。お前たちは協力して、王を含む、彼らの中から、犯人を特定するのだ。
だが、王に近しい者達だからな。無礼がないように頼むぞ」
「「は!」」
バシリーさんとゴッツ隊長は頭を下げる。
「王よ。なぜ粋華に特別任務を?」
クラウディオが質問した。
そう、それ!
私も今、聞こうと思ってた!
「はーい! 私よ!」
ベットがどこからか現れて、手を上げる。
「昨日、スイさんが素晴らしい洞察力で、少年が魔力持ちだって見抜いたでしょ? だから、私からクロスに推薦したのよ!」
満面の笑みを向けられた。




