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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
113/127

53. 転移魔法陣


「消えた!?」

「見て、スイ。これ!」

 マークが指さす先は、彼女がさっきまで立っていた地面だ。

 そこには、黄緑色に光る魔法陣があった。

 それは、すぐに薄れ、消え去った。


「魔法?」

「……信じられないけど、転移魔法みたいだね」

 ああっ! あの黒装束の魔物が使っていた魔法か。

 確かにあの魔法なら、一瞬でここに来られたのも分かるし、すぐに王都へも移動できるだろう。

 しかし……


「ねぇ、何で信じられないの?」

 マークの言い方が気になった。

「スイはさぁ、魔法の事、全然知らないよね」

 うっ……

 仕方ないじゃん。自分じゃ使えないし……

「ああ、ごめん、ごめん! 言い方が悪かったね。お城に来てから、魔法を使える人がすごくたくさんいるから、魔法の事を知ってるのが当たり前みたいに思ってた。使えない人の方が断然多いのに、失念してたよ。ごめんね……」

 マークはシュンとしてしまった私の頭をよしよしと撫でた。

「……まあ、いいけど」

 可愛いマークの困った顔を見せられたら、すぐに許しちゃうんだよね。


「あのね、治療魔法や、収納魔法を使える者は、すごく珍しいって前に言ったよね」

「うん、そう言ってたね」


「でもね、転移魔法の方が、それよりももっと珍しいんだよ」

「へぇー……」

「魔物やフィアリーズでさえも、使える者は滅多にいない。僕は、あのブーザとかいう魔物が使うのを、生まれて初めて見たくらいなんだから」

「えっ!? 生まれて初めて!?」

「そう。だから、今見たのは、生まれて二度目」

 そうだったんだ……

 イスメーネさんって、何者……?



 ----------



 イスメーネは転移魔法の魔法陣を展開し、自身の研究室へと戻って来た。

 そこには、今か今かと、彼女が戻るのを待ち構えていた者達がいた。

「ああ、やっと帰って来た! どうだったんですか!? 成功ですか!?」

「おお、そういや、お前らがいたんだったな」

 目の前に並んだ後輩魔導士たちを見て、1時間ほど前のことを思い出したイスメーネは、そう呟いた。



 たくさんの魔法の開発に取り組んできたイスメーネ。

 彼女は数々の新たな魔法を生み出している。

 王都を囲む大規模な結界魔法もその一つだ。

 イスメーネの功績は、彼女を王に次ぐ権力者へとのし上げた。

 彼女の持つ特殊な解析魔法は、魔法開発に大いに役に立っていた。


 今も研究、開発に没頭する彼女だが、その中でも最重要項目となっていたのは、“転移魔法陣”の開発だった。

 5年前から本格的に研究に乗り出し、ついに、昨日、完成した転移魔法陣。

 それを、本日、早速試してみることになったのだ。


 こんな魔物の群れが王都へと攻めてきている開戦間近に、と思う者もいたが、いや、今だから必要だった。

 転移魔法を使う事が出来れば、戦闘で有利になることは間違いのない事実である。

 瞬時に敵を取り囲む事も、安全に撤退することも容易い。

 本当に少ない確率であるが、もし、敵の中に転移魔法を使える魔物がいたとすれば、それはたちまち人間側が窮地に陥れられる事態となる。

 とにかく、この転移魔法陣の成功が、彼女ら魔導士に課せられた最重要研究となっていたのだ。


 さっそく、出来たばかりの魔法陣を試す為の実験台に志願したのは、若手のやる気に満ちた少年少女たちだった。

 最近になって、突然フィアリーズの姿を見ることが出来るようになり、活き活きとした顔を見せるようになったブレージと、一番新しく魔導士見習いとなったレオン。それと、イスメーネに憧れる少女5名が立候補した。


「なんだ? お前たちはやらんのか?」

 イスメーネがジロリと睨んだのは、彼女と共にこの研究に取り組んできた二人の青年。

 彼らは、やつれた青白い顔をさらに青くしながら、おずおずと手を上げた。

「では、私も入れて10名だな。本当はもっと大人数で試したかったが仕方ない。初めて試すのだから、こんなもんでいいだろう」


「え!? イスメーネ様も実験に加わるですか!?」

「危険です! 魔導士長様はこちらにお残りください!」

 焦るベテラン、中堅魔導士たちの言葉を振り切り、彼女は嬉々としてこの実験に参加した。


 転移先は彼女の独断で決められた。

 フフ、あ奴らを驚かせてやろう……!

