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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
44/127

44. 古傷治療


 ど、ど、ど、どうするーーー!?

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 マリアさんとシェルを掴むとミントの背中に乗せて、布をひっつかんで素早く被せる。

 と、すぐに扉が開かれた。


 ひっ!? 見られた!?

 恐る恐る扉を見ると、そこにはクラウディオさんが立っていた。

「何かあったのか!?」

 心配そうな声音で言うと、部屋に入ってきた。

「もう! 脅かさないでくださいよ!」

 私の剣幕にとまどいながら、

「食事も取らず、何をしてるんだ」

 並べられたお皿を見ている。


「フィアリーズの食事か。それより、大丈夫か? 本当は何かあったんじゃないのか?」

 私に近寄ると、腕を取って見てくる。重たい桶を運んだので、手のひらが少し赤くなっている。

「ここが赤いな。マリア殿に回復魔法を掛けてもらえ。今日はいろいろあって疲れただろう。食事をして、早く休むことだ。もう、村人の手伝いはしなくていい」

 

 うーん……

 クラウディオさんって、心配してくれてるのは分かるんだけど、言い方がいちいち上から目線っぽいんだよね。

 

『お、そうや! それより、あんたが治療してもらったらええんやないか? 腕の傷、本当は痛むんやろ?』


 腕の傷!?

 何にも言わないけど、怪我してたの!?

 

「ちょっと、見せてください!」

 私はそう言うと、嫌がるクラウディオさんの腕を取る。

『スイ、右腕や!』

「右ですね!」

 右腕の袖を捲ると、大きな古傷があった。


「これ!?」

 なあんだ。今日できた傷じゃないんだ。

「昔の傷だ。もうこれは治らないだろう。俺の事はもういい」

 捲られた袖を下ろそうとする。

「待ってくださいよ! やってみないと分からないでしょ!? マリアさんの魔法はすごいんですから!」


 腕を引き、強引にベットに座らすと、マリアさんをベットに運ぶ。

「お願いできますか?」

『ええ、もちろんですわ』

 マリアはニッコリ微笑むと、傷口に手を当てる。

 優しい白い光がマリアの両手と傷口を包む。しばらくそうしていたが、

『うーん、やっぱり古い傷を治すのは難しいですわね』

 マリアが申し訳なさそうに言う。

「いや、いいんだ。無理させてすまない」

『お待ちください。スイ様、あなたの魔力を分けていただけますか?』


 え!?

 魔力を分ける?

 困惑している私に、マリアさんは微笑んだ。

『私に触れて、集中してくださいませ』

 言われるまま、マリアさんの小さな肩を両手でそっと掴み、目を瞑る。


 えっと、集中するんだよね。

 古い傷だから、細胞が活発になって、筋や筋肉を再生させるイメージで、ついでに骨も強くなって、傷口は消えて、肌もなめらかに……


 白い光はクラウディオの腕全体と、マリアと粋華の全身をも包み込む。

 先程よりもさらに強くなった光が、部屋の中に満ちる。

『なんや、凄いことになっとるな』

『眩しいー』

 ミントは目を瞑った。


『治療完了ですわ』

 マリアさんの声で、顔を上げる。

 クラウディオさんは自身の腕をまじまじと見つめ、腕の曲げ伸ばしや、手のひらを握ったり開いたりして確かめている。

「どうですか?」

 腕を覗き込むと、表面の傷は綺麗に消えていた。

 一見、大丈夫そうだけど……?


「はあ……」

 ため息をつかれた。

 え! まさか、駄目だった!?

「もう、絶対に治らないと思っていた。また剣を振るえる日がくるとはな」

 今までに見せたことのない、泣きそうな笑顔のクラウディオさんがいた。

「ありがとう」

 そう言うと、私とマリアさんの手を握った。



 部屋の外でバタバタと人の足音がする。


 うっ、今度はなに!?

 慌ててマリアさん達を隠す。

 バターンとドアが開き、

「何事ですか!?」

と、騎士の面々が部屋に飛び込んできた。


 いや、こっちが聞きたい!

 私たちは、怪訝な顔で騎士たちを見る。


「あの、先程、凄まじい光がこの部屋から漏れていたので……」


 え、そんなすごかった?

 目を瞑ってたから分からなかった……


「何でもない。すぐ戻る。スイ、お前も行くぞ。飯だ」


 そうして、みんなと食事の用意された会場に行き、夕飯を食べた。

 その後は、やっと休める。

 今日は、内容の濃い、長い一日だった。

 異世界に来てから、慣れないことばかりで、ずうっと濃い毎日だけどね。

 他の騎士たちは、人数分のベットもなく、狭い部屋で雑魚寝するしかないが、私だけ一人部屋を貸してもらったので、ベットで眠れて申し訳ないが嬉しい。

 くたくたの私は、すぐにぐっすりと眠りについた。


 その時、一匹のクモが、窓の外から粋華を見ていた。


「こいつか。魔王様の探し物は」



 ----------



 クラウディオは狭い部屋の中で、他の騎士たちと並んで横になりながら、すっかり完治した自身の腕をさする。

 嫌な記憶を思い起こさせる傷は、綺麗さっぱりなくなっている。


 当時の自分のした事に後悔はない。

 しかし、自分を悲しそうに見つめるカタリーナ嬢の顔を思い出すと、胸が苦しくなった。


 

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