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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
105/127

45. 治療完了!


 イザベラと、彼女と共に騎士らの看病にあたっている他の3名の看護者と一緒に、重症患者がいるという屋敷の奥へと案内された。


 そこには先程と同程度の広さがあったが、テーブルや椅子、食器棚、2台のベッド等の家具が置かれており、手狭く感じる。

 ベッドには、それぞれに金髪の男性と、赤毛の男性が寝かされていた。

 二人は私達が部屋に入っても、反応なく静かに眠っている。

 イザベラは男たちの様子を確認すると、表情を曇らせ、粋華とマリアに暗い声音で告げた。


「この方たちは、こちらに運び込まれてから、ずっと意識がありません。毎日、治療魔法を施し、何とか命を繋いでいる状態です。それも、いつまでもつか……

 スイ様……、希望があるとしたら、あなたの魔法しかありません……」

 3名の看護人たちは目を伏せ、しくしくとすすり泣きを始めた。


「分かりました。やるだけやってみます」

 私はそう言うと、まずは赤毛の男性が寝かされているベッドの横へ立った。マリアさんは男性の胸に手を当てる。

 マリアさんの肩に手を置き、目を瞑って集中する。

 意識がないということは、脳や脊髄にも損傷があるのかもしれない。

 それらの修復にも意識を向けながら、すべての器官が正常に働くようにと願いを込める。

 白く眩い光が部屋の中に満ち、あまりの眩しさに誰もが目を開けていられない。


 数分後、光が治まり、みなが恐る恐る目を開く。

「ふわ~~~」

 大きな欠伸をしながら、赤毛の男性が体を起こした。

「あー、腹減ったぁ……って、え!? ここ何処だ!?」

 イザベラは口を押え、目を見開く。

 他の面々も、涙の乾ききらない顔で、驚きの表情だ。

「信じられない……!」

 と、口々に呟いた。


 ふぅー、なんとか上手くいったようだ。

 本当にマリアさんはすごいなー……!

 尊敬の念がこもった粋華の視線を受けて、マリアも『良かったですわ』と嬉しそうにニッコリと微笑んだ。


 よし! では、次いってみよう!

 金髪の男性にも、同じように治療魔法をかける。

 こちらも無事に意識を取り戻した。

 治療が終わりベッドから飛び降りた彼らは、先に回復していた騎士達と喜び合い、ダニロへ報告すべく、軽い足取りで本館へと駆けていった。


 それを茫然と見ていたイザベラは、彼らがいなくなるとガクッと膝をついた。

「イザベラ様!」

「まあっ、どうなされましたか!?」

 イザベラは床に座り込み、俯く。

「……こんな数分で完治させてしまうなんて……。ここ数日、わたくしがやってきた事は何だったのでしょう……」

 イザベラは粋華を、恨めしそうな顔で見上げた。

「国一番の治療魔法師などと称えられて、調子に乗っていたのかもしれません……。本当に恥ずかしいことです」

 イザベラは周りに支えられ、ふらふらしながらも立ち上がる。

「この度は、スイ様のお力で、無事に騎士達の治療が完了いたしました。本当にありがとうございます」

 彼女は他の3人にも指示を出し、みんなで深々と頭を下げた。


「い、いえっ! それは、ここにいる、フィアリーズのマリアさんの力です! それに、確かにマリアさんの治療魔法は凄いんですけど、彼らが無事だったのは、イザベラ様のおかげですよ。今日まで命を繋いでくださったから、治療することが出来たんですし……!」

 粋華はわたわたと手を振って焦る。

 マリアさんの手柄を横取りしちゃいけない!


 マリアはイザベラたちを見下ろして、優雅に微笑む。

『スイ様の言う通りですわね。あなたもよくやりましたわ』

「は、はい……! マリア様!!」

 

 最初、何故か冷たい対応をしてきた彼女たちだったが、手柄を横取りされた形になったにも拘らず、騎士らの全快を喜び、こうして私とマリアさんに感謝している。彼女らの性根が善良で、綺麗な心の持ち主なのだと推測された。 


「はぁー……。それにしても、患者が全員いなくなっちゃって、私達、やる事がなくなっちゃったわね……」

 背の高い、筋骨隆々の男性が、そう言って、やれやれと笑った。

 ん?……彼って、おねえさん?


