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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
33/127

33. 午後はのんびり…?


 マリアさんは、てくてくと私の傍まで来ると、ズボンの裾を引っ張った。


「何ですか?」


 わたしは嫌な予感を感じながら、しゃがんでマリアさんを見た。


『スイ様は、アルフレッド様が好きなんですの?』


 こそこそと小さな声で言うマリアさんの顔は、わくわくと嬉しそうだ。

 

 はぁ……、やっぱり。

 周りを見回してみたが、私達の事を気にしている人は居ない様だ。

 私は少しホッとしつつ、ここはしっかり誤解を解かねばいけないと決意する。


「もうっ、違う、違う! この前、王女様と話した時に誤解されたりして、変に意識しちゃっただけで、アルフの事はお友達だと思ってるから!」


 小さい声ながらも、しっかりと断言する。


『まあ、そうですの? でも、些細なきっかけから、恋に発展することもありますから……』


 マリアさんは意味深に、ふふふと笑う。

 もう、女子は恋バナ好きが多いんだから!

 私は遠慮したい。


「もう! 絶対、他の人には言わないで……ギャ!」

 

 私が言い終わるより先に、後ろから突然、腕を掴まれた。

 驚いて振り返ると、クラウディオさんも驚いた顔で私を見下ろしていた。


「こんな所に座り込んで、まだ具合が悪いのか?」


 ぶっきらぼうな言い方ながらも、その顔は心配してくれているように見える。


「あ……いえ。もう、大丈夫です……よ?」


 あれ?

 クラウディオさんでも、少しは私の心配をしてくれてるのかな?

 驚いて見上げる私の腕を引いて立ちあがらせると、クラウディオはさらに驚くことを言い放った。


「お前の今日の訓練はここまでだ。部屋に戻って休め」

 

 おお!?

 私の体調を思っての配慮!

 まったくの鬼ってわけでもなかったんだね!

 嬉しさで目頭が熱くなってきた。

 ……と、そこでハッとした。

 うん?でも、待てよ?

 そういえば、私、午前中2回も倒れたんだった……。

 午後から休みなんて、普通の対応なんじゃない?

 こちらの世界でいろいろあったせいで、どうやら私の中の優しさのハードルが下がっていたようだ。

 私の中のクラウディオに対する評価が上がったかと思いきや、またまた急下降をたどった。

 

「さっきから、なに百面相してるんだ。頭でも打ったか? しょうがない、俺が部屋まで送っていこう」


 はい!?

 何言いだすんだこいつは!!


「いえいえ! クラウディオさんのお手を煩わせるわけにはいきません。まだ、みなさんは午後から訓練がありますから。私は大丈夫ですので!」


 はっきり、きっぱりお断りします。

 ついてくんな!


「僕たちがいるから平気だよー!」


 マークは私に顔を寄せ、ねぇーと微笑み合う。


「……そうか」


 クラウディオは、渋々といった感じで頷いた。  


「では、すみません、みなさん。お先に失礼します」


 頭を下げてみんなに挨拶する。


「おう、スイ! ちゃんと休めよ」

「もう、ぶっ倒れるなよな!」


 みんなが声を掛けてくれる。


「いいなぁ、俺も休みがいい」


 そう言ったロイさんは、


「お前が一番訓練が必要だろ!」

「お前は俺たちの2倍頑張れ!」


 みなさんからの激しい突っ込みを受けていた。



 そうこうして、粋華は自室に戻った。

 その後、騎士4人が食事の後片付けをしていたところ、突然、扉がバターン!と大きな音を出して開かれる。

 騎士たちが驚いて振り向くと、昨日と全く同じ光景が!


