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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
125/127

65. 元の世界へ!?

 いよいよ次回で最終回の予定です。

 長いお話になってしまいましたが、お付き合いありがとうございました!

 最後の一話も頑張って書きます。ぜひ読んでくださいね~!


「ええぇぇぇぇーーー!!!」


 王都へ戻って三日後のこと、私と稜くんは、フィアリーズになってしまったお父さんとお母さんから、衝撃的な事実を知らされた。


「ほ、ほんとに……? 俺、元の世界へ帰れるの!?」 


 稜の驚いた声が、部屋の中に響いた。

 王の執務室で、クロス王と彼の側近たち、そしてイスメーネさんとクラウディオさんが見守る中の、突然の両親の告白である。

 目の前にふわふわ浮かぶ二人は、にこにこと微笑みながら、こくんと頷いた。

 稜は目を見開き、口元がわなわなと震えた。

 本当に……?

 もう、帰れないんだとばかり思っていた。

 二度と地球にいる身内や友達には会えないと覚悟していたのに……!

 私と稜くんは、顔を見合わせ、お互いに同じことを考えていると分かった。


 大きく口を開けたままの私と稜くんだったが、他の人達の冷静な様子を見ると、すでに二人から事情を聞いていたようだ。

 私達の反応を見るように、こちらを伺っている。

 私はただ、ぽかんと口を開けて、みんなの顔を見回していた。


「粋華ちゃん、大丈夫……?」

 お母さんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「……帰れる?」

「ええ、そうよ。粋華ちゃんをこっちに連れて来た時の“異世界転移魔法”を使えば、また元の世界へ戻すことが出来るはずよ」

「早く見つけて、元の世界に返してあげようと頑張ったんだけど、遅くなってしまってごめんよ」

 お父さんが申し訳なさそうに眉を下げて微笑んだ。


「……それで、どうしたい?」

 問うた水色フィアリーズに、稜は叫ぶように答えた。

「俺、俺は……帰りたい! 早く帰って、みんなに会いたい!」

 喉元から込み上げてくる熱いものをグッと堪えると、自然と涙が出てきた。

 帰れる……!

 本当に、帰れるんだ!!

「稜くん……」

 涙を堪えるように拳を握った稜くんの肩は、小さく震えている。私はそっと彼の肩に手を置いた。


「……粋華ちゃんは、どうするの?」

 お母さんの顔は悲しそうだ。

 やっと会えた私と別れるのが、辛いのかもしれない。

 私は部屋の中にいる、エアール国の人達を見回した。

 王は最初、私の事を殺そうとしたほど、邪魔者扱いをした。でも、その後、和解した時には、ずっとここに居て欲しいという言葉をもらった。

 イスメーネさんは、私を養女にしてくれると言った。孤児院を作ることも、銭湯を作る事にも協力してくれると言った。

 クラウディオさんは……

 彼に目をやった私は、ふいっと顔を逸らした。

 彼が、とても悲しそうだったから。

 もしかしたら、前の私だったら気付かなかったかもしれない。なにしろクラウディオさんは、怒り以外の表情が乏しいし、分かりにくいからね。

 いつの間にやら、何となく気持ちが読み取れるようになってきているような……?

 うっ……それって何か、気持ち悪い。

 別に、彼に特別な感情なんてないのに。


 それはさておき、王都の人達がどう思うかは、まぁこの際、無視してしまおう。

 実は、もし帰れる日が来たならどうする? と、いつも一人、妄想していたんだよね。

 ここの人達は、いい人たちばかりで居心地が良すぎて、返って申し訳ない気持ちを常日頃からひしひしと感じていた。出来る事なら積極的に協力して、受けたご恩をお返ししたい!と頑張った。

 お世話になった分だけ、ちゃんと恩返しが出来たかどうかは分からないけど、これでも自分なりにはしてきたつもり。

 だから、今帰ったとして、「この、恩知らずめー!」などと、罵られることはないんじゃないかと思っている。

 うーん……心残りがあるとすれば、フィアリーズ達のことかなぁ。

 散々お世話になっておいて、充分なお返しが出来てるとは正直思えない。

 一度、ちゃんとマーク達に、して欲しい事を聞いた方がいいかもしれない。


 顎に手をやり考え込んでいる粋華に、水色の髪のフィアリーズが再度声を掛けた。

「おい、粋華?」

 フィアリーズ達へのお礼といえば、手作りの料理やお菓子を振舞う事が一番なんだろうけど、お城の食材で作るのは、ちょっと違う気がする。

 それだと、王様の負担になっちゃうだろうしね。

 私のお金からだと、あんまり豪勢な物は作れないかもしれない。なにしろ、フィアリーズの人数がすっごく増えたから。ほんとにみんなよく食べるし……

「ちょっと、粋華ちゃん?」

 三日前、魔獣との戦闘が終わってから、王都へ帰って来てすぐに作ったマドレーヌは、あっという間になくなってしまった。ものすっごくたくさん作ったのに~~~。余ったら魔導士の皆さんにも振舞おうと、せっかく多めに用意したのにさ。だいたい、スライトが食べ過ぎなんだって! ミラがずっと呆れた顔してて、見兼ねて途中で止めてくれたけど、結局なくなるまで全部食べちゃって……。人の事なんてお構いなしだもんね、あの人。っていうか、魔物。まぁ、フィアリーズのみんなは満足そうな顔してたからいいけど……


