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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
39/127

39. ボス攻略作戦


「バシリーか! なぜ、ここにいる!?」


 クラウディオが驚いて尋ねる。しかし、ハッと魔獣と戦闘中だったことを思い出し、周りを警戒する。

「大丈夫ですよ。今は私の隠密魔法が発動中です。我々の事は、あのワンちゃん達には全く気付かれませんから。突然いなくなったあなた達に驚いているでしょうね」

 バシリーは可笑しそうにクックと喉を鳴らす。


「どうしてバシリーさんが、ここにいるんですか?」

 警戒心丸出しの私たちに、バシリーは心外そうに肩をすくめる。

「王のご命令です。あなた達の様子を見守るようにと」

「見張るの間違いだろう。なぜ姿を現した?」


 クラウディオの問いに、

「だってね、無謀でしょう。このままでは、一方的にやられっぱなしですよ。ここは彼らのフィールドです。もっと頭を使ったらどうですか?」

 バシリーは呆れたように言う。


「なに? あんたには、何かいい方法があるっていうの?」

 マークが睨みつける。


「これは、これは、マーク王ともあろうお方が、私のような者の意見など必要ないでしょう」

「嫌味はいいから! この魔法の破り方とか知ってるの!?」

 マークは苛ただしげに問う。


「ふーむ、どうでしょうね……。まあ、私の魔法ほどの性能ではないようですが、こちらの魔法もやっかいですよ。あの子の使う魔法は、多分、影魔法でしょうね。影がある所であれば、どこへでも隠れられます。自身以外にも使えるようなので、かなりの魔力の持ち主ですね。しかも、動きも素早く、我々が捕捉するのは難しいでしょう」


 バシリーの説明を聞いた私たちだったが、……で? 結論は?


「じゃあ、巣穴全体を、影が出来ないようにぜーんぶ明るくすればいいってこと?」

 マークの問いかけに、

「ええ、それが出来ればいいんですけどね。この巣穴の表面は凸凹だらけですから、全てを照らすことなど不可能じゃないですか?」

「えっと……倒すのは無理ってことでしょうか?」

 私がおずおずと尋ねる。

「この、巣穴の中では無理でしょうね。ずっと隠れられたら、我々には為すすべなしですよ。なんとかおびき出せる方法でもあればいいんですがね」

 そんな事を言うバシリーさんは、何故か楽しそうだ。

 どうにも出来ない私達を馬鹿にしているみたいに。


 ムカつく!

 こいつの鼻を明かしてやりたい。

 なんか、いい方法ないかなぁ……

 どうにかして、向こうから出てくるように仕向ければいいんだよね?

 ……うん? そうだ!

 

 私はおもむろにポケットからマドレーヌを取り出す。

「あ! スイ、まだ持ってたんだ! ずるい!」

 マークが飛びつこうとする。

「ちょっと、ダメだって! これを使うのはどうでしょう?」

 私はみんなの顔を伺う。

「何ですか、それは?」

 バシリーは怪訝な顔で私を見る。

 何、その顔。

 私は頭のおかしい人じゃないですからね!

「ふーん、分かんないけど、やってみてもいいんじゃない?」

 マークは賛成してくれた。


 私たちは、少し広くなっている空間にマドレーヌを置いて、3メートルほど距離をとる。

 どうかなぁ……

 さすがに無理かもなぁ。


 待つこと数分、全く何も起こらない。


「あんな所に突然現れたお菓子を警戒するのは当然でしょう。人間の匂いがしみ込んでますしね。あの子らは野生のオオカミですよ?」

 バシリーが心底馬鹿にしたように私を見る。


 くっ、くやしいーーー!!

 私が歯を噛みしめていると、

「おい! ないぞ!」

 クラウディオが叫んだ。

 あれ!? なくなってる!!

 いつの間に!?


「ごめん……早すぎて、よく分からなかった」

 マークが申し訳なさそうに私の顔を見る。

「じゃあ、もう一回、置いてみますね。今度は奴が現れたら、すぐ攻撃できるように準備しておきましょう!」


 私は、またポケットからマドレーヌを取り出すと、先程の場所にまた置いた。

「スイ、どんだけ隠し持ってるの!?」

 マークが驚きの声を上げる。

 これは私のおやつ用なのよ、マーク。

 あんな大変な思いをして作ったのに、作った本人が一つしか食べられないなんていうのは、おかしいからね。

 

 今度は目を放さないように集中する。

『いつでも準備オーケーやで!』

 ライディに頷き返す。

「あっ、来た!」

 マークの声に雷魔法を繰り出そうとした瞬間!

「あ、待ってスイ! もう、いない……」

 は!?

 マドレーヌは消えていた。

 そんな一瞬!?

 ちょ……無理でしょ。


「おやおや、これでは、ただ餌をあげただけですねぇ」

 バシリーの声が洞穴内に響く。


 く、くっそー……もう、こうなったら!


 私は最後の一個をポケットから取り出すと、バシリーから離れる。

「バシリーさん、私の姿を奴らに見えるようにしてください!」

「何するの、スイ!? 危ないよ!!」

 マークが私に近寄ろうとするが、私はそれを手で制す。

「マーク、すぐに攻撃出来るように構えててね! シェル、ちゃんと防御魔法かかってるよね!?」

『かかってるけど、どうすんの?』

 シェルの気だるげな声が服の中から聞こえた。

 もう、女は度胸だ!


 私はマドレーヌを持った手を前に出す。

「ほーら、ほーら、まだここにあるよー! 美味しいお菓子だよー! でも、もうこれが最後の一個。大人しく姿を見せないと、あげないよー!」

 大きな声でオオカミに呼びかける。


 こんなアホな手に引っかかるか分からないけど、相手は動物だからね。

 私に襲いかかったところを、マークの魔法で仕留めてもらおう。

 さっきも無事だったし、シェルの魔法を信じる!

 私は妙な自信がついていた。


「来た!」

 マークは叫び、手をかざす。だが……魔法の使用を躊躇した。

 私の目の前に現れたオオカミは、先に倒したオオカミ達より一回り大きく、私と目線の高さが同じだ。


『こいつがボスか?』

 ライディが困惑気味に呟く。

 う……どうしよう……

 私は複雑な気持ちでオオカミを見る。


 目の前の大きなオオカミは、期待のこもった瞳で私を見つめ、マドレーヌがもらえるのを、行儀よくお座りをして待っていた。



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