 討伐部隊が王都を出る際、何かの役に立てばと、こっそりと粋華の鞄に忍ばせた位置を知らせる魔道具。それが今回の道標となる。

 その魔道具から少し離れた平坦な地面を探り出し、そこへの移動となる。

 術者は探知魔法を使い、瞬時に最適な場所を見つけ出さなければならない。


 しかし……と、今回実験に参加する魔導士たちを見回す。

 この若者達は、国内で選りすぐりの才能を持つ者たちだ。

 誰が試みたとしても、上手く出来ると信じている。


「よし、今回の術者は……ブレージ! お前に任せよう!」

「ええっ!? ぼ、僕……私ですか!?」

 イスメーネにより、転移魔法陣を初めて使う術者は、ブレージに決定した。

「あの、ブレージにはまだ早いのでは……!」

 まだ若く経験が浅い彼を心配し、彼を指導する先輩魔導士の反対があったが、イスメーネの一睨みによって慌てて口を閉じた。

「大丈夫です先輩。僕、やってみます!」

 イスメーネは、ブレージの決意を宿した瞳に、満足そうに頷いた。



 ブレージは実験室の中央に立ち、その周りを実験者9名が囲む。

 目を閉じ集中するブレージは、杖を足元へ向けた。

 小さく呪文を呟くと、床に黄緑色の魔法陣が広がった。

「では、行ってくる。もし戻れなかったら、王都の事は頼んだぞ!」

 笑いながら杖を振るイスメーネに、残る部下たちは口々に叫んだ。

「魔導士長様!?」

「そんな不吉な事を言うのは、お止めください、イスメーネ様!」

 青ざめた魔導士たちを残し、魔法陣の中の10名は、フッとその姿を消した。


 それから待つことおよそ一時間。

 一向に戻ってこないイスメーネらに、残った魔導士たちは頭を抱えていた。

「やはり……何かあったんじゃ……?」

「ああ、魔導士長様がいなくなったら、我々はどうしたら……!」

 魔導士たちは不安な気持ちで待ち続けた。


 不安に飲み込まれそうになっていた魔導士たちの元へ、イスメーネはケロッとした顔で帰って来た。 

 彼らが不満を口にするのは当然であった。

 ここぞとばかりにイスメーネへと不満をぶつける魔導士たち。

 今回ばかりは自分も悪かったと、少々反省したイスメーネは、大人しく彼らの抗議を聞いていた。


「……うむ、済まなかった。先に戻って報告するべきだったな。ちょっとイレギュラーな事態が起こっておって、致し方なかったのだ。しかし、今は時間がない。すぐに魔道具652号を探してくれ」

「魔道具をですか……? 652号というと……」

「確か……“魔力を吸い取る君3号”ですね?」

「そうだ。早く探すのだ!」


 研究所内に、乱雑に置かれた大量の魔道具の中から、全員総がかりで何とかお目当ての魔道具を見つけ出すと、すぐさま粋華の元へ戻る為、イスメーネは魔法陣を展開する。

「しかし……イレギュラーな事態とは、一体、何が起こっているのですか?」

 戻りを急ぐイスメーネへ、魔導士の一人が尋ねた。


「おお、そうだ。魔獣らの大群を指揮しておったドラゴンとその仲間の魔物2体と討伐部隊の戦闘になっておってな。王に報告しておいてくれ」

「ええっ!?」

「ちょっ! イスメーネ様!?」

 ついでの様に、軽く重要事項を告げるイスメーネに、魔導士たちは慌てる。


「あやつも、準備が整っておるといいのだが……」

 そう呟きながら、イスメーネは粋華の元へと飛んだ。



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