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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
112/127

52. イスメーネの魔法


 えっ!? えっ!? 

 どうして、イスメーネさんがここに~~!?!?


 私は周りにいる騎士達の反応を伺う。

 みんなは知ってたの!?

 しかし、クラウディオさんをはじめ、周りの騎士達も驚いた顔で彼女を見ていた。


「っ!!」

 突然、背後に現れた彼女に、ブーザは瞬間的に飛び退いて距離を取る。

 そして、その目には殺意が宿る。

 彼女の存在に気付かず背後を取られたことが、彼の魔物としてのプライドを傷つけた。


 ブーザは怒りに任せ、イスメーネへと衝撃波を放った。

「イスメーネさーん!!」

 討伐部隊のみんなは、ハッと彼女の身を案じたが、衝撃波を受けたかに見えたイスメーネの前には、氷の壁が出来ていた。


 粋華らへ向け、イスメーネはニヤリと微笑んで見せた。

「心配するな。私を誰だと思っている」

 イスメーネは杖をブーザへと向ける。

 小さく呪文を唱えると、炎がブーザを襲った。

 全身を炎に包まれたブーザは、炎を振り払おうと、もがく。

 しかし、見た所、それほどダメージは受けていないようだ。

 

 スパーリとクラフティは、訝し気にイスメーネの様子を伺っている。

 こいつが、なぜここにいるのか……?

 高速で移動していた一団に、普通では追いつけるはずがなかった。

 ここに誘いこまれたのかと疑うが、こいつらをここで止めたのはブーザだ。

 ブーザがこの場所で彼らを止めることなど、予想できるはずがない。


 魔導士が今ここに、突如現れた事実を、魔物らは理解出来なかった。

 彼らは血の気の多い、ただ乱暴に暴れるだけの魔獣とは違い、こうなった理由を探ろうとした。

 そんな彼らは、得体の知れない彼女を警戒し、攻撃するのをためらう。


 

 イスメーネは、そんな魔物の心情を見透かしたようにニヤリと微笑む。

 その時、彼女を中心とし、地面に黒い魔法陣が現れた。

「ぼんやりするなよ、クラウディオ」

 イスメーネの言葉に、ハッとしたクラウディオは、杖を構えて叫んだ。

「みんな、この場から動くな!」

 クラウディオが魔法の詠唱を始めると、粋華らの立つ地面にも、大きな黒い魔法陣が浮かび上がった。


 それを合図にしたように、魔物や粋華らからの周囲から、複数の人間が一斉に呪文を唱えた。


「「「「「エンティファーノン!!」」」」」

 

 地面がゴゴゴゴ!!と激しく振動し、粋華らは腰を低くして、倒れないように踏ん張るので精一杯だ。

 危険を察知したブーザとスパーリがその場から離れようとするが、足が地面に吸い付いたように離れない。

 クラフティは翼をはためかせ、逃れようと上空を目指した。

 しかし、すぐに結界の壁にぶつかる。

「なんだと!?」


 魔物らが立つ岩場に大きな亀裂が入り、地面が大きく裂ける。そして、それはどんどんと細かく砕け、尖った岩が無数に出来上がった。

 それが宙に浮かび、結界内に閉じ込められた魔物たちへと勢いよく弾け飛んだ。

 ブーザは転移魔法を使って、結界外への脱出を試みたが、移動した先は、何故かまだ結界内だった。

「なんで!?」

 尖った岩が怒涛のようにブーザへと飛んで来る。

 複数の岩が彼の体へと突き刺さった。 


 やっと足が地面から離れたスパーリは、俊敏さを活かし、素早く避けようとしたが、結界内を飛び回る岩は、あらゆる方向から彼に襲い掛かり、完全に避けきる事は不可能だった。