「す・い・か・ちゃん!!」

「へ!?」

 私はやっと気づいて顔を上げた。

 あれ? と、周りを見ると、呆れたようにみんながこっちを見ていた。

「もう、何度も呼んでるのに、ちっとも気付かないんだもの!……それで、どうするかは決まった?」


 あ……そうだった。まだ返事してなかったっけ。

 私の答えは、みんなには申し訳ないが、最初からもう決まっている。



 ----------


  

 魔獣との決戦から、3カ月経った。

「はぁ、やっと帰れる……」

 稜は王城の大きな窓から、明るい外を眺めた。

 まだ朝は寒いが、昼は温かい日差しが降り注ぐ。

 季節や時間は地球と連動しているようで、あちらの世界も、今は春を迎えていることだろう。

 すぐに帰りたがった稜くんだったが、未だ、ここエアール国に留まっている。

 稜くんが、こちらに来たのは去年の春だったので、もうすぐ一年が経とうとしていた。

「そうだね。やっとね……」

 私も窓際に立ち、穏やかな青空を見上げた。



 お父さんとお母さんは“異世界転移魔法”の精度をさらに上げる為、今日も本番に備え、魔法の訓練に取り組んでいる。

 すぐにパパッと魔法で帰すのかと思っていたら、そうは問屋が卸さなかったのだ。念の為、試しに物に対して魔法を発動させたら、まさかの失敗。

 いやあ、いきなり人に発動しないで良かったよ。

 三分の一ほどの確率で、全然違う場所へ飛ばされてしまったり、飛ばした物が行方不明になったりした。もし失敗してしまったら、今度はこことも違う、全く知らない世界に飛ばされてしまうかもしれないのだ。

 安全に正確に発動出来るようになるまで、人に対して使うのは厳禁となった。



 いつ帰れるのかと不安そうな稜くんを慰めながら月日は過ぎた。

 稜くんの気持ちを紛らわそうと、私と一緒に王都の町へ何度か遊びに出かけたり、お城の人達に頼んで仕事を見学させてもらったりした。


 そんな中、魔獣との決戦が終わったら、私には、しておかなくちゃいけない大事な事があったのを思い出した。

 善は急げ!と、戦闘の後処理で忙しいクラウディオさんをなんとか捕まえ、前にダニロ隊長に話した理由と同じ話をして、鞘を返そうと差し出した。

 しかし彼は表情を変えず、「使わなくてもいいから持っていて欲しい」と私に告げた。

 困った私は、石がはまった所に布を巻いて、とりあえずララエルの角が見えないようにして、当分、そのまま使う事にした。といっても、王城にいる人達にはバレちゃってるから、意味がない。

 違う鞘を用意したらいいんだけど、新たに鞘を作ってもらうのは時間がかかって面倒くさいとか、お金がいくらかかるのか恐ろしいとか……まぁ、理由はいろいろあった。

 気分的にはスッキリしなかったけど、ライディはこの鞘が気に入ってるしね。ま、いいとしよう。



 3カ月間、毎日訓練を積んだお父さんとお母さんは、やっと、ほぼ正確に思った通りの場所へ、物を転移させられるようになっていた。二人には転移先の様子が見えていて、誤差は1メートル以内と、まぁ、ほんの僅かだ。

 なるべく地球の人達に気付かれないように転移の練習をしているようだけど、突然、目の前に物や人が現れたらびっくりしちゃうよね。そうならないように、両親には、一層の魔法の上達を期待している。



 そして、いよいよ二日後、やっと異世界転移魔法による、地球への帰還が決定したのだ。

 私は殺風景になった自身の部屋を見回した。

 不要な物はお城へ返し、とりあえず必要な物だけ大きなリュックに詰め込んだ。

 はぁ……、まだまだ序の口。

 大きな荷物の移動もある。一人で運べない物は、アージルに持ってきてもらう事になっている。

 これから一人暮らしをするにあたって、王様から、様々な贈り物を頂いた。嬉しいことに、お城で不要になった家具をもらい受けることになったのだ。

 新しいのを職人に作らせるって何度も言ってきて、クロス王は中古家具に最後まで納得してなかったけど、そんなのもったいない! 私はこれが欲しいんだって力説した。

 この古めかしい、アンティークな感じが素敵なんだよ~

 しかも、城で使っていただけあって、作りがしっかりしていて豪華!

 禿げた所なんかは、かえってそれが味になるってもんだ。

 この世界の人には、アンティークに貴重な価値があるという考え方はないようで、非常に残念だ。

 はぁ……素敵な家具に囲まれた生活。

 楽しみ過ぎる~~~~!!


