35. 初、出兵!
それから1時間ほどして、ベットは戻ってきた。
「連れてきたわ! 彼がそうよ。さあ、シェル、挨拶して!」
え? どこ?
ベットが目を向ける場所にジッと目を凝らすと、薄っすらとフィアリーズの姿が見えた。
長めな髪のクールなイケメン風のフィアリーズだ。
「……はぁ、俺、なんでこんなとこに連れてこられたの?」
気だるげにシェルはため息をついた。
全く、乗り気じゃなさそう。
「もう! 何回も説明したでしょ! 人間を助けるのが私たちの役目。あなたの力を必要としている人がいるのよ!」
「それは、あんた達が頑張ればいいでしょ。俺はいいや、面倒くさい」
ベットの説得も空しく、シェルの気は変わらなそうだ。
「初めまして。私は丸井粋華。スイといいます。異世界人です。あなたが得意だという防御魔法が必要なんです。私達の仲間になってくれませんか?」
シェルは驚いた顔で私を見た。
「へぇ、俺が見える人間は初めてだ。うーん、でもなぁ。仲間になって、俺に何かメリットあるわけ?」
「またそんな事言って!」
ベットは呆れ顔だ。
今までフィアリーズは、みんな協力的だったけど、彼みたいなフィアリーズもいるんだなぁ。
本人は嫌そうだけど、なんとか仲間になってもらいたい!
うーむ、メリットかぁ……
私はおもむろに先程作ったマドレーヌを取り出した。
こんなんで釣れるとは思えないけど……
「仲間になってくれたら、私が作ったお菓子をいつでも食べられますよ」
シェルの方へ差し出してみる。
「え……なにそれ?」
彼はジロジロとマドレーヌを観察した後、パクッとかぶりついた。
「!! すげえ……」
そう言って、眠そうだった目が大きく開いた。
そして、あっという間に一つ食べ終わる。
「もっとねえの?」
「仲間になってくれたら、また作ってあげます」
「分かった。仲間になってやるよ」
意外に簡単に釣れた。
「良かったね、スイ! よろしくシェル、僕はマーク!」
『ワイはライディや!』
『私はマリアですわ』
『僕、ミント』
「ふーん、ま、よろしくな」
シェルは面倒そうに答えた。
「シェル、あなたにも体をあげようと思うんだけど、何がいい?」
「ああ、こいつらみたいのか。ふーん、俺、ヘビがいい」
「ヘビ!?」
「いいだろ?ヘビ。あいつらさ、いつも薄暗い所でジッとしててさ。冬なんか巣穴でずっと冬眠だろ? いいよなぁ」
ごめん、何がいいのか全然分からない。
とりあえず、ジッと動かないのが好きなのかな?
ヘビか……あんまり好きじゃないけど、作るのは簡単そうだ。
「分かった! 今、作るから待ってて!」
私はさっそく粘土を取り出すと、ヘビの形になるよう、丸めて伸ばしだした。なるべくかわいい見た目になるよう、目や口のバランスを整える。
「よし! 出来た!!」
「『『角は?』』」
みんなから一斉に突っ込みが入った。
あ……忘れてた。
角をちゃんと付けて、いよいよシェルに入ってもらう。
粘土のヘビは青白い光を放ち始めた。
『へえ、すげーな』
粘土ヘビになったシェルは、それだけ言うと、くるくると渦を巻いて寝てしまった。
……まぁ、いいか。
これでまた一人、フィアリーズの仲間が出来た。
いよいよ明日、魔物討伐の旅に出発だ!
うう、……緊張する。
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まだ日も登らない時刻。
緊張のあまり、浅い眠りを繰り返した私の元へ、ベットは元気に現れた。
「おはよう、スイさん! いよいよ討伐に出発ね! よく眠れた?」
そこには、まだ半分寝ているマークの姿も。
「マークはいつも寝坊助さんだから、連れてきてあげたわよ!」
「……おはよう、ベット。どうもありがとう」
私は目を半分だけ開けて答えた。
軽く朝食をとった後、ハインリッヒさんも登場だ。
「スイ様、さあ、こちらにお着換えください。大急ぎで用意させました」
さっと広げたそれは、騎士が着る制服だった。
「え? これ、私のですか?」
クラウディオさんがいつも着ているものに似ている。
「はい。スイ様も騎士団の一員。もうすでに製作には取り掛かっていたのですが、本日、出兵に急遽決まりましたので、何とか間に合わせました。さらにこちらは、スイ様用ということで、随所に女性らしさもあしらってあります」
私は早速、着替えてみた。
サイズはピッタリで、所々、ピンクのアクセントがある。この辺りがこだわりか。
「とっても素敵よ、スイさん!」
くるくると私の周りを飛び回りながら、ベットは褒めてくれた。
「大きさもちょうどいいし、着心地もいいですね! 飾りも可愛いし!」
「それは、良かった。夜通し頑張った者たちも報われます」
私の言葉にハインリッヒさんは、おじいちゃんが孫に向けるような笑顔で頷く。
夜通し……大変な思いをさせちゃったみたい。
「ところで、サイズを測ってもらった覚えがないんですが、よく分かりましたね」
「ああ、それは私よ! スイさんが寝ている間に測っておいたの!」
ベットが、全く悪びれもせず答える。
……いつの間に?
このフィアリーズのいる世界では、プライバシーとかないらしい。
「さあ、皆さんがお待ちです。急いで裏門へ向かってください」
「気を付けてね、スイさん。いい知らせを待っているわ!」
私とフィアリーズの仲間たちは、二人に見送られ、裏門へ向かう。
ここ王都の民たちには、私の存在はまだ公表していない。知られず町から出るため、裏門を使うそうだ。街中を通らず、王都から出られる。
私たちを騎士の皆は、もう馬に乗って待っていた。
いよいよ出発だ。無事に帰ってこれますように……!
小さく祈りながら、私はみなの後に続く。




