32. ライディとの特訓の続き
「す……すごいんだね、ライディは……!」
『そやな! ま、ちょっと本気を出せば、こんなもんや!』
ライディはエヘンと得意そうに答える。
「こんなすごかったら、魔物なんて簡単に倒せちゃうんじゃない?」
もう訓練なんて必要ないね!
「いや、この世界の魔物を侮るな。このくらいやってのける魔獣も、うようよいるぞ。魔力の強い魔物には近づくことも難しいだろう。近づく前に魔法をくらう」
クラウディオは厳しい目で私を見る。
え?
このくらい出来て当然のレベルなの!?
そんな恐ろしい世界にきちゃったんだ……
私は真っ二つに切られた木を見て、気持ちが沈む。
この木が明日は我が身かぁ……
『よっしゃ! 今度は魔法の特訓や! ドカーンとやるでー!』
そっか、ライディは魔法も使えるもんね!
確かに訓練は必要かもしれない。
近づけない敵には魔法が有効だ。
「……ところでライディ、魔法はこの前と同じ、雷魔法?」
『そうや! ワイはそれしか出来んからな!』
えっと、ちょっと待てよ?
この前は私までくらったんですけど!?
また二の舞になるんじゃ……?
『それ、雷魔法やー!』
ライディの掛け声と共に眩しい光に包まれる。
ドガガーーン!!
轟音を聞きながら、目の前が真っ暗になった。
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目を開けると、心配そうに見つめる騎士たちと目が合った。
はい、本日二度目ですね!
私は先程に続き、また意識を失っていたようだ。
ゆっくりと体を起こすと、そこは訓練場ではなく、昨日、昼食を作って食べた小屋だった。
「ああ、良かった。やっと目が覚めたな。全然起きないから、ここまで運んできたんだ。もう昼飯作ったから食べようぜ」
アルフレッドが明るく言った。
ええっ、もう昼!?
私は結構長い間、眠ってしまっていたらしい。
私はキョロキョロと辺りを探す。
どーこーだー……?
「スイ、ライディならあそこだよ」
マークが指さした。
見ると、小屋の隅の薄暗い所に、ポツンと置かれた剣が。
そこか……
「ラ、イ、ディ……?」
私は低い声で名を呼び、剣に近づく。
『ワーーーーー!! すまんかった、すまんかった! 悪気はないんや!』
「前もそんな事言ってましたよねぇ……?」
『でも、今日はこの前よりは威力を抑えたつもりやったんや! そやから大丈夫やと思ったんやけど……』
ライディの声は、だんだん小さくなる。
反省はしているようだ。
「はぁ……分かりました。もう、いいですよ」
これ以上責めても仕方ないか……
私は渋々許した。
「しかし……、困ったね。これでは魔法は使えなそうだね」
アルフレッドは心配そうに私たちを見た。
本当だよ。
どうしよう……
とりあえず心配事は後回しにして、私はみんなの作ってくれた昼食を頂く。
もぐもぐもぐ。うん、美味しい!
あー……生き返るー!
「スイのそういう図太いとこ、凄いと思う」
マークは呆れたような顔で私を見ている。
うん、気にしない。
ふと、騒ぎ声に気が付いてそちらを見ると、先に食べ終わった騎士たちが仔馬のミントを囲んでいる。
「なあなあスイ! ちょっと俺も乗ってみたいんだけど、駄目かな?」
ロイさんがこちらをチラチラ伺っている。
みなさん、空飛ぶ仔馬に興味深々のようだ。
「ええ、ミントがいいっていうなら、いいですよ」
私の言葉にミントは、
『うん、いいよー。乗せてあげる』
のんびりとした口調でロイさんに頷いた。
「おい、お前大丈夫か? また無茶するなよ」
ホレスさんが心配している。
確かに、ロイさんは見ていていつも心配だ。
「大丈夫ですって。よろしくお願いします、ミント様!」
ロイさんは元気よく言うと、ミントを連れていそいそと外へ出る。
私も心配になってきて、いそいで昼食をかきこむと、二人を追って外へと出た。
ロイさんが恐る恐るミントに跨ると、ミントはゆっくりと羽をはばたかせる。
10センチほど宙に浮かんだ。
『あれ? なんかおかしいなぁ』
ロイさんを乗せたミントは、フワフワとゆっくりと歩く速度で前に進んだ。
「ミント様、もう少し早くても大丈夫ですよ」
ロイさんが声を掛ける。
『うん、でも無理。これ以上早く飛べない』
ミントはそのままのスピードで小屋の周りをのろのろと回ると、私達の前で止まった。
「ミント、大丈夫? どっか調子悪いの?」
さっき、無理させちゃったのかも……?
私が心配して声を掛けると、
『ううん、大丈夫。ただねぇ、力が全然出ないの』
「力が……?」
うーん……どうして力が?
何も思い当たる節がない。
「スイが乗ってないからじゃないか?」
アルフレッドが言った。
「スイと一緒に乗ったらどうだろう」
ミントに声を掛け、アルフレッドがミントに跨る。
私を手招きして、前に座るように促す。
「ほら、スイは俺の前に乗って」
ミントは私が一人で乗るように作ったので、背中はそんなに大きくない。
私は狭い隙間に何とか座った。
背中にピッタリと当たるアルフレッドの体。彼の体温を感じる。
もうっ、王女様が変なこと言うから、意識しちゃうじゃないかー!
私は、カッカと顔が熱くなってくる。
みんなにばれない様に俯いた。
『あ、これならいけそう』
ミントはそう言うと、羽を広げて宙に浮かぶ。
フワリと屋根までの高さまで上がると、小屋の周りをくるくると飛び回った。
ロイさんを乗せた時とは比べ物にならないくらい軽やかに。
そしてまた、みんなの前に着地する。
「やっぱりな! その剣もそうだけど、スイが魔力を与えてるんじゃないかと思ったんだ」
私の耳元でアルフレッドはそう言って笑った。
耳に彼の息がかかり、体が思わずビクッと震える。
ひぇーーー!!
もう、止めてほしい……。
全身が熱くなって、汗をかき始めた。
そこを目ざとくマークが気付いた。
「あれ? スイ大丈夫? 何か顔が赤い……」
マークが言い終わる前に、私はビュンと素早くミントから降りる。
「ミント、調子が悪いわけじゃなくて良かった! 本当だね、アルフ! 私が乗ったら大丈夫だったね!」
早口で言って、何とか誤魔化した。
ふう……
王女様だけじゃなく、みんなにまで冷やかされたら、たまったもんじゃないからね。
なんとか誤魔化せて、私はホッと胸を撫で下ろした。
ん?
視線を感じてそちらを見ると、マリアさんが生暖かい目で私を見ていた。




