41. 村人治療
遠くに村の屋根が見えてきた。
ずっとミントに乗せてもらっているとはいえ、長旅と戦闘でくたくただ。
「はあ……やっと着きましたね。あれ? 何で村に入らないんですか?」
騎士のみんなは馬を止め、私を見ている。
「お前、そのまま村に入るつもりか?」
クラウディオの目が呆れている。
え? 何か……変?
私は自身の格好を見下ろす。自分で言うのもなんだが、騎士の制服がかっこいい。クラウディオの言った意味が分からず、首を捻る。
みんなの視線の先をもう一度しっかり辿ると……ん? 私の下?
「ああ! ミントか!」
やっと分かって、手をポンと打つ。
「そうだ。お前が異世界人だというのは、極力知られたくない。ミント殿とマリア殿の姿を見たら、村人にいろいろ詮索されるだろう。申し訳ないが、二人には姿を隠してもらいたい。」
確かに、お城では騎士の皆さんに魔物と間違えられたしね。村人が怯えてしまうかも。
それに、正体がフィアリーズだと知れたら、以前の村のように大騒ぎになりかねない。
あの時の村人のテンションは怖かった……
あれ? そういえば、クラウディオさんって、ミントやマリアさんには敬称をつけるんだね。
私には、“お前”なのに。
……解せぬ。
納得いかない私を置いたまま、ミントは大きな布をかぶり、目だけ穴が開いた、ハロウィンのような姿になっていた。
“日焼けに弱いロバ”という設定でいくことになった。多少無理があるが仕方ない。
マリアさんも布をかぶり、荷物の中に隠れる。
シェルは最初から荷物の中だ。
そして、マークの姿は普通の人には見えないし、ライディは一見ただの剣だ。
「みんな、村人の前ではしゃべっちゃダメですよ!」
一応、釘を刺しておく。
「はーい!」
『分かっておりますわ』
『うん』
『……へーい』
『ワイ、退屈やなぁ』と、ライディがフワフワ浮かぶ。
「わー!! もちろん、ライディは動いちゃいけません!!」
ライディを捕まえると、布でグルグル巻きにして、肩に背負う。
……うう、心配だ。
「では、村に入るぞ!」
足元には子犬の振りをした、じゃれつくオオカミ。布を被ったミント、肩に担がれたライディ、荷物の中にはマリアとシェル。
上手く隠し通せるといいけど……いかん、いかん!
それよりも、まず村人が無事かどうかだよね!
私は気合を入れて村に足を踏み入れた。
「これは、これは! よくお出でくださいました!」
私たちは村人たちから厚い歓迎を受けた。
村長から詳しく事情を聞く。
物資の供給が途絶え確かに不便はしていたが、食料はもともと村の周りにある森の恵みがあるので、村人の人数も多くないこの村では、飢えることはなかったようだ。
すぐに商人の行き来も始まるだろうし、その面では大丈夫そうだ。
「しかし、この小さな村には医者がおりませんので、病人や怪我人を山のふもとの大きな村まで連れて行くことが出来ず、困っておりました。騎士様たちのお蔭で、その者たちも助かります」
村長は頭を下げた。
私はクラウディオさんの袖を後ろから引っ張る。
「なんだ?」
「ここは、マリアさんの出番じゃないですか?」
私は小声で提案する。
「いや、村人に知られるわけには……」
「だから、見られない様にすればいいんですよ」
村長に、けが人や病人を連れて来てもらうように言うと、治療の為の部屋を貸してもらう。そして、村人を部屋から全員追い出すと作戦会議だ。
「どうするつもりだ?」
騎士たちは困惑顔だ。
「クラウディオさんは、いかにも魔導士って格好じゃないですか。だから、治療魔法も使えるという事にしてしまいましょう。こんな田舎に住んでいるんですから、王都の事はよく知らないでしょうし」
マリアを荷物から出すと、クラウディオに渡す。
