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異世界で戦闘玩具職人に任命されました  作者: 夏野あさがお
第二章
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40. 眠れない夜


 廊下をずんずん歩くクラウディオは、不機嫌な顔をしたまま、腕を掴む手は緩めない。


「ここでいいか……」

 彼はそう言うと、真っ暗な空き部屋の中へ、粋華を連れ込んだ。

 窓から入る二つの月明かりのおかげで、時間を待たず目が慣れ、お互いの顔が分かるようになった。

 クラウディは粋華と向かい合ったまま、しかし、何も言葉を発しない。


 ヘビの生殺し……!

 言いたいことがあるなら、早く言ってよー!

 沈黙に我慢出来なくなった私は痺れをきたし、自分から話を振ることにした。

「す、すいませんでした! 勝手なことをして……!」

 頭を深く下げて、目の前の気難しい上司の反応を待つ。

 「はぁー……」と、大きなため息に続き、意外にも気落ちしたような、彼の弱々しい声が静かな部屋に響いた。


「……俺は、そんなに頼りないか。相談も出来ない程に」

 いつもの無表情ながら、月が落とした影が、彼をいつもより寂しげに見せた。

 ブンブンと手を横に振りながら、私は焦って否定した。

「いえいえっ! クラウディオさんはお城の仕事や剣の御師匠さんのことで、いろいろ忙しかったり、気苦労が多そうだったし……。私は、自分で出来る範囲のことをやろうと……みんなの役に立ちたいと思って……」


 クラウディオは粋華の両肩をガッと掴むと、屈んで顔を近づけた。

「お前に何かあったら、それこそみんなに迷惑が掛かると自覚しろ!……だが、お前が役に立ちたいと思って行動したことは理解している。……もっと、俺に頼ってくれ! お前の問題は、俺の問題でもある!」


 肩が引き寄せられる。

 ……え? え!?

 粋華の顔は、大きな逞しい胸板に押し付けられていた。

 クラウディオは両腕で、彼女の体をすっぽりと包んだ。


「お前に何かあったら……いいか? 今度からは勝手な行動はするなよ……と言っても、お前はまた無茶しそうだな。これからは、ずっと俺と行動を共にしろ。見張ってなけりゃ、危なくて仕方ない」

 両腕に力を入れて、小さな背中をギュッと抱きしめる。


「覚悟しろよ。お前が逃げようとも、ずっとついて行くからな」

 耳元でそう告げ、頬にそっと口づけをする。ビクッと微かに震えた粋華を、もう一度しっかり抱きしめた後、力を緩め、そっと開放した。

 粋華は林檎のように真っ赤な顔をしたまま、何も言い返せず茫然と立ち尽くす。

 覗き込んで、そんな粋華の顔を確認したクラウディオは、満足そうに微笑む。

「では、部屋まで送ろう」

 当然のようにクラウディオは粋華の手を取ると、暗い廊下を並んで歩いた。

 