 いくつもの礫が体をかすり、無数の傷を作る。


 下から迫る大量の岩の礫をその身に受けたクラフティは、自身にかけた魔法のおかげで、一つも体に刺さることはなかった。

 しかし、勢いよく次々と当たる礫は、彼の体を上へ上へと押し上げる。

 結果、上空に張られた結界に何度も激しく体をぶつけることとなった。



 地面の揺れが収まり、砂埃が晴れ視界が良くなると、そこには血だらけの魔物2体と、フラフラになったドラゴン、そして、大きく陥没した地面が露わになった。

 同じ結界内にいるイスメーネと粋華らは、無傷でそこに立っている。

 彼らの足元の黒い魔法陣が、光を放っていた。


 全身から血を流すブーザの真っ赤な瞳が、憎しみに歪む。

「き、さまーーーっ!!」

 イスメーネへ襲い掛かろうと、ブーザは手を振り上げた。

「まだだ」

 イスメーネの冷たい声と同時に、またも周囲から、声を揃えて呪文が唱えられた。


「「「「「エリゴン・ドゥルーツィ!!」」」」」


 結界内に、チロチロと小さな炎が上がった。

「くそっ! 今度はなんだ!?」

 小さな炎は、渦を巻くように結界内を飛び回り、魔物へと迫った。


「ふんっ。こんなもの、消し飛ばしてやる!」

 炎に向けて、ブーザが衝撃波を放った。

 すると、それを受けた複数の小さな炎が大きく燃え上がり、魔法を放ったブーザへと襲いかかった。

 まずい!と、咄嗟に気付いたブーザは、転移魔法を使って移動した。

 炎は行き場を失い、そこで立ち消えた。

 彼が移動した先は、やはり、また結界内だった。

「くそっ! やっぱり出られねぇのか……!」

 移動した先の小さな炎に触れてしまったブーザに、彼の魔力に反応した炎が、勢いを増して燃え上がり、彼の体を包み込んだ。

「グワッ! 熱い!!」


 スパーリは炎を避けながら、結界の壁の前に立つ。

 そして、拳を握りしめると、自身の魔力を拳へと集めた。

「ウオォォォォォッ!!!」

 叫びながら、渾身の拳を結界にぶつけた。

 ピシピシ!と結界にひびが入り、音もなく壊れて消滅した。

「ほう、もう壊されてしまったか」

 イスメーネは、目を細めてため息をついた。

 結界の外には、ローブ姿の魔導士たちが並んで立っていた。


 さっきまでは誰もいなかったのに……!?

 あ、でも、もしかして、見えてなかっただけ?