「そのマントの中に隠してください。村人には一人ずつ、目隠しをして部屋に入ってもらいましょう」
部屋の前に集まった病人や怪我人は10名程だ。彼らに向かって、私は厳しい顔で告げる。
「今から部屋の中で治療を行いますが、大変強力な魔法を使います。直接その魔法を見ると、目が潰れてしまうかもしれません」
村人は不安そうに囁き合う。
「ですから、一人ずつ目隠しをして中に入ってもらいます。部屋の中には強力な魔力が満ちていますから、部屋から出るまでは、絶対に目隠しをはずさないでください」
村人一人一人の顔を見ながら、しっかりと言い聞かす。
村人たちは、緊張の面持ちで頷く。
「では、一人目を案内します。目隠しをしてください」
私も怪しまれない様に、薄い布を顔の前に垂らす。私も目を保護してますアピールだ。
まず一人目、いよいよ治療開始だ。
目隠しをした人の手を取ると部屋に通し、椅子に座らせる。
クラウディオのマントからそっと顔を出したマリアが、患者に手を当て治療を始める。
光に包まれた患者は大人しくジッと待っている。
治療が終わって、マリアはコクッとクラウディオに頷くと、再びマントの中に隠れた。
私は「終わりましたよ」と、声を掛け患者の手を取ると、部屋の外へ連れ出す。
そして、二人目へ……
そうやって無事、すべての患者の治療を終了した。
「何日も熱が下がらず、もう駄目かと思っておりました。本当にありがとうございます!」
涙を流しながら元気になった我が子を抱く母親。
「信じられません! 今までは医者に見せても、痛み止めをもらうだけで、すぐにまた痛くなっていたんですよ! もう、全く痛みはないです。ああ、腹が減ってきました!」
そう言って、胃をさする人。
「もう治らないと思っていました。怪我で膝が曲がらなくなっていたのに、普通に歩けます!」
と言って、走り出す人。
おーい、急に走って大丈夫かーい!
「腰の痛みがなくなっただけじゃなく、真っ直ぐに伸びてしまいましたわい!」
と言って、体操をしだすおじいさん。
元気になって良かったね。
マリアさんの治療の力は相当すごいようだ。
元気になった人たちと、その家族や村人達に感謝される魔導士クラウディオは、バツが悪そうだ。
困り顔で私をチラチラ見ているが、……うん、頑張れ!
そんな様子を離れた所から生暖かい目で見ていた私だったが、不意におばさん達から声を掛けられた。
「あんたも騎士団の一員かい?」
「こんな小さな女の子に騎士が務まるもんなのかい?」
「そりゃあ無理だろう! きっとこの子は、騎士様たちのお世話係なんだろうよ!」
「だったら丁度いい! 私らを手伝っておくれよ! 騎士様たちのお食事を用意しないといけなくってね!」
え!? なんで?
訳が分からず立ち尽くす私の腕を、おばさん達はぐいぐい引っ張っていく。
「ちょっと、待ってください! 私はお世話係じゃありません! 騎士団の一員で……」
と、私が言いかけたところ、
「ありゃ? 足元の子犬は、あんたの犬かい?」
「こいつらって、あのオオカミ達の毛色に似てないかい?」
「ああ、確かに! 薄茶色と、銀色の大きなオオカミもいるって話だったね!」
「まさかこの子ら、オオカミの子じゃないだろうねぇ……」
ギックーン!!
なかなか鋭いおばさん達だ。
「そ、そんな訳ないじゃないですか! あのオオカミの子供がこんな可愛い姿の訳がないですよ! この子たちは、王都から連れてきた、私の飼い犬ですから!」
私は焦ってそう言うと、
「さあ、早く食事の支度を始めましょう! 台所はこっちですか?」
今度は私がおばさん達の腕を取って促す。
「はあ、何をやってるの?」
マークは私の肩に座ったまま、呆れ顔で言った。




