49. 町へ 2日目
『スイ様。たくさん歩いてお疲れでしょう? 足に回復魔法をおかけしますわ』
マリアさんは頼んでもいないのに、夕食が済み、部屋でくつろいでいる私の足元にトコトコとやって来ると、ふくらはぎに両手を当てる。
「え!? 大丈夫だよ。そんなに疲れてないから……」
戸惑う私を無視して治療を始め、それが終わると、
『さあ、肩も凝ったのではありませんか? ベットに横になってくださいませ』
ニコニコ笑って待っている。
「スイさん、明日もお休みですわよね! 明日は私が王都を案内するわ! 一緒に出掛けましょう!」
元気いっぱいにベットが誘ってくる。
「王都なら、僕だって分かるよ! 僕が案内するから、ベットは引っ込んでてよ!」
不機嫌さ丸出しのマークに、
「あら! マークが王都にいたのは大昔でしょ? 今は昔とはかなり変わったわよ? 最新の王都は、私に任せてちょうだい!」
ベットも言い返す。
『スイ、僕の背中に乗って飛んでみる? 気分良くなると思うよ』
ミントが誘ってくる。
『ワイと一緒に素振りの練習せえへんか? スカッとするで!?』
ライディも負けじと提案する。
シェルは……寝ている。通常運転だ。
しかし、これは……
マークをチラッと見る。
目を逸らした。
私は、はぁー……と、ため息をついた。
「……みんな、知ってるの?」
フィアリーズ達の顔を見回す。
『スイ様の元気がないので、マーク様にお聞きしましたの……』
マリアさんは申し訳なさそうに頭を下げる。
『男に振られたくらいで、くよくよすな! ワイがついとる!』
『ライディ様、そんなはっきりとおっしゃらないでください!』
「スイさん! 大事なのは友情! 私たちの友情を深めましょう!」
「スイには僕たちがいるからね! ベットはお呼びじゃないけど」
『僕はスイのこと好きだよ』
うう……みんな、励ましてくれてありがとう。
でも、その気持ちが今は少し痛いよ。
「ごめん、心配かけちゃったみたいで。でも、今日はちょっと疲れちゃったかな。もう、お風呂に入って早めに寝るよ。ベット、誘ってくれてありがとう。明日、よろしくね」
「そ、そうね……。スイさん、また明日!」
『もっといい男がおるで! ワイみたいな!』
『もう! ライディ様は黙ってください!』
にらみ合うライディとマリアさんを見て笑いながら、夜が更けていった。
翌日、朝食を食べながら、今日も町へ出かけることをハインリッヒさんに伝えると、
「スイ様お一人で、ですか……」
顎に手を当て考え出した。
フィアリーズ達が一緒だといっても、実際には町の人々には私一人に見えてしまう。それがちょっとまずいらしい。
うーん、急に誰かにお願いするのは申し訳ないし、今日は止めた方がいいのかな……
「急なことですし、今日は諦めます。また次回……」
そう言いかけた私の言葉を遮って、
「いえいえ、お待ちください。彼ならきっと大丈夫でしょう。もし都合がつかなければ私がお供いたしますよ」
ハインリッヒさんは、ホッホと楽しそうに笑う。
部屋で準備をしながら、先程の話を考える。
「彼なら大丈夫って言ってたけど、誰のことなんだろうなぁ」
一人呟く私に、フィアリーズ達は口々に答える。
『ふふ、私はなんとなく分かりますわ』
「きっと彼ね」
『ああ、あいつやろ。いっつもスイの後ついて回っとるからな!』
「……昨日もずーっとついて来てたからね」
最後にマークがボソッと小さく呟いた声は聞こえなかった。
けど、みんな誰だか分かるんだ……
……なんで?
とそこへ、ドアをノックする音が。
「どうぞ」という私の返事に入ってきたのは、息を切らせ、疲れた様子のクラウディオさんだった。
「大丈夫ですか!? 何があったんですか!?」
いつも冷静な彼の取り乱した姿に驚いてしまった。
「はあ、はあ、いや、平気だ。ちょっと急いで用を済ませてきたからな」
まだ息が荒い。
彼って、クラウディオさんだったのか!
