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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
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54. 新たなロボ


 イスメーネが王都へと飛んだあと、残された粋華は、彼女より頼まれた要件をどうしたものかと考えていた。

 彼女から粋華への要求は、「とんでもなく強力な力」だ。

 細かい説明を一切せずに、彼女はそう告げただけだった。


 私に頼むってことは、当然、フィアリーズの力を使えということだろう。

 すでに、人間以上の力持ちとなっている二人のフィアリーズの顔を思い浮かべる。

 マリアとアージルは、強大なパワーをすでに持っている。

 ミラとマリアの戦闘では、二人は互角のパワーを持っているように見えた。

 しかし、小柄なミラは魔物の中では、力が強い方ではないように思える。

 イスメーネが言った「とんでもなく強力な力」は、マリアが持つ程度の力ではないだろう。


「どうするの、スイ……?」

 考え込む私の顔を心配そうに見上げるマークに、ニヤッとした笑いで答える。

「……よし! ()()しかない!!」

「あれ?」


 私はミントに、アージルをここに連れて来てもらうように頼んだ。……そして、出来れば稜くんも。

 彼は、クラフティとかいうドラゴンや他の魔物たちに粘着されてるから、こっちに来るのは難しいかもしれない。

 ミントは『分かったぁ』と頷くと、空を飛んで彼らを迎えに行った。



 私は草原の中で、草の生えていない地面を見つけると、落ちていた枝を手に取り、大まかなイメージ図を描く。

 それをマークが覗き込んで、んん?と、首を傾げる。

「……どっかで見た事あるような……?」

「ふふふ。分かるかねマーク君よ。しかし、ちょーっと違うんだよねぇ」

 私はご機嫌に答えた。



 そうしているうちに、ミントが背中に稜くんを乗せて帰って来た。

 彼の隣には、アージルも浮かんでいる。

 稜くんもここへ来られたことに、ホッとした。

 手を大きく振って彼らを迎える。

 稜くんは私の姿を認めると、安心したように笑顔を向けた。


「魔物達は大丈夫だった?」

「ああ、なんとか。魔法使いの人たちが庇ってくれて、上手く誤魔化してくれたから、奴らは気付いてないと思う」

 アージルは私の顔の前でピタッと止まった。

『スイ様、僕らにどんな御用ですか?』

 私はイスメーネさんに頼まれた事を、稜くんとアージルに説明した。


 自分の役目が分かったアージルは、すぐに彼の収納口から、大量の粘土を取り出す。

 実は、ジェットコースターを作る際に、たくさんの粘土を支給されていたのだが、その残りをすべてアージルの収納の中にしまっておいてもらったのだ。

 たくさん余っていると思っていたのだが、バケツ10杯分ほどしかない。

 がっかりと肩を落とした粋華に、稜は粘土を見回しながら声を上げた。

「ええっ!? こんなにあるのに、これじゃあ足りないの!?」

 不思議がる稜くんに、私は先程考えた今回作る粘土作品を、地面に描かれたイメージ図を見せながら解説することにした。


「今回の粘土作品は、コレです!!」

「……これって……?」

 稜が目を凝らして、よーく地面を見ると、そこにはバラバラに分けられたロボットの絵が描かれていた。

「えっと……?」

 眉間に皺を寄せ、粋華の反応を伺う。

「え、え!? 分かるでしょ!? “合体ロボ”だよ!!」

 稜くんも見た事あるよね!?と、詰め寄る粋華。


 粘土ロボという点は、この世界に来て最初に作ったものと同じだ。しかし、今回は“()()ロボ”。

 某特撮シリーズで、毎回、番組の終わりごろに出てきては、なかなか倒せないしぶとい敵を、巨大な爆発と共に葬る、大人気のロボットだ。

「1+1は、2じゃないんだよ。……そう、無限大!!!」

 キラキラと瞳を輝かせて詰め寄る粋華に、稜は大きく引きながらも「知ってるけど……」と、頷いておく。


 どうやら、一人のフィアリーズでは、「とんでもなく強い力」は無理だと結論付けた粋華は、それぞれのパーツにフィアリーズが入った“合体ロボ” を作ることで、それに見合う力を得ようと考えたようだ。

