45. クラウディオの追憶
俺は孤児だ。孤児院にいたころの俺は、貧しいながら、同じ境遇の仲間たちと協力し合って生きていた。
しかし、成長し、俺に魔力の才能があると分かると、引き取りたいと申し出る貴族が何人も出てきた。この世界は、ほとんどの人間は魔力を持っているが、俺のように、実用で役立つほどの魔力がある者は滅多にいない。
俺は、貴族たちの間で取り合いになった。
その中でも突出して権力があったビンデバルト公爵が俺の養父になった。孤児院に一番大金を寄付したのが、この男だった。
奴は国民の間では評判の悪い男だった。悪どい事をしては、金と権力でもみ消していると噂がある。
でも俺は、孤児院の仲間たちの助けになるならそれで良かった。
あいつは俺に、勉学と剣術を仕込んだ。俺も自身の為に必死で学んだ。
勉学も剣術もぐんぐん上達し、魔術は国で1、2番と言われるまでになった。
しかし、本当は俺は魔導士ではなく、王立騎士団の剣士になりたかった。
剣の師匠である、当時の王都騎士団の隊長、ダニロに憧れていたからだ。彼は、伝説と言われたハインリッヒが隊長を退いた後、騎士団を支えた剛腕だ。
一人娘の婿にして、俺に後を継がせようとしていたビンデバルト公爵には、その事は秘密にしていた。奴に逆らえば、孤児院に戻されるならいい方で、命さえも奪われかねなかった。
奴の監視生活の中、唯一の慰めは、娘のカタリーナの存在だった。
将来、孤児院出身の俺と政略結婚をさせられると知っていても、俺を毛嫌いせず、親切に接してくれた。
そんな時、当時の王子、クロスから密命が下った。
ビンデバルト公爵の不正の証拠を見つけ出し、告発しろというのだ。
領地の政務のことも公爵自らに教えられていた俺には、それが可能だった。調べればきっと、ゴロゴロと出てくるだろう。
しかし、俺の立場や、奴が罪に問われた後を考えば容易に出来ることではない。
そして、最大の懸念は、カタリーナ嬢の事だ。彼女の父が罪に問われれば、彼女も無事では済まない。
しかし、王子に俺の懸念は把握済みだった。
「君の今後のことは、全く心配いらない。ダニロからも優秀だと聞いているしね。君は自身の夢を叶えればいい。騎士団に入り、剣士として、国に尽くしてくれ」
王子はどこまで知っているのかと不安になる。
「カタリーナ嬢のことも心配には及ばないよ。さすがに爵位はなくなるが、王都のはずれに、公爵所有の別荘があるだろう。そこに住んでもらうことにしよう。王家が責任を持って面倒を見るよ」
綺麗な顔に優し気な微笑みを浮かべ、俺に裏切りを強要してくる、この王子が、心底恐ろしく感じた。
結局俺は、王子の命令には背けず、奴の不正を探した。
これでもかと、わんさか出てきた。国の為を思えば、こいつが罰を受けるのは当然の事だと思える。
俺は集めた証拠を王子に提出した。
王子が奴の不正を公表する前に、王が暗殺された。
王子は俺には素の姿を見せるようになっていた。
彼は、間に合わなかったとひどく嘆いた。
その後、彼は人が変わったように、冷酷な王となっていったが、またそれは別の話か。
ビンデバルト公爵も、王の暗殺を企てた一員だった。
王子は俺が渡した証拠を公表し、奴の王都追放が決まった。
奴は俺が証拠を渡したと当然気づいた。
俺を罵りながら剣を手にすると、「裏切者!」と切りかかってきた。
突然のことに、武器を持っていなかった俺は、右腕を切られた。
その後、魔法で応戦し、奴を取り押さえた。
その一部始終を目撃したカタリーナは、悲しい瞳で俺を見ていた。
その後、奴は拘束され、王都から追放された。
約束通り、奴の娘、カタリーナ嬢は、今は別荘で静かに暮らしているようだ。
俺は、奴に切られた後遺症で、右腕に力が入らず、思い通り動かせなくなってしまった。夢であった剣士の道を諦めざる得なかった。
王となったクロスは、剣士としては役立たずになった俺を魔導士として騎士団に迎え、討伐部隊の長とした。
騎士団に入って数年。
俺は剣が振れなくなった鬱憤を晴らすように、魔獣を倒しまくった。
魔獣討伐の実績を積んだ俺たちの評価は上がったが、貴族や騎士団本部からの風当たりは強くなった。
ところが最近、予想も出来ないことが起きた。
異世界人との出会いだ。
魔物の出没と聞いて駆けつけると、そこに現れたのは、可憐な少女だった。
俺はその姿に一瞬で惹きつけられた。
しかし、すぐに気を引き締める。魔物は姿を変えて、人を魅了する。彼女も俺の心を惑わそうとしているのだろうと。
俺は彼女の言う事を信じず、魔法で攻撃した。
しかし、思わず手加減が入ってしまった。
結果、それで最悪の事態は避けられたのだが。
彼女はそれを防ぐことも出来ず、傷を負った。
俺は動揺した。細い腕や足に血が滲んでいる。
そして、あのフィアリーズの登場だ!
どういう運命の巡りあわせか、彼女は今、騎士団に入り、俺と同じ部隊にいる。
彼女が俺に与える恩恵は、計り知れない。
フィアリーズの力を用い、魔獣を討伐し、治療魔法で仲間の命を助け、彼女の手料理は俺の魔力を回復させる。
そして、不可能だと思っていた、この右腕の傷さえも治してしまった。
フィアリーズの加護を受けた女性を聖女と呼ぶが、彼女がフィアリーズと共にこの腕の治療を行った姿は、まさしく聖女、……いや、女神のような神々しいほどの美しさだった。
俺は、この先何があろうとも、自身が受けた恩恵を彼女に返していく。
彼女が傷つくことがないよう、守り抜いてみせる。
強い思いを自覚しながら、静かに目を閉じ、眠りについた。