 足元の魔法陣は、まだ黒く光っている。



 スパーリに見つかった魔導士たちは、「うわぁーーー!!」と叫び声を上げながら逃げて行く。

 それを反射的にスパーリは追った。

「ちょっ!? 危ない!! クラウディオさん! もう動いていいですか!?」

 魔導士たちを追うスパーリを止めようと、私はライディを握りしめ、クラウディオさんを見上げた。

「いや、まだだ」


「グワーーーーッ!!」

 悲鳴が聞こえ、ハッとそちらへ注視すると、魔導士たちが取り囲む中心で、スパーリが雷に打たれたように、しびれて身動きが取れなくなっていた。

 魔導士の中には、あのいつも疲れ切っていたイスメーネを手伝う魔導士たちもいた。

 スパーリは、彼らの張った罠にはまった。

 動こうともがくが、その度に全身に激痛が走る。

 しかし、彼の怪力にかかれば、いつまで止めておけるか分からない。


 彼ら以外にも魔導士たちがいるようだ。

 どこか見えない遠くから放たれた炎、氷、風攻撃魔法が、代わる代わる、または同時に、クラフティとブーザへ向かって飛んで来る。

 結界が解かれても、まだまだ魔導士たちの攻撃は続いていた。



「おい、スイ」

 すぐ後ろで声が聞こえ、振り向くと、いつの間にか私の真後ろにイスメーネさんが立っていた。

「どうやって、みんなここに……!?」

 聞きたかった疑問を早速、彼女へとぶつけた。

 イスメーネは、見上げる粋華の頭をポンポンと叩くと、そんな事より……と、攻撃魔法を浴びながらも、空中で余裕の表情を浮かべるドラゴンへと視線を向ける。


「なぜ、あやつには我らの魔法が効かぬのだ?」

「……答えてくれてもいいのに」

 質問を無視され口を尖らせるも、そんな粋華の顔をイスメーネは覗き込む。

「ん? なんだ?」

 イスメーネは、スッと目を細めた。

「い、いえっ! なんでもないです! 実は……」

 背筋にゾクッと悪寒が走った私は、素直にクラフティにかかっている魔法……“牢獄の要塞”の説明をした。


「ほう……。物理攻撃、魔法攻撃無効とな? ……それは興味深い魔法だ。ぜひ近くで解析したいものだ。……しかし、大人しく見せてはくれないだろうな」

 イスメーネは、わくわくした視線をドラゴンに向けた。


「そうだ! 同じ魔法が、お父さんたちにもかかってるんだ! そこへ行けば、じっくり見られると思いますが……」

「ほう、そうか! よし、ではすぐに行くぞ! おい、クラウディオ。今からスイと行ってくるから、こいつらはここで足止めしておけよ!」

 クラウディオは、少し思案すると、頷いた。

「ここはお任せ下さい。頼みます」

 イスメーネは真面目な顔で頷くと、粋華を引っ張ってみんなの輪から離れた。


「ミント!」

 呼ばれたミントが来ると、イスメーネと二人で乗り込む。

「マリアさんとアージル、リタさん達、それにシェルは、みんなを助けてあげて。行くよマーク!」

「うん!」

『了解しましたわ!』

『了解です、スイ様!』

『……分かった』


「ギャン、ギャン!」

 オオカミの鳴き声が、ミントの持つ荷物の中から聞こえた。

 あ! この子達もいるんだった!

「あなた達もお願い。みんなを助けて」

 オオカミ達は、嬉しそうに尻尾を振りながら荷物の中からピョンピョンと飛び出すと、元の大きさへと戻る。

「ウオーン!」

 一声鳴くと、勢いよく魔物のいる方へと走っていった。



 ミントに乗って移動した粋華とイスメーネは、すぐに先程の草原に辿り着いた。

 早速、イスメーネさんに両親を紹介する。

「こちらが私のお父さんとお母さんです!」

「初めまして、母です」

「父です」

 魔法の檻の中で、二人の可愛らしいフィアリーズがイスメーネへとにこやかに挨拶をした。

 イスメーネは一瞬、目を見開き、驚きの顔で二人を見る。

 眉を寄せ、訝し気に私を振り返った。

 いつも余裕の態度で接してくるイスメーネさんの、こんな困った顔は初めてだ。

 私は、にっこり笑って肯定した。

「……」


 

「……魔導士のイスメーネと申します」

 イスメーネは困惑した表情のまま、淑女の礼をした。

「いろいろと聞きたいことがあるが……、時間がないので用件をとっとと済ませよう。今からこの檻の解析を始める。よろしいか?」

「ええ、どうぞ」

「よろしいですよ」


 フィアリーズの了承を得たイスメーネは、頷くと、檻に触れ、瞳を固く閉じた。

 檻に触れた手の平から、細い煙のような魔力がゆらゆらと立ち昇り、檻を覆うように包み込んでいく。

 煙は檻の周りを蠢いて這いまわり、何かを探しているかように、複雑に動き回った。

 イスメーネは眉間に皺を寄せ、額には汗が滲んでいる。

 

 マークは、無心で解析を試みるイスメーネを、食い入るように見ていた。

「……こんな解析魔法、見たことがない。人間がここまで出来るなんて……!」

 私には何がすごいのかさっぱり分からないけど、マークがこんなに驚くんなら、彼女の魔法は相当凄いのだろう。

  

 しばらくそうしてから、イスメーネは檻に触れていた手を下ろした。

「……ふむ、分かったぞ」

 えっ!?と、粋華らは彼女を見た。

 すごい! もう分かったんだ!

「すごいです、イスメーネさん!」

「うむ、分かったぞ。私では、この魔法の解除は無理だな」


「「「「ええっ!?」」」」

 驚く私達を、面白そうにイスメーネは笑った。

「……だが、“牢獄の要塞”を破る糸口は見えた。今から王都まで行って魔道具を持ってくるから、お前はここで待ってろ。……ああ、そうそう、それとまだ、必要な物があったのだった。それは……」

 イスメーネは粋華に、その必要な物を用意するようにと言った。

「えっと? それって……」

「頼んだぞ。すぐ戻る」

 

 すぐ戻ると言っても、どうやって移動するのかは分からないが、ここから王都まで、早い馬でも何日もかかるだろう。


「送っていきますよ!?」

 そう言った粋華に、彼女は微笑む。

「必要ない」

 その言葉を残し、彼女の姿はフッと一瞬で掻き消えた。 



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