「へー、じゃあ、これを見て作っていけばいいんだね」

「うん! ……でも、粘土がこれだけじゃ、巨大ロボにならない……」

「いやいや! 巨大じゃなくてもいいだろ!?」

「ええっ!? でも、人よりは大きくしたいよ! それは譲れない!!」


 何か芯になるようなものはないかと草原内を見回すが、風に飛ばされてきた小枝や石ころくらいしか見当たらない。

『ああ、そういえば……』 

 アージルが自身の収納の中をゴソゴソと探る。

 彼が取り出したのは、大きな木箱だ。

 昨日、彼が運んだノーデングレンゼの支援物資が入っていた木箱だ。保存が可能な食料品は木箱に入れたまま保管庫へとしまったが、冷凍品と冷蔵品は、中身だけを貯蔵庫にしまって、木箱は回収してきていた。

 アージルは回収してきた木箱を次々と収納から出して積み上げた。


「おお! これだけあれば巨大なロボが……!!」

 感動する粋華に、稜が冷静に突っ込む。

「いや、芯だけあっても無理だから、諦めろ!」

 

 早速作業にとりかかったのだが、私は心残りを口にする。

「……本当はさ、変形してロボになるとか格好いいよね。……でも、今回は時間がないし……」

「んん? そうしたいなら、別にいいんじゃないか? この絵みたいに変形して……って考えれば、そうなるんじゃないのかなぁ」

 地面に描かれたイメージ図を見ながら呟いた稜くんの言葉に、私は振り返り、彼の肩をガシッと掴んだ。

「……そう思う!?」

「う、うん……」


 私と稜くんは分担して、思い思いにロボットの部品を仕上げていく。

 芯には、ブレージがバラバラにばらしてくれた木箱の板が使われた。

 今回重要なのはパワーだ。そして、そのパワーを発揮するための強度も大切だ。

 上手く変形して、合体してくれることを願いながら形作っていく。


「出来た……!!」

 必要なのは、頭、胴体、腕が二本、足が二本。計、6パーツだ。

 しかしそれらは、一見してロボットの部品とは分からない。それぞれがロボとは別の形に仕上がっていた。

 ジャガー、ゾウ、戦闘機、ヘリコプター、戦車、ジープ。

「……」

「……」

 粋華は頭と体。稜は手足を担当した。

 彼らはお互いの顔を複雑な表情で見つめた。

「なにこれー!? コンセプトがバラバラだよー!」

「……ひでー……」

 粋華は頭を抱え、稜はため息をついた。


 自分の手元だけを見ていた二人は、お互いが何を作っているのかを全く見ていなかった。

 つい先日出会ったばかりの二人には、無言で意思疎通を量るなどという芸当は、当然出来なかった。

 

「今回は角がちゃんとついてるね!」

 マークが粋華の作った動物を見て目を細めた。

「……でも、リョウが作ったのって……何?」

 この世界にはない乗り物を見て、マークが顔をしかめた。


 稜が説明しようと戦闘機に手を伸ばすと、それはパアッと青い光を放った。

 そして、ふわりと浮かび上がると、ヒューン!と頭の上を飛び回り出した。

『たっのしー!』

 稜が作った軍事用乗り物シリーズは、後の3つもそれぞれ違う色で光り出し、自由に動き回った。

 粋華の作ったジャガーも、黄色く光ると、足元を走り回った。

 しかし、ゾウだけは一向に光らない。


 私は首を傾げてマークを見た。

「あ……そっか! あのね……」

 マークは申し訳なさそうに粋華の肩から降りた。


 大事な胴体部分が動かなければ、“合体ロボ”は完成しない。

 私は不安な気持ちでマークの言葉を待った。



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