13. 新しい仲間たち
身長30センチほどのナースの粘土人形が、私を見上げて小首を傾げている。
かわいいっ!
思わず見とれていると、粘土のナースが自分の姿を確かめて声を上げた。
『ええっ!? これは、どうなってるんですの!?』
あれ?
今までのフィアリーズは自分から入ってきてくれてたみたいだけど、何か様子が変だ。
私は恐る恐る聞いてみた。
「あのー……、フィアリーズさん、初めまして。私は丸井粋華といいます。スイと呼んでください。あなたは自分でこの粘土ナースに入ってくれたんじゃないんですか?」
『はい? 粘土ナースって何ですの? ああ! この体のことかしら? うーん……私、自分の寝床で眠っていたはずですの。気が付いたら、何故かこうなってましたのよ』
粘土ナースは困ったように答えた。
自分の意志じゃないってこと?
えー……どうしよう……
私は、粘土ナースを作った経緯を説明した。
『まあ、そうですの……』
「そういうわけで、治療魔法が使えるフィアリーズさんに来てもらいたかったんです」
『まあまあ、スイ様……でしたかしら? あなたは不思議な力をお持ちですのね。 私は確かに治療魔法が得意ですわ』
「!! そうですか! ではでは、もし良ければ、その体に入って治療してくれませんか? お願いします! たぶんその体だと、魔力が強くなると思うんですが……」
ふーん……と考えながら、粘土ナースは水たまりまで行って、くるくる回って自身の体をじっくり眺めた。
『まあっ! これは可愛らしいですわね! 気に入りましたわ! いいでしょう。 お手伝いいたしますわ』
粘土ナースはにこやかに頷いた。
『良かったな、スイ! よう! ワイもついさっき、ここに来たんやで!』
粘土剣がナースに声を掛けた。
んん?と、粘土ナースは粘土剣をジッと見る。
『あら!? あなたはライディ様ではなくて?』
『なんや? ワイのこと知っとるんか!?』
『ええ、ええ。この近辺では、マーク様と並んで有名ですもの! あらあら、そんな姿になったんですの!? 私はマリアと申します。ライディ様、どうぞよろしくお願いいたします。』
粘土ナースのマリアさんはスカートを持ち上げ、優雅に頭を下げた。
なんだかフィアリーズ同士で話が盛り上がってきたみたい。
粘土剣に入ってくれたフィアリーズはライディ、粘土ナースの方はマリアというらしい。
そういえばバタバタして、粘土剣の方のフィアリーズには挨拶もしていなかった。
私は今さらながら、ライディにも自己紹介をして謝った。
ライディは、『ええで、ええで、ワイはスイのこと知ってたしな』と笑った。
そういえば、最初から名前を呼ばれてたような……?
「お話し中、失礼する。出来れば早く怪我人を見てもらいたいのだが……」
クラウディオが口を挟んできた。
そうだった!!
重症のロイさんが待ってるんだった!
『あらあら? あなたですの? 怪我人は。まあっ、とってもタイプ!』
粘土ナースのマリアさんは頬を両手で押さえながら、うっとりとクラウディオを見上げている。
クラウディオは少々うろたえながら、「いや、俺ではなく、そっちだ」と、ロイさんを指さした。
『あらあら、そちらの騎士様ですの?』
マリアはロイさんの顔を覗き込む。
『あらら!? こちらの騎士様もなかなか素敵! やる気が出てきましたわ!!』
なんだか嬉しそうだ。
マリアさん……言葉遣いからおしとやかな人かと思ったんだけど、けっこう軽い感じの人……じゃなくて、フィアリーズなのかな?
私たちが心配して見守る中、粘土ナースのマリアは小さな両手を胸の前で合わせた。
『本当ですわ! 魔力が溢れてくる!』
マリアの両手が白い光に包まれた。
その両手をロイのわき腹にかざすと、傷口も光に包まれた。
これが治療魔法?
温かい光……
そうしていること数分。
気を失っているロイさんの青白かった顔色が、だんたんと赤みを帯びてきた。
「うっ……」
ロイさんが目を覚ましたようだ。
ロイさんは自身の傷口に触れる粘土ナースを見ると、ギョッと目を見開く。
「ああ……とうとう私は死んでしまったのか。天使が見える……」
『あらいやだわ! 天使だなんて!』
マリアは恥ずかしがって顔をブンブンと横に振りながら、ロイのわき腹をバシンッと叩く。
「ぐおおおおおおーーーー!!」
ロイは涙目で、苦しそうに唸った。
「こ……この痛みは、これは現実か!?」
そうして、マリアによる治療が終わると、ロイの傷は完全に塞がり、痛みも消えた。
そうしてやっと、みな安心して眠りにつくことが出来たのだった。