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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
107/127

47. 北の砦隊長・ダニロ


 領主と粋華が負傷した騎士達が治療を受けているという離れの屋敷に向かうのを見送った後、クラウディオは引きずられるように、ダニロに館の裏庭へと連れて行かれた。


「お前が元気そうで良かった! しかし、あのアージル殿には驚いたわい。あんなに一方的にやりこめられたのは久しぶりだ。……というわけで、手合わせしようじゃないか、クラウディオ!」

 クラウディオは、呆れたようにため息をついた。

「……なにが、というわけですか。面白くなかったのは分かりますが、あなたも本気じゃなかったでしょう」

 いきなり応接室で剣を抜く男ではあるが、周りが見えていないわけじゃない。力加減は考えているのだ。


「いいじゃないか。久しぶりに剣を交わし合おう! もちろん、ハンデはつけるぞ!」

 ダニロはニカッと笑った。

「ハンデなんていりませんよ」

 クラウディオは腰から剣を抜くと、ニヤリと笑った。

「でも、お前……」

 眉を寄せるダニロに、クラウディオは構わず切りかかった。

 ダニロは素早く剣を抜きながら、それをかわす。

 次はダニロがクラウディオに剣を繰り出した。それを、クラウディオは受け止め、弾くと同時に体勢を低くして、ダニロの膝を狙い剣を振る。

 ダニロは後ろに飛び退き、ワッハッハッハ!と楽し気な声を上げながら、クラウディオに幾筋もの剣を浴びせる。だが、彼の放つ強烈な刃は、ことごとく弾かれる。


「お前! 俺の剣を止めるとは……!! 腕の傷はどうした!?」

「心配をお掛けしましたが、もう完治しました」

 なんだ、そうか!と、嬉しそうに目を細めるダニロ。だが、剣を振るう手を止めようとはしなかった。

 彼は益々力を込めると、クラウディオとの手合わせを楽しんだ。


 なかなか勝負がつかぬまま、二人の息が上がっていた。

 お互いに相手の出方が読めるだけに、決定打を放てずにいた。

「ちょ、ちょっとは手加減しろよ。師匠に花を持たせるべきだろう……!?」

「いえ、私の師匠は、手を抜かれることを、よしとしませんので」

「あ、うそだろ。まだやろうってか!?……ああ、もう! 分かった! 俺の負けだ!」

 ダニロは剣を鞘にしまうと、地面に大の字に寝転がった。

「あー……疲れたー」


 だらしなく口を開けて目を閉じるこの男を、誰があの強者の集まる北の砦を任された隊長だと思うだろうか。

 彼の行動は、一見、破天荒で考えなしのように見える。

 細かいことにこだわらないのは、確かにそうであるが、彼の行動は、信じられないことに、いつも計算されてのことだった。

 彼はただ命令を素直に聞いているだけの男ではない。自分の考えで行動を起こすのだ。

 それは、自分の地位や名誉を守る為ではない。いつも、国や民を思っての行動だった。

 一旦は騎士の座を退き、領主となった彼を、再び北の砦の隊長へと頼み込んで任命した王は、一番彼の事をよく理解しているのかもしれない。 


「たいちょー! ダニロたいちょー!!」

 数人の男たちが、離れのある屋敷の方角から走って来るのが見える。

 クラウディオは彼らを見て、そうか……と口元を僅かに緩めた。


 ダニロはガバッと跳ね起きると、驚きの顔で男たちを迎えた。

「お前ら……!!」

 傷が完治したことを報告する騎士達に、ダニロは喜びが抑えられないといった様子で、彼らの肩を叩いて回った。

 騎士らは涙目になって肩を押さえるも、その口元は嬉しそうに笑っていた。

 