「……そうですわね。ちょっと、休憩いたしましょうよ!」

 イザベラに付き従っていた彼女より少し年上に見える、侍女らしき女性がそう提案すると、みながうんうんと同意した。


 しかし、私には気になる事が。

「あのー……、街の人々の中にも、魔獣に怪我を負わされた方はいませんか? その方たちも、治療したいと思うのですが……」

「ああ、それならば大丈夫です。イザベラ様がすでに治療なさっておいでです」

 ええ、とイザベラが頷く。

「この街に保護した民らは、それほどの重症患者がおりませんでしたので、すでに治療が終わっております。……残念なことに、すでに亡くなっていた方もおりまして、わたくしではどうしようもありませんでした。……それは、マリア様も同じですわよね?」

 粋華とマリアは頷く。

 そっかぁ……もう、やれる事はなさそうだ。



 いそいそとお茶の準備を始める女性を残し、私達は彼女らがいつも休憩に使っているという、庭が見える大きな窓のある部屋へと移動した。

 外はあいにくの曇り空。さっきよりも暗くなった空から、チラチラと雪が降り始めている。

 庭に植えられた木々は、大半が葉を落とし、せっかくの外の景色も寒寒とした印象を与える。

 暖炉に灯った火が、パチパチと音を立てていた。


 イザベラが他の3名を紹介してくれる。

 お茶を淹れてくれた女性は、やはりイザベラの侍女であった。名はネリー。

 何故か侍女のネリーもイザベラの隣に腰かけており、お茶うけにと、小さな焼き菓子がそれぞれの前に置かれた。


「スイ様。侍女も同じテーブルにつくことをお許しください。彼女は元々、わたくしのお友達なのです」

 イザベラはすまなそうに、眉を下げる。

 私は全然気にしてないと首を横に振る。

 お城のメイドさん達もみんな貴族のご令嬢だったし、きっとイザベラの侍女もそうなんだろうと推測する。

 あと二人、地味目な女性ナターシャと、おねえ(?)っぽい男性トビアスは、イザベラのお弟子さんだそうだ。彼らも治療魔法の使い手らしい。


「さあ、お茶が冷めてしまうわね。いただきましょう」

 粋華らは、紅茶を飲みながら一息つく。

「美味しい。体が温まりますわね」

 お菓子を頬張り、みんなの顔が緩んだ。

「ああ、美味しいわね! お菓子なんて久しぶり!」

「ええ、特別な時にと、残しておいたお菓子ですから」

 硬くて日持ちしそうなそれを、ガリガリと頬張った。

 昼を食べていない私は、糖分が取れてホッとする。

 物資が不足している今、どうやらお菓子は贅沢品らしい。


 食べ終わって一息つくと、チラチラとこちらを伺う彼女らの視線が気になった。

「もう、気持ちは分かりますが、露骨に見過ぎですよ」

 イザベラがそんな彼女らを注意する。

「イザベラ様、早く伺いたいですわ。いいでしょう!?」

 そう言ったネリーに、ナターシャとトビアスもうんうんと勢いよく頷く。


 戸惑う粋華の前に、ネリーは一冊の本を差し出す。

「これは……?」

 えっと……、何々……?

 本の表紙には、でかでかと大きく、こう書かれていた。


「月刊 王立騎士団クラブ 10月号  今月の特集! 騎士達の休日ファッションとお気に入りお出かけスポット!」 


 ネリーは顔を赤くして俯く。

「先月のファンクラブの広報ですわ。こちらの記事を拝見しまして、スイ様には是非とも伺いたいことがございますの……」


「私達、王立騎士団ファンクラブに入ってるのよ! しかも、全員、討伐部隊の隊員推しよ!」

 トビアスが目をキラキラさせ、乙女のように手を胸の前で組んで、鼻息荒く身を乗り出した。



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