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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
101/127

41. 粘土のジェットコースター


 同時に光り出した5つに分かれたジェットコースターは、別々の色に輝いている。

 ちゃんと、それぞれにフィアリーズが入ってくれたようだ。


『ただいま帰りましたー!……って、あれ!? もしかして、また新しい仲間ですか!?』

 可愛い声と共に、ゴツイ見た目のアージルが窓から飛び込んできた。

「もう帰って来たの? すごいね! 早かったじゃない!」

 私は両手を上げて、アージルをハイタッチで迎える。

 数日ぶりの再会に、みんなでわいわいと喜び合った。

『まあ、僕の速さならこんなものです。ミラさんも速かったですしね。行きはちょっとお互いムキになってしまいまして、競争しながら飛んだんですよ。まあ、僕が勝ちましたけど』

 アージルは真面目な顔を装っているが、口の端が自然と上がっちゃってるぞ?


 おっと、ジェットコースターはどうなったかな?


 激しい光は、やがて収まり、仄かな光を放っている。そして、ふんわりと浮かび上がると、部屋の中を飛び回り始めた。

 それを稜は、ポカンと口を開けて見上げている。

「……うわー……本当に動き出したよー」

 しばらくして降りて来たジェットコースターは、横一列に綺麗に並ぶ。そして、左から順番に自己紹介を始めた。


 紫色が長女のリタ。オレンジ色が侍女のオルガ。赤色が三女のパメラ。灰色が四女のスーゾ。ピンク色が末っ子の五女ピア。

 へぇー五人姉妹かぁ。珍しいよね?


『実は、私達も皆さんのようにスイ様の役に立ちたいと、ずっと周りにいたのです。しかし、なかなかいい機会が訪れず……。それが、今回の体はちょうど5人分! まさに私達の為の体ですわね! 運命を感じました!!』

『そうですわー!』

『キャー! 私、嬉しーい!!』

『幸せですわー♡』


 5人姉妹は興奮してビョンビョンと飛び跳ねる。

 おうっ……これは、かしましい子達が入ってくれたね……

 私や稜くん、先輩フィアリーズ達は彼女たちの勢いに押され、若干引きながらも、無事挨拶を終えた。



 ----------



 依頼された乗り物が完成したことを伝令兵に言づけると、すぐに王が待つ謁見の間に連れて行かれた。

 クラウディオさんと討伐部隊のみんな、そして稜くんとフィアリーズ達も一緒だ。

 私はいい加減もう慣れたものだが、新しく仲間に加わったフィアリーズ達や稜くんは、終始緊張した様子だった。

 いや、あのフィアリーズ5姉妹は、キャーキャー楽しそうだったが。


 予想通り、この謁見では、王から私や稜くんも討伐部隊のみんなと共に、北の砦への出立命令が下った。

 王との謁見を済ませると、大急ぎで出立の準備をして、中庭に集まる。

 そこにはすでに、ルディ王子と、その護衛の騎士達が待っていた。そして、いつものように、ハインリッヒさんやドーラさん、ベッティさんや文官さん達、そして珍しい事に、ヨドーク将軍とゴッツ隊長の姿まであった。