 部屋に戻ると、ミントとライディはもう眠っていた。当然、シェルも。

 粋華はベットに入り、頭まで布団にもぐる。

「ギャーーーー!! 何あれ、何あれ!?」

 みんなを起こさないよう小声ながらも、思わず布団の中で絶叫し、見悶えた。

 顔の火照りはなかなか引かず、ドキドキとうるさい胸の音で、疲れているはずなのに、眠れない夜を過ごしたのだった。



 翌朝、粋華の部屋を訪ねた稜と一緒に、朝食を取ることになった。

 彼の元気な顔を見てホッとした。私の時とは違い、バシリーさんに襲われることはなかったようだ。

 しかし、生憎、睡眠不足で頭がはっきりしない。首や手を回しながらストレッチをして、何とか頭を働かせようと頑張る。

 うう……頭が重い……


 目をしばしばとさせている私に、稜は元気に話掛けてきた。

「昨日はありがとうな。マリアを貸してくれて」

 睡眠時間は短かったはずだが、スッキリとした顔の稜が、爽やかな笑顔を向けてくる。

 うっ……ちょっと、眩しいっ……

 思わず目を細め、片手で遮った。


「……昨日より元気そうだね。ちゃんと、休めた?」

「ああ、マリアにいろいろと教えてもらって助かったよ。俺、スイカさんよりこっちに来て長いのに、全然この世界の事、分かってなかったからさぁ」

『うふふ、熱心に聞いて下さる姿が、可愛らしかったですわ』

「ちょ、何だよそれ!?」


 二人はふざけて手を出して、じゃれ合っている。楽しそうだ。

 そんな恋人同士のような光景を、生暖かい目で眺める。

 もうすっかり打ち解けたようで微笑ましいが、マリアさんって稜くんもタイプの範囲内なんだなぁ。確かに稜くんって、純朴そうで、愛嬌があって、顔もまあまあだし、ちょっと可愛いかもしれない。


『スイ、目が怪しくなっとるで』

 !! いかん、いかん。

 ライディの指摘は無視して、昨日から気になっていた事を聞いてみることにする。


「ところでさぁ、稜くん。ちょっと“粋華”って発音おかしくない?」

「え、なんで? スイカはスイカだろ? 夏に食べる……」

「違うっ! そうじゃなくて、こうです!」

 私は紙とペンとインクを持ってきて、漢字で名前を書いた。

 赤ちゃんの名づけの時みたいに、大きく書いた紙を掲げる。

「へぇー、粋華かぁ。いやあ、てっきり普通のスイカだと思った」

 普通のスイカってなんだ、普通って!!

 スイカ(西瓜)なんて名前、変だろう!


 そこへ、メイドのドーラさんが朝食の準備を始めてくれた。

 その後ろから、何故かクラウディオさんも入って来る。


 は!? なんで!?

 聞きたいが、まだマークが来ない~~!


 ドーラさんは、テーブルの上に3人分の朝食をテキパキと並べている。

 唖然と見ていた私の元へ、ベットに連れられ、マークが眠そうに欠伸をしながら現れた。

「おはよう! スイさん、稜くん!」

「おはよう~スイ……」

 元気なベットとは裏腹に、マークは昨日の疲れが残っているようだ。目が開いていない。

 もしかしたら、二人分の言葉の翻訳は、よけいに魔力を使うのかもしれない。 

 マークが現れたのを確認したドーラさんは、ニッコリ微笑んで私に告げた。


「これからは、魔導士様もご一緒に朝食を召し上がるそうです」

「え、何で!?」

 「これからは」……って? え? ずっと……って事?


 私の疑問に誰も答えてくれないまま、軽く当たり障りのない会話だけを交わしながら食事を始めた。

 忙しいからであろう急いで食べるクラウディオさんに合わせ、私達も早急に朝食を終える。

 先程までマリアさんとじゃれ合っていた時と違い、稜は長身で威圧感のある彼を前に、終始緊張した様子だった。しかし、お城のコックが作った料理に、「こんなまともなもん食べるの久しぶり~」と、感動して目に涙を浮かべていたのは、気のせいではないと思う。


 口をナプキンで拭ったクラウディオは、稜に早口で問いかけた。

「北の砦の件を、もう少し詳しく聞きたい」

 ベットも真剣な顔で身を乗り出す。

 ああ! なんだ~

 稜くんから話が聞きたかったんだね!

