第七話 起爆
俺が宿を出た瞬間、街は長い硬直に包まれた。
「――何が」
後ろにいた少女が、扉の外を眺めてただ一言そう呟いた。
それ以上の言葉が発せられることはなかった。
ここにいる全員が、ただ呆然と宿の外に目を向けていた。
「――どうやら、始まったらしいな」
「何が……?」
背後から俺の言葉に問いかける少女の言葉。
俺はゆっくりと顔だけをそちらに向けた。
「俺の第二の物語が、だよ」
「ぇ、あ、待って!」
そう言って俺は宿に背を向け、音のした方へと走り出した。
千倍パワーで高速移動してもいいのだが、それだと一瞬で現場を通り過ぎてしまいそうなので却下だ。
荒れ狂う人の波を潜り抜け、俺は街の中を走った。
「この街に、役所や留置所みたいな所はあるか!?」
「えぇ、確か役所が街の角に! でもなんで――」
「分かった、ありがとう……!」
何故か分からないが背後を付いてきていた少女に質問し、俺はこの街に存在するらしい役所に向かって走る。
役所に向かうには大通りから開けた道を進むのが一番楽らしいが――
「通行止め!? 対策が早くねえか……!」
現場が現場なので仕方ないのかもしれないが、予想以上に早い。
仕方ないので、俺は千倍パワーを使うことにした。
「ごめん、こっからは多分付いてこれないと思う……ッ!」
「え、えええぇぇえっ!?」
その場で思いっきり地面を蹴って跳躍し、上空から見える黒煙の立ち上る建物に向かって降りていく。
少しずつ落下速度を『抑制』し、俺はゆっくりと役所の入口前に降り立った。
俺はそのまま煙の立ち込める役所の中へと入っていく。
途中途中で見かけた人々を役所の外へと連れ出し、同時に爆心地を探す。
所々に石材の欠片のようなものが落ちており、建物の中には壁や天井が殆ど存在しないような場所もあった。
「ここが爆心地で間違いなさそうだけど、まだ中には人が居そうだな」
煙の中で逃げ回る人々を見捨てるわけにはいかないのだが、俺が気になったのは爆心地の場所だった。
「建物の角の方……この調子だと外壁も微妙に壊されてそうだな」
とにかく、今は人を外に連れ出すのが先だ。
俺はその場を後にし、もう一度建物の中を捜しまわった。
俺が館内にいた人々を全員連れ出したのは、爆発が起きた数分後のことだった。
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「本当に、ありがとうございました!」
「いや、だからもういいんですけど」
俺は役所を出てすぐの通りで、大勢の人々にもみくちゃにされていた。
倒れていた人々を役所の中から連れ出しただけで、この大騒ぎだ。
正直やかましいったらありゃしないが、まあ悪い気分ではない。
「あなたが宜しくても私は! せめてこれだけでも!」
「え、あ、はい。いや、ちょっと。やめ」
初めての街で起きた事件を難なく解決――正しくはまだ解決できていないのだが、とにかく街の人々からの感謝と少しの信頼を手に入れられただけでも充分だと言えるだろう。
残るは事件の解決。
今回起きた爆破事件の犯人捜しだ。