「お忙しかったんですね。すいません、急にお願いすることになってしまったから……。あの、そんなに大変なら大丈夫ですよ。ハインリッヒさんにお願いするので……」
そう言いかける私に、食い気味で言い切る。
「大丈夫だ! もう急ぎの用はなにもない。では、早速行くぞ!」
私の手を取ると、慌てた様子で部屋を出る。
本当に無理しなくてもいいのになぁ。
疑問を残しながら、町へ向かう。
今日は約束通り、ライディも一緒だ。
さすがにミントは目立ちすぎるので連れていけない。
シェルは興味がないようなので、子犬達と一緒に今日もまた留守番だ。
「ちょっと待って! 今日は私が案内するんだから!」
私の手を引きながら、ずんずんと先を行くクラウディオさんに、ベットが抗議の声を上げた。
「ベットは、どこに案内してくれるの?」
「王都の少し外れに大きな公園があるの。そこに行ってみない? とても景色がいいのよ!」
「あそこか……ふむ。なら、昼を買って、そこで食べるといいだろう」
そう言って、クラウディオはお店に向かう。
一軒の食べ物屋へ入ると、サンドイッチをテイクアウトする。
広い公園にやって来ると、小高い丘を登る。
「はぁ、はぁ、けっこう遠いんだね……」
ベットとマークはフワフワ飛んで、楽そうだ。
フィアリーズは、こういう自然の中がよく似合う。
「ふふ、スイさん、もう少しよ!」
クラウディオに手を引かれながら丘を登りきると、ベンチがある展望スポットになっていた。
「わあ! すごいね!」
丘の上からは、王都の街並みを一望出来た。お城もよく見える。
「本当にいい景色! ベット、連れてきてくれてありがとう!」
「うふふ、喜んでもらえて良かったわ!」
ベットは私の周りをくるくる飛び回る。
綺麗な自然に囲まれて、眺めのいい丘の上で、妖精のような美しいフィアリーズが飛び回っているなんて、これぞまさにファンタジー!!
しばし、うっとりとその風景を眺めていた。
そこへ、グゥゥーと現実に引き戻す、大きなお腹の音が鳴った。
「腹が減ったか。さあ食べろ」
そう言って包みを渡すクラウディオさんに顔を赤くしながら頷いた。
肉や野菜がたくさん入った具沢山のサンドイッチは、とっても美味しかった。
「スイ、すっごく嬉しそうだね。やっぱり食べてる時が一番幸せそう」
そんなマークの言葉が聞こえたが、
うん、気にしない。
どうせ私は花より団子ですよ!
視線を感じてクラウディオを見上げると、嬉しそうに私を見つめる瞳と目が合う。
「ん、ああ、気に入ったようで良かった」
なぜか気まずそうに視線を逸らせながら、立ち上がる。
「はい! とっても美味しかったです。ありがとうございます!」
やっぱりついて来てもらって良かったな。
私一人じゃ、こんな美味しいものも買えなかったし。
綺麗に食べ終わると私も立ち上がる。
「他にどこか行きたいところはあるか?」
私を見下ろしながら言葉を待つクラウディオさんを見上げる。
「はい、実は一つ見たいものがあるんですが……」
私は周りをキョロキョロと見回す。
よし! 誰もいないな。
肩からライディを外すと、クラウディオに見せる。
「ライディの剣を作るときに、鞘を作らなかったんです。今は布をグルグルと巻いてますが、本来なら鞘に納めるべきですよね」
彼は、うむと頷くと、
「今からでも作ればいいんじゃないか?」
「それが……私が作ると、多分鞘にもフィアリーズが宿ってしまうと思うんです。ライディ、鞘に入ったフィアリーズと仲良く出来る?」
『ワイは……』
言いかけるライディを遮って、
「それはちょっと無理じゃないかしら?」
「危険だよ、スイ」
ベットとマークが同時に身を乗り出す。
うん。
ライディはけっこう喧嘩っ早い。
もし相性が悪かったら、鞘の中に納まってはくれないだろう。
結局、何も入れることが出来ない鞘を、持て余してしまうおそれがある。
『なんや、何決めつけとるんや!』
ライディは不満そうだ。
「できたら、鞘だけを作ってくれるお店に行きたいんですが、そんなお店ありますか?……あと、お金は足りるでしょうか……」
少し、語尾が小さくなる。
武器って高そうだし……
「そうだな、鞘だけを作るなどあまり聞かないが、頼むだけ頼んでみるか」
クラウディオさんの馴染みのお店に案内してもらう事になった。