 クラウディオとベットが突然やって来た理由が分かった私は、ポンと一人、膝を叩いた。


「……と、こんぐらいしか分かりません。……すいません」

 説明を終えた稜はペコッと頭を下げた。

「いや、いい。大体分かった。謝る必要はない」

 悲痛な顔をしている稜の肩を、クラウディオはポンポンと叩く。




 それから2時間程経った時、日本にいた頃の話で盛り上がっていた私と稜くんの元へ、息を切らせた騎士が現れた。

「お二方に、王から緊急の依頼です!」

 私と稜くんはお互いの顔を見た。



「よし!っと、こんなんでどうかな?」

 私は額の汗をぬぐいながら、出来栄えを眺める。

「ちょ、粋華さん! ここ! こんなもん付けないでよ!」

 稜くんは、私のこだわりポイントの小鳥のオブジェを指さした。

「シンプルにカッコよくがコンセプトだろ!? 余計な飾りは必要ないって! クラウディオさんもそう思いますよね!?」

 稜が様子を見に来たクラウディオに尋ねる。

「えー!? 可愛いのに……」

 口を尖らせた私が言うも、クラウディオはオブジェを一瞥すると、「いらんな」と冷たく言い放つ。

「じゃあ、これは撤去しまーす!」

 稜はオブジェを外して、表面を平らに整える。


「……よし! 今度こそ完成だ!!」

 大量の藁と粘土をつかった私と稜くん、二人の作品が完成した。

 その名も、“空飛ぶ粘土のジェットコースター”だ!

 そのまんまだ!


 スタイリッシュな未来の乗り物を意識して、流線型のボディは、極力飾りを排除してある。わずかに左右に小さな羽が付けてあり、ロケットのような雰囲気だ。

 シートベルトはないが、安全性重視の気持ちを込めて作ったので、多分大丈夫。もちろん、最大の魅力である、スピードも重視だ!

 二人で並んで乗る形の車両を、5台作った。連結して連なって飛ぶ仕組みだ。定員は10名。しかし、もちろん、粋華か稜が乗らなければ、人を乗せて飛ぶことは出来ない。

 王からの依頼は、「討伐部隊のみんなを乗せて、早く移動できる乗り物を作れ」というものだった。

 4台あれば、部隊のみんなと、粋華と稜、全員が乗れるが、4という数字は縁起が悪いという事で、5台になったという経緯がある。


 依頼を受けた時、どんな形にするか稜くんと話し合った。

 普通に飛行機? でも、翼が大きくて、邪魔じゃない? 翼が小さくても飛べると思うけど、大人数のる飛行機に小さな翼って、ダサくない?

 汽車? 船? それらの空飛ぶ乗り物はアニメでもお馴染みだ。しかし、大きくなりすぎじゃない? フィアリーズが入る前に、ペチャンとつぶれそうだ。軽くするために壁や天井を省くと、不自然じゃない?

 魔女の箒とか? 大勢乗ったら、すごく長くなるよね。みんなが棒にまたがって……って、カッコ悪くないか? いや、普通に股が痛いって!

 魔法の絨毯? ……うん、なかなかいいかもしれない! 座り心地も良さそう。え? ジェットコースターがいい? もう、仕方ないなぁ。

 ……と、こんな調子で稜くんの案に決定した。


「へへ、乗り心地はどうだろうな」

 うずうずしている稜くんをたしなめる。

「まだ乗っちゃ駄目ですよ。フィアリーズ達が入ってからじゃないと、強度がないですから」

「分かってるって!」

 稜は、いたずらっ子のような目をして、イシシと笑った。


 2人乗りずつ連結するタイプは、マークの忠告を聞いて決めた。

 「異世界人一人と、フィアリーズ一人の魔力では、大勢を乗せるだけの魔力が足りないかもよ?」と指摘を受けた。

「何人ものフィアリーズが協力すれば出来るかもしれないけど……」

 おお! じゃあ、何台かに分ければいいんじゃない!?……と。

 まあ、それだと魔法の絨毯は無理だしね。

 ああ、絨毯で飛んでみたかった……

 でも私にはミントがいるもんね。彼ほど素晴らしい乗り物はないだろう!

 

 そうこうしているうちに、空飛ぶ粘土のジェットコースターが光り出した。

「うわー! スゲー……」

 稜は大きく目を開き、パチパチと瞬きした。



*スイカ(西瓜)っていう名前、粋華は「変!」と言っていますが、これはあくまで粋華の主観です。

 作者は素敵な名前だと思いますよ!

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