40. マウエ村へ
えっと……これは、どうしたらいいんだろう……?
「こ、これが食べたいの?」
オオカミはこちらの言っていることが分かるようで、首を縦に振り、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振った。
急に素直になっちゃったよ!?
まさか、マドレーヌ効果!?
でも、この子を退治しないといけないんだよね……?
私は困ってマークを見た。……が、マークは目を逸らした。
逃げたなっ。
仕方なくクラウディオさんを見ると、難しい顔と目が合う。
「魔獣の殲滅が王からの指令だ。……仕方ないだろう」
そう言って、バシリーさんをちらっと見た。バシリーさんの手前、見逃すことは出来ないと考えたんだろう。
ところが……
「あなたは鬼ですか!?」
バシリーはクラウディオに軽蔑の眼を向ける。
「こんなにかわいい子を殺そうって言うんですか!?」
そう言ってオオカミに近づき、ム〇ゴロウさんのように、よーし、よーしと手を出した。
え!? 危なくない!?
そう思った私の予想を覆し、オオカミは大人しくバシリーさんに撫でられている。オオカミを撫でるバシリーさんはとても嬉しそうだ。意外にも動物好きらしい。
「目を見れば分かります。この子はもう、私達に敵意はありません。なんて、可愛いんでしょう!」
バシリーさんは私には絶対見せない良い笑顔で、オオカミを撫でまわしている。
ボスと思われるオオカミに全員出てこさせるように言うと、隠れていた2頭も素直に出てきた。
ボスに習い、行儀よくお座りをしている。ボスの命令は絶対のようだ。
見比べてみると、オオカミのボスは、やはり他の2頭よりも大きく強そうだ。それに毛並みの色も違っている。他のオオカミ達は薄茶色だが、ボスだけは綺麗な銀色の毛並みで、ふっさふさだ。
私もちょっと触ってみたいなぁ。
あれ? よく見れば角が2本だ!
3頭のオオカミを前に、
「二度と人間や、その積み荷を襲わないというなら見逃します。もし、また人間に危害を加えることがあれば、今度は容赦せずやっつけますからね!」
そう言い聞かせると、オオカミ達は大人しく首を縦に振った。
3つに分けたマドレーヌを地面に置くと、オオカミ達は嬉しそうに食べた。
「これで大丈夫だと思う?」
私は困り顔でマークに尋ねた。
「魔獣は基本、嘘はつかない単純な生き物だから、大丈夫だと思うよ。念のため何かあったら知らせるように、この辺りにいるフィアリーズに頼んでおくよ!」
なんて頼もしい! それなら安心だね。やっぱりフィアリーズってすごいんだな。
「王には、私から上手く報告しておきましょう。あなた達は、まだ村人の安否確認が残っていますよね。私はこの辺りで、影に戻ります。では、また」
バシリーは、そう言い残し、私達の前から姿を消した。
粋華とクラウディオに続き、ぞろぞろと巣穴から出来てきた3頭のオオカミに、騎士のみんなは目を丸くして驚いた。
クラウディオは騎士達に事情を説明した。
「では、急いでマウエ村に向かう。日が沈むまでには辿り着けるだろう」
先程はずれた道に戻り、村へ続く道を馬で登る。
「あの……、魔導士様。いいのでしょうか……?」
ホレスが弱った顔で、後ろを振り向く。
魔導士クラウディオはそれを見て、難しい顔で私を睨む。
うっ……私だって知らないですよ!
どうしてこんな事になってるの!?
最後尾にいる私に寄り添うように、オオカミ達3頭がピッタリついてくる。
「おい、何とかしろ」
クラウディオが馬を寄せ、小声で言ってくる。
「このままでは村には入れん。村人を怯えさせてしまうからな」
ええ、分かってますよ。
まったく、その通りですね。
私は何度目か分からないが、オオカミ達に向かって、
「ついて来ないでください! 巣穴に戻って!!」
睨みつけながら、厳しく言い放つ。
オオカミ達は、クゥーン……と悲しそうに頭を下げた。
「分かりましたね! では、ここでお別れです!」
私は前へ向き直ると、オオカミ達をその場に残し、先へと進む。
そうっと後ろを振り向くと、少し後ろを頭を下げたままで、まだついて来ている。
「うう……無理です。どうしてもついて来てしまいます!」
なんだか健気で可愛くなってきちゃってよ。どうしよう……
クラウディオは、はぁーっとため息をつくと、
「こうなったら、お前だけ村の外で野宿だな」
と、冷たい声で言った。
ええー!?
ヒドイ……!
みんなは村のベッドで寝て、私だけ外の地面の上ですか!?
私は心を鬼にして、オオカミ達に向かって叫ぶ。
「ここから先は駄目です! こんな大きなオオカミを連れてはいけません! 村人が怖がってしまいます!」
オオカミは目を大きく見開いて私を見た。
うう……ごめんって、仕方ないんだよ……
オオカミは何故かうんうん頷くと、3頭が顔を合わせ集中しだした。
え、なに!? ちょっと厳しく言いすぎちゃったのかな!?
「何だろう、魔力を高めてるよ!」
マークもジッとその様子を、興味深そうに見つめる。
ふわっと、光に包まれたと思ったら、3頭の姿が消えた!
「キャン、キャン!」
可愛い鳴き声が聞こえて足元を見ると、コロコロとした子犬が3匹、嬉しそうに尻尾を振っていた。
「えっ!? まさか……?」
私は子犬を一匹抱き上げて、よく見てみる。
綺麗な銀色の毛並みの子犬だ。
「すごいね……こんな事も出来るんだ!」
マークが驚いて子犬達を見ている。
「まさか……こんなのは聞いた事がない……!」
クラウディオも信じられないという顔をしている。
ふーん……よっぽど珍しい事なんだね。
まあ、だいたい野生の魔獣が、わざわざ弱い姿に変身する必要ないもんね。だから、もしかしたら、そんな能力があっても知られていないだけかもしれない。
腕に抱いた銀色の毛並みを撫でながら、絶対に村の中では変身を解かないように言い聞かせ、オオカミ達も連れて行くことになった。
日が沈みかけた頃、私達はマウエ村に到着した。




