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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
111/127

51. 絶体絶命


 ドラゴンは勝ち誇った顔で、粋華と稜、そしてスパーリを見やった。

 物理攻撃と魔法攻撃無効って……“無敵”ってことじゃんっ!

 ど、ど、どうする~~~!?

 粋華と稜は顔を見合わせた。


「……嘘だろ?」

 スパーリは困惑した顔でクラフティを見つめる。

 そこへ、先程、草原で見た黒い鳥が上空に姿を現し、ドラゴンの横へ降り立つと、黒ずくめの少年の姿へと変わった。

「おおっ! すごいじゃないか。竜種のレア魔法“牢獄の要塞”を、とうとう自身の体にも使えるようになったか!」

 黒いフードから覗く真っ赤な瞳が、ランランと輝いている。

「もう、君は魔獣の域を超えたんじゃないかな。我々と同じ、“魔物”だ!」

 ドラゴンは両手を見つめ、自身に纏った魔法を確認しながら満足そうに微笑んだ。

『魔物か……。とうとう、我が……!』


 スパーリは、チッと舌打ちをする。

 実はスパーリも翼のない竜種である。

 空は飛べなくとも、彼は俊敏性に優れた種のドラゴンであり、クラフティのように、長寿で、魔力も大きい。

 彼に出会うよりも先に魔物へと進化していたスパーリであったが、彼はあの、特別な魔法は使えなかった。

 クラフティが“監獄の要塞”を、完璧に使えるようになった今、二人のどちらが上か、完全に決着がついた形となった。


 三人の魔物が、それぞれに感傷に浸っているこの隙に、粋華と稜は、抜き足差し足、そうっと魔物から離れた。

「リタさんっ!」

 粋華は小さな声で、ジェットコースターに入っている5姉妹の長女の名を呼んだ。

 マークは小さな粋華の声を、魔法でリタへと届ける。

『ハッ! スイ様!』

 気付いたリタら5姉妹が、スイの元へと飛んできた。

 それにすぐさま乗り込む粋華と稜。

 騎士らも急いで全員乗り込むと、勢いよくその場から飛び立つ。


「に、逃げて~~~~!!」

 ジェットコースターは、高速でその場から離れる。

 その後ろを、急いでついてくるミント。

『あの……スイ様。ご両親の事はよろしかったのですか?』

 リタは粋華の反応を伺う。

「そ、そりゃもちろん心配だけど……。だって、あいつ無敵だよ!? どうやって戦えって言うの!?」

「……それは、どういう事だ?」

 クラウディオは不思議そうな顔で振り返った。

「「えっ!?」」

 粋華と稜は、驚いて声を上げた。

 

 どうやらクラウディオさんら他の騎士らとフィアリーズは、粋華や稜と違って、あのドラゴンが何を言っているのか、分からなかったようだ。

「あの時、"魔物に進化した"って黒い奴が言っていたので、人に姿が変えられても、あのドラゴンは魔獣だったんでしょうね。次からは言葉が分かるようになるのかな……?」

「そうかもしれんが……。それよりも、物理攻撃、魔法攻撃無効と言ったのか?」

「あ、はい。そうです! それって、無敵状態ですよね……?」

 ホレスや騎士らは、青い顔をする。

「……本当かよ? そんな奴が王都を襲おうとしてんのかよ……」

「もう、俺達の手には負えないんじゃないか……?」



 その時、高速で空を飛ぶジェットコースターの前方に、黒い鳥がパッと姿を現した。

「なんだ!?」

 驚いてクラウディオが声を上げる。

『じゃまをしないで! はね飛ばしますわよー!』

 そのまま高速で黒い鳥につっこむ強気なジェットコースター5姉妹の長女、リタさん。

 目前に迫った時、黒い鳥は口を開け、衝撃波を放った!

