2. 異世界の村
体操座りをしながら沈む夕日を眺めていた。
空腹で胃がねじれる様な痛みに、これは現実なんだろうなぁと、ぼんやり感じ始めていた。
一体、ここはどこなのか……
気絶している間に連れてこられたのか……?
私の手には、ちゃんと鞄があった。
スマホを確認してみた。
圏外だった。
まもなく夜になる。
こんな自然の中にたった一人。
人を襲うような獣がいるかもしれない。
焦りを覚え、どこかに人がいる手掛かりがないかと、うろうろと歩き出した。
すると、どこかで子供の甲高い声が聞こえた。
そちらに急ぎ足で近づく。
こちらに気づかない子供二人が、笑いあいながら歩いていた。
私は、ハッとして、その子たちの頭を見た。
その子供たちの頭には角が……当然なかった。
ほっ。
とにかく、やった!
助かった!
私は笑顔で子供たちに近づいた。
子供たちはこちらに振り向き、私をじっと見た。
そして、
「「ギャーーーーーーーー!!」」
と、大声で叫んだ。
そして勢いよく走って逃げだした。
え?ビックリしたー!
私ってそんな怖い?
なんかショックだわー……
そんな態度をとられたのは初めてだった。
けっこう、優しそうとか言われるほうなのに……
でも、せっかく見つけた人間をここで見失っては大変だ。
きっとあの子達は、何か誤解したんだろうと、慌てて二人の後を走って追いかけた。
大分引き離されてしまったが、幸いにも障害物がほとんどなかったので、二人の姿を見失うことはなかった。
このままついていけば、人里にたどり着けるはず。
履きなれない就活用の靴で足が痛んだけど、気にしている場合ではない。
私は必死だ。
大人に会えたら、ここがどこか聞こう。
早くうちに帰るんだ!
とうとう私は村にたどり着いた。
そして武器を持った大人たちに囲まれた。
え?何で?
こんな無害な乙女に何で?
村人たちの顔を見回した。
みなさん西洋の人々の顔立ち。
ここって外国!?
それともまさか不法入国者の村?
だから何か警戒してるの?
私は何とかコミュニケーションをとろうと、話しかけた。
「あのー……、ここは、どこですか?」
「※※※※※※※!!」
「※※※※※※※※※※※※※!!」
村人たちは何かを喚いた。
あ……言葉通じないや……
……これ、やばいんじゃない?
英語のリスニングは出来ないほうだけど、それでも英語ではなさそうだと解った。
私は大男二人に両側から抱えられて引きずられるように村に入った。
痛い!痛い!!
私は捕らえられた宇宙人かーっ!!
思わず突っ込みたかったけど、どうせ通じないので止めておいた。
私が連れていかれた先は、牢屋だった。
人が一人入れるだけの牢屋がある小さな木造小屋だ。
小屋の扉の外には見張りがいるようだ。
ここからでは見えない。
私はハァと息を吐き出して膝を抱えた。
どうやら私はこの村で歓迎されていないようだ。
お腹の減りも、もう限界だ。
こんなに食べてないのは、生まれて初めてかもしれない。
「このまま、飢え死にしちゃうのかな……?」
ぽつりとつぶやいたその時、
『……だいじょ・ぶ……たすけ・あげる……』
ひっ
今、何か聞こえた!
辺りを見回してみたけど、誰もいない。
私、オカルト苦手なんだけど……
耳を澄ましてみたけれど、もう何も聞こえなかった。
ギュッと膝を抱えてうずくまって、このまま何も起こらないことを祈った。
それから、どれくらい経っただろうか。
疲労と、そして空腹を少しでも忘れる為に、ウトウトと眠りかけていたその時、
「おまたせー!!!」
元気な可愛らしい男の子の声と共に明るい光が目の前に現れた!
光の中には小さな30センチほどの男の子が浮かんでいた。
そしてその子の頭には……角はなく、背中に羽が付いていた。
「……さあ、いよいよ……疲労と空腹と、先行きの見えない不安から、精神の不調をきたした私は、幻が見えるようになってまいりましたーーー!」
気を少しでもしっかり保とうと、膝を抱えたまま今の自分の状況を実況してみた。