1. 就活中に異世界へ転移!?
……暑い。
今年の夏はとにかく暑い!
某平凡大学4年生の私、丸井粋華は、只今就職活動真っ只中だ。
ビルが立ち並ぶオフィス街。 体中から汗を噴き出しながら、低いヒールでアスファルトを踏みしめる。
周りの学生たちは春先には内定をもらい、やれ研修だ卒業旅行だと盛り上がって浮かれている。
浮かれすぎている!!
ギリギリと歯ぎしりしながら、未だに就職先の決まらない原因は、いったい何だろうかと考える。
え? 名前? 両親が愛情込めて名付けてくれたこの名前が何か?
去年の夏、20年間愛情深く私を育ててくれた両親は、あっけなく亡くなった。
仲良し夫婦がドライブ中の事故だった。
場所は軽井沢。
涼しい高原で避暑中の出来事だった。
その後、母方の叔父のおうちにお世話になっている私だが、無事就職先が決まれば、会社近くに一人暮らししようと思っている。
まずは早く内定をもらわねば!
心配や迷惑をたくさん掛けてしまった叔父、叔母達にも安心してもらいたいし。 昔から要領の悪かった私だが、根性はあるほうだ……と思う。たぶん。
気は焦るが頑張るしかない!
本日2社目の面接を受けるべく、会場に向け急いで足を動かす。
もうお昼を回っているが、昼食を取る時間はない。
朝も食べていない私は、熱い日差しと栄養の行き届かない頭で、朦朧としていたのかもしれない。
後から思えば、この時の私はどうかしていた。
冷静な思考を持っていれば、避けられた事態だったかもしれない。
スマホで時間を確認し、曲がる目印のビルが先に見えた。
目的地までもうすぐだ。
余裕を持ってたどり着けそうだった。
その時、ふと横のビルの間のわき道から涼しい風が吹いた。
高原にいるようなさわやかな風に、おもわず私は足を止めた。
全身の汗が冷えて、爽快な気分になる。
わき道の先が気になった私は、その奥をじっと見てみた。しかし、なぜか昼なのに薄暗くよく見えなかった。
まだ少しなら時間があるか……
私はビルの間に足を踏み入れた。
けっこう進んだのに、この涼しい風の正体は分からなかった。
すぐに戻るべきだった。
なのに、この時の私は意地になって前に進み続けた。
この風の正体を突き止める。
ただそれだけに、何故か使命のようなものを感じて。
そして、目の前が真っ暗になった。
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あー……
涼しくて幸せー……
さわやかな風が頬を撫でていく。
体の下には柔らかな草の感触がした。
あれ?
私、何かやらなくちゃいけないことがあったような……?
!!
ガバっと頭を持ち上げた私は、周りを素早く見回した。
そこは見渡す限りの草原だった。
ずっと先には森が見える。
私は草原の真っただ中で、横になって眠っていたようだ。
左手の先は崖になってるのかな?
近づいて下を見ると、すぐ下に幅の狭い川が流れていた。
すると水しぶきをあげて魚がジャンプした。
その魚は体長40センチくらいの虹色のカラフルな魚だった。
そして、頭の先に角があった。
その時後ろでガサっと草を踏みしめる音がした。
ハッと慌てて振り向くとキウイのような鳥がビクッと体を震わせた。
そして、頭の先には角があった。
ん?
えっと、他には……いた!
森の上を飛ぶ白い大きな鳥の群れがいた。
そして、頭の先には角が……
……?
あっ、まずい!
これ夢だ!!
あー……ってことは私倒れちゃったの?
面接、完璧遅刻ってこと!?
やっちゃったよー……
時間なくてもちゃんと少しはご飯食べとけばよかった……
1日に2社なんて面接詰め込まなきゃよかった……
……あれ?ってゆうか、誰にも気づかれなかったら、私死んじゃうんじゃないの?
熱中症で就活中の女子大生死亡って、記事になっちゃうんじゃないのーーー!?
何とかして早く起きなくちゃと思った私は、ほっぺをつねってみた。
痛いっ!
もう一度。
ものすごく痛いっ!!
そして、お腹すいた……
悲しげにお腹がクゥーと泣いた。
初めまして。夏野あさがおです。
こちら初の投稿となります。
異世界物を書いてみたかったので、こちらの作品を出させていただきました。
拙い文ですが、どうぞ温かくお付き合いください。
皆様の娯楽の時間のほんの一部にでもなれば幸せです。