46. 月刊 王立騎士団クラブ
ブックマーク登録、評価してくださった方々、ありがとうございます!!
今回は、お遊び回となっております。
温かい目でご覧くださいませ。
「王立騎士団に、ファンクラブなんてあるんですか!? これは、そのファンクラブ広報雑誌!?」
驚きのあまり、ポカンと口を開けた私に、トビアスはうんうん頷く。
「王都で毎月発行されて、主要な街へと届けられるのよ。北の砦へも毎月、定期便で届いていたの。でも、今月号は、王都との連絡便が途絶えてしまったから、まだ手元にないの」
「あら? でもスイ様たちがいらしているから、彼らが持ってきてくださったかもしれないわよ!?」
「まあっ、そうね! 討伐部隊の方々が自ら運んでくださったのかも!!」
彼女らに期待のこもった瞳で見つめられたが、あいにく持ってきた書類の内容を私は知らない。
そう告げると、彼女らはあからさまにガッカリした。
「~~そんなことより!!」
今まで静かだったナターシャが声を上げた。
「あ、あの記事は本当なのか、お聞きしたいですわ……」
そうだったと、ネリーさんが雑誌を見るよう、私に勧めてくる。
ページをめくると、騎士団隊員たちの、ラフな服装に身を包んだ姿絵が、何ページにも渡り描かれていた。
鎧をつけていない彼らは、一見ただの民間人にも見えるが、みなさんよく鍛えられた肉体をしていた。
姿絵は特徴をよくとらえており、見覚えのある顔が、ちらほらと見受けられる。
いい腕の絵師がいるようだ。
おおっ!? 討伐部隊もいるー!
クラウディオさんを中心として、見開き2ページを彼らが独占していた。
……アイドルグループみたい。
「討伐部隊の方々は、みなさん麗しい方ばかりでしょ? とっても人気が高いのよ」
「はぁー……素敵ですねぇ」
ネリーはうっとりと雑誌を眺める。
うん、まあ確かに。みんなカッコイイもんねぇ。
しかし、この姿絵には、キラキラ光るエフェクトも描かれていて、見ているこっちが恥ずかしい。
ああ、背中がむずがゆくなってきた……!
それより、個人情報とか、防衛面で大丈夫なんだろうか。
名前や役職は書かれていないからいいのかな?
「スイ様、次のページを見てください!」
ナターシャさんに言われてページをめくると、"スクープ!"と銘打って、ある記事が載っていた。
"《討伐部隊 〇ルフ〇ッド隊員 カップルに人気の通りで手つなぎデート!?》"
"--王都のメインストリートで、人気騎士〇ルフ〇ッド隊員を発見!
彼が小柄な黒髪の少女と手を繋ぎ、ショッピングを楽しむ姿を、彼のファンらに目撃された。
彼に婚約者がいるのは周知の事実だが、婚約者とは明らかに違う風貌の少女との、仲睦まじい姿を目撃したファンは、戸惑いの色を隠せない--。"
……ん?
黒髪の少女って……なっ、なにこれー!?
「スイ様、これはどういう事でしょうか!? この黒髪の少女というのは……!!」
ウルウルとした目を向けるナターシャを、トビアスがまあまあとなだめる。
「ナターシャはね、アルフレッド様、推しなのよ」
最初に彼女らが私に冷たい態度だった理由が分かった。
それにしても、貴族相手に、こんな事書いて大丈夫なのかい!?
この月刊誌すごいわ……。 編集長は何者だ!?
……って、それはさておき、ナターシャさんには誤解のないように言っておこう。
「この時は……人混みで、はぐれないように手を繋いでくれていただけですよ。この日、はじめて町に出たので。慣れない私に、いろいろと気を使ってくれたんです」
ナターシャは、ホッとした表情を浮かべる。
「そうでしたのね、やっぱり。アルフレッド様は婚約者のヘレーネ様と昔から大変仲がよろしいですものね。そうだと思っておりました。彼はお優しいですもの。町に不慣れなスイ様のお世話を焼くのは当然ですわね」
「そうよぅ、あの方たちの純愛は有名ですもの。彼に色目を使う方なんていないわよ! ねぇ、スイ様!」
トビアスに声を掛けられ、ギクッとして、ひきつりそうな口元を、無理やり笑顔に変える。
「え!? はい、もちろんっ!」
婚約者がいるのを知らなくて、アルフを気にしていたことは内緒にしておこう。
私は素早く他のページもチェックする。
まだ文字を読むスピードは遅いが、分かる文字を追って、全体に目を通す。
次の日はクラウディオさんと出かけていたが、それが書かれていないのを確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。
マリアは粋華の肩で、そわそわしながら私達のやり取りを見守っている。
「それにしても……スイ様が討伐部隊の一員だとは驚きましたわ。この広報誌も、異世界人のスイ様の事は記事に出来なかったようですわね」
今のところ、国の極秘事項だからね。
編集者が私を知っているかどうかは分からないけど、さすがに記事にする許可は下りないだろう。
「あのー……、私は、フリッツ様推しなんです……。もしよろしければ、いろいろと彼の事を教えていただけませんか……?」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、ネリーが尋ねた。
私は、ふむふむとフリッツさんを思い浮かべる。
彼がロイさんと仲が良いことや、するどい突っ込みが得意な事を教えてあげた。
「私はロイ様がいいわぁ。母性本能をくすぐられるの」
トビアスは恥じらいながら、くねくねと体を動かした。
ロイさんね。
やる気はあるけど、少々空回りしている所や、空気が読めない天然発言があることを教えた。
「まあ、可愛い! そこがロイ様のいい所よね!」
でも、アルフには婚約者がいるし、ロイさんは結婚している。それでもいいのかと問うと、それも込みでファンなのだそうだ。
彼らの幸せを見守るのもファンの務め!と力説された。
いやぁ、ファンの鏡だね。彼らとどうこうなりたいとかはないらしい。
みんなの視線がイザベラへと向く。
ほら、恥ずかしがってないで聞いちゃいなさいよう!という空気だ。
イザベラはポッと顔を赤くし、コホンと可愛く咳ばらいをすると、口を開いた。
「わ、わたくしは……ホレス様の事をお聞きしてもよろしいかしら……?」
あら、この美少女はホレスさん推しか!
