18. 王都の夜
「えっ、異世界人?」
「そうだ。もう300年程前になる。私の先祖は異世界人なのだ」
王は続けた。
「この国を築いた最初の王は、異世界人特有の能力を持っていた。その力を使い、この国の礎を築いた。しかし、私にはもうその力はない。何代も続くうち、異世界人の能力はフィアリーズを認識できる能力、それだけになってしまった。
粋華、この世界に来てから、まだ間もないお主も気づいているだろう。異世界人の能力がどんなに強力な力かという事を」
私は、ゴクッと唾を飲み込んだ。
「そこで、一つ問題があるのだが……。お主はフィアリーズが宿った武器、そこにある剣を作り出した。おそらくとてつもない力を持っているのだろうな」
王は私の抱えている粘土剣のライディを見た。
「その剣で、王都を転覆させるつもりか?」
するどい瞳が私を貫いた。
空気がピリッと痛い。
周りにも緊張が走る。
ななな……!?
これ、対応を間違うと、国と戦争!?
異世界人チート能力のせいでか!!!
私は焦って、体中から汗が噴き出てきた。
「いえっ! 全然、そんな大それた事は考えていません! この剣は、ただ、自分の身を守るために作ったんです! 国と戦うとか、そんな事しません! 争いごとは嫌いなんです!」
私は、精一杯弁解する。
「私はただ、ひっそりと迷惑をかけないように暮らしていきたいだけなんですーー!!」
ちょっと涙目だ。
お願い、見逃して?
「フッ、ハハハ! ワハハハハハ!」
王はいきなり笑い出した。
笑いすぎて、涙が出ている。
私は、驚いて口を開けた。
「いや、すまんすまん。ちょっとした冗談だ。許してくれ」
私はまだ口を開けたままだ。
周りは緊張が解け、ホッとした空気が流れた。
「いろいろあって、疲れたであろう。まだこの世界の事、この国の事、何も分からず不安であろう。しばらく城に滞在し、周りの者からいろいろと学ぶがいい。そのうちに、ここに慣れるだろう。何も不安に思うことはないぞ。ここにいる間、私がお主のことを守ろう」
王は、私を見つめ、優しい笑顔で言った。
あ……
よ……よかった……
私はやっと口を閉じた。
「は……はいっ、よろしくお願いします!」
脱力した私は、深々と頭を下げた。
クラウディオも、軽く頭を下げる。
「では、失礼いたします。行くぞ」
クラウディオは私を連れて退出した。
謁見室から出ると、私はふぅーと、息を吐いた。
ビビったー!!
もう、王様は人が悪いなぁ。
冗談言ったりして、けっこうお茶目さんか?
でも、優しい人で良かったぁ。
緊張が解けて、足取りの軽くなった私を見やり、クラウディオは眉間に皺を寄せた。
そのまま、先ほどの部屋の前まで私たちを送ってくれる。
「いやあ、ちょっと驚かされちゃいましたが、王様がいい人そうで良かったです。安心しました」
私は笑顔でみんなに言った。
マークは心配そうな顔で私を見る。
「ねぇ、スイ……」
マークが何か言おうとするのを遮って、クラウディオが手招きしてマークを呼んだ。
二人は私に背を向けると、何やらコソコソと話をしている。
んん?
そこ、二人で何を話してるの?
ってか、いつの間に仲良しになったの!?
私の目の前で何やらコソコソ話した後、クラウディオは私を見て、そっとため息をつく。
「では、俺はもう行く」
それだけ言うと、部屋の前から去っていった。
ちょっと!
なに!? そのため息!
その、残念なものを見る目はー!!
私は、プリプリ怒りながら、マークに尋ねた。
「ねえ。今、何話してたの?」
マークは少し考えながら、にっこり答えた。
「うーん……何でもない!」
ちょ、絶対、なんでもなくないでしょ!?
マークが私に隠し事するなんてっ!!
私は苛立ちと寂しさを感じながら、しょぼんと肩を落とし部屋に入った。
部屋には夕食が用意されていた。
おおっ、お城の料理だ!
やったー!!
とたんに機嫌が良くなった私に、マークが呆れた視線を向ける。
うん、気にしない。
ここの料理は村の食事より味付けが洗練されていて、とても美味しかった。
そうだ!
私は気になっていたことを、食事をしながらマークに聞いてみる。
「そういえばさ。ライディから言ってたんだけど、フィアリーズにはそれぞれ、得意な魔法があるんでしょ? ライディは雷、マリアさんは治療魔法で、マークは何か得意な魔法があるの?」
マークは得意そうに、ふふんと胸を張る。
「ふふふ、スイ。僕くらいの魔力があれば、一通りの魔法はほとんど使えるんだよ。まあ、僕の得意な攻撃魔法は気安く使えないから、今は見せてあげられないなぁ。ま、ずっと一緒にいれば、そのうち使うこともあるんじゃないかな!」
『おいっ、マークそれって……』
ライディは、何か言いかけて口をつぐんだ。
んん? ライディは知ってるっぽいけど。
なんだか含みのある言い方。
マークの得意な魔法かぁ……
うーん、気になる。
そのうち使うなら、早く見られるといいなぁ……
そうこうして、私の食事が終わるころには、マークはいつものように、どこかに眠りに行ってしまった。
お腹がいっぱいの私は、今、とても幸せだ。
王様には、しばらくお城にいていいって言われたし、当分生活には困らなそうで、よかった、よかった。
当面の心配事がなくなり、今夜は気持ちよく眠れそう。
あー……王都に来てよかったー!
移動の疲れもあり、私はすぐに眠りについた。