 この二人は、いつもセットで出てくるね……

 思わず顔をしかめてしまう、私を含めた討伐部隊の面々。

 そんな私達の嫌がる雰囲気をものともせず、ヨドーク将軍は私達へと堂々と歩み寄って来た。


「ふん、北の砦は頼んだぞ。王都の事は我々に任せるがいい。お前らが帰ってくるまでに、事は終わっているだろう」

 その斜め後ろでは、ゴツイ大男のゴッツが将軍の言葉に合わせ、うんうんと頷いている。

 クラウディオは将軍と隊長に、真剣な顔で頷いた。

 意外にもそれに、二人も真面目な顔で頷き返す。

「頼みます」

 クラウディオの言葉を聞くと、二人は早々にお城の中へと消えていった。

 あれ? 最後まで見送ってはくれないんだね。


 そして、綺麗なピンクのドレスが近づいてくるのが見える。

「ああ、間に合いましたわ!」

 やっぱり、エミーリア王女だ。

 その後ろを、いつもの如くサリーさんが息を切らせて追って来た。

「エ、エミーリア様……、な、何度言えば……!」

 息が苦しそうで、言葉にならない。

 彼女と同じく全力で走って来たはずのエミーリアは、そんな自分の侍女に「あら、大丈夫?」とケロッとした顔を向けた。彼女は王女らしからぬ体力があるようだ。

「スイ、皆さん、どうかご無事で」

 王女は両手を胸の前で握った。

 稜くんは、王女の美しさにポーッとなっている。

 ああ残念、稜くん、彼女にはもう婚約者がいるんだよー……


 スッと横から美しい少年が私の手を取った。

 ルディ王子だ。

「スイ、あなたが無事に帰って来るのを待っています」

 天使のような微笑みを私に向ける。

「あ、ありがとうございます」

 もうね……

 有難いけど。確かにこんな可愛い子に手を握られて嬉しいけども。

 でもねぇ、うーん……いつまでも王子にこんな事をさせるのは良くないと思うんだ。

 よし、ここはもう、ハッキリ言っとくか!


 私は王子の耳元へ口を寄せると、そっと囁く。

「王子、王様に強要されてるんですよね? すみません……実は私、22歳なんです。歳が違いすぎるので無理ですと、王様にお伝えください」

「えっ……」

 王子は大きく目を見開いて茫然としている。


 固まる王子を残して、私達は王都を出発した。

 目指すは北の砦だ。

 私と稜くんは先頭の車両、5人姉妹の長女リタさんに乗っている。その後ろがクラウディオさんだ。討伐部隊のみんなも後ろの3両に乗っている。

 途中ですれ違う事が予想される魔獣の群れに見つからないように、高めの高度で飛ぶ。

 後ろからは「おおー!!」と興奮した騎士達の声が聞こえる。

 すでにかなりのスピードだが、彼女らの実力はこんなものではない。


「もっと速さを出せますよね?」

『ええ! 任せてちょうだい!』

 さらにグンッとスピードが上がった。

 後ろを振り向くと、必死でミントがついてくるのが見えた。

 引き離されはしないかと心配だったが、大丈夫そうだ。

 私はホッとして前を向く。

 

 ジェットコースターを作るにあたって、もう一つ気を付けた点があった。

 ミントに乗った時に感じた、空気抵抗だ。

 せっかく高速で飛べるのに、それに私が耐えられず、気を失う事態に陥ってしまった。

 それからは、全速力で飛ぶのは控えてもらっている。


 今回はそうならないように、空気抵抗を受けないよう、願いを込めて作った。

 今、この速さで飛んでなんともないので、上手くいったようだ。

 願っただけでその通りになるなんて、本当にチート。

 そのおかげで、移動中でも会話ができる。


「お前たちに北の砦について、説明しておこうと思う」

 クラウディオさんは、異世界人の私と稜くんに、詳しい説明をしてくれた。他の騎士達はもう常識レベルで知っている事のようで、各々好き勝手な会話を楽しんでいる。

 

 彼の説明を聞いて、北の砦が襲われたにも拘らず、あまり悲壮な様子ではなかった謎が解けた。

 連絡が取れない知らせを受けた時は、とても心配そうだったのにね。


 実は、今回の襲撃で、おかしな点がいくつかあったようだ。

「まず、魔物が接近中に、呑気に砦で構えているだけなのが不自然だ」

 北の砦には、実は何人もの魔導士がいた。他の地域に比べ、一番他国や魔獣に警戒していたのが北の砦で、ここは王都に次ぎ、警備が強固だ。


「まず、魔導士の大規模魔法を展開する」


 魔法の罠を仕掛けるそうだ。これで大群を分裂させる。

「リョウ殿は、魔法の使用はなかったと言っていた。多分、すでに大半は砦から移動していたのだろう」

「……でも、残った騎士達もいたんですよね?」

「多分、目くらましだろう。囮だ」

「……じゃあ、その人達は……」

「いや、心配ないと思う。マリア殿には及ばないが、国一番の治療魔法の使い手が砦にはいる。だが、これは俺の推測だ。現地へ行ってみればはっきりするだろう」


「後は、事前に決めておいた救援要請の合図がなかった事だな」


「救援要請の合図?」

「そうだ。光の魔法を空へ飛ばして、大きな爆発をさせるんだ。実は知られていない隠された砦がいくつかあってな。合図が王都に伝わるようになっている」

 へぇー花火みたいなもんかなぁ……

 不謹慎だけど、ちょっと見てみたい。


「他の砦の者達も、リョウ殿も、そんな合図はなかったと言っている。救援要請は必要ないという判断だと思う」  

「でも、救援要請は必要ないとして、状況報告はなされるはずですよね。それがないっていうのは……」

「ああ、その理由も、行ってみれば分かると思う」


 王都を出たのが昼近く。

 しかし、まだ日が高い時刻に北の砦に到着した。



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