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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
106/127

46. 月刊 王立騎士団クラブ

 ブックマーク登録、評価してくださった方々、ありがとうございます!!

 今回は、お遊び回となっております。

 温かい目でご覧くださいませ。

 



「王立騎士団に、ファンクラブなんてあるんですか!? これは、そのファンクラブ広報雑誌!?」


 驚きのあまり、ポカンと口を開けた私に、トビアスはうんうん頷く。

「王都で毎月発行されて、主要な街へと届けられるのよ。北の砦へも毎月、定期便で届いていたの。でも、今月号は、王都との連絡便が途絶えてしまったから、まだ手元にないの」

「あら? でもスイ様たちがいらしているから、彼らが持ってきてくださったかもしれないわよ!?」

「まあっ、そうね! 討伐部隊の方々が自ら運んでくださったのかも!!」

 彼女らに期待のこもった瞳で見つめられたが、あいにく持ってきた書類の内容を私は知らない。

 そう告げると、彼女らはあからさまにガッカリした。


「~~そんなことより!!」

 今まで静かだったナターシャが声を上げた。

「あ、あの記事は本当なのか、お聞きしたいですわ……」

 そうだったと、ネリーさんが雑誌を見るよう、私に勧めてくる。


 ページをめくると、騎士団隊員たちの、ラフな服装に身を包んだ姿絵が、何ページにも渡り描かれていた。

 鎧をつけていない彼らは、一見ただの民間人にも見えるが、みなさんよく鍛えられた肉体をしていた。

 姿絵は特徴をよくとらえており、見覚えのある顔が、ちらほらと見受けられる。

 いい腕の絵師がいるようだ。


 おおっ!? 討伐部隊もいるー!

 クラウディオさんを中心として、見開き2ページを彼らが独占していた。

 ……アイドルグループみたい。

「討伐部隊の方々は、みなさん麗しい方ばかりでしょ? とっても人気が高いのよ」

「はぁー……素敵ですねぇ」

 ネリーはうっとりと雑誌を眺める。


 うん、まあ確かに。みんなカッコイイもんねぇ。

 しかし、この姿絵には、キラキラ光るエフェクトも描かれていて、見ているこっちが恥ずかしい。

 ああ、背中がむずがゆくなってきた……!

 それより、個人情報とか、防衛面で大丈夫なんだろうか。

 名前や役職は書かれていないからいいのかな?


「スイ様、次のページを見てください!」

 ナターシャさんに言われてページをめくると、"スクープ!"と銘打って、ある記事が載っていた。

 "《討伐部隊 〇ルフ〇ッド隊員 カップルに人気の通りで手つなぎデート!?》"

 "--王都のメインストリートで、人気騎士〇ルフ〇ッド隊員を発見!

 彼が小柄な黒髪の少女と手を繋ぎ、ショッピングを楽しむ姿を、彼のファンらに目撃された。

 彼に婚約者がいるのは周知の事実だが、婚約者とは明らかに違う風貌の少女との、仲睦まじい姿を目撃したファンは、戸惑いの色を隠せない--。"


 ……ん?

 黒髪の少女って……なっ、なにこれー!?


「スイ様、これはどういう事でしょうか!? この黒髪の少女というのは……!!」

 ウルウルとした目を向けるナターシャを、トビアスがまあまあとなだめる。

「ナターシャはね、アルフレッド様、推しなのよ」


 最初に彼女らが私に冷たい態度だった理由が分かった。

 それにしても、貴族相手に、こんな事書いて大丈夫なのかい!?

 この月刊誌すごいわ……。 編集長は何者だ!?

 ……って、それはさておき、ナターシャさんには誤解のないように言っておこう。


「この時は……人混みで、はぐれないように手を繋いでくれていただけですよ。この日、はじめて町に出たので。慣れない私に、いろいろと気を使ってくれたんです」

 ナターシャは、ホッとした表情を浮かべる。

「そうでしたのね、やっぱり。アルフレッド様は婚約者のヘレーネ様と昔から大変仲がよろしいですものね。そうだと思っておりました。彼はお優しいですもの。町に不慣れなスイ様のお世話を焼くのは当然ですわね」


「そうよぅ、あの方たちの純愛は有名ですもの。彼に色目を使う方なんていないわよ! ねぇ、スイ様!」

 トビアスに声を掛けられ、ギクッとして、ひきつりそうな口元を、無理やり笑顔に変える。

「え!? はい、もちろんっ!」

 婚約者がいるのを知らなくて、アルフを気にしていたことは内緒にしておこう。


 私は素早く他のページもチェックする。

 まだ文字を読むスピードは遅いが、分かる文字を追って、全体に目を通す。

 次の日はクラウディオさんと出かけていたが、それが書かれていないのを確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。

