16. マークの姉、ベット
ギョッと目を見開いた私に向かって、目の前のフィアリーズは明るく笑った。
「驚かせてしまった? ふふっ、ごめんね。ようこそ王城へ! 私はベット・ベル!マークの姉よ。これでも王都のフィアリーズの女王なの! どうぞよろしくね!」
目の前の小さな美少女は優雅な品のある微笑を浮かべている。
え? 名前がベルベットって……まぁ、それはいいか。
それよりも、マークのお姉さんで女王!?
私、何にも聞いてないんだけど……?
マークをちらりと見ると、不機嫌な顔でベットを見ていた。
とりあえず、私も自己紹介だ。
「こ……こちらこそ、よろしく! 私は丸井粋華。スイって呼んでください」
「うふふ、スイさんの事は、いろんなフィアリーズから聞いているわ。何人もフィアリーズのお仲間がいるとか。私のことは、マークから聞いているかしら?」
「いいえ、何も……」
私の言葉を遮ってマークが言った。
「久しぶりだね、ベット。別にスイに言っておくほどのことじゃないかなぁと思って」
マークはにっこりとベットを見た。
「マークったら、まだ昔のことを気にしているの? 私があなたを王都から追い出したことを……」
ベットは複雑な顔で続けた。
「でも良かったじゃない! そのおかげでアソシエ地方の王になれたんだもの!」
マークは沈黙している。
『よう! 久しぶりやなベット!』
『初めましてベット様』
ライディと、マリアがベットに声を掛けた。
「あら! あなた達がスイさんのお仲間ね! あなたは確か……ライディね! 本当にマークと仲良しねぇ」
ベットは苦笑いを浮かべた。
どうやら、マークとライディの関係を知っているようだ。
でも、マークとの仲はいまいち良くない?
昔、何があったんだろう……?
「ところでスイさん! これから王に会ってもらうのだけれど、準備してもらえるかしら?」
ベットは粋華の全身を見回しながら言ってきた。
「あの……このままでは駄目ですか?」
私が自分の格好を見ながら聞く。
「全然駄目よ! そんな汚れた野暮ったい格好では!!」
ベットは食い気味に答える。
「まかせて! 今、用意させるから! ……そうね、まずはお風呂に入ってちょうだい!」
ベットは一方的に言い切ると、急いで扉を通り抜けて出て行った。
お風呂!!
村ではお風呂に入れなかったから嬉しい!
この世界にはないのかと思ってた。
ベットが出て行ってすぐ、メイドが二名入ってきた。
「只今、お湯を用意いたします」
彼女らはテキパキと準備を始めた。
このメイドさん達は、ベットさんが呼んできてくれたのかな?
王様とも知り合いみたいだし、ここにはフィアリーズの声が聞こえる人がいるのだろうか……?
案内されたバスルームで待ちに待った、お風呂に入った。
生き返った……。
それだけで、王都に来てよかったと思った。
お風呂から出ると、綺麗なワンピースが用意されていた。
胸のすぐ下に切り替えがある、ゆったりしたワンピースだ。
これなら、あんまりサイズとか気にしなくていいもんね。ちょっと丈が長すぎて床に擦りそうだが、ギリギリ大丈夫だった。
次は髪。
今までは、胸元まである長い髪を後ろでゴムで一つに縛っていた。
メイドさんは思案しながら、後ろはおろしたまま、サイドは編み込むスタイルにしてくれた。
私は自身の姿を部屋にあった大きな鏡で眺める。
自分でいうのも何だけど、けっこう可愛いんじゃない?
私の姿を見たマリアの顔がほころぶ。
『まあまあ、スイ様! 大変美しく変身いたしましたわね!』
パチパチと拍手をして喜んでくれた。
えっ? やっぱそう!?
私は気をよくして、マークとライディにも「ねえねえ、どう?」と声を掛ける。
「ああ、まだかかるの? もう待ちくたびれちゃった~」と、マーク。
ライディは、『なあ、スイ! また飯を作ってくれや! 今度は鍋に飛び込まんようにするから』だと。
……興味がないようだ。
私はガックリと肩を落とす。
「では、王がお待ちです。案内いたします」
メイドさんが言った。