『きゃあ!』

『リタ姉さん!』


 衝撃波を受けたリタは体勢をくずし、ジェットコースターは、大きく揺れながら地上へと落下していく。

「シェルー!」

 落ち行く中、粋華は必死に叫んだ。


 大きな衝撃音と共に地面に激突し、全員ジェットコースターから投げ出された。

「いてて……って、そんなに痛くない!?」

 ロイがぶつけた背中を確かめる。

 他の騎士らも無事なようで、ゆっくり立ち上がると腰の剣を抜く。

 シェルがまた、みんなを守ってくれたようだ。


 落ちた場所は山の中の岩場だ。

 あちらこちらから湯気が上がっている。

 硫黄の臭いが、辺りに漂っていた。


 粋華らの前方に、黒い鳥が少年の姿へと変わりながら降りて来た。

「あれー? 全然、平気みたいだね。ざーんねん」

 青い顔で剣を構えて黒ずくめの少年を睨みつける粋華らに、少年は赤い瞳を細め、ニヤニヤした笑いを浮かべる。

「驚いた? 俺からは逃げられないよ?」


「……転移魔法か」

 マークが私の肩の上で呟いた。

「転移魔法?」

「うん。一瞬で違う場所へと移動できる魔法だよ」

「……それって、私がこっちの世界にきちゃったみたいな?」

「ううん。それは、異世界転移魔法! こっちはただの転移魔法。この世界の中限定だよ」

 クラウディオは、厳しい顔で魔物を睨みつける。その顔には汗が浮かんでいる。

「……逃げることは不可能のようだな」


 後ろから、物凄い速さでスパーリが走ってきた。

「ハハ! 止めたか! ブーザ、よくやった!」

 あの黒ずくめの魔物は、ブーザという名前のようだ。

 ブーザはニヤニヤと笑いを浮かべながらも、騎士らに隙を見せない。

 スパーリから少し遅れて、クラフティまでが飛んで追いついた。

 そして、粋華らの上空で停止した。

 解け落ちたはずの翼が元通りになっている。

「なんで!?」


「驚いたか!? 魔物へと進化を果たした我は、思い通りに姿を変えられる。失った翼くらい再生できる。声帯を変えることも可能だ!」

 言葉がはっきりと分かる!

 魔物となったクラフティは、声帯を変えて、人語を話せるようになっていた。


 前方、後方、上空と、三体の魔物に囲まれてしまった。

 三体は、剣を構えた騎士らへと迫る。

 

 ちょちょちょっ!?

 これ、もしかして……積んだ?


 いやいや、まだ諦めない!

「ラ、ライディー!」

『よっしゃ!!』

 魔物達へ向け、雷魔法を放つ。

 ……が、素早い動きで避けられてしまった。


「これは、さっき見たからね。無駄だよー」

 避けた拍子にフードが外れた少年は、黒い髪を揺らし、粋華へと手を向けた。

 稜が拳銃を構え、少年に向かって引き金を引いた。

 魔物は素早く身を屈めて避けると、稜へと衝撃波を放った。

 後ろに吹き飛ぶ稜。

 それを、スパーリが受け止めた。

「王様、つーかまえた!」

「うわっ、スパーリ……!」


 粋華とロイ、そしてアルフレッドがスパーリに切りかかる。

 それを余裕で避けながら、スパーリは稜を肩に担ぐ。

 そして、銃を握る稜の腕を、ギリギリと締め上げた。

「ぐわあっ!」

 稜は苦痛に顔を歪め、銃を取り落とした。


『リョウ様ー!』

 マリアとアージルが鞄から飛び出し、スパーリへと襲い掛かった。

 慌てて避けるが、二人の速さはスパーリと互角かそれ以上だ。

 思わず、スパーリは抱えていた稜を放り出した。

 マリアとアージルは稜を受け止めると、粋華の後ろへと隠すように運んだ。

 稜の手には、いつの間にか銃が戻っている。

『大丈夫か!? リョウ!』

「だ、大丈夫。……でも、これってまずいよな」


 空中に浮かぶクラフティは、その様子を余裕の表情で眺めている。

「いい加減諦めろ。こちらにリョウを渡せ!」

 粋華は首を横に振る。

 そんなこと出来る訳ない!


「クラフティ! 俺がそっち行ったら、みんなに手を出さないでくれるか!?」

 稜の言葉に、騎士らがギョッと彼を見た。

「馬鹿な真似はするな! お前を手に入れたら、俺達は皆殺しだ!」

 クラウディオはいつになく厳しく稜に言い放った。

「そんな……!」



「そうだぞ。馬鹿な事は言うなよ」

 聞き覚えのある、艶のある低音の女性の声が、黒ずくめの魔物ブーザの後ろから聞こえた。

 目を向けると、そこには、一人のローブ姿の女性がいた。


「えっ? イスメーネさん!?」

 その光景を信じられず、思わずパチパチと瞬きを繰り返す。

 イスメーネは、妖艶に微笑んで、確かにそこに立っていた。


 ええーーーっ!?

 なんでここにいるの!?



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