私はにっこり頷くと、彼がみんなのまとめ役で、いつも周りを気遣っている事や、みんなから頼られている事を教えた。
イザベラは嬉しそうに口元を緩めて聞いていた。
あれ? そういえば……彼って人気がないのかな? 何だか意外だ。
「えっと……クラウディオさん推しは、誰もいないんですね。意外と人気がないんですねぇ」
クスッと笑う私に、みんなが「えっ!?」と、驚く。
「ち、ちがうわ!」
「まあ、それは誤解です!」
反論の声が全員から上がった。
「では、私から説明いたします」
と、ネリーさんが何故か立ち上がる。
「……クラウディオ様は、剣の腕、魔法の才能、王都で人気の舞台俳優よりも美しい容姿、何をとっても完璧なお方。ファンクラブ会員みんなの憧れなのです! ですので、“クラウディオ様推し”などという言葉は必要ないのです!!」
へ、へー……
口を開け、思わず引き気味にネリーを見上げる粋華。
イザベラは苦笑いを浮かべ、ネリーをフォローする。
「まあ、みなさんに好かれているということですわ」
ところで、イザベラ様は、ずいぶんと討伐部隊を気に入っているように思う。
彼女の父親、ヨドーク将軍とは大違いだ。彼は討伐部隊を目の敵にしている。
ちょっとその辺りを聞いてみてもいいだろうか……?
「イザベラ様はヨドーク将軍とは、仲がよろしいんでしょうか……?」
イザベラは、微笑んで頷く。
「ええ、お父様からはよくお手紙をいただきますし、私もそれにお返事を出しておりますわ。スイ様はお父様とは面識がありますの?」
「ええ、まあ、そこそこに……」
嫌がらせを受けております……
「将軍様は、イザベラ様を大層可愛がっておいでですわ。他のご兄弟と比べても、一番の可愛がりようで……」
ネリーは二人の仲の良さは筋金入りだと太鼓判を押す。
「お父様も、討伐部隊の方々のように、早く手柄を立てられるとよろしいのに……。いつも手紙にも書いておりますのよ。討伐部隊の方々がどんなに素晴らしいかを」
イザベラはお花のように、ふんわりと笑った。
んんん? それって……
ヨドーク将軍は可愛い大事な娘から、父である将軍よりも討伐部隊を褒める内容の手紙が、いつも送られてくるってことだ。
彼の心中は穏やかではないだろう。
……あれ? 討伐部隊がヨドーク将軍に嫌われる理由って、……これか!?
そこへ、一人のメイドが息を切らせて入って来た。
「イザベラ様! 最新号が、〖王立騎士団クラブ〗の最新号が届いておりますー!!」
イザベラは立ち上がって、嬉しそうに顔をほころばせた。
「まあ、やっぱり届いていたのね! さっそく見てみましょう!」
テーブルの真ん中に雑誌を置いて、みんなで覗き込むようにしてページをめくる。
「あら!? つい先日の出来事も載っておりますわ!」
そこには、王都の町が魔物に襲われ、クラウディオさんが魔法で応戦した記事が載っていた。
なんと! 仕事が早い!
……ん?
私は見開き2ページで書かれたその大きな記事の左下に、小さな記事を見つけた。
そこには、不穏な見出しが付いている。
"《魔導士〇ラウ〇ィオ氏、ついにお相手現る!?》"
記事を読むと……
"--今まで女性の噂が聞かれなかった堅物魔導士にも春が来たか!? 王都で人気の宿屋から出てきた彼の腕には黒髪の少女の姿が! 彼は少女を横抱きに抱え、周囲の目を気にする素振りもなく、そのまま人混みの中へと消えて行った--。" と書かれていた。
粋華の背中を、冷たい汗が伝う。
この記事には、幸いなことに、まだ誰も気づいていない……
逃げるなら今だ!
粋華は急用を思い出したと場を辞し、キャッキャとはしゃぐイザベラたちを残して、本館への道を急いだのだった。