「あら? スイはどちらかしら?」


 エミーリア王女が、昨日とは違うセリフで立っていた。


「王女様、すみません。スイは体調が悪くて、先程、自室に戻りました」


 ホレスは申し訳なさそうに答える。


「まあ! 体調が!? それは大変だわ!」


「あ……でも、もう大分回復したようでしたが、念の為ということで」


「あら、そうですの。それなら、良かったですわ。……それより、」


 エミーリア王女はホッと胸を抑えると、今度は騎士たちの顔をジッと見回し、質問する。


「この中にアルフとやらは、居りますの?」


「あ……はい! 私です!」


 一人の長身の若者が声を上げる。もちろん、アルフレッドだ。


「まあ、あなたですの……?」


 王女は、ジロジロとアルフレッドを見ると、


「そう……。確かに爽やかそうな好青年ですわね」


 ボソボソと一人呟く。


「は?」

「いえっ、こちらのお話ですわ!」


 王女は慌ててそれだけ言うと、もう用はないとばかりに踵を返し、早々に小屋から立ち去った。

 みんなは呆気にとられて、しばし扉を見つめていたが……


「お前、何かやったのか?」


 ホレスが心配そうにアルフレッドに問う。


「いえ……何も覚えがないんですが……?」


 アルフレッドは首を捻るしかなかった。




 ≪ライディ視点≫


『なんやあいつ。ずっと付いてきよる』


 ワイはみんなに聞こえん声でつぶやいた。

 マークは気づいているようだが、あえて無視しているようだ。


『スイ、ワイちょっと離れてもええか?』

 

「え? ライディ、何か用事?……行ってもいいけど、ライディが一人でうろうろしてると、みんなが怖がらないかなぁ」


 スイは心配そうにワイを見た。

 ワイは見た目はめっちゃかっこいい剣やからな。

 みんなが憧れ、恐れるのも無理はない。


『大丈夫や! そんな、あっちこっち行かんから! お前、この後、部屋で休んどるだけやろ? 退屈なんや』


「うーん、分かった。みんなに喧嘩吹っ掛けたりしないで、大人しくしててよ」


 スイは渋々頷いた。


 スイの了解が取れたので、早速行動開始や!

 ずっとワイらを見ていた影に近づく。


『付いてこんでも大丈夫やて、スイに言われたやろ? 何の用や』


 少し離れて付いてきていた魔導士に向かって、声を掛けた。


 魔導士はワイに向かって、気まずそうな顔をしながら、

「うむ。ああは言っていたが、少し心配でな。部屋に入るまではと思ったのだが……」


 いつもの威厳は感じられず、クラウディオはボソボソと小さな声で言った。


 何やこいつ?

 いつも偉そうな態度しとるが、そうとう過保護な体質みたいやなあ。

 そんなにスイが心配やったんか?


『スイなら、他のフィアリーズが付いとるさかい、大丈夫や。何や体調悪うなってもマリアが居るしな!』


「む……そうだな。俺はもう戻ろう」


 クラウディオは来た道を振り返った。


『ちょい待ち! さっき、手合わせさせてもらった時、気づいたんやけど、あんた腕に怪我しとるんやないか?』


 クラウディオは、意外とばかりに目をみはると、

「よく気付いたな。しかしこれは昔の傷だ。まだ完全には癒えていないが、この先も元には戻らないだろう」


 そう言って、右腕を押さえた。


『そうなんか……。無理させてしまったんかな?』


「いや、このくらいなら大丈夫だ。ただ、昔の様には動かせないだけだ」


 クラウディオは少し悲しそうな顔を見せた。


 そんな二人の元に、伝達係の騎士が走って近づいてきた。


「ああ、魔導士様! こちらにおられましたか! 只今、討伐部隊の出兵命令が出されました。明日の早朝出発するようにとの王命です」


「……それは異世界人も一緒にか?」


「はい! いつものメンバーと、異世界人のスイ様も一緒にとのことです!」


「そうか、ご苦労」


 クラウディオの言葉を聞くと、騎士は頭を下げて走り去っていった。


『お! いよいよワイの出番やな! 腕がなるわー!』

 

 ワイの言葉にクラウディオは鋭い視線をぶつけてきた。


「気楽に考えるな。お前らと一緒にいる娘は、弱いただの人間だ。気を引き締めていかなければ、簡単に命を失うかもしれないんだぞ!」

 

 ワイを睨む魔導士の目は真剣だ。

 まぁ、こいつの言っとることも分かる。

 スイは、自身は魔法も使えず、ワイらがいなけりゃ攻撃も防御も、なあんも出来ん小娘やからな。

 ……にしても、スイはお前のなんなんや?

