15. 王都に到着
マーク達と検討した結果、どうやら私が作った料理には、特別な力があるらしい!
本来、フィアリーズは物体に触れない。
よって、食べ物を食べることも出来ないわけだ。
フィアリーズがこの世界に干渉するには、魔法を用いるしかない。
魔法を使えば、風や火や雷を起こしたり、マークのように言葉を聞かせたり、他にもいろいろな魔法を使うフィアリーズがいるらしいが、そうやって、人や物に干渉している。
しかし、私が作った粘土細工がそうであるように、フィアリーズは私が手を加えた物には、触ることが可能になる。よって、食べることも出来る。
普段、フィアリーズが魔法を回復する手段は、自然の中で、魔力が溢れている場所を探し、そこから魔力を吸い取る形をとる。
しかし、私が作った料理からも、魔力を吸収することが出来る。
その魔力は、作るときに私が魔力を混ぜ込んでいるみたいなんだよね。
「いや、私、魔力なんて加えてる気、全然ないんだけど?」
「それがきっと、異世界人特有の能力なんだよ!」
マークが一人、うんうん頷きながら結論付けた。
自分では全く自覚がないのに、自然に魔力が加わってしまうの?
ということは、私が作るといつもフィアリーズに食べられてしまうってこと!?
……解せぬ。
納得のいかないまま、私だけアルフレッドに分けてもらった硬いパンと干し肉を食べると、私たちは王都に向けて出発した。
「もう慣れてきただろうから、少し速く進むね」
そう言ってアルフレッドは馬を走らせた。
昨日は気を使ってくれてたんだね。
今日もマークは私の肩に座り、粘土剣のライディは鞘を作ってなかったので、布でグルグル巻かれ私の背に背負われている。
粘土ナースのマリアさんは、私のカバンから顔を覗かせて周りの景色を楽しんでいるようだ。
道を急いだ私たちは、その後何事もなく日が沈みかけたころ王都に到着した。
王都の周りは、ぐるっと高い塀で囲まれ、決められた門から入るようだ。
門で検査をし、魔物の侵入を防いでいるらしい。
私たちは一般の旅人が入る門からは別の入り口から入った。
騎士たちが一緒なので、当然、私もフリーパスだ。
王都は、中世ヨーロッパの映画で見たような佇まいだった。
メインらしい通りは石畳が敷かれ、そんなに大きくはないが、お店がひしめき合って建っている。
昨日までいた村に比べると、建物はレンガ造りが目立ち、立派だ。
人もたくさんいて、服装は古めかしい感じがするが、この世界では、最先端な流行のファッションなんだろう。
私が周りを観察し始めると、それを遮るように大きな歓声が沸き上がった。
なっ ……何事!?
町の人々がみんなこちらを向き、手を振っている。
みなが笑顔で私たちを出迎えてくれる。
いや、騎士たちをだろうけどね。もちろん。
若い女性たちが騎士たちを見て、顔を赤らめて興奮している。
あれ? 何か視線が痛い!
アルフレッドと同じ馬に乗っている私を見る女性らの目が怖い。
あっ、そこ! 私を指さしてヒソヒソやってる!
騎士たちは、特にアルフレッドのような若い騎士たちは、女性に人気があるっぽい。
うう、悪いことしているわけじゃないのに居心地悪いよぅ。
目を合わせないように下を向いていよう……。
騎士たちはそんな人たちを気にする様子もなく、真っ直ぐ前を見て城に向かう。
……と思ったら、前を行く一人の騎士が若い女性たちに向かって手を振っている。
キャーという黄色い声が沸き上がった。
あれは……ロイさん!?
お腹の大きな奥さんがいるんでしょ!?
軽いノリで手を振り続けている。
昨夜は死にかけてたっていうのに。
ま、元気になって良かったけどもさ。
ちらりと後ろのアルフレッドを見やると苦笑いを浮かべていた。
私たちは馬に乗ったまま、城の門をくぐると馬を降りた。
クラウディオは出迎えた人に話をし、私を引き渡した。
「スイ、お疲れ様。今日はゆっくり休めよ。またな」
アルフレッドはそう言うと、他の騎士たちと共に城の中へ入っていく。
私は急に心細い気持ちになりながら、案内してくれる年配の紳士の後に続いた。
お城の中は立派な装飾やら家具やら絵画やらがあるが、緊張のあまり頭に残らないまま、ある部屋の前に案内された。
扉を開けると、そこは家具やベットの置いてある、20帖ほどの部屋だった。
「こちらでお待ちください」
紳士は頭を下げると部屋から出て行った。
私は、待ってましたとばかりにマークに話しかる。
他の人たちの前でマークに話しかけると、私は大きな独り言を言う痛い人になってしまうからね!
「マーク……いよいよお城に着いてしまったね」
「ふふっ、スイ。緊張してるの?」
そりゃあそうだよと私が返そうとした時、
「いらっしゃーい!!」
グエッ!
突然! 顔面に何かが衝突した!
鼻を押さえながら目の前をよく見ると、そこにいたのは、縦巻きロングヘアーの可愛いフィアリーズの少女だった。