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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
35/127

35. 初、出兵!


 それから1時間ほどして、ベットは戻ってきた。


「連れてきたわ! 彼がそうよ。さあ、シェル、挨拶して!」


 え? どこ?

 ベットが目を向ける場所にジッと目を凝らすと、薄っすらとフィアリーズの姿が見えた。

 長めな髪のクールなイケメン風のフィアリーズだ。


「……はぁ、俺、なんでこんなとこに連れてこられたの?」


 気だるげにシェルはため息をついた。

 全く、乗り気じゃなさそう。


「もう! 何回も説明したでしょ! 人間を助けるのが私たちの役目。あなたの力を必要としている人がいるのよ!」


「それは、あんた達が頑張ればいいでしょ。俺はいいや、面倒くさい」


 ベットの説得も空しく、シェルの気は変わらなそうだ。


「初めまして。私は丸井粋華。スイといいます。異世界人です。あなたが得意だという防御魔法が必要なんです。私達の仲間になってくれませんか?」


 シェルは驚いた顔で私を見た。


「へぇ、俺が見える人間は初めてだ。うーん、でもなぁ。仲間になって、俺に何かメリットあるわけ?」


「またそんな事言って!」


 ベットは呆れ顔だ。


 今までフィアリーズは、みんな協力的だったけど、彼みたいなフィアリーズもいるんだなぁ。

 本人は嫌そうだけど、なんとか仲間になってもらいたい!

 うーむ、メリットかぁ……

 

 私はおもむろに先程作ったマドレーヌを取り出した。

 こんなんで釣れるとは思えないけど……


「仲間になってくれたら、私が作ったお菓子をいつでも食べられますよ」


 シェルの方へ差し出してみる。


「え……なにそれ?」


 彼はジロジロとマドレーヌを観察した後、パクッとかぶりついた。


「!! すげえ……」


 そう言って、眠そうだった目が大きく開いた。

 そして、あっという間に一つ食べ終わる。


「もっとねえの?」


「仲間になってくれたら、また作ってあげます」


「分かった。仲間になってやるよ」


 意外に簡単に釣れた。


「良かったね、スイ! よろしくシェル、僕はマーク!」

『ワイはライディや!』

『私はマリアですわ』

『僕、ミント』


「ふーん、ま、よろしくな」


 シェルは面倒そうに答えた。


「シェル、あなたにも体をあげようと思うんだけど、何がいい?」


「ああ、こいつらみたいのか。ふーん、俺、ヘビがいい」


「ヘビ!?」


「いいだろ?ヘビ。あいつらさ、いつも薄暗い所でジッとしててさ。冬なんか巣穴でずっと冬眠だろ? いいよなぁ」


 ごめん、何がいいのか全然分からない。

 とりあえず、ジッと動かないのが好きなのかな?

 ヘビか……あんまり好きじゃないけど、作るのは簡単そうだ。


「分かった! 今、作るから待ってて!」


 私はさっそく粘土を取り出すと、ヘビの形になるよう、丸めて伸ばしだした。なるべくかわいい見た目になるよう、目や口のバランスを整える。


「よし! 出来た!!」


「『『角は?』』」


 みんなから一斉に突っ込みが入った。

 あ……忘れてた。


 角をちゃんと付けて、いよいよシェルに入ってもらう。

 粘土のヘビは青白い光を放ち始めた。


『へえ、すげーな』


 粘土ヘビになったシェルは、それだけ言うと、くるくると渦を巻いて寝てしまった。

 ……まぁ、いいか。

 これでまた一人、フィアリーズの仲間が出来た。

 いよいよ明日、魔物討伐の旅に出発だ!

 うう、……緊張する。



 ----------



 まだ日も登らない時刻。

 緊張のあまり、浅い眠りを繰り返した私の元へ、ベットは元気に現れた。


「おはよう、スイさん! いよいよ討伐に出発ね! よく眠れた?」


 そこには、まだ半分寝ているマークの姿も。


「マークはいつも寝坊助さんだから、連れてきてあげたわよ!」


「……おはよう、ベット。どうもありがとう」

 私は目を半分だけ開けて答えた。


 軽く朝食をとった後、ハインリッヒさんも登場だ。


「スイ様、さあ、こちらにお着換えください。大急ぎで用意させました」


 さっと広げたそれは、騎士が着る制服だった。


「え? これ、私のですか?」


 クラウディオさんがいつも着ているものに似ている。


「はい。スイ様も騎士団の一員。もうすでに製作には取り掛かっていたのですが、本日、出兵に急遽決まりましたので、何とか間に合わせました。さらにこちらは、スイ様用ということで、随所に女性らしさもあしらってあります」


 私は早速、着替えてみた。

 サイズはピッタリで、所々、ピンクのアクセントがある。この辺りがこだわりか。


「とっても素敵よ、スイさん!」


 くるくると私の周りを飛び回りながら、ベットは褒めてくれた。


「大きさもちょうどいいし、着心地もいいですね! 飾りも可愛いし!」


「それは、良かった。夜通し頑張った者たちも報われます」


 私の言葉にハインリッヒさんは、おじいちゃんが孫に向けるような笑顔で頷く。

 夜通し……大変な思いをさせちゃったみたい。


「ところで、サイズを測ってもらった覚えがないんですが、よく分かりましたね」


「ああ、それは私よ! スイさんが寝ている間に測っておいたの!」


 ベットが、全く悪びれもせず答える。

 ……いつの間に?

 このフィアリーズのいる世界では、プライバシーとかないらしい。


「さあ、皆さんがお待ちです。急いで裏門へ向かってください」


「気を付けてね、スイさん。いい知らせを待っているわ!」



 私とフィアリーズの仲間たちは、二人に見送られ、裏門へ向かう。

 ここ王都の民たちには、私の存在はまだ公表していない。知られず町から出るため、裏門を使うそうだ。街中を通らず、王都から出られる。


 私たちを騎士の皆は、もう馬に乗って待っていた。

 いよいよ出発だ。無事に帰ってこれますように……!

 小さく祈りながら、私はみなの後に続く。



 挿絵(By みてみん)


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