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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
122/127

62. 新たな助っ人


 その頃、オルーアと戦っていたコーリンとアージルは、決着を迎えようとしていた。

「くそぉ、お前らなんかに、この私が……!」

 ボロボロになったオルーアに、コーリンがとどめの一撃を加えた。


 水色と桃色のフィアリーズは、空を舞うクラフティに、同時に強烈な閃光弾を放った。

 ドラゴンは吹き飛ばされたものの、その体には傷一つついていない。

「あなた……、大丈夫?」

「ああ……、だが、さすがに魔力が厳しくなってきたね。何日も補給出来ていないから」

 二人のフィアリーズの魔力は、平常時に比べ大きく失われていた。

 

「おい、スイ。あの二人はもう限界だ。このまま続けるのは危険だぞ」

 空を見上げるイスメーネは、隣にいる粋華に忠告した。

 イスメーネの手には、“魔力を吸い取る君3号”が握られている。

「こいつで、奴の魔力を吸い取れればいいんだが……」

 素早い動きで飛び回るドラゴンを見て、イスメーネは悔しそうに口を歪めた。

 フィアリーズが捕まっていた檻とは違い、じっとしていてはくれない。

 魔力を吸い取るには時間がかかるのだ。


 私は空を動き回るドラゴンを睨みつける。

「もう、力ずくしかないでしょう!」

 絞り出すような低い声を出した粋華を、イスメーネとクラウディオが「ん!?」と両側から見た。

 動き回るなら、じっとしてもらうしかない!

「力ずくで押さえつけましょう!!」

 

 私はフィアリーズ達を呼び戻すと、クラフティを動かないように押さえつけてくれとお願いした。

『分かりましたわ』

 マリアさんが、こくんと頷いた。

『ワイらに任しとき!』

 リタら5姉妹とアージル、ミント、ライディも頷く。

「頑張ってね、マーク!」

『うん! じゃあ、行ってくるね!』


 シェル以外のフィアリーズがクラフティ目掛けて飛び立った。

「シェル」

 相変わらず足元で丸くなっているシェルに声を掛ける。

『肉体労働は無理』

「分かってるよ。防御魔法で、充分助かってるから」

 私は苦笑いを浮かべた。



 フィアリーズ達は、空中でクラフティを取り囲んだ。

「おや? 君たちは……」

 戸惑う水色フィアリーズを背にして、マークはクラフティと対峙した。

『ここは僕たちがやるから、あんた達は一旦、下がっていて!』

『さあ、大人しくしてくださいませね』  

 マリアは、前に出した両手をワキワキさせる。

「なんだ! 貴様らは……!」

 クラフティは、ゾッと嫌な予感がして、さらに上空へと逃げようと翼をはためかせた。

『そうはさせないわ!』

 リタら5姉妹が、次々とクラフティに体当たりを食らわせる。

 さらに、クラフティを落とそうと、ミントが上空から踏みつける。

「ぐっ! 貴様らー!!」

 クラフティも、負けじと拳や蹴りで応戦する。

 他のフィアリーズ達も、相手の攻撃にひるまず、押さえつけようと全員で掴みかかった。


「ああ! 私が飛べたら手を貸せるのに……!」

 コーリンは悔しそうに唇を噛んだ。

 みんな、頑張ってーーー!!

 私は両手を握りしめ、フィアリーズ達の頑張りを見守る。


「スイ、体はもう大丈夫かい?」

 フラフラと戻って来たお父さんが、私の肩によいしょと座った。

「うん! 私は全然大丈夫!」

 お父さんの方が大丈夫じゃないみたい……


「そうだ! さっき作ったスープがまだ残ってるかも!」

 私は急いで鍋を見に行くと、残っていたスープを注いで差し出した。

「いや、僕たちは人間の食べ物は食べられないんだよ」

「……そうね。残念だけど……って、あら?」

 もう片方の肩に腰かけたお母さんが、不思議そうに首を傾げた。

「どうして粋華ちゃんに触れるのかしら?」

「おや!? 本当だ!」


 ええっ!? 今頃気付いたの!?

 私は、異世界人はフィアリーズに触ることが出来る事や、作った食べ物は、フィアリーズが食べることが出来るって事を説明した。


「まあ! じゃあ、粋華ちゃんの手料理が食べられるって事!?」

 お母さんは驚いて口を押さえた。

「試してみよう」

 二人は、恐る恐る口をスープに近づけた。

「まあ! 本当だわ! 美味しい……!」

「ああ! 生き返るようだよ!」

 二人は目を輝かせて、無心にスープをすすり出した。


「ああ、美味しかったわ……。まさか、粋華ちゃんの手料理が食べられる日が来るなんて!」

「うん、幸せだねぇ」

 二人は満足そうに瞼を閉じた。

 二人を見て、私まで嬉しい気持ちになった。

 三人一緒に微笑む。


「私達が人間だった頃は、ちっともお料理を手伝ってくれなかったのにね」

 うっ……

 あれ? なんだか雲行きが……

「そうだね。母さんが調子の悪い時でも、弁当を買って来てたからねぇ」

 ううっ!

 痛い所を突かれ、思わず胸を押さえる。

「キッチンに入るのを嫌がって、教えてあげたくっても出来なかったのに、いつの間に覚えたのかしら?」

 ごめんなさい! もう、勘弁してください……!