 騎士らが館へ入って行くのを見届けたダニロの顔は、薄っすらと笑みを浮かべていた。

 クラウディオは彼の顔を確認すると、ため息をつく。

 ダニロが何を考えているか、クラウディオには大体分かる。彼は、基本、裏表のない男だからだ。


「駄目ですよ」

「何がだ?」

 ダニロは目を細めてクラウディオを振り返る。

「スイは渡しません」

「ほう……」

 ダニロにも、クラウディオの考えは大体読める。

 その言葉に込められた意味も、ほとんど正確に理解した。

「……また、難しい娘を……」

 ダニロはため息をついて、首を横に振った。

 クラウディオはそんな彼の言葉は無視して、離れの館へと続く道を見ていた。



 ----------



 ダニロの天気予報は当たり、夕暮れ時には、雪が激しくなった。

 外は一面真っ白になっている。

 馬で移動するなら明日は大変な事になりそうだが、幸いジェットコースターで飛んで移動する討伐部隊には関係ない。


 夕食は、ダニロの妻でありファルコの母であるベルマン婦人が取り仕切り、華やかなものだった。

 ファルコには弟と妹がおり、お行儀よくにこやかに席に着いている。

 彼ら家族と討伐部隊の面々は同じテーブルにつき、肉や野菜を使った料理や、野菜のスープ、パン等、並べられた料理を一緒に食した。

 香辛料がたくさん使われているようで、赤い粒が目立つ。全体的に辛口で、これがこの地方の特徴のようだ。

 それと一緒に、度数の高い辛口のお酒を飲むのが一般的だが、さすがにそれは辞退した。


 ベルマン婦人は、豪快なダニロの妻だけあって、お上品ではあるけれど、どこか肝っ玉母さんの要素を所々に発揮していた。

 料理の説明をし、皆に感想を聞いたり、ダニロの家庭での様子を、面白可笑しく騎士達に聞かせた。


 ダニロさんもそうだけど、夫人も場の空気を読むのが上手いなぁ。

 ファルコは昼間よりは柔和な顔をしている。

 しかし、疲れがたまっているのか、目の下にはクマが出来ている。

 そうだ! 後でマリアさんに頼んでみよう……!

 

 私の視線に気づいたファルコが、ニッコリと微笑む。

 私もそれに笑顔で返す。

「いやあ、お似合いだと思うんだがね」

 ダニロが私とファルコを交互に見た。

 うえっ!?

 気まずそうな顔をした私を見て、夫人がすかさず声を掛けた。

「まあまあ、あなた酔ってるんですか? もう、いい加減にしてくださいね!」

「ワッハッハ! 悪い、悪い! いやあ、ファルコもいい娘を早く見つけてくれるといいんだがなあ!」

 ファルコはまだ独身らしく、恋人もいないらしい。

 彼が言うには、今は、領主の仕事を勤めるのに忙しく、そんな暇はないそうだ。 


 

 夕食が終わり、私は与えられた部屋へと入った。

 またも私は、広い部屋を一人で独占した。……といっても、もちろんフィアリーズも一緒だ。

 ジェットコースターの5姉妹も仲間に加わった今は、他の騎士達の部屋よりも、手狭になっていた。

 私は夫人に頼んで貸してもらった厨房で、鍋を作った。

 いつものように、フィアリーズ達とオオカミの食事だ。

 実は今回は、オオカミ達もミントに運ばれ一緒について来ている。

 前回の活躍で、彼らも連れて行く許可が出たのだ。


『ああ、私……実は待っておりました!』

『嬉しいですわ! ようやく……!』

 5姉妹はいつも、私が作る料理を食べるフィアリーズ達が羨ましかったそうだ。

「でも、つまみ食いはしなかったよね。偉いです!」

 そう、感心した私に、5姉妹はそりゃあ、そうですわ!と、勢いづいて答えた。

『王都に住むフィアリーズ達はみんな、ベット様からきつく言い渡されていましたから!』

『フィアリーズの品位に関わるからって!』

 ……そうだったんだ。

 さすが、ベット!

 ……って、あれ? でも、ベット自ら、レオンに持って行ったお菓子を勝手に食べちゃってたような……?


 やっとありつけたご飯に大満足の5姉妹。

 食事が終わったマリアに、ファルコさんを診て欲しいと頼んだ。

 マリアはニッコリ了承すると、あっという間に彼を治療して戻って来た。

『とっても感謝しておられましたわ』

 彼女の言葉に安心する。

 余計な事を!なんて、怒られたらどうしよう……って、ちょっとだけ思ってたんだよね。


 それから、フィアリーズと談笑しながら、昨日、寝不足だった私は、早々にベッドに入り眠りについた。


 

 ----------



 翌朝、慣れないベッドで寝たせいか、早く起きてしまった私。

 王都よりも、ずいぶんと部屋は冷え切っている。

 窓の外を見ると、昨夜激しく降っていた雪は止み、一面真っ白だった。そこへ僅かに朝日が差し込み、キラキラと光っている。

 こんなに積もった雪を見るのは久しぶりだ。

 昔、両親に連れられスキー場へ行った時ぶりかぁ。


 フィアリーズ達はまだ寝ている。

 私は震えながら起き出すと、厚着を纏った。

 オオカミはピクッと耳を動かし、粋華を見上げる。

「いいよ。まだ寝てて」

 私はそう言い置いて、剣の鞘を持って廊下へ出た。


 廊下を歩いていくと、外が良く見える大きな窓のある一角に出た。

 雪を見ながら、大きなため息をつく。


「おや、もう起きたのか? それとも、眠れなかったか?」

 私が振り向くと、ダニロ隊長がにこやかな顔で立っていた。



 いつも読んでくださって、ありがとうございます。

 誤字や、分かりにくい言葉や読みにくい所を、少しずつ修正していっております。

 まさか、こんなに長い話になってしまうなんて、思っておりませんでした。当初の予定を大幅にオーバーしております。……が、最後まで、ぜひお付き合いくださいませ!


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