33. 午後はのんびり…?
マリアさんは、てくてくと私の傍まで来ると、ズボンの裾を引っ張った。
「何ですか?」
わたしは嫌な予感を感じながら、しゃがんでマリアさんを見た。
『スイ様は、アルフレッド様が好きなんですの?』
こそこそと小さな声で言うマリアさんの顔は、わくわくと嬉しそうだ。
はぁ……、やっぱり。
周りを見回してみたが、私達の事を気にしている人は居ない様だ。
私は少しホッとしつつ、ここはしっかり誤解を解かねばいけないと決意する。
「もうっ、違う、違う! この前、王女様と話した時に誤解されたりして、変に意識しちゃっただけで、アルフの事はお友達だと思ってるから!」
小さい声ながらも、しっかりと断言する。
『まあ、そうですの? でも、些細なきっかけから、恋に発展することもありますから……』
マリアさんは意味深に、ふふふと笑う。
もう、女子は恋バナ好きが多いんだから!
私は遠慮したい。
「もう! 絶対、他の人には言わないで……ギャ!」
私が言い終わるより先に、後ろから突然、腕を掴まれた。
驚いて振り返ると、クラウディオさんも驚いた顔で私を見下ろしていた。
「こんな所に座り込んで、まだ具合が悪いのか?」
ぶっきらぼうな言い方ながらも、その顔は心配してくれているように見える。
「あ……いえ。もう、大丈夫です……よ?」
あれ?
クラウディオさんでも、少しは私の心配をしてくれてるのかな?
驚いて見上げる私の腕を引いて立ちあがらせると、クラウディオはさらに驚くことを言い放った。
「お前の今日の訓練はここまでだ。部屋に戻って休め」
おお!?
私の体調を思っての配慮!
まったくの鬼ってわけでもなかったんだね!
嬉しさで目頭が熱くなってきた。
……と、そこでハッとした。
うん?でも、待てよ?
そういえば、私、午前中2回も倒れたんだった……。
午後から休みなんて、普通の対応なんじゃない?
こちらの世界でいろいろあったせいで、どうやら私の中の優しさのハードルが下がっていたようだ。
私の中のクラウディオに対する評価が上がったかと思いきや、またまた急下降をたどった。
「さっきから、なに百面相してるんだ。頭でも打ったか? しょうがない、俺が部屋まで送っていこう」
はい!?
何言いだすんだこいつは!!
「いえいえ! クラウディオさんのお手を煩わせるわけにはいきません。まだ、みなさんは午後から訓練がありますから。私は大丈夫ですので!」
はっきり、きっぱりお断りします。
ついてくんな!
「僕たちがいるから平気だよー!」
マークは私に顔を寄せ、ねぇーと微笑み合う。
「……そうか」
クラウディオは、渋々といった感じで頷いた。
「では、すみません、みなさん。お先に失礼します」
頭を下げてみんなに挨拶する。
「おう、スイ! ちゃんと休めよ」
「もう、ぶっ倒れるなよな!」
みんなが声を掛けてくれる。
「いいなぁ、俺も休みがいい」
そう言ったロイさんは、
「お前が一番訓練が必要だろ!」
「お前は俺たちの2倍頑張れ!」
みなさんからの激しい突っ込みを受けていた。
そうこうして、粋華は自室に戻った。
その後、騎士4人が食事の後片付けをしていたところ、突然、扉がバターン!と大きな音を出して開かれる。
騎士たちが驚いて振り向くと、昨日と全く同じ光景が!
「あら? スイはどちらかしら?」
エミーリア王女が、昨日とは違うセリフで立っていた。
「王女様、すみません。スイは体調が悪くて、先程、自室に戻りました」
ホレスは申し訳なさそうに答える。
「まあ! 体調が!? それは大変だわ!」
「あ……でも、もう大分回復したようでしたが、念の為ということで」
「あら、そうですの。それなら、良かったですわ。……それより、」
エミーリア王女はホッと胸を抑えると、今度は騎士たちの顔をジッと見回し、質問する。
「この中にアルフとやらは、居りますの?」
「あ……はい! 私です!」
一人の長身の若者が声を上げる。もちろん、アルフレッドだ。
「まあ、あなたですの……?」
王女は、ジロジロとアルフレッドを見ると、
「そう……。確かに爽やかそうな好青年ですわね」
ボソボソと一人呟く。
「は?」
「いえっ、こちらのお話ですわ!」
王女は慌ててそれだけ言うと、もう用はないとばかりに踵を返し、早々に小屋から立ち去った。
みんなは呆気にとられて、しばし扉を見つめていたが……
「お前、何かやったのか?」
ホレスが心配そうにアルフレッドに問う。
「いえ……何も覚えがないんですが……?」
アルフレッドは首を捻るしかなかった。
≪ライディ視点≫
『なんやあいつ。ずっと付いてきよる』
ワイはみんなに聞こえん声でつぶやいた。
マークは気づいているようだが、あえて無視しているようだ。
『スイ、ワイちょっと離れてもええか?』
「え? ライディ、何か用事?……行ってもいいけど、ライディが一人でうろうろしてると、みんなが怖がらないかなぁ」
スイは心配そうにワイを見た。
ワイは見た目はめっちゃかっこいい剣やからな。
みんなが憧れ、恐れるのも無理はない。
『大丈夫や! そんな、あっちこっち行かんから! お前、この後、部屋で休んどるだけやろ? 退屈なんや』
「うーん、分かった。みんなに喧嘩吹っ掛けたりしないで、大人しくしててよ」
スイは渋々頷いた。
スイの了解が取れたので、早速行動開始や!