「えっとね、叔母さんに教えてもらったんだ。大学を卒業したら、一人暮らしをしようと思ってね」

「まあ、そうだったの。就職活動は上手くいったの?」

「いやあ、それが……」

 私は頭を掻いて、先を言うのを渋る。


『ちょっと、スイ! 僕たちの事、忘れてないよね!?』 

 空から降って来た声に、思わずビクッと体を震わせた。

 あ、忘れてた……!

「も、もちろん覚えてるよ! マークー! 頑張れー!」

『『『……』』』

 みんなのシラケた視線が痛い。


『スイ様……! 私達の力では難しいかもしれません!』

 暴れるクラフティに苦戦しながら、マリアが叫んだ。

「え……そんな! どうしよう……」

「やっぱり、私達が!」

「粋華のスープのおかげで元気になったからね!」

 飛び出していこうとするお父さんとお母さんを、ワシッと掴んで止める。

「あいつには魔法は効かないんだよ。まずはあの防御魔法を解かないと!」

 ああ、もう!

 何かいい方法、ないかなぁ。

 必死に考えるが、何も思いつかない。



 その時、魔獣と戦っていた騎士らの、叫ぶような大声が聞こえた。

「魔物だーーー!」

「新手の魔物が出たぞーーー!!」

 ええっ!? また魔物―――!?

 声がした方の上空を見ると、遠くから巨大な青い物体が近づいて来るのが分かった。

 うそ―――!?

 またドラゴン!?


 その時、クラウディオが大声で騎士らに指示した。

「待て! そいつは敵じゃない! 攻撃するな!」

 え!?

 敵じゃないって……

 私は目を凝らして近づいてくる物体をよーく見てみた。

 あっ、頭の上がオレンジ?

「え? まさか、スライト……?」

 

 近づいてきたそれは、ドラゴンではなく巨大な青い鳥だった。

 頭には立派な角と、オレンジ色の冠羽がある。

「スライト! どうして……!?」

 大きな鳥は、人の姿に変わりながら私の目の前に降り立った。

「やあ、スイ! 久しぶりー!」

 なんで!? どうして!? と詰め寄る私に、スライトは笑顔で抱き

ついてきた。

 ぎゃーーーー!

 いきなり何すんのよ!?


「あのお菓子、すっごく美味しかったよ! もっと食べたくなっちゃってさ。作ってよ」

「もう! 兄さんったら、止めなさいよ!」

 ミラが、私に抱きつくスライトをベリベリと引きはがした。

 あ、ミラ。いたんだ。

 スライトの存在感が大きすぎて気付かなかった。


「でも、ここにいる事がよく分かったね」

「ああ、それは……」

 説明しようとしたスライトを遮るように、ミラがずいっと目の前に何かを突き付けた。

「こいつに教えてもらったのよ」

 ミラの手には、一羽の鳥が握られていた。

 それも、ただの鳥ではない。

 赤い光を纏った、粘土で出来た鳥だ。 

「あれ? どこかで見たような……?」

「あ! こいつ、ジェットコースターに付いてた鳥だ!」

 横から覗き込んだ稜が声を上げた。

「ああ! せっかく作ったのに、稜くんに外されちゃった、あの鳥!?」


『えへへ、みなさん始めまして』

 粘土の鳥は、もごもごと体を動かし、ミラの手からなんとか抜け出すと、私の手に乗ってペコリと挨拶をした。

「どうして……!?」

 不採用になった粘土の鳥に、何故にフィアリーズが!?

 驚く私に、粘土の鳥は言いにくそうに話し始めた。

『ごめんなさい! 私も、粘土の中に入ってみたかったの。この鳥の形をした粘土がお部屋に転がってるのを見て、呼ばれてないと知ってたけど……思わず入っちゃったの!』

 えへへと笑って、舌を出した。

 つられて私も、ふふっと笑った。

 お調子者っぽい所が、なんだか他人とは思えない。

 私の中に、ふつふつと親近感が湧いてきた。

「そうなんだ。いいよ、いいよ。二人を連れて来てくれて、ありがとうね」

『えへへ、やったあ! 私はイザリー。探知魔法が得意なのよ!』

 ほうほう。だから、私の居場所が分かったのかな?


「と、いうわけなんだ~。じゃあ、早速、またあのお菓子を作ってよ!」

 笑顔のスライトに、私は冷たい視線を向ける。

 君には、今の、この状況が見えていないのかな~~?

 今ここは、まさに魔獣と人間が激しい戦いを繰り広げている真っ只中である。

 恐ろしい魔獣の唸り声と騎士らの怒声が響き合い、傷ついた者の血の匂いが漂う戦場だ。

 「まあ、よく来てくれたわね! じゃあ、早速お菓子を作ろうかしら~♪」なんて、呑気にキッチンに向かう場面ではない!

 もちろんここには、キッチンもない!!


「ちょっと兄さん。そんな場合じゃないみたいよ」

 ミラはスライトの服をつんつん引っ張って、周りを見るよう促した。

「あれ? そういえば、随分騒がしいね」

 スライトは今気づいたように、キョロキョロと首を動かした。

 私は二人に状況を説明した。

「へ~。あのドラゴンが、そんなに強いんだ。あいつを仕留めれば、またお菓子を作ってくれる?」

 私はうんうんと勢いよく首を縦に振った。

 スライトが助けてくれれば、なんとかなるかもしれない!

「もちろん! とびっきり美味しいお菓子を作りますよ!」


「よし、分かった! 俺に任せとけ!」

 スライトはニヤリと笑って胸を張った。


 やったあ! 

 助っ人、ゲットだぜ!

 私は心の中で、ガッツポーズをした。 



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