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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
121/127

61. 決戦!


「あなたは……! 師匠!?」


 やっぱり、ダニロ隊長だ!

 ダニロは後ろにたくさんの騎士を引き連れ現れた。

 その数は、およそ100。

 

「愛しい我が息子と娘の危機とあれば、俺が黙っていないぞ! 我ら北の部隊もこの戦に参戦する! おっ、その顔が見たかったんだ!」

 ダニロはクラウディオと粋華の驚いた顔に、満足そうに豪快に笑った。

 ダニロの部隊の騎士達は、彼が話している間にも素早く陣形を整え、戦の準備を進めていた。よく訓練され、統率がとれているのが伺える。


「王からの出軍命令があったからだろうが。調子のいい」

 ヨドークが呆れた口調で言い、鼻で笑った。

「ふん、だがお前の隊の危機なら、俺は出撃を渋ったかもしれんな」

 ヨドークとダニロは睨み合い、バチバチと火花を散らす。


「お父様! わたくしも駆けつけましたわ!」

 イザベラがヨドーク将軍に駆け寄る。

「おお! イザベラ! このような危険な場所に来るとは!!」

「私も、治療魔法しか使えませんが魔導士です! お父様たちのお役に立ってみせますわ!」

「おお! イザベラ! なんと立派な心意気だ!」

 父娘は、ひしっと抱き合った。

 ヨドークは感動のあまり涙を流している。


 えっと……これって、いつまで続くの?

 それよりも……!

「マーク~! コーリンさんが!!」

 コーリンは魔獣の先頭集団に切り込み、次々と襲い来る魔獣を手刀で切り裂き、返り討ちにしている。

 魔獣と彼女との戦力差は大きく、簡単にはやられそうではない。しかし、相手は数の暴力で迫って来る。

 彼女の安否が気掛かりで、オロオロとする私の肩に、イスメーネが手を置いた。

「すぐにあの魔物を下がらせろ。まずは我々の出番だ!」


 私は頷くと、

「マーク! お願い!」

『分かった!』

 マークは勢いよくロケット噴射で飛び出していった。

 

 連れ戻しに来たマークに抵抗したコーリンだったが、ガッチリ体を抱えられると、そのパワーに抗う事は出来なかった。

 戻って来たコーリンは、ガックリと肩を落としていた。

「フィアリーズの力に負けるとは……。私もまだまだだね」


 いつの間に移動したのか、魔獣の群れの先頭集団を囲むように、魔導士らが配置についていた。

 初めにいた10人に加え、王都と北の砦の騎士らを連れてきた魔導士たちも加わり、王都が誇る優秀な彼らが杖を構え、大規模魔法を展開した。

 先ほどは魔物らにダメージを与えながらも、致命傷を負わすことが出来なかったこの魔法だが、魔物に成り切れていない魔獣らにとって、耐えきるのは不可能だった。

 断末魔を上げながら、バタバタと倒されてゆく。

「よし! 魔導士らを援護しろ!」

 騎士は、魔導士らへと襲いくる魔獣に剣を向けた。


「ちょっとぉ、まずいんじゃないの!?」

 オルーアは不安げに上空から戦況を見下ろす。

「くそっ! 忌々しい人間どもが!! オルーア、まずはあの魔導士どもを始末するぞ」

 そう言ったクラフティとオルーアの前に、桃色と水色フィアリーズが立ちはだかる。

「あなたの相手は私達よ! よくも長い間閉じ込めてくれたわね!」

「僕は、あの子を殴ったお前を許さない!」


 イスメーネは、対峙するフィアリーズとドラゴンを見上げた。

「うむ。あのドラゴンをなんとかせんことには、我々の勝利はないからな」

 彼女の言葉を受けて、私はこくりと頷いた。

「マークもお父さん達を手伝って! お願い!」

『うん! 僕もあいつを許せないからね! 任せて!』

 合体ロボは全身に魔力のオーラを湛え、お父さん達の横に並んだ。


「あんたの相手は私だよ!」

 コーリンは上空にいるオルーアに対し、ニヤリと笑みを見せた。

「ハハッ! 笑わせないでよ! 空を飛べないあんたが、私に敵うかしら?」

『僕は上空から援護します!』

 アージルがオルーアの背後に現れた。

 彼の素早い動きに、オルーアは気付けなかった。ハッと振り向いたオルーアを、アージルは容赦なく殴りつける。

「きゃあ!」

 弾き飛ばされ、地面に落ちて行くオルーアに、コーリンが跳び上がって蹴りを入れた。

 うわっ! 痛そう!!

 あの魔物は、コーリンさんとアージルに任せておけば大丈夫そうだ。


『私は、騎士様たちの治療に専念いたしますわ』

「うん! マリアさん、お願い!」

 マリアは粋華の返事を聞くと、勢いよく飛び出していった。

『私達も援護してくるわ!』

 リタら5姉妹も、マリアの後に続く。


 私は足元で丸くなっているシェルを見下ろした。

「ねえ、やっぱり、全員に防御魔法は……無理だよねぇ」

『ああ、さすがにな。魔物と戦ってるこいつらや、スイとリョウには掛けとくから。もう絶対、死んだりするなよ』

 シェル……!

 なんにも言わなかったけど、私の事、心配してくれてたんだ!

 胸がジーンと熱くなる。


「おい、お前、無事だったんだな。死んだかと思ってたぜ」

 ひぃ!

 遠くから、私を真っ直ぐに見つめる鋭い瞳に、体が硬くなる。

 こいつは……!