ずっとワイらを見ていた影に近づく。
『付いてこんでも大丈夫やて、スイに言われたやろ? 何の用や』
少し離れて付いてきていた魔導士に向かって、声を掛けた。
魔導士はワイに向かって、気まずそうな顔をしながら、
「うむ。ああは言っていたが、少し心配でな。部屋に入るまではと思ったのだが……」
いつもの威厳は感じられず、クラウディオはボソボソと小さな声で言った。
何やこいつ?
いつも偉そうな態度しとるが、そうとう過保護な体質みたいやなあ。
そんなにスイが心配やったんか?
『スイなら、他のフィアリーズが付いとるさかい、大丈夫や。何や体調悪うなってもマリアが居るしな!』
「む……そうだな。俺はもう戻ろう」
クラウディオは来た道を振り返った。
『ちょい待ち! さっき、手合わせさせてもらった時、気づいたんやけど、あんた腕に怪我しとるんやないか?』
クラウディオは、意外とばかりに目をみはると、
「よく気付いたな。しかしこれは昔の傷だ。まだ完全には癒えていないが、この先も元には戻らないだろう」
そう言って、右腕を押さえた。
『そうなんか……。無理させてしまったんかな?』
「いや、このくらいなら大丈夫だ。ただ、昔の様には動かせないだけだ」
クラウディオは少し悲しそうな顔を見せた。
そんな二人の元に、伝達係の騎士が走って近づいてきた。
「ああ、魔導士様! こちらにおられましたか! 只今、討伐部隊の出兵命令が出されました。明日の早朝出発するようにとの王命です」
「……それは異世界人も一緒にか?」
「はい! いつものメンバーと、異世界人のスイ様も一緒にとのことです!」
「そうか、ご苦労」
クラウディオの言葉を聞くと、騎士は頭を下げて走り去っていった。
『お! いよいよワイの出番やな! 腕がなるわー!』
ワイの言葉にクラウディオは鋭い視線をぶつけてきた。
「気楽に考えるな。お前らと一緒にいる娘は、弱いただの人間だ。気を引き締めていかなければ、簡単に命を失うかもしれないんだぞ!」
ワイを睨む魔導士の目は真剣だ。
まぁ、こいつの言っとることも分かる。
スイは、自身は魔法も使えず、ワイらがいなけりゃ攻撃も防御も、なあんも出来ん小娘やからな。
……にしても、スイはお前のなんなんや?
ライディは、魔導士の過保護っぷりに、少し呆れた。
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はあ……なんか、すごく久しぶりな気がする。
私は、部屋に戻ってゆったりとソファーに座って考える。
「こんなにのんびり出来るのって、この世界に来てから、牢屋に閉じ込められてた時、以来じゃないかな?」
マークに向かって言うと、
「そうだね。スイはこの世界で頑張ってると思うよ。牢屋の中でのんびり出来るって、あんまり言わないと思うけど」
苦笑いで答えてくれた。
そんな、ほのぼのした時間を過ごしていると……
バターン!!
突然、部屋のドアが開いた。
「スイ! 大丈夫ですの!?」
「エミーリア様、ノックをしてからお開けください」
扉の前にはエミーリア王女と、その後ろには侍女が立っていた。
び、びっくりした……
「あ、エミーリア様、いらっしゃい」
驚いて、変な挨拶をしてしまったが、この王女にはこの対応で大丈夫だろう。
とりあえず、部屋に入ってもらって、要件を聞くことにする。
「もう! 訓練場まで行って驚きましたわ! 具合が悪いんですって!?」
王女は興奮している。
「エミーリア様、病人の前では声をおとし、静かにお話ください」
侍女が冷静に突っ込む。
「わざわざお見舞いに来てくれたんですか? ありがとうございます。でも、もう大丈夫なんですよ。せっかくだから、ゆっくりさせてもらってるだけで……」
わざわざ訪ねてくれた王女に申し訳なく思う……。
「良かったわ! 騎士の方にも、そう聞いていたんですけどね。……まあ、用事は他にもありますのよ」
王女はニヤリと笑って私を見る。
あ……嫌な予感。
「昨日の計画、せっかくですから今からいたしません!?」
嫌な予感的中!!
「えっと……まだ本調子じゃないので、また今度という訳には……」
私の声に被せるように、
「いきませんわ!」
王女は勢いよく言い切った。
「……スイ、ごめんなさい。私、疑っておりましたの」
突然、謝ってきた。
……なに?
「本当は、スイはクラウディオ様のことが気になっていて、アルフという彼は、言い訳に使ったんじゃないかって……。でも先程、小屋でアルフという者を見てきましたわ! スイにお似合いの方だと安心いたしました! こうなったら一刻も早く二人をくっつけて、私もクラウディオ様と……!!」
!! ちょっと!
アルフに変なこと言ってないでしょうねぇ!
それにしても、王女はなんだか焦っている気がする……
「なぜ、そんなに急いでるんですか?」
素朴な疑問……
「スイ様は、この世界の女性の結婚適齢期がいくつかご存じですか?」
突然、侍女に質問された。
「え?……いえ」
「16~18歳です。そして、エミーリア様は18歳。来年には行き遅れのレッテルを張られることになります」
あら、けっこう早いんだね。
昔の人みたいだ。
……というと、22歳の私は???
「……というわけで、エミーリア様は大変焦っていらっしゃるのです」
そんな侍女の指摘に、王女は、
「もう厨房の使用許可はとってきましたわ! さあ、スイ。行きましょう!」
私の手を取ると、有無を言わさず強引に引っ張っていく。
私たちは厨房に辿り着いた。
少し古びた様子で、誰もいない。
「ここは、昔使っておりました厨房です。材料は用意してあります」
侍女はそう言うと、
「では、スイ様。私がお手伝いいたします。スイーツ作りを始めましょう」
と、袖をまくり上げた。