 マリアは粋華の肩で、そわそわしながら私達のやり取りを見守っている。


「それにしても……スイ様が討伐部隊の一員だとは驚きましたわ。この広報誌も、異世界人のスイ様の事は記事に出来なかったようですわね」

 今のところ、国の極秘事項だからね。

 編集者が私を知っているかどうかは分からないけど、さすがに記事にする許可は下りないだろう。



「あのー……、私は、フリッツ様推しなんです……。もしよろしければ、いろいろと彼の事を教えていただけませんか……?」

 恥ずかしそうに頬を赤らめ、ネリーが尋ねた。

 私は、ふむふむとフリッツさんを思い浮かべる。

 彼がロイさんと仲が良いことや、するどい突っ込みが得意な事を教えてあげた。


「私はロイ様がいいわぁ。母性本能をくすぐられるの」

 トビアスは恥じらいながら、くねくねと体を動かした。

 ロイさんね。

 やる気はあるけど、少々空回りしている所や、空気が読めない天然発言があることを教えた。

「まあ、可愛い! そこがロイ様のいい所よね!」

 

 でも、アルフには婚約者がいるし、ロイさんは結婚している。それでもいいのかと問うと、それも込みでファンなのだそうだ。

 彼らの幸せを見守るのもファンの務め!と力説された。

 いやぁ、ファンの鏡だね。彼らとどうこうなりたいとかはないらしい。


 みんなの視線がイザベラへと向く。

 ほら、恥ずかしがってないで聞いちゃいなさいよう!という空気だ。

 イザベラはポッと顔を赤くし、コホンと可愛く咳ばらいをすると、口を開いた。

「わ、わたくしは……ホレス様の事をお聞きしてもよろしいかしら……?」

 あら、この美少女はホレスさん推しか!

 私はにっこり頷くと、彼がみんなのまとめ役で、いつも周りを気遣っている事や、みんなから頼られている事を教えた。

 イザベラは嬉しそうに口元を緩めて聞いていた。


 あれ? そういえば……彼って人気がないのかな? 何だか意外だ。

「えっと……クラウディオさん推しは、誰もいないんですね。意外と人気がないんですねぇ」

 クスッと笑う私に、みんなが「えっ!?」と、驚く。

「ち、ちがうわ!」

「まあ、それは誤解です!」

 反論の声が全員から上がった。

「では、私から説明いたします」

と、ネリーさんが何故か立ち上がる。


「……クラウディオ様は、剣の腕、魔法の才能、王都で人気の舞台俳優よりも美しい容姿、何をとっても完璧なお方。ファンクラブ会員みんなの憧れなのです! ですので、“クラウディオ様推し”などという言葉は必要ないのです!!」 

 へ、へー……

 口を開け、思わず引き気味にネリーを見上げる粋華。

 イザベラは苦笑いを浮かべ、ネリーをフォローする。

「まあ、みなさんに好かれているということですわ」



 ところで、イザベラ様は、ずいぶんと討伐部隊を気に入っているように思う。

 彼女の父親、ヨドーク将軍とは大違いだ。彼は討伐部隊を目の敵にしている。

 ちょっとその辺りを聞いてみてもいいだろうか……?


「イザベラ様はヨドーク将軍とは、仲がよろしいんでしょうか……?」

 イザベラは、微笑んで頷く。

「ええ、お父様からはよくお手紙をいただきますし、私もそれにお返事を出しておりますわ。スイ様はお父様とは面識がありますの?」


「ええ、まあ、そこそこに……」

 嫌がらせを受けております……

「将軍様は、イザベラ様を大層可愛がっておいでですわ。他のご兄弟と比べても、一番の可愛がりようで……」

 ネリーは二人の仲の良さは筋金入りだと太鼓判を押す。


「お父様も、討伐部隊の方々のように、早く手柄を立てられるとよろしいのに……。いつも手紙にも書いておりますのよ。討伐部隊の方々がどんなに素晴らしいかを」

 イザベラはお花のように、ふんわりと笑った。


 んんん? それって……

 ヨドーク将軍は可愛い大事な娘から、父である将軍よりも討伐部隊を褒める内容の手紙が、いつも送られてくるってことだ。

 彼の心中は穏やかではないだろう。

 ……あれ? 討伐部隊がヨドーク将軍に嫌われる理由って、……これか!?



 そこへ、一人のメイドが息を切らせて入って来た。

「イザベラ様! 最新号が、〖王立騎士団クラブ〗の最新号が届いておりますー!!」

 イザベラは立ち上がって、嬉しそうに顔をほころばせた。

「まあ、やっぱり届いていたのね! さっそく見てみましょう!」


 テーブルの真ん中に雑誌を置いて、みんなで覗き込むようにしてページをめくる。

「あら!? つい先日の出来事も載っておりますわ!」

 そこには、王都の町が魔物に襲われ、クラウディオさんが魔法で応戦した記事が載っていた。

 なんと! 仕事が早い!


 ……ん?

 私は見開き2ページで書かれたその大きな記事の左下に、小さな記事を見つけた。

 そこには、不穏な見出しが付いている。


 "《魔導士〇ラウ〇ィオ氏、ついにお相手現る!?》"


 記事を読むと……

 "--今まで女性の噂が聞かれなかった堅物魔導士にも春が来たか!? 王都で人気の宿屋から出てきた彼の腕には黒髪の少女の姿が! 彼は少女を横抱きに抱え、周囲の目を気にする素振りもなく、そのまま人混みの中へと消えて行った--。" と書かれていた。


 粋華の背中を、冷たい汗が伝う。

 この記事には、幸いなことに、まだ誰も気づいていない……

 逃げるなら今だ!


 粋華は急用を思い出したと場を辞し、キャッキャとはしゃぐイザベラたちを残して、本館への道を急いだのだった。



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