14. 私の料理
次の日の朝、洞窟内で目を覚ました私たちは朝食の準備をしていた。
だんだんと騎士たちと打ち解けてきた私は、朝食作りの手伝いをさせてもらっている。
一人暮らしを始めるために叔母から料理を習っていたので、一応一通りのことは出来るつもりだが、なんせここは今、洞窟の中。コンロもなければ水もない。
私は仕方なく、野菜の皮むきをしていた。
「スイ。全部剥けたら、野菜を茹でておいてくれ」
アルフレッドに頼まれた。
そばにあったお鍋を掴んだはいいが、水がない。
え?これって、沢まで水くみに行かないといけないの?
この辺に川ってあったっけ?
鍋を持ったまま途方にくれていたら、クラウディオから声がかかった。
「その鍋を貸せ」
クラウディオは自身の目の前に鍋を置くと、その上に手をかざした。
すると、みるみるうちに鍋の中に水が溜まってきた。
鍋に水が充分満ちると、次は騎士たちが用意した枝や枯葉を集めた即席コンロに魔法で火を点けた。
「わあっ、すごいですねぇ、クラウディオさん!」
なんて便利!!
魔導士はキャンプの必需品だね!
私は初めてクラウディオさんを尊敬した。
私は水の入った鍋を火にかけて、鍋の中に野菜を放り込んだ。
そこへ、アルフレッドたちが洞窟の奥から、大きな肉の塊を持って帰ってきた。
「えっ!? それってまさか……」
私は肉の塊を指さした。
「そうそう。大きすぎて運べないし、無駄にするのはもったいないからね。今日は朝からごちそうだなぁ」
ニコニコ顔のアルフレッドが答えた。
……私、熊の肉って食べたことないけど。
まあ、贅沢はいってられないかぁ。
騎士たちは大きめに肉を切り分けると、鍋にどんどん入れた。
すごい量になってしまった。
そこへ、いつものようにマークが現れた。
「おはよう! 今日もいい朝だねー!」
私たちの周りをフワフワと飛び回るマークがギョッと目を見開いた。
「これ何? スイ、また何か作ったの!?」
マークは粘土ナースを見ていた。
『あらあら、まあまあ! あなたマーク様ですの!?』
粘土ナースのマリアはマークに自己紹介した。マークもそれに答えた後、私は昨日の出来事を話した。
「スイ。なんだか凄いことになってきたね。だんだん何でもありになってきてない?」
じっとりと私を見つめた。
うっ!
やっぱり、異世界転移チートが発動してるかな?
私の能力って、けっこうすごいんだよね……。
私はマークの興味をそらすために、粘土剣を紹介した。
「そうそう! それから剣の方にもフィアリーズさんが入ってくれたんだよー!」
マークは納得いかない顔で私を見た後、粘土剣に視線を移した。
「……ねぇ、なんでここにいるのさ」
マークの声が冷たい。
え? 顔見知り? なんか怒ってない?
『ようっ、マーク! 残念やったなあ』
それに答えた粘土剣のライディは得意そうだ。
『ワイから逃げられると思ったら大間違いやでぇ!』
「もう、スイー!! なんでこんな奴を入れちゃうんだよー!!」
マークは相当ご立腹だ。
知らんがな。
私が選んだんじゃあない。
「何か問題があるの?」
私が聞くと、マークは事情を説明してくれた。
マークが言うには、マークほどではないがかなり大きな魔力を持つライディは、何かにつけてマークに勝負を挑んできては返り討ちに合っていたらしい。
それは、この辺りのフィアリーズの間では有名な話だと、マリアさんが教えてくれた。
『まだ勝負の決着がついとらんやろが! 異世界人に関わって、全然姿見せんようになったと思ったら、勝手に逃げ出すんやないわ!』
マークは呆れ顔だ。
「勝負の決着は何回もついてるでしょ!? しつこいんだよ! もういい加減諦めてよ!」
『何、言っとるんや! ワイが勝つまで続くに決まっとるやろ! そっちこそ諦めて勝負せい!』
うーむ……。
どうやらライディはマークを追ってここまで来たらしい。
執念を感じる。
まだまだ二人の言い争いが続く中、アルフレッドから声がかかった。
「スイ。もうそろそろ出来そうだ。器についでくれるか?」
「はーい!」
二人は問題がありそうだが、まあ放っておこう。
味付けは調味料が塩しかないので、あまり期待できないが、量だけはたっぷりある。とりあえず、お腹は膨れそうだ。
器についで皆に配った。
「鍋にまだ沢山ありますので、お代わりしてくださいね」
私が食べようと器を持ち上げると、
『あらあら? 何かとってもいい匂いがしますわ!』
粘土ナースのマリアさんが覗き込んできた。
「あれ? マリアさんも食べられるんですか? 良かったらまだありますから、食べますか?」
マリアさんに私の器を差し出した。
マリアさんは器の中の料理をジッと見た。そして、器の中に顔を突っ込んだ!
「ちょ! 熱くないですか!? マリアさん!」
器から顔を上げたマリアさんはプルプル震えている。
『こ……これは! 魔力が……魔力がどんどん回復していきますわ!』
そう言うと、またまた顔を突っ込んだ。
食べ方!!
私は、心の中で突っ込んだ。
その時、バッシャーン!!という音と共に、「わあ!」という、騎士たちの驚きの声が上がった。
今度は何事!?
音の方を見ると、鍋の中に粘土剣が浸かっていた。
!!
ちょっとー!!
私はつかつかと鍋に近づくと、粘土剣を持ち上げた。
「ライディ!! 何してるんですかー!!!」
ライディは私の怒りなどどこ吹く風だ。
『いやあ、この料理はすごいな! 魔力の泉や!』
今、食べてたのかいっ!
だからって鍋に入るな!
私がプリプリ怒る横で、ライディが言った。
『ほれ、見てみい。他のフィアリーズも食っとるで!』
は?
鍋の中を見ると、みるみる量が減っていく。
ななな……!!
ここにいる目に見えないフィアリーズが食べちゃってるの?
あっという間に鍋の中は空になった。
「あーあ……僕も食べたかったなぁ」
マークが呟いた。
うそーん……
私……まだ食べてない……