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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
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5. 宴


 あっ! 言葉が分かる!


 でもそのことより、さっきの男の言ったことが気になった。

 は? 魔物って私のこと?

 何か勘違いされちゃってるの!?


 昨日、マークが教えてくれたのは、私を発見した村人が王都に知らせに行ってて、王都からの使者が確かめに来るって話だったよね?

 私は隣に浮かぶマークを見た。


 黒髪の男は、持っている杖の先を私に向けた。


「……確かに、奇妙な魔力を纏っているな。何か申し開きがあるか。ないなら大人しく成敗されろ!」


 冷たく冷静に私に言い渡した。

 マークは、ハァとため息をつく。


「王都からの使者も大したことないね。魔物と異世界人の区別もつかないのかぁ」


「私は魔物ではありません。人間です!」


 私がしゃべったので、村人は驚いた顔をした。


「では、その魔力は、どう説明する?」


 男がそう言い放つ刹那、杖の先から強い風が私に向かって吹いた。

 それは、ほんの一瞬の出来事だった。


「いっ……痛い!」

 

 風を受けた私は、鋭い痛みを感じた。

 両腕と足が数か所切れ、じんわりと血が滲む。


「い……いきなり、何するんですかー!!」


 私は痛みと恐怖で思わず叫んだ。


「わ……私は魔物じゃありません! 異世界から来た人間ですーっ!!」


 この人、怖い怖い怖い!!

 申し開きもないよ!?

 いきなり殺る気だよ!?


「スイ、大丈夫。僕に任せて! いざとなったら、ここにいる奴らを全員やっつけてあげるからね! ……魔力全開!!!」


 いつもニコニコしてるマークが、すっごい怖い顔してる。

 私の為に怒ってくれてるのかな?……と、少し嬉しい。


 男と騎士たちは、私をジッと警戒していた。

 その時、マークの体がキラキラと輝きだした。

 あー……でも、他の人たちには見えないんだよね……?

 大丈夫かな?

 私が心配して見守っていると、マークの声が辺りに響いた。

 

「愚かな人間どもよ! 我はフィアリーズのマーク・ベル! アソシエ地方の王である! この娘は我の加護のもとにある! 傷つけるものは我の敵とみなすぞ!」


 村人や騎士たちは、慌てて辺りをキョロキョロと見回す。

 黒髪の男だけは、マークをジッと凝視していた。



 ----------



「聖女様! 本当に申し訳ございませんでした。どうかどうか、お許しください」


 何度目かの謝罪か分からないが、白髪の立派な白い顎髭(あごひげ)を生やした老人が私に深々と頭を下げた。

 この村の村長らしい。


「生きているうちにフィアリーズ様のお声を聞くことが出来るとは。信じられない思いでございます」


 涙ながらに語った村人談だ。


 この世界の人々にとってフィアリーズは本当に神様みたいな存在で、ほとんどの人が姿や声が見えなくても、確かにいて、守ってくれてるんだって。

 昔、フィアリーズを怒らせてしまった国が滅びてしまったことがあるらしい。だから、有難がれながら恐れられてもいる。

 フィアリーズの加護を持つ人間は、現在、他にもいるにはいるらしいが、その人数はとても少なく、彼らは"聖人"や“聖女”と呼ばれるらしい。

 そのため、私は村人たちから、“聖女様”と呼ばれてしまっている。


 そして、今は宴の真っ最中だ。

 目の前には肉や魚の料理や、取れたての新鮮な野菜の料理がたくさん並べられている。村人たちは飲めや歌えの大騒ぎを繰り広げていた。

 聖女が現れ、フィアリーズのお声が聴けたとなったら、祝わずにはいられないそうだ。


 それから、私への謝罪の宴でもある。

 怪我をした手足は、村の女性たちが綺麗に洗って、殺菌と化膿を防ぐ効果がある葉を当てて、包帯でグルグル巻かれた。小さな切り傷だったので、そのうち治るだろう。


 黒髪の男性からは、すぐに謝罪された。冷たく強張った顔をしていたが、真摯に頭を下げる様子から、申し訳ない気持ちが伝わってきた。

 本当はまだ怒ってたし、すぐに許したくなかったが、この人を怒らせるのが何となく怖かったので、許した。


 私はビビりだ。

 なるべく敵は作りたくない!

 うん、仕方ない!!


 それにしても、事件があったのが夕方。そのすぐ後に宴って。

 準備してたわけじゃないのに、よく用意できたなぁと思って、村人に話を聞いてみた。


「この村は魔獣の多く住む森と川に囲まれ、獲物には恵まれているんですよ。村の隣には大きな畑があって、ありがたいことに食べ物には全く困らないんです」


 とのこと。

 ちなみに、フィアリーズの加護のもと、不作になったことはないそうだ。

 大きな嵐が来ても村の畑は避けてってくれるとか、マジ凄い!


 私は明日の朝には王都に連れて行かれるらしい。

 黒髪の男性、クラウディオがそう言った。

 彼は王国軍に属している“魔導士”なんだそうだ。


 クラウディオ曰く、


「フィアリーズの加護がある稀有な存在であることは認めよう。よって、王都で王に会ってもらう。しかし、王からの加護をもらえるなどと期待するなよ。貴様は異世界人といっても貴族でもないただの平民の娘だ。王に認められたければ、力を示せ。出来ないなら、自分の力だけで生きていくのだ」


 だってさ。

 なーんか上から目線だよね?

 確かに、偉い人なのかもしれないんだけどさ。

 最初っから目つき悪いし嫌な感じだよねぇ。


 私がブツブツ文句を言ってたら、それを聞いてたマークが、鋭く突っ込む。


「あれ? でもスイ、ポーッと見とれてなかった?」


 よく見てるな。

 そん時は中身を知らなかったからさ。


 村人に勧められるまま、素朴な味付けの豪華な料理を堪能した。

 魔獣の肉っていってたけど、普通に食べなれた動物の肉の味がした。


 

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