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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
19/127

19. 深夜の襲撃者


 粋華やその仲間のフィアリーズも、とっくに寝静まった真夜中。


 城の周りやその建物内には警備中の騎士たちがいる。

 しかし誰にも、そう、一般に目に見えないフィアリーズにさえも気づかれることなく、一人の男が城の窓から中に入る。

 そこには気持よさそうに熟睡している娘、粋華がいた。

 

 男はナイフを取り出すと、ゆっくりとその娘の眠るベットに近づく。

 娘は全く気付かず、スヤスヤと眠っている。

 男はナイフを振り上げると、娘の胸に勢いよく振り下ろした。


 !!

 これは!!


 男はその違和感にうろたえた。

 いつも何事にも冷静に事を運ぶこの男には、とても珍しいことだ。

 とっさに周りを見回す。

 特に変わった所はない。

 しかし、振り下ろしたはずのナイフを持った手には、何も手ごたえがなかった。

 これは幻覚か!!

 男は小さく舌打ちすると、先ほど入ってきた窓に手をかけた。


「あれれれ?どこに行こうとしているの?」


 男が振り返ると、部屋の中にはいつの間にかフィアリーズの少年、マークがいた。

 フィアリーズにはナイフは通用しない。

 男は素早くナイフをしまうと、魔法を使うべく右手を前にかざした。


「悪い子には、お仕置きが必要だよね」


 マークが男に告げた時、男の放った風魔法がマークへ放たれた。

 人間が使うにはめったに見ないほどの威力を持った風がマークを襲う。


 しかし、風がマークの体に触れる直前、それはただのそよ風へと変わった。

 くそっ!

 男は目論見が外れた直後、窓へ向かって駆け出す。


「逃がさないって!」


 マークは素早く男へ向かって手をかざし、自身の持つ攻撃魔法を放った。


 低いヴーンという音が、部屋に響く。

 男は苦し気に耳を押さえ、うずくまった。

 彼の両耳からは血が流れ出している。内耳に損傷をきたしたのだ。


 男は力の入らない体を何とか動かして、窓から外へ転がり落ちた。

 もし、この男がこのままその場に留まったなら、脳まで破壊されていただろう。

 マークは逃げて行く男を、そのまま見送った。


「これに懲りて、もう悪さをやめればいいけど」


 一人呟いたマークは、大きな欠伸をして自身の寝床へと帰っていった。



「あれ? 今、何かうるさくなかった?」


 先ほど男が見た所とは違う場所、部屋の反対側に置かれたベットで目を覚ました粋華は、キョロキョロと部屋の中を見る。

 特に変わった所はない。

 

「んー? 気のせいかな……?」


『なんも心配する事ないで、スイ。ワイらがついとるからな! 安心して眠っとけ!』


 粋華が眠る枕元で、先ほどの騒ぎの一部始終を見ていたライディは、それでも彼女には何も告げず、そう言った。


『ま、言った所で、スイには何もできんしな。怖がらせるだけ無駄や』


 あの男とは実力が違いすぎる。下手に手出ししても邪魔になるだけやしな。

 今の粋華では太刀打ちできないと、ライディは知っていた。


「んん? 今、何て言ったの?」


『なーんもない、なーんもない! なんも気にしず、さっさと寝ろ!』


 粋華は首を傾げながら、しかしまだ強い睡魔には勝てず、すぐにまた眠りに落ちた。




 ところ変わって、城内の豪華な調度品が置かれた一室。


 二人の男がランプ一つだけが灯る薄暗い部屋の中、深夜にも関わらず椅子に座り語り合っていた。


「あの娘に手を出すな」


 一人の男がもう一人の男に冷たく言い放つ。

 もう一人の男は形のいい長い指を組みながら、目の前の男を睨みつける。


「なぜ、お前の言うことを聞く必要がある?」


「あの娘は俺の恩人だ。大事な部下の命を救ってくれた。あいつに手を出すなら、俺はあいつの側につく」


「そうか……、それは困ったな。国一番の魔導士が私の敵になってしまうわけか」


 男は言いながら、綺麗な水色の瞳を細めた。


「消すことを考えるより、使うことを考えろ。あの力を利用できるなら、お前にとって損にはならないだろう」


「裏切らない保証はないだろう? たとえ裏切らなくても、他に奪われるかもしれない。そうだな……いつも誰かがあの娘を見張っていてくれるなら……」


「……明日から、俺のところへ寄越せ」


 男はため息を吐くと立ち上がり扉へと向かう。


「遅くに邪魔をした」


「本当にそれだけかい? ディオ。お前が誰かを気にするなんて珍しいこともあるよなぁ」


 部屋を出ようとする男にもう一方の男が軽い口調で声をかける。

 男は振り返り水色の瞳を見返すと、


「何も珍しいことはない。いつもと同じだ」


 それだけ言い、部屋を後にした。

 部屋を出たディオと呼ばれたその男、クラウディオは自身の眉間を押さえた。

 面倒なことになった。

 明日からのことに不満を抱きながらも、何故か別の感情が胸にうずくのを理解出来ないでいた。



 クラウディオが部屋から出てすぐ、今度は別の男が窓から音もなく入ってきた。


「申し訳ありません。失敗しました」


 狐のように吊り上がった眼が特徴のその男は、そう言うと頭を下げ、主の言葉を待った。


「珍しいな。お前がしくじるとは。まぁ、いい。面白いことになってきたしな……」


「面白いこと?」


 狐目の男の言葉には何も返さず、その男……()()()()()()は窓の外を見ながら、自身の考えに思いを巡らし、一人、笑みを浮かべるのだった。



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