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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
117/127

57. 神様ーー!?


「スイ様!?」

 マリアは急いで粋華の体に手を置き、全力で治療魔法を施す。

 白い光が粋華の体に灯ったが、変化は起きない。


「……ちょっと、そこを退け」

 イスメーネは苦しい息を吐きながら体を起こすと、粋華へと手を伸ばした。

 目に涙を浮かべたマリアが渋々場所を譲ると、イスメーネは粋華の首に指を当てた。

 首筋の脈を確かめたイスメーネは、苦渋に満ちた顔で瞳を閉じると、大きく首を横に振った。


『……嘘やろ?』

 粋華のすぐ横にふわふわと浮かぶライディが、ポツリと呟いた。

『いやーーーー! スイ様ーーーー!!』

 マリアの悲痛な叫びが辺りに響いた。


「スイー、スイー、目を開けてよー……」

 マークは粋華の頬をペチペチと小さな手で叩いた。

「そんな……! 粋華さん……!?」

 痛みを堪えて立ち上がった稜は、粋華を見下ろした。



「魔導士様、スイの身に何かあったようです! 行ってください!」

 ホレスがクラウディオを促す。

 フィアリーズ達の只ならぬ様子に、嫌な予感がする。

 クラウディオは頷くと、稜たちの元へと走った。



 フィアリーズ達は一言も発しず、粋華の周りを静かに囲んでいた。

 マリアとリタら5姉妹の、小さなすすり泣きだけが聞こえる。

「……まさか、そんな……!!」

 クラウディオは杖を取り落とし、ふらふらと粋華の傍らに跪くと、まだほのかに温かい彼女の手を取った。

 握った手を、自身の額に擦り付け、ぐうっ……と小さくうなった。

 討伐部隊の騎士ら、そしてレオンとブレージは、粋華の変わり果てた姿に驚き、茫然とした。

 


「ふん。どうやら、異世界人の小娘が死んだようだ」

 離れた所でフィアリーズ達を見ていたクラフティが、感情のない声で呟いた。

 体の痛みにいててと顔を歪めながら、コキコキと肩を回したスパーリは、大きくため息をついた。

「あーあ……、一度、戦ってみたかったんだがなぁ」

「おや!? ブーザの姿が見えんな。一体どこまで逃げたのだ?」

 クラフティは、どこにもブーザの姿がない事に気づいた。


「まあ、いい。さっさと奴らを葬って、稜を連れて帰るぞ」

「……」

 スパーリは、当然のように命令してくるクラフティを、ギロッと睨んだ。

 しかし、反論することもなく、腕を回しながら、集まる人間達へと視線を移した。



 ----------



 ……ハッ!!

 今、寝てた!?

 寝てる場合じゃないよ!? 稜くんが!!

 ぼんやりとした頭で、周りを確認する。

 真っ白な空間に、優し気な片眼鏡をかけた痩せた中年男性の姿が見える。

 壁や床もない部屋に、男性は執事のような服装で、空中に浮かんでいる。

 

 ……ドコ? ココ?

 えっと……?

 頭を整理しようとするも、もやがかかったようにはっきりとしない。

 ああ、もうっ! ぼーっとしてる場合じゃないよ~~~!!

 早く稜くんを助けないと!

 それに、お父さんとお母さんを、早く檻から出してあげないと~~~!!

   

「……おやおや。……まあ、落ち着いてください」

 のんびりとした男の声が頭に響く。

 執事姿の男性は私に近寄ると、クスッと笑った。

「……珍しい人生を歩みましたね。ご両親に異世界へと連れて来られて、そこで、偶然知り合った異世界人を守ろうとして亡くなってしまうなんて……」

 男性は微笑んだまま、微かに眉尻を下げた。

 私を哀れんでくれているようだ。


 んんっと、え? 亡くなった? 

 !?……う、嘘!? 私、死んじゃったの!?

 そ、そんな馬鹿な!!


 男性は、落ち着けというように、両手でまあまあと私を宥めた。

「そんな馬鹿な!!……と言われましてもね、あなたは本当に亡くなっているんですよ。ほら、もう体もないでしょう?」

 私は自分の体を見下ろそうと下を向いた。

 でも、白い空間があるだけで、そこにあるはずの体は見えなかった。


 ……本当に、死んじゃった……?


「ど、どうしよう……!? まだ、稜くんやお父さん達を助けてないのに!……それに、魔獣の群れが王都へ迫ってるってのに!?」

 何やってんだ、私!!


「……しかし、自分が死んでしまったというのに、あなたは真っ先に人の心配をするんですねぇ」

 呆れたように、ハハハと笑われた。


「……せっかく、お父さんとお母さんに会えたのに。まだそんなに話もしてないのに。討伐部隊の仲間や、ベッティさん、ドーラさんとも仲良くなれて、マークやライディやマリアさんや他にもフィアリーズの仲間もいっぱいできたのに! イスメーネさんが、銭湯や孤児院を作ってくれるって言ってたのに!……それに、それに……!」

 ……クラウディオさん!

 ん? クラウディオさん?

 なんで頭に浮かんだんだろう……?


