28. 王女と××
汗と埃にまみれた服を着替え、案内された部屋の前に到着した。
メイドさんがドアをノックする。
「どうぞ」
昼間聞いた、愛らしい声がした。
私は、ゴクッと唾を飲み込む。
「スイ様、どうぞ」
メイドさんが部屋に入るよううながしてくる。
ちょっと、待って!
まだ心の準備が出来てない!
いつまでも入ってこない私に痺れを切らしたのか、中から侍女らしい女性がドアを開けた。
奥には王女様が見える。
王女様は昼間会った時とは雰囲気が違って、ニッコリと私に微笑みかける。
あれ?
もう怒ってないのかな?
私は、恐る恐る部屋に入った。
「お待ちしておりましたわ! もうっ、そんなにビクビクしないでちょうだい! 大丈夫、怖くないから。こちらに座ってちょうだい!」
王女様は、自身の近くの椅子を勧める。
昼間とは違い、随分フレンドリーな雰囲気だ。
言われるまま、椅子に腰を下ろした。
侍女らしき女性が、私達に紅茶らしきものをいれてくれた。
「改めまして、私はエアール国の第二王女、エミーリアと申します」
はっ! 私も自己紹介せねば!
「あ……よろしくお願いします。私は丸井粋華です。スイと呼んでください」
「うふふ、よろしくスイ。私のことも、エミーリアと呼んでね」
「あ、はい。エミーリア……様」
思っていたのと違う対応に、汗をかきながら何とか受け答えする。
「お昼はごめんなさいね。私ったら大人気なかったわ。あなたがクラウディオ様に特別扱いされてる気がして、つい、カッとなってしまったの」
「あ……いえ、そんな。それは誤解なんです!」
謝られてしまった。
あの対応じゃあ、怒るのは当然だと思うよ、私も。
私は詳しく事情を説明した。
「まあ! やっぱり、そんな理由がありましたのね! 異世界人は噂通り変わった能力をお持ちなのね!」
王女は目を瞬かせて驚いている。
王女様が怒ってないと分かって冷静になった私は、じっくりと彼女を観察した。
うむ……。
悪い人ではなさそう。
ちょっと、そそっかしい感じはするけど、元気で素直そうな人だ。
私は王女様の印象を改めた。
「私ったら、恥ずかしいですわ! クラウディオ様とスイの仲を疑うなんて。冷静に考えれば分かりそうなものですのに……」
そうですよ。
私とクラウディオさんなんて、ありえませんよ。
うんうんと心の中で頷いていると、
「だって、歳の差がありすぎますもの。スイのような子供をクラウディオ様が相手になさるわけありませんわ!」
……ん?
「……すみません、王女様。ちなみにクラウディオさんは、おいくつなんですか?」
「ああ、たしか25歳ですわよ。ちなみに私は18歳。ちょうどいいと思いません?」
あれ?
また私、若く見られちゃってますよね?
えぇー……
まさかの18歳より年下に見られてしまうとは……!
正直に言うべき?
いや、言ったらまた敵認定されちゃうかも。
うーむ……ま、勘違いさせとけばいいか。
歳は曖昧に誤魔化すことに決めた。
それより、気になることを聞こう。
「あのー……こんな事聞くのは失礼かもしれないんですが……」
「あら? 何ですの?」
「……クラウディオさんの、どこを好きになったんですか?」
マジで気になる。
確かに見た目はね、見た目だけは凄くいいと思うけど。
昼間の対応を見る限り、彼の女性への気遣いは、皆無だと言わざるを得ない。
「え!? そ、そうねぇ……」
王女は、なぜかうろたえた。
あれ?
恥ずかしいのかな?
うーん……うーん……と頭を悩ませ始めた。
王女は目をつむり、必死に考え込んでいる。
これは、なんか思った反応と違う……
困らせちゃったような?
「えっと、うん、そうだわっ! ほら、クラウディオ様は、魔法の力が強くて、討伐部隊で活躍されてますものっ!」
「ああ、なるほど。仕事が出来る人が好きなんですね」
「そう、そう! そうなのよ!」
王女様は大きく何度も頷く。
ふーん、なるほど。
性格より、能力で選ぶか……
クラウディオさんにはお似合いかもしれないね。
王女の反応を少し疑問に思いながらも、そう納得した。
「ねぇ、私のことよりスイはどうなの? 気になる人はいないの?」
さっきまでと打って変わって、エミーリア王女は目をキラキラさせて聞いてきた。
あらら?
王女様は年頃の女の子らしく、恋バナ好きか?
「え? 私はまだ、そういった事は興味ないので」
幼いと思われているみたいだし、ちょうどいいと、それを活かした言い訳をする。
私のことはいいって! 放っておこうよ!
「うそうそ! もっと小さな子供でも、恋はするものよ! 絶対、スイにも気になってる人がいるはず! 思い浮かべてみて? この人とだったら一緒にいてもいいなあっていう人、いない!?」
そんな事いわれても……
実は昔、高校生の時に告白されて、ちょっと付き合ってみた人はいた。
でも、結局好きっていうより、友達にしか思えなくて別れてしまった。
あれ?
私って、22歳にして初恋もまだ!?
衝撃的事実に茫然とした。
「ちょっと! なにボーッとしてるのよ! ほらほら、スイにもいるでしょ! よーく考えてみて!」
王女様は許してくれない。
これは何とか捻りださなくては、帰れないようだ。
大体、ここ最近は両親が他界して叔父叔母の世話になったり、大学の単位のことだったり、就職活動だったり、恋やらなんやら浮かれてる場合じゃなかったからなぁ。
こっちの世界に来てからのほうが、異性と話す機会が多いくらいだし。
そんな事を考えてたら、ふっと一人の顔が浮かんだ。
「あれ? アルフ……?」
それを目ざとく王女は聞きつけた。
「アルフって、今、言いましたわね!」
え、今なんでアルフレッドの顔が浮かんだ?
……でも、彼だったら、ずっと一緒にいてもいいかも……?
アルフレッドの優しい穏やかな笑顔を思い浮かべた。
「えっと……最近、知り合った騎士なんですけど、気軽に話かけてくれるんです」
「ふふ、そうなのね。スイはその騎士の事が気になってるのね!」
「あの……気になってるっていうか、まあまあ仲はいいっていうか……」
私が返答に困っていると、
「恥ずかしがることは、ありませんわ! 私だって打ち明けたんですから! 分かりましたわ! 私がスイの恋をお手伝いしますわ!」
王女は声高々に宣言した。
ひぇーーーやめてーーー!!
そんなんじゃないから!
慌てる私を無視して、王女は私の顔にグッと顔を近づけて言った。
「ですから、スイも私とクラウディオ様の仲を上手く取り持ってくださいませね」
王女はニヤリと笑った。
あ、こういう感じは王様に似てるかも……!?




