54. 新たなロボ
イスメーネが王都へと飛んだあと、残された粋華は、彼女より頼まれた要件をどうしたものかと考えていた。
彼女から粋華への要求は、「とんでもなく強力な力」だ。
細かい説明を一切せずに、彼女はそう告げただけだった。
私に頼むってことは、当然、フィアリーズの力を使えということだろう。
すでに、人間以上の力持ちとなっている二人のフィアリーズの顔を思い浮かべる。
マリアとアージルは、強大なパワーをすでに持っている。
ミラとマリアの戦闘では、二人は互角のパワーを持っているように見えた。
しかし、小柄なミラは魔物の中では、力が強い方ではないように思える。
イスメーネが言った「とんでもなく強力な力」は、マリアが持つ程度の力ではないだろう。
「どうするの、スイ……?」
考え込む私の顔を心配そうに見上げるマークに、ニヤッとした笑いで答える。
「……よし! あれしかない!!」
「あれ?」
私はミントに、アージルをここに連れて来てもらうように頼んだ。……そして、出来れば稜くんも。
彼は、クラフティとかいうドラゴンや他の魔物たちに粘着されてるから、こっちに来るのは難しいかもしれない。
ミントは『分かったぁ』と頷くと、空を飛んで彼らを迎えに行った。
私は草原の中で、草の生えていない地面を見つけると、落ちていた枝を手に取り、大まかなイメージ図を描く。
それをマークが覗き込んで、んん?と、首を傾げる。
「……どっかで見た事あるような……?」
「ふふふ。分かるかねマーク君よ。しかし、ちょーっと違うんだよねぇ」
私はご機嫌に答えた。
そうしているうちに、ミントが背中に稜くんを乗せて帰って来た。
彼の隣には、アージルも浮かんでいる。
稜くんもここへ来られたことに、ホッとした。
手を大きく振って彼らを迎える。
稜くんは私の姿を認めると、安心したように笑顔を向けた。
「魔物達は大丈夫だった?」
「ああ、なんとか。魔法使いの人たちが庇ってくれて、上手く誤魔化してくれたから、奴らは気付いてないと思う」
アージルは私の顔の前でピタッと止まった。
『スイ様、僕らにどんな御用ですか?』
私はイスメーネさんに頼まれた事を、稜くんとアージルに説明した。
自分の役目が分かったアージルは、すぐに彼の収納口から、大量の粘土を取り出す。
実は、ジェットコースターを作る際に、たくさんの粘土を支給されていたのだが、その残りをすべてアージルの収納の中にしまっておいてもらったのだ。
たくさん余っていると思っていたのだが、バケツ10杯分ほどしかない。
がっかりと肩を落とした粋華に、稜は粘土を見回しながら声を上げた。
「ええっ!? こんなにあるのに、これじゃあ足りないの!?」
不思議がる稜くんに、私は先程考えた今回作る粘土作品を、地面に描かれたイメージ図を見せながら解説することにした。
「今回の粘土作品は、コレです!!」
「……これって……?」
稜が目を凝らして、よーく地面を見ると、そこにはバラバラに分けられたロボットの絵が描かれていた。
「えっと……?」
眉間に皺を寄せ、粋華の反応を伺う。
「え、え!? 分かるでしょ!? “合体ロボ”だよ!!」
稜くんも見た事あるよね!?と、詰め寄る粋華。
粘土ロボという点は、この世界に来て最初に作ったものと同じだ。しかし、今回は“合体ロボ”。
某特撮シリーズで、毎回、番組の終わりごろに出てきては、なかなか倒せないしぶとい敵を、巨大な爆発と共に葬る、大人気のロボットだ。
「1+1は、2じゃないんだよ。……そう、無限大!!!」
キラキラと瞳を輝かせて詰め寄る粋華に、稜は大きく引きながらも「知ってるけど……」と、頷いておく。
どうやら、一人のフィアリーズでは、「とんでもなく強い力」は無理だと結論付けた粋華は、それぞれのパーツにフィアリーズが入った“合体ロボ” を作ることで、それに見合う力を得ようと考えたようだ。
「へー、じゃあ、これを見て作っていけばいいんだね」
「うん! ……でも、粘土がこれだけじゃ、巨大ロボにならない……」
「いやいや! 巨大じゃなくてもいいだろ!?」
「ええっ!? でも、人よりは大きくしたいよ! それは譲れない!!」
何か芯になるようなものはないかと草原内を見回すが、風に飛ばされてきた小枝や石ころくらいしか見当たらない。
『ああ、そういえば……』
アージルが自身の収納の中をゴソゴソと探る。
彼が取り出したのは、大きな木箱だ。
昨日、彼が運んだノーデングレンゼの支援物資が入っていた木箱だ。保存が可能な食料品は木箱に入れたまま保管庫へとしまったが、冷凍品と冷蔵品は、中身だけを貯蔵庫にしまって、木箱は回収してきていた。
アージルは回収してきた木箱を次々と収納から出して積み上げた。
「おお! これだけあれば巨大なロボが……!!」
感動する粋華に、稜が冷静に突っ込む。
「いや、芯だけあっても無理だから、諦めろ!」
早速作業にとりかかったのだが、私は心残りを口にする。
「……本当はさ、変形してロボになるとか格好いいよね。……でも、今回は時間がないし……」
「んん? そうしたいなら、別にいいんじゃないか? この絵みたいに変形して……って考えれば、そうなるんじゃないのかなぁ」
地面に描かれたイメージ図を見ながら呟いた稜くんの言葉に、私は振り返り、彼の肩をガシッと掴んだ。
「……そう思う!?」
「う、うん……」
私と稜くんは分担して、思い思いにロボットの部品を仕上げていく。
芯には、ブレージがバラバラにばらしてくれた木箱の板が使われた。
今回重要なのはパワーだ。そして、そのパワーを発揮するための強度も大切だ。
上手く変形して、合体してくれることを願いながら形作っていく。
「出来た……!!」
必要なのは、頭、胴体、腕が二本、足が二本。計、6パーツだ。
しかしそれらは、一見してロボットの部品とは分からない。それぞれがロボとは別の形に仕上がっていた。
ジャガー、ゾウ、戦闘機、ヘリコプター、戦車、ジープ。
「……」
「……」
粋華は頭と体。稜は手足を担当した。
彼らはお互いの顔を複雑な表情で見つめた。
「なにこれー!? コンセプトがバラバラだよー!」
「……ひでー……」
粋華は頭を抱え、稜はため息をついた。
自分の手元だけを見ていた二人は、お互いが何を作っているのかを全く見ていなかった。
つい先日出会ったばかりの二人には、無言で意思疎通を量るなどという芸当は、当然出来なかった。
「今回は角がちゃんとついてるね!」
マークが粋華の作った動物を見て目を細めた。
「……でも、リョウが作ったのって……何?」
この世界にはない乗り物を見て、マークが顔をしかめた。
稜が説明しようと戦闘機に手を伸ばすと、それはパアッと青い光を放った。
そして、ふわりと浮かび上がると、ヒューン!と頭の上を飛び回り出した。
『たっのしー!』
稜が作った軍事用乗り物シリーズは、後の3つもそれぞれ違う色で光り出し、自由に動き回った。
粋華の作ったジャガーも、黄色く光ると、足元を走り回った。
しかし、ゾウだけは一向に光らない。
私は首を傾げてマークを見た。
「あ……そっか! あのね……」
マークは申し訳なさそうに粋華の肩から降りた。
大事な胴体部分が動かなければ、“合体ロボ”は完成しない。
私は不安な気持ちでマークの言葉を待った。