「あの時は、まんまと逃げられちまったからなぁ。リベンジといこうか。相手をしてくれんだろ?」

 赤茶色の瞳を細め緑の長髪を揺らしながら、スパーリがゆっくりと私に近付いてくる。

 私は剣を抜き、前に構える。


「援護する」

「俺もだ」

 私を挟むように、イスメーネさんとクラウディオさんが横に並んだ。

「もう、二度とお前を失いたくない」

 真っ直ぐにスパーリを見たまま、クラウディオが言った。

 イスメーネは半目になると、はぁ~と息を吐き出した。

「愛の告白は、この戦が終わってからにしてくれ」

「そうします」


 ……なんだろう、これ。

 師弟ジョークか?

 息がピッタリのやり取りに、緊張で固まっていた体が少し楽になる。


「よーし! ライディ、やるよ~!」

『おっしゃあ! もう、遅れは取らへんでー!!』

 ライディの輝きが増した。

 剣から、金色のオーラが立ち昇っている。

 おお!? なんだか只ならぬパワーを感じる!


 スパーリは岩魔法を放ってきた。

 私はまだ全く届かないそれに、剣を振るってみた。

 剣から放たれた剣圧が、岩を粉々に吹き飛ばす。

『スイ! お前、魔力が上がっとるんやないか!?』

「えっ!? これって、ライディの力じゃないの!?」

 

 イスメーネとクラウディオは、次々と激しく魔法を放った。

 スパーリは、それを弾いたり避けたりしながら、それでもじりじりと距離を詰めて来る。

 私は、この魔物のすばしっこさを知っている。

 神経を研ぎ澄ませ、魔物の気配を探る。

 目で捉えることは、きっと無理だ。

 気配を探るんだ! 剣の達人のように……!


「そこだーーー!!」

 私は振り向きざま、剣を振り下ろした。

「グハッ!!」

 スパーリの肩が裂けた。

 あれ!? 嘘!? 本当に当たった!!

 私は驚いて、口をあんぐりと開けた。

 

 イスメーネとクラウディオが、ここぞとばかりに魔法を打ち込む。

 スパーリは距離を取って、攻撃を避ける。


「くっ! よく分かったな。まさか、人間の小娘に動きを読まれるとは……!」

 スパーリは、深い傷を負ったにも拘らず、嬉しそうにニヤニヤと口元を上げた。

『感知魔法やな。お前、いつの間にそんなもん使えるようになったんや!?』

「え!? さあ……、よく分からない」

 ライディの言葉に、私は首を傾げた。

 もしかして、魔法が使えるようになった事と関係があるのかなぁ。


「雷魔法だけじゃないんだな! いいぜー! 楽しくなってきた!」

 スパーリは、血走った眼を私に向ける。ギラギラした目に、背筋が寒くなる。

「これ以上やると死ぬことになりますよ! 何が楽しいんですか!?」

 あまりの気味の悪さに、思わず問いかけた。

「俺は強い奴との命のやり取りにワクワクするんだよ。死ぬかもしれないギリギリを楽しんでるのさ」


 私は冷たい目をスパーリに返した。

 少ししか関わった事がなかったけど、こいつはクラフティよりはマシかと思ってた。

 でも、違った。

 こいつ、変態だ……!!


「あなたは、まだ更生できるかもって思ってたけど、やっぱりダメですね。あなたみたいな危ない奴、野放しには出来ません!」


「構わねえぜ。強い奴に殺されるなら、本望さ!」


 スパーリは手に魔力を集めると、巨大な岩を飛ばして来た!

「こっちだ!」

 クラウディオに腕を引かれて、横へ倒れ込む。

 大岩が轟音を立てて、地面にめり込んだ。

 あっぶなー!

 シェルの魔法がかかっていても、こんなのに潰されたらペチャンコになっちゃうよ!


「まだそんな魔力が残っているのか! 恐ろしい奴め。おい、クラウディオ!」

 イスメーネの視線を受け、クラウディオは無言で頷く。

 え? なに?

 クラウディオとイスメーネは杖を構え、同時に魔法を発動させた。

「ぬあっ!」

 スパーリの上下から、同時に氷の槍が、激しく降り注ぐ。

 急いでその場を離れたものの、何本もの槍が体に突き刺さっていた。

 

 私は、動きが鈍くなったスパーリ目掛けて剣を振った。

 剣から放たれた風が、彼の体を大きく切り裂いた。

 スパーリは、ドサッと仰向けに倒れる。

「スパーリ……」

 稜は結界から出て、血だらけの魔物の足元に立った。


「よう、王様。やられちまったよ」

「俺、……お前がいてくれて、少しは楽しかったよ」

「へっ、少しかよ。ま、でも良かったよ。少しでも……」

「ありがとうな、スパーリ」

「……じゃあな、王様」

 スパーリは静かに目を閉じた。


 うっ、ううっ……!

 ライディは、下を向いて顔を赤くした私に戸惑う。

『おい、スイ! どないしたんや!』 

 

 顔を上げた私の目には、じんわりと涙が溜まる。

 稜くんと魔物のやり取りを聞いて、冷静にはなれなかった。止めようと思っても、目頭の熱さは引かない。

 稜は、ギョッと目を剥いた。

「なんで、粋華さんが泣いてるんだよ!?」

「ごめんね、稜くん……! ごめんね!」

「ちょっと、俺だって泣いてないのに。仕方なかったじゃん! あいつはああいう奴だからさ!」

「そうなんだけどね。……ごめん」

 私は慌てて涙をゴシゴシと袖で拭った。

 いかん、いかん! 

 泣いてる場合じゃない。


 私は戦闘を続けている魔物に目を向けた。

 クラフティと戦うお父さんとお母さんは、疲労の色を濃くしていた。


「無駄だ。我にはどんな攻撃も効かん!」

 ドラゴンの高笑いが辺りに響いた。



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