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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第一章
16/127

16. マークの姉、ベット

 

 ギョッと目を見開いた私に向かって、目の前のフィアリーズは明るく笑った。 


「驚かせてしまった? ふふっ、ごめんね。ようこそ王城へ! 私はベット・ベル!マークの姉よ。これでも王都のフィアリーズの女王なの! どうぞよろしくね!」


 目の前の小さな美少女は優雅な品のある微笑を浮かべている。


 え? 名前がベルベットって……まぁ、それはいいか。

 それよりも、マークのお姉さんで女王!?

 私、何にも聞いてないんだけど……?


 マークをちらりと見ると、不機嫌な顔でベットを見ていた。


 とりあえず、私も自己紹介だ。


「こ……こちらこそ、よろしく! 私は丸井粋華。スイって呼んでください」


「うふふ、スイさんの事は、いろんなフィアリーズから聞いているわ。何人もフィアリーズのお仲間がいるとか。私のことは、マークから聞いているかしら?」


「いいえ、何も……」


 私の言葉を遮ってマークが言った。


「久しぶりだね、ベット。別にスイに言っておくほどのことじゃないかなぁと思って」


 マークはにっこりとベットを見た。


「マークったら、まだ昔のことを気にしているの? 私があなたを王都から追い出したことを……」


 ベットは複雑な顔で続けた。


「でも良かったじゃない! そのおかげでアソシエ地方の王になれたんだもの!」


 マークは沈黙している。


『よう! 久しぶりやなベット!』


『初めましてベット様』

 

ライディと、マリアがベットに声を掛けた。


「あら! あなた達がスイさんのお仲間ね! あなたは確か……ライディね! 本当にマークと仲良しねぇ」


 ベットは苦笑いを浮かべた。

 

 どうやら、マークとライディの関係を知っているようだ。

 でも、マークとの仲はいまいち良くない?

 昔、何があったんだろう……?



「ところでスイさん! これから王に会ってもらうのだけれど、準備してもらえるかしら?」


 ベットは粋華の全身を見回しながら言ってきた。


「あの……このままでは駄目ですか?」


 私が自分の格好を見ながら聞く。


「全然駄目よ! そんな汚れた野暮ったい格好では!!」


 ベットは食い気味に答える。


「まかせて! 今、用意させるから! ……そうね、まずはお風呂に入ってちょうだい!」


 ベットは一方的に言い切ると、急いで扉を通り抜けて出て行った。


 お風呂!!

 村ではお風呂に入れなかったから嬉しい!

 この世界にはないのかと思ってた。


 ベットが出て行ってすぐ、メイドが二名入ってきた。


「只今、お湯を用意いたします」


 彼女らはテキパキと準備を始めた。


 このメイドさん達は、ベットさんが呼んできてくれたのかな?

 王様とも知り合いみたいだし、ここにはフィアリーズの声が聞こえる人がいるのだろうか……?


 案内されたバスルームで待ちに待った、お風呂に入った。

 生き返った……。

 それだけで、王都に来てよかったと思った。


 お風呂から出ると、綺麗なワンピースが用意されていた。

 胸のすぐ下に切り替えがある、ゆったりしたワンピースだ。

 これなら、あんまりサイズとか気にしなくていいもんね。ちょっと丈が長すぎて床に擦りそうだが、ギリギリ大丈夫だった。


 次は髪。

 今までは、胸元まである長い髪を後ろでゴムで一つに縛っていた。

 メイドさんは思案しながら、後ろはおろしたまま、サイドは編み込むスタイルにしてくれた。


 私は自身の姿を部屋にあった大きな鏡で眺める。

 自分でいうのも何だけど、けっこう可愛いんじゃない?


 私の姿を見たマリアの顔がほころぶ。


『まあまあ、スイ様! 大変美しく変身いたしましたわね!』

 

 パチパチと拍手をして喜んでくれた。


 えっ? やっぱそう!?


 私は気をよくして、マークとライディにも「ねえねえ、どう?」と声を掛ける。


「ああ、まだかかるの? もう待ちくたびれちゃった~」と、マーク。


 ライディは、『なあ、スイ! また飯を作ってくれや! 今度は鍋に飛び込まんようにするから』だと。

  

 ……興味がないようだ。

 私はガックリと肩を落とす。



「では、王がお待ちです。案内いたします」


 メイドさんが言った。



挿絵(By みてみん) 

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