4. 王都からの使者
次の日の早朝、村人からは食事を差し入れてもらえた。
かたいパンと具の少ないスープだったけど、やっとありつけた食事にホッとした。
マークがいなかったので、村人との交流は無理だった。
食事の皿が下げられたころ、やっとマークが戻ってくる。
「おはよう! よく眠れた? あースッキリした!」
マークの眩しい笑顔を私は目をショボショボさせながら見た。
「あれ? 今日のスイってなんだか不細工だよ?」
「……うん、マークのおかげで昨日、いろいろな事が分かったから、ずっと考えてたんだ。あと、マークのおかげで何も食べられなかったし、お腹が空きすぎてて眠れなかったんだよ」
「え!? 眠れなかったんだぁ。夜はしっかり寝ないとダメだよ」
「…………」
私からの精一杯の嫌味は軽く流された。
それから、マークはこれから起こることを教えてくれた。
世界各地にいるフィアリーズに聞いて、今起きていることは大体分かっているらしい。
けっこう凄い!
情報を制する者は世界を制すとかいうもんね。
マークは、ここアソシエ地方の王だけど、他の地域にはその地域の王がそれぞれいるらしい。魔力の強さで王が決まると言っていたので、マークはこの地域では最強なんだって。
「そんなすごい王様が、ずっと私のそばにいてくれるの?」
私の疑問にマークは、
「だってさ、異世界人って、ものすごーく珍しいんだよ! ここの人間より、スイはフィアリーズに近いといっていい! とっても珍しい魔力を持ってるはずなんだ!」
異世界人に会ったことないマークが知ってるのは、もちろんフィアリーズ情報網のおかげだ。
「百年ほど前に、ここからずっと離れた所に異世界人が現れたんだよ! そいつは自身のすごい能力を持っていて、いつもフィアリーズと共に行動してたんだって。結局そいつらは、とんでもなく凄いことをやってのけたらしい!」
「すごい能力? とんでもなく凄いこと? 曖昧情報だなぁ」
「うーん、詳しく分かる子には会えなかったんだ。でも、僕らはむやみに嘘はつかないから、間違いではないよ!」
「それで、マークも凄いことをやってみたいとか?」
「そう! 僕も世界中を旅して、力を試してみたいんだー!」
キラキラお目目で飛び回った。
それにしても、私にすごい能力!?
そんなの何も感じないよ……?
身体的なものかと、思いっきりジャンプしてみた。
おっ、15センチ跳べた。
…………。
壁に向かってパンチしてみた。
!!!
うおーっ!! 手が、手が痛いっ!!
私は悶え苦しんだ。
「……ねえ、何やってるの?」
マークが冷たい視線を投げてきた。
気にしない。
うむ、これは異世界特有の魔法的な何かの方かも……?
私は両手を前に出し、炎を思いうかべてみた。
うん、変化なしっ!
水と土と風と雷と他にもいろいろ試してみたが……
……? おかしい。
異世界人特有のチートな能力どこいった!?
そうこうしているうちに時間は過ぎ、またまた次の日になった。
何回か村人は食事を持ってきてくれたし、おトイレタイムもあったけど(ちなみに水洗ではなかった)マークはあえて何もしなかった。
私もマークの計画を聞いていたので、大人しくしていた。
夕方になり辺りが赤く染まってきたころ、慌ただしい人々の声と、馬の蹄の音が聞こえてくる。
「やっと、お出ましだ! 用意はいい?」
マークがニッと笑った。
大きな村人二人に両脇を抱えられ、私は小屋の外に出された。
そこには立派な鎧を付けた男の人が、5人いた。
その真ん中にいる長身の男は、上等な衣装の上に、長いマントをつけている。
この中のリーダーっぽい。
私は、こちらをジッと見つめる青い瞳を見つめ返す。
!!!
ええっ!?
めっちゃイケメン! 映画俳優みたいーっ!!
ビビッと体に電流が走るように震えた。
少し癖のある長めの黒髪に瞳は暗めのブルー、少し冷たいクールで知的な眼差し。
歳は20代後半くらいかなぁ……?
ミーハー気分で眺めていたら、その彼の口が動いた。
「こいつか、お前たちの言っていた魔物というのは」