10. 洞窟にて
「では、野営できそうな場所を探してきます」
一人の騎士がそう言うと、魔導士クラウディオは空を見上げる。
「待て! しばらくすると雨が降り出しそうだ。雨をしのげそうな所を探せ」
そう指示を出した。
私たちは、探索から戻った騎士に案内されて、大きな洞窟の前に辿り着いた。
クラウディオは洞窟の奥をジッと見やる。
「大丈夫だろう。今日はここで野営を行う。みな準備するように」
騎士たちはそれぞれ、寝床を作ったり、食事の準備を始めた。
この洞窟は高さは3メートルくらいあり、奥行きもそうとうありそうだ。
まったく奥が見えない。
私も騎士たちを手伝おうと周りをウロウロしてみた。
「どうしたんだい、スイ」
アルフが声をかけてきた。
私は手伝う旨を伝えたが、
「えーと……とりあえずやってもらえそうな事はないから、そこで待っててくれるかな?」
私はお邪魔だったようだ。
大人しく膝を抱えて座った。
そうしているとまもなく、クラウディオが言った通り、雨が降り始めた。
私は手持無沙汰で、何気なく荷物を見た。
そうだ!!
私は自分の荷物を引っ張り出す。
「スイ。何してるの?」
マークが尋ねた。
私はフフンと笑うと、「いいから、見てて?」と、荷物の中から粘土を取り出した。
私は村人たちから、服だけでなく粘土ももらってきていた。
実はこの世界、マークやアルフから聞いたところによると、けっこう恐ろしい魔獣や、もっと知能や戦闘力が高い魔物も存在するらしい。
旅人たちは、武器や魔法を使って、自分の身は自分で守らないといけないそうだ。
私はもちろん剣など使えないし、直接魔法で戦うこともできない。
今は騎士たちが守ってくれるだろうが、これから先は自分でやっていかなければならないだろう。
そこで、私の武器は何か!
私は自分の能力で、自分を守るための武器を、自分自身で作り出すしかないのだ。
何にしよっかなぁ……
やっぱり、基本は“剣”だよね!
この世界にある普通の剣じゃ、私には重すぎて扱えない。
私は粘土を形作りながら考えた。
硬くて軽くて切れ味抜群で……
そうだ! 剣先から魔法がドーンと出せるのなんかいいんじゃない?
ゲームで勇者が持ってるみたいな、カッコイイ剣!
「出来た!!」
私は地面に置かれた、出来上がったばかりの粘土の剣を期待を込めて見つめた。
細長い形をしているので、持ち上げることが出来ない。粘土のままでは柔らかすぎて壊れてしまうからだ。
しばらく待ってみたけれど、何も変化がない。
「あれ? なんで?」
私は首を傾げた。
マークは周りを見回している。
「スイは気が早いね。まだみんな迷ってるみたいだよ。気に入る子がいれば、そのうち入ってくれるよ」
おお!
そういえば目に見えないけど、周りにはフィアリーズが何人もいるんだよね。
誰か気に入ってくれるかなぁ。
せっかく作ったんだから、誰かに入ってもらいたいなぁ。
「スイ! 食事の用意が出来たよ。こっちにおいで!」
アルフに呼ばれたので、騎士のみんなと食事を取った。
野菜や肉を塩で煮ただけのシンプルな料理だった。
でも、温かい料理が食べられるだけで、幸せだよね。
外の雨で、気温が大分冷えてきていた。雨は激しくなっている。
食事を終えて、後は寝るだけとなった時、ドドーン!!と外で大きな雷の音が鳴り、洞窟が振動した。
「ひゃあ!!」
「「「うわあ!!」」」
私も驚いたが、野宿に慣れている騎士のみなさんでも驚いたようだ。
どうやら、すぐ近くに落ちたみたい。
しかし、雨が降り出す前に洞窟を見つけてくれてよかった。
「スイ。僕、もうおやすみの時間だ。また明日ねー……」
そう言って、いつもの如く、マークは早々にどこかへ眠りに行ってしまった。
昼間、私の言葉の問題などにずっと魔力を消費してくれてるらしく、マークは夜ぐっすりと寝て、回復させないといけないらしい。
眠る前には、この前のように私に魔法をかけていってくれるので、少しの間は言葉に困らない。マーク様様だ!
突然、クラウディオが立ち上がり洞窟の奥を睨んだ。
「どうしましたか? 魔導士様」
騎士の一人が尋ねた。
クラウディオは眉間に皺をよせる。
「魔力の気配を感じる。……これは、魔獣だな。俺が行って見てくる。皆はここで待機していろ」
クラウディオが行こうとすると、一人の騎士がそれを止めた。
「待ってください、魔導士様! 私が見てきます!」
今度はその騎士を別の騎士が止める。
「おい! ロイ、無理するな。お前はまだこの部隊に入って日が浅い。ここは魔導士様に任せておけ」
「何言ってるんですか! だからですよ! 私はこの討伐部隊に入れたことを誇りに思っているんです! 今回は魔物を討伐出来なかったので、今こそ役に立ちたいんです!」
あ、それって私が魔物じゃなかったから、出番なかった系な話か。
「待て! 凶暴な魔獣だったらどうするんだ。お前の実力では……」
「それこそ私の手柄のチャンスですよ! うちで私の帰りを待っている妻と、もうすぐ生まれてくる子供に自慢したいんです! 大丈夫! 行ってきます!」
そう言うと、ロイと呼ばれた騎士は、他の騎士が止めるのも聞かず、洞窟の奥へ走って行ってしまった。
クラウディオと他の騎士たちは、そんな彼をあっけにとられて見ている。
なんか、盛大にフラグ立ててない?
とてつもなく嫌な予感がする。
心配そうにみんなが洞窟の奥を見つめる中、
「ギャーーーーーー!!」
盛大な悲鳴が聞こえた!