「……いろいろと、心残りはあると思いますが……あなたの人生は、ここで終了したのです。……どうか、受け入れてください」


 ううっ……そんなぁ……


 神妙な面持ちで告げた男性は、しかし次の瞬間、パアッと明るい笑顔を見せた。

「おっめでとうございまーす!! あなたはまだ死ぬ運命ではなかったので、救済措置がありまーす! なんとなんと、転生して、もう一度生まれ変わることが出来ちゃいまーす!」

 え…………ええっ!?


「えっと……それって、もしかしてお父さんとお母さんも……?」


「ああ、そうそう、そうですね! 彼らも、まだ死ぬ運命ではありませんでしたので、違う世界に転生いたしました。同じ世界への転生希望でしたが、記憶を持ったまま同じ世界に生まれ変わると、他の方々の人生に干渉して、運命を捻じ曲げてしまう事があるんです。自身の娘さんを助けようとしたりね。だからわざわざ異世界に行ってもらったのに。まさか、あなたを呼び寄せてしまうなんてねぇ。我々の想定外でしたよ……。えっと……なんでしたっけ? ああ、そうそう。そういう訳で、あなたもご両親のように、もう一度、生まれ変われちゃうんです! 良かったですねぇ!」


「あ、あの! だったら、今すぐ生き返られてください! お願いします!」


「え? 生き返るって……元の体にですか? それは出来ません」

 きっぱりと拒否された。


「え!? なんで!?」


「生き返らせることは、出来ないんです。そんな風に口をとんがらせたって駄目です。意地悪してるんじゃないんですから! 我々“神”の力をもってしても、出来ないものは出来ないのです」


 神!?!?

 え……中二病的なものじゃなくて……?


「失礼ですねぇ。私は正真正銘の“神”ですよ」

 あ、聞こえてたんだ。

 すいません……


 ゴホンと咳ばらいをすると、神はさらに続けた。


「……で、ですね。転生させるにあたり、あなたに特別な力を与える事が出来ます。いわゆる転生特典ですね。運命よりも早く亡くなってしまった者への、我々の慈悲でもあります。次の人生では、もう少し幸せになれるようにね」


 ほう……なるほどー……って、生き返るのは本当に無理なの!?

 そんなぁ……


「すいませんね。本来ならあなたは、日本で結婚し、子供を作り、年老いて死ぬ予定でした。次回はぜひ、長生きしてくださいね」


 では!……と、どこからか箱を取り出した。

 箱の上には、穴が空いている。


「この穴から手を入れて、中の紙を一枚引いてください。ああ、一枚だけですよ! 二枚以上取ったら、やり直しですからね。特別な力を与えるのは一つだけです」


 さあどうぞ~!と箱をぐいぐい近づけてくる。

 どうやら転生特典は、くじ引きで決めるみたいだ。

 あーあ……これってもう、転生するしかないのかなぁ。


 実際にはもう手はないのに、箱の中へ手を入れるイメージをすると、箱の中に紙が入っている感触がした。

 私はゴソゴソとそれらをかき回す。


「フフフ……いいものが当たるといいですねぇ。……ここだけの話、神をも(しの)ぐすごーい能力もあるんですよ。……まあ、レアな能力なのでね。それを使えるのは、人生で一度だけですけど」

  

 私は神の言葉を聞きながら、心の中で祈った。

 ……みんな、ごめん。

 もう、元には戻れないみたいだ。

 私は死んじゃったけど、どうか、討伐部隊やイスメーネさん達は無事でありますように……。王都のみんなが無事でありますように……!


 散々祈ったあと、グッと気合を入れなおす。

 よーし! もうこうなったら、すごーい能力引いちゃうぞ~~!



 ----------



「こら! いつまでもいじいじしてないの! まだ魔物達はピンピンしてるのよ!」

 粋華の周りで項垂れる面々に、桃色のフィアリーズの喝が入った。

「ほら! 稜くんと、イスメーネさんを回復させてあげて。まだ苦しそうよ? それに、マーク君っていったかしら? もう観念してゾウさんに入って、早く私達を外に出してちょうだい!」

 魔導士らは、ハッとして近づいてくる魔物2体に気づくと、杖を構えて攻撃姿勢をとった。

 クラウディオは袖で顔を擦ると、恐ろしい顔で魔物達を睨んだ。討伐部隊も剣を構える。

 マリアは急いで、稜とイスメーネへ治療魔法をかけ始めた。

 

 マークは暗い顔のまま、ふわふわと粘土のゾウへと向かったが、ソイルがマークの肩を掴んで止める。

「ちょっと待て、マーク! やる気がないなら、俺がやるぜ!」

 マークはブンブンと首を横に振った。

「ううん! だって、スイが僕に入ってくれってお願いしたんだ。僕が入るよ!」

「じゃあ、ダラダラすんな! しゃんとしろ! いい加減にやってたら、またぶん殴るからな!」

 マークは涙の浮かんだ瞳で、ソイルをキッと睨むと、勢いよく頷いた。

「分かった!」

 

「みんなー! 粋華ちゃんの体はくれぐれも傷つけないように気をつけてね!」

 え!?

 と、みんなが一斉に桃色フィアリーズに注目した。

「……それって、まさか!?」

 まさか、生き返るのか!?

 レオンは期待のこもった瞳を檻の中のフィアリーズに向けた。

「ね、あなた!」

「ああ、僕に任せてくれ」

 水色フィアリーズが微笑んだ。



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