 ライディは、魔導士の過保護っぷりに、少し呆れた。



 ----------



 はあ……なんか、すごく久しぶりな気がする。

 私は、部屋に戻ってゆったりとソファーに座って考える。


「こんなにのんびり出来るのって、この世界に来てから、牢屋に閉じ込められてた時、以来じゃないかな?」


 マークに向かって言うと、


「そうだね。スイはこの世界で頑張ってると思うよ。牢屋の中でのんびり出来るって、あんまり言わないと思うけど」


 苦笑いで答えてくれた。

 そんな、ほのぼのした時間を過ごしていると……


 バターン!!

 突然、部屋のドアが開いた。


「スイ! 大丈夫ですの!?」

「エミーリア様、ノックをしてからお開けください」


 扉の前にはエミーリア王女と、その後ろには侍女が立っていた。


 び、びっくりした……


「あ、エミーリア様、いらっしゃい」


 驚いて、変な挨拶をしてしまったが、この王女にはこの対応で大丈夫だろう。

 とりあえず、部屋に入ってもらって、要件を聞くことにする。


「もう! 訓練場まで行って驚きましたわ! 具合が悪いんですって!?」


 王女は興奮している。


「エミーリア様、病人の前では声をおとし、静かにお話ください」


 侍女が冷静に突っ込む。


「わざわざお見舞いに来てくれたんですか? ありがとうございます。でも、もう大丈夫なんですよ。せっかくだから、ゆっくりさせてもらってるだけで……」


 わざわざ訪ねてくれた王女に申し訳なく思う……。


「良かったわ! 騎士の方にも、そう聞いていたんですけどね。……まあ、用事は他にもありますのよ」


 王女はニヤリと笑って私を見る。

 あ……嫌な予感。


「昨日の計画、せっかくですから今からいたしません!?」


 嫌な予感的中!!


「えっと……まだ本調子じゃないので、また今度という訳には……」


 私の声に被せるように、


「いきませんわ!」

 

 王女は勢いよく言い切った。


「……スイ、ごめんなさい。私、疑っておりましたの」


 突然、謝ってきた。

 ……なに?


「本当は、スイはクラウディオ様のことが気になっていて、アルフという彼は、言い訳に使ったんじゃないかって……。でも先程、小屋でアルフという者を見てきましたわ! スイにお似合いの方だと安心いたしました! こうなったら一刻も早く二人をくっつけて、私もクラウディオ様と……!!」


 !! ちょっと!

 アルフに変なこと言ってないでしょうねぇ!

 それにしても、王女はなんだか焦っている気がする……


「なぜ、そんなに急いでるんですか?」


 素朴な疑問……


「スイ様は、この世界の女性の結婚適齢期がいくつかご存じですか?」


 突然、侍女に質問された。


「え?……いえ」


「16~18歳です。そして、エミーリア様は18歳。来年には行き遅れのレッテルを張られることになります」


 あら、けっこう早いんだね。

 昔の人みたいだ。

 ……というと、22歳の私は???


「……というわけで、エミーリア様は大変焦っていらっしゃるのです」

 そんな侍女の指摘に、王女は、

「もう厨房の使用許可はとってきましたわ! さあ、スイ。行きましょう!」


 私の手を取ると、有無を言わさず強引に引っ張っていく。

 私たちは厨房に辿り着いた。

 少し古びた様子で、誰もいない。


「ここは、昔使っておりました厨房です。材料は用意してあります」

 侍女はそう言うと、

「では、スイ様。私がお手伝いいたします。スイーツ作りを始めましょう」

と、袖をまくり上げた。



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