39. ボス攻略作戦
「バシリーか! なぜ、ここにいる!?」
クラウディオが驚いて尋ねる。しかし、ハッと魔獣と戦闘中だったことを思い出し、周りを警戒する。
「大丈夫ですよ。今は私の隠密魔法が発動中です。我々の事は、あのワンちゃん達には全く気付かれませんから。突然いなくなったあなた達に驚いているでしょうね」
バシリーは可笑しそうにクックと喉を鳴らす。
「どうしてバシリーさんが、ここにいるんですか?」
警戒心丸出しの私たちに、バシリーは心外そうに肩をすくめる。
「王のご命令です。あなた達の様子を見守るようにと」
「見張るの間違いだろう。なぜ姿を現した?」
クラウディオの問いに、
「だってね、無謀でしょう。このままでは、一方的にやられっぱなしですよ。ここは彼らのフィールドです。もっと頭を使ったらどうですか?」
バシリーは呆れたように言う。
「なに? あんたには、何かいい方法があるっていうの?」
マークが睨みつける。
「これは、これは、マーク王ともあろうお方が、私のような者の意見など必要ないでしょう」
「嫌味はいいから! この魔法の破り方とか知ってるの!?」
マークは苛ただしげに問う。
「ふーむ、どうでしょうね……。まあ、私の魔法ほどの性能ではないようですが、こちらの魔法もやっかいですよ。あの子の使う魔法は、多分、影魔法でしょうね。影がある所であれば、どこへでも隠れられます。自身以外にも使えるようなので、かなりの魔力の持ち主ですね。しかも、動きも素早く、我々が捕捉するのは難しいでしょう」
バシリーの説明を聞いた私たちだったが、……で? 結論は?
「じゃあ、巣穴全体を、影が出来ないようにぜーんぶ明るくすればいいってこと?」
マークの問いかけに、
「ええ、それが出来ればいいんですけどね。この巣穴の表面は凸凹だらけですから、全てを照らすことなど不可能じゃないですか?」
「えっと……倒すのは無理ってことでしょうか?」
私がおずおずと尋ねる。
「この、巣穴の中では無理でしょうね。ずっと隠れられたら、我々には為すすべなしですよ。なんとかおびき出せる方法でもあればいいんですがね」
そんな事を言うバシリーさんは、何故か楽しそうだ。
どうにも出来ない私達を馬鹿にしているみたいに。
ムカつく!
こいつの鼻を明かしてやりたい。
なんか、いい方法ないかなぁ……
どうにかして、向こうから出てくるように仕向ければいいんだよね?
……うん? そうだ!
私はおもむろにポケットからマドレーヌを取り出す。
「あ! スイ、まだ持ってたんだ! ずるい!」
マークが飛びつこうとする。
「ちょっと、ダメだって! これを使うのはどうでしょう?」
私はみんなの顔を伺う。
「何ですか、それは?」
バシリーは怪訝な顔で私を見る。
何、その顔。
私は頭のおかしい人じゃないですからね!
「ふーん、分かんないけど、やってみてもいいんじゃない?」
マークは賛成してくれた。
私たちは、少し広くなっている空間にマドレーヌを置いて、3メートルほど距離をとる。
どうかなぁ……
さすがに無理かもなぁ。
待つこと数分、全く何も起こらない。
「あんな所に突然現れたお菓子を警戒するのは当然でしょう。人間の匂いがしみ込んでますしね。あの子らは野生のオオカミですよ?」
バシリーが心底馬鹿にしたように私を見る。
くっ、くやしいーーー!!
私が歯を噛みしめていると、
「おい! ないぞ!」
クラウディオが叫んだ。
あれ!? なくなってる!!
いつの間に!?
「ごめん……早すぎて、よく分からなかった」
マークが申し訳なさそうに私の顔を見る。
「じゃあ、もう一回、置いてみますね。今度は奴が現れたら、すぐ攻撃できるように準備しておきましょう!」
私は、またポケットからマドレーヌを取り出すと、先程の場所にまた置いた。
「スイ、どんだけ隠し持ってるの!?」
マークが驚きの声を上げる。
これは私のおやつ用なのよ、マーク。
あんな大変な思いをして作ったのに、作った本人が一つしか食べられないなんていうのは、おかしいからね。
今度は目を放さないように集中する。
『いつでも準備オーケーやで!』
ライディに頷き返す。
「あっ、来た!」
マークの声に雷魔法を繰り出そうとした瞬間!
「あ、待ってスイ! もう、いない……」
は!?
マドレーヌは消えていた。
そんな一瞬!?
ちょ……無理でしょ。
「おやおや、これでは、ただ餌をあげただけですねぇ」
バシリーの声が洞穴内に響く。
く、くっそー……もう、こうなったら!
私は最後の一個をポケットから取り出すと、バシリーから離れる。
「バシリーさん、私の姿を奴らに見えるようにしてください!」
「何するの、スイ!? 危ないよ!!」
マークが私に近寄ろうとするが、私はそれを手で制す。
「マーク、すぐに攻撃出来るように構えててね! シェル、ちゃんと防御魔法かかってるよね!?」
『かかってるけど、どうすんの?』
シェルの気だるげな声が服の中から聞こえた。
もう、女は度胸だ!
私はマドレーヌを持った手を前に出す。
「ほーら、ほーら、まだここにあるよー! 美味しいお菓子だよー! でも、もうこれが最後の一個。大人しく姿を見せないと、あげないよー!」
大きな声でオオカミに呼びかける。
こんなアホな手に引っかかるか分からないけど、相手は動物だからね。
私に襲いかかったところを、マークの魔法で仕留めてもらおう。
さっきも無事だったし、シェルの魔法を信じる!
私は妙な自信がついていた。
「来た!」
マークは叫び、手をかざす。だが……魔法の使用を躊躇した。
私の目の前に現れたオオカミは、先に倒したオオカミ達より一回り大きく、私と目線の高さが同じだ。
『こいつがボスか?』
ライディが困惑気味に呟く。
う……どうしよう……
私は複雑な気持ちでオオカミを見る。
目の前の大きなオオカミは、期待のこもった瞳で私を見つめ、マドレーヌがもらえるのを、行儀よくお座りをして待っていた。




