44. 古傷治療
ど、ど、ど、どうするーーー!?
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
マリアさんとシェルを掴むとミントの背中に乗せて、布をひっつかんで素早く被せる。
と、すぐに扉が開かれた。
ひっ!? 見られた!?
恐る恐る扉を見ると、そこにはクラウディオさんが立っていた。
「何かあったのか!?」
心配そうな声音で言うと、部屋に入ってきた。
「もう! 脅かさないでくださいよ!」
私の剣幕にとまどいながら、
「食事も取らず、何をしてるんだ」
並べられたお皿を見ている。
「フィアリーズの食事か。それより、大丈夫か? 本当は何かあったんじゃないのか?」
私に近寄ると、腕を取って見てくる。重たい桶を運んだので、手のひらが少し赤くなっている。
「ここが赤いな。マリア殿に回復魔法を掛けてもらえ。今日はいろいろあって疲れただろう。食事をして、早く休むことだ。もう、村人の手伝いはしなくていい」
うーん……
クラウディオさんって、心配してくれてるのは分かるんだけど、言い方がいちいち上から目線っぽいんだよね。
『お、そうや! それより、あんたが治療してもらったらええんやないか? 腕の傷、本当は痛むんやろ?』
腕の傷!?
何にも言わないけど、怪我してたの!?
「ちょっと、見せてください!」
私はそう言うと、嫌がるクラウディオさんの腕を取る。
『スイ、右腕や!』
「右ですね!」
右腕の袖を捲ると、大きな古傷があった。
「これ!?」
なあんだ。今日できた傷じゃないんだ。
「昔の傷だ。もうこれは治らないだろう。俺の事はもういい」
捲られた袖を下ろそうとする。
「待ってくださいよ! やってみないと分からないでしょ!? マリアさんの魔法はすごいんですから!」
腕を引き、強引にベットに座らすと、マリアさんをベットに運ぶ。
「お願いできますか?」
『ええ、もちろんですわ』
マリアはニッコリ微笑むと、傷口に手を当てる。
優しい白い光がマリアの両手と傷口を包む。しばらくそうしていたが、
『うーん、やっぱり古い傷を治すのは難しいですわね』
マリアが申し訳なさそうに言う。
「いや、いいんだ。無理させてすまない」
『お待ちください。スイ様、あなたの魔力を分けていただけますか?』
え!?
魔力を分ける?
困惑している私に、マリアさんは微笑んだ。
『私に触れて、集中してくださいませ』
言われるまま、マリアさんの小さな肩を両手でそっと掴み、目を瞑る。
えっと、集中するんだよね。
古い傷だから、細胞が活発になって、筋や筋肉を再生させるイメージで、ついでに骨も強くなって、傷口は消えて、肌もなめらかに……
白い光はクラウディオの腕全体と、マリアと粋華の全身をも包み込む。
先程よりもさらに強くなった光が、部屋の中に満ちる。
『なんや、凄いことになっとるな』
『眩しいー』
ミントは目を瞑った。
『治療完了ですわ』
マリアさんの声で、顔を上げる。
クラウディオさんは自身の腕をまじまじと見つめ、腕の曲げ伸ばしや、手のひらを握ったり開いたりして確かめている。
「どうですか?」
腕を覗き込むと、表面の傷は綺麗に消えていた。
一見、大丈夫そうだけど……?
「はあ……」
ため息をつかれた。
え! まさか、駄目だった!?
「もう、絶対に治らないと思っていた。また剣を振るえる日がくるとはな」
今までに見せたことのない、泣きそうな笑顔のクラウディオさんがいた。
「ありがとう」
そう言うと、私とマリアさんの手を握った。
部屋の外でバタバタと人の足音がする。
うっ、今度はなに!?
慌ててマリアさん達を隠す。
バターンとドアが開き、
「何事ですか!?」
と、騎士の面々が部屋に飛び込んできた。
いや、こっちが聞きたい!
私たちは、怪訝な顔で騎士たちを見る。
「あの、先程、凄まじい光がこの部屋から漏れていたので……」
え、そんなすごかった?
目を瞑ってたから分からなかった……
「何でもない。すぐ戻る。スイ、お前も行くぞ。飯だ」
そうして、みんなと食事の用意された会場に行き、夕飯を食べた。
その後は、やっと休める。
今日は、内容の濃い、長い一日だった。
異世界に来てから、慣れないことばかりで、ずうっと濃い毎日だけどね。
他の騎士たちは、人数分のベットもなく、狭い部屋で雑魚寝するしかないが、私だけ一人部屋を貸してもらったので、ベットで眠れて申し訳ないが嬉しい。
くたくたの私は、すぐにぐっすりと眠りについた。
その時、一匹のクモが、窓の外から粋華を見ていた。
「こいつか。魔王様の探し物は」
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クラウディオは狭い部屋の中で、他の騎士たちと並んで横になりながら、すっかり完治した自身の腕をさする。
嫌な記憶を思い起こさせる傷は、綺麗さっぱりなくなっている。
当時の自分のした事に後悔はない。
しかし、自分を悲しそうに見つめるカタリーナ嬢の顔を思い出すと、胸が苦しくなった。