「スイの顔。ニヤニヤしちゃって気持ちわる~い」

 マークが私の頬をむにっとつまんだ。

 ぜーんぜん、痛くないけどね。


 

 その時、コンコンとドアをノックする音が。

 約束通りの時間に、クラウディオさんが部屋を訪ねて来た。

 今日は二人で町へ出る約束をしている。

 もろもろの用事で、この3カ月の間に町へ出る機会は何回もあったが、クラウディオさんと二人っきりで出かけるのは、あの魔物スパーリが町に現れた、3カ月以上も前の事だ。

 あの時は、いつもと違うクラウディオさんに、どぎまぎしちゃったんだっけ。

 いろいろ慌ただしかったから、もっとずっと昔の事のような気がする。


「もう、行けるか?」

「はい! 用意は済んでます!」

 大きめの鞄を肩に斜め掛けにすると、その中にマリアさんとシェルに入ってもらう。そして、ライディの入った鞘を担いだ。

 ミントとアージル、他のフィアリーズ達は、稜くんの護衛に残ってもらった。もちろん、目立つ彼らを町に連れて行けないってのが、一番だが。

 私が一度攫われたのをずっと気にしているクラウディオさんは、フィアリーズが一緒じゃないと、町へ出るのを許してくれない。

 ほんっと、過保護なんだよねぇ。

 ジトッと見上げた私の視線に気づいたクラウディオさんは、「どうした?」とすこーし屈む。身長が高い彼は、こうしないと私の顔がよく見えないみたいだ。

 

 町へ出た私達は、早速、お目当ての店に次々と入って、商品を物色する。

 雑貨屋で、木彫りの置物を手に取った。

「これ、稜くんにどうでしょう?」

 額に角の生えた熊が、台座の上に立体的に彫られていた。口には角の生えた魚をくわえている。

「向こうには、こんな角を持った動物はあんまりいないので、思い出になると思うんですが……」

 クラウディオはそれをジッと見つめると、口元を緩めた。

「スイがいいと思うなら、いいんじゃないか?」

「よし! じゃあ、これにします! 自分用に、もう1個買おうかな?」

 私が2個目を手に取ると、クラウディオさんの手が私の腕を掴んだ。

「え?」

「リョウと揃いで持つ気か? お前にはこれだ」

 そう言って、ジャガーの置物を私に見せた。

「あ! それもいいですね!」

 クラウディオは何故かジャガーの置物を2つ手に取ると、さっさと会計をしに行った。

 ……でも、やっぱりこれも欲しい。

 私はクスッと笑うと、気付かれないようにこっそりと両手に持った置物を買った。


 その後も何件か店を回り、大きい物は配送を頼んだ。

 大きな袋を抱え、私はホクホクと町を歩いた。クラウディオさんには私が持つ袋よりも、さらに大きな袋を持ってもらっている。

 いやあ、買った、買った!

 ちょっとばかし、お財布の中身は軽くなっちゃったけど、一人暮らしはいろいろ物入りだしね。

 うん、仕方ない、仕方ない!


 もう日は傾き始め、夕刻に近づいていた。

「スイ。ちょっと寄りたいところがあるんだが、いいか?」

「え!? あ、はい」

 クラウディオさんの後について歩くと、見覚えのある店の前に着いた。

 3カ月前、クラウディオさんと二人で昼食を食べた宿屋兼レストランのお店だ。


「え!? ここ!?」

「入ろう」

 前と同じようにテーブルに向かい合って座った。

 今回はお昼じゃないせいか、お客はまばらだ。


「前に来たときは昼時だったから食べられなかったんだが、あの時、持って帰ろうとしていた菓子があっただろう?」

「あ! そういえばそうでした!! お菓子!!!」

 私の食いつきの良さに、クラウディオさんはクックックと口元を拳で押さえ笑った。

 あの後の騒動で、結局、あのお菓子が私の口に入ることはなかった。


 運ばれてきた、鮮やかなフルーツとたっぷりの白いクリームが乗ったケーキを前に、私の瞳はキラキラと輝く。

「うそ……これ、生クリーム?」

 お城では、いろいろなお菓子を食べさせてもらったけど、生クリームが乗った物は見たことがなかった。

「知ってるのか? 最近出来た菓子らしい。まだ王都でしか食べられないようだ」

 私はスプーンでケーキの上に乗ったクリームをすくって口へ入れた。

 !!

「やっぱり! 生クリームだ!」

 下のスポンジケーキと一緒にすくって口の中へ入れた。

「美味しいです!」

 大興奮の私を見て、クラウディオさんは声を出して笑った。

「そんなに喜んでもらえると嬉しいものだな。俺のも食べろ」

 お皿を差し出してくるが、私は首を横に振った。

「い、いえいえ! それはクラウディオさんが食べてください! 騎士はエネルギーを使うんですから! 私はこれ以上食べたら太ってしまいます!」

「ふっ、そうか、分かった」

 クラウディオさんは微笑むと、二人して生クリームがたっぷり乗ったケーキを食べた。

 

 はぁ……幸せ。

 ずっとこの時が続けばいいのに……


 店を出て、お城へと続く道を二人で並んで歩く。

 空はもうオレンジ色に変わっていた。


「もう一件、寄り道するぞ。お前にいいものを見せてやる」 




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