3. フィアリーズのマーク
挿絵を差し替えました。
「うふふっ、幻じゃないよー!」
目の前の妖精さんらしき男の子がにっこりと微笑んだ。
「初めまして、僕はアソシエ地方一帯の王、マーク・ベルだよ! よろしくね! 異世界からのお客人!」
「……え? 今なんて?」
「うん? 僕はアソシエ地方の王だよ!」
「あ、その次」
「マーク・ベルだよ!」
「…………」
あ、やっぱそうなんだ。
ふーん、マークベル……ベルマーク。
「……何か思ったのと違う反応だね。いきなりこの世界に来てしまった君は、不安でいっぱいだと思ってたけど、けっこう平気そうだね!」
よかったぁと、またにっこり。
「あのー……、これが現実だとして、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うんっ! 何でも聞いて!」
「さっき、異世界って言ってたんですが、ここは異世界なんですか?」
「君から見たら、ここが異世界だね! ここは、エアラーク大陸にあるエアールという国のアソシエ地方にある、アソイツ村だ!」
いっぱい地名が出てきたぞ。
とても覚えきれん。
「えっと……ここは、地球という星じゃないんですか?」
「うんっ! この星に名前はないよ! まだ誰も名前を付けてないからね!」
私はガックリと地面に両手をついた。
日本じゃないどころか、地球でもなかったとは!!
「大丈夫? ショックかもしれないけど安心して! これからは僕がついてるからね! 何でも助けてあげる。ふふっ、僕と一緒なら言葉も心配しなくていいよ!」
「そうだ! 言葉! 妖精さんは日本語が解るの?」
「日本語? 君の言葉のことかな? 僕たちは言葉を喋っているわけじゃないんだよ。魔法で会話してるんだ。僕の魔法は会話が出来るんだよ!」
「へえ……、さすが妖精さん。魔法が使えるんだね」
さすが異世界!
魔法があるんだ!
「ねぇ、ヨウセイサンって僕のこと? 君たちの世界ではそう言うの? 僕たちはこの世界を作ってる神様みたいなものだよ。この世界のすべてに僕たちがいる。人間たちは僕らのことを“フィアリーズ”と呼んでるよ!」
「フェアリーズ?」
「フィアリーズ!」
訂正された。
「君のことを教えてくれたのも、ここにいるフィアリーズだよ! フィアリーズはどこにでもいるからね。僕たちに分からないことなんて、何もないのさ!」
「え? ここにもいるの?」
私は周りを見渡した。
あれ?
ちょっと前に聞こえた声って、そのフィアリーズの声?
目の前の男の子はクスクスと笑う。
「力の弱いフィアリーズは、君でも見ることは出来ないみたいだね」
目に見えないフィアリーズがここにいるの?
「それから、僕のことはマークって呼んでね! それで、君のことは何て呼べばいい?」
「あっ。私の名前は丸井粋華。“スイ”って呼んで!」
友達たちには、みんなにこう呼んでもらっている。
また会えるんだろうか……みんな……
「わかった! よろしくね、スイ!」
「うん! よろしく、マーク!」
私は握手をしようと、手を差し出した。
フィアリーズのマークはふわふわと飛んで、私の人差し指を両手で掴んだ。
「わぁ! ホントに触れるんだ! ビックリ!!」
マークが叫んだ。
え? 私も驚いたけど、マークがビックリ?
「触れてビックリ?」
私の疑問に、マークは複雑な笑顔で言った。
「そう、この世界の人間はフィアリーズには触れることは出来ないんだよ。それどころか見ることも声を聴くことさえも出来ない。こちらからは全部見えてるのにね。
ごく稀に、魔力が強くフィアリーズとの相性がとてもいい人間は僕らが見えるみたいだよ。まだそんな人間に僕は会ったことがないけどね!」
「えーっ!? 他の人には見えないってこと? それでどうやって助けてくれるの!?」
私は言った後、ハッと気づいた。
まず、一番の願いを口にしてみる。
「そうだ! 元の世界に帰ることは出来る!?」
マークはますます微妙な笑顔になって、申し訳なさそうに言った。
「ごめんね。さすがに僕たちでも君を返すことはむつかしいと思う。僕の強大な魔力をもってしても、あの空間の切れ目を作り出すのは無理っぽい」
てへっと可愛く片目をつぶった。
空間の切れ目……
あの涼しい風はこちらの世界から流れてきてたのか?
もしかして私は、まんまと自分からこちらの世界に入ってきてしまった!?
「……無理っぽい……」
マークの言った言葉を繰り返してつぶやいてみた。
マーク曰く、この世界の神様のような力を持っている彼でさえ、無理っぽい……
元の世界に帰るのは無理なの……?
衝撃にしばらくじっと地面を見ていた。
そして、お腹がクゥーとなった。
……とりあえず、もとの世界に帰るのは後回しにして、今現在の問題をどうにかしなければ!!
「じゃあまず、ここから出たいんだけど、出してくれる?」
マークに頼んでみた。
「今は出来ない」
マークはニッコリ微笑んだ。
「え?……それも無理なの!?」
あれれ? 何だか雲行きが怪しくなってきたぞ……?
マークは自分は神様みたいにすごいって言ってたけど、どうやら言うほど大したもんではないらしい。
「ちょっと!! 今、失礼なこと思ったでしょ! まあ、僕の力をもってすれば、本当はこんな所から出るのは容易いけどね。でも、今は大人しくしてたほうがいいの! ここの世界の人間たちと仲良くしたければね!」
何かわかんないけど、マークには考えがあるらしい。
私は、はぁーとため息をつく。
「そうなんだ……。じゃあさ、私、お腹ペコペコなんだよね。何か食べ物くれないかな?」
「フィアリーズは食べなくても平気なんだ! だから何も持ってないよ!」
「え!? だったら何か探してきてくれないかな? お願い!」
マークは私の声が聞こえていないかのように、大きなあくびをしながら伸びをした。
「あー……もう僕、おやすみの時間だ……。早く寝ないと動けなくなっちゃう……スイ、また明日ね~」
マークはふわふわと漂いながら背中を向けた。
「はぁ!? ちょっと待って! まだ聞きたいことが! ちょっとマーク!!」
この展開でいきなりの退場!?
私は大声をあげて引き留めようとしたけれど、マークはそれを全く無視して、壁をすり抜けて飛び去ってしまった。
「マークー! 戻ってきてー! カムバーーック!!」
「※※※※※※※※※※!!!」
外の見張りが私の大声になにやら怒鳴り返してきた。
